皆さんはホラーがお好きですか? ホラーといえば毎年恒例の夏の風物詩。 近年はコロナ禍による巣ごもり需要の高まりに比例し怪談動画が流行り、作家兼業の有名怪談師が数多く生まれました。 今回はホラー小説を愛してやまない皆さんの為に、2024年の夏におすすめしたいホラー小説12選を一部ネタバレありでご紹介していきます。 どうぞ最後までお付き合いください。
- 著者
- シャーリィ ジャクスン
- 出版日
最初に紹介するのは隠れた名作の呼び声高いシャーリイ・ジャクスンのサイコホラー、『ずっとお城で暮らしてる』。
筆者は『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』『私の男』『赤朽葉家の伝説』で有名な直木賞作家・桜庭一樹が、エッセイ『桜庭一樹読書日記』で紹介していた縁で存在を知りました。
シャーリイ・ジャクスンの代表作は他に『たたり』『丘の屋敷』『山荘綺談』など。
ハリウッドの巨匠アルフレッド・ヒッチコックが映画化した『レベッカ』『鳥』の原作者、ダフネ・デュ・モーリアと並び称される女流作家です。
- 著者
- 桜庭 一樹
- 出版日
- 著者
- ダフネ・デュ・モーリア
- 出版日
- 2008-02-28
牧歌的な田舎の村、他の家族が死んだ屋敷で仲睦まじく暮らす姉妹。
村人たちは何故か二人を忌み嫌い避けているものの、夢想家の妹は周囲の白眼視など意に介さず、優しい姉と幸せな日々を過ごしていました。
そこに突如として従兄が現れ、姉と恋仲になったことから波風が立ち……。
メリキャットの現実離れした一人称視点で進む物語は、メルヒェンな箱庭の日常を語りながらどこか不吉な翳りを帯び、それがなんともアンバランスでメランコリーな読み心地を生み出しています。
読者の胸をざわめかせていた不安の核心が暴かれるや、世界の様相が一変する騙りと騙しのテクがすごい!
信用ならざる語り手の企みにまんまと乗せられてしまいました。
服部まゆみ『この闇と光』の耽美でダークな世界観、深緑野分『オーブランの少女』で描かれた偽りの箱庭の崩壊が好きな人にすすめたいです。
- 著者
- 服部 まゆみ
- 出版日
- 2014-11-21
- 著者
- エブリスタ
- 出版日
続いてご紹介するのはエブリスタ編纂のアンソロジー、通称『5分後』シリーズの中からバッドエンドのホラーに特化した『5分後に最悪のラスト』。
近年は小説家になろうやアルファポリスなどが、5分~15分で読める短編を集め、テーマ別のアンソロジーを刊行する傾向が目立っています。
エブリスタは短編限定の新作小説コンテスト、妄想コンテスト(略して妄コン)を頻繁に主催しており、『5分後に最悪のラスト』には主にその受賞作が収録されました。
アンソロジーの長所はテイストの異なる作品をサクサク読める点。
アマチュア作家の短編を一冊にまとめた性質上、玉石混交好き嫌いが分かれるのは前提として、様々な作風に触れられるお得感はアンソロジーの醍醐味ではないでしょうか。
収録作は祟りや呪いに纏わるオーソドックスなホラーから胸糞な後味が癖になるヒトコワ、承認欲求に取り憑かれた少女が自滅するネットロアまで、古今東西股に掛けたバリエイションに富んで飽きさせません。
筆者の短編『オカワリサマ』も収録されているので、ぜひ読んでください!
- 著者
- ["矢部 嵩", "小島 アジコ"]
- 出版日
三冊目は矢部崇『魔女の子供はやってこない』。
『地雷グリコ』『アンデッドガール・マーダーファルス』を書いたミステリー作家青崎有吾が、タイザン5『タコピーの原罪』の読者にすすめていたのも記憶に新しいですね。
装画担当は『となりの801ちゃん』が代表作の漫画家、小島アジコ。
児童書に擬態したキュートな表紙に騙されるなかれ、中身は容赦ないゴア表現が炸裂する衝撃の問題作!
排泄物や吐瀉物が撒き散らされ、血肉と臓物弾けるスプラッタ描写の数々は、ある程度耐性がないと読み進めるのが苦痛になるはず。
他にもブツブツに覆われた皮膚を搔き壊す描写など、活字で表現できる生理的嫌悪の限界にチャレンジしています。
とはいえ過激なグロだけがウリの小説にあらず。
ブラックユーモア全開の人体損壊描写に慣れてくると、連作短編の白眉『魔法少女帰れない家』に代表される、子供の純粋さや魔法を利用して憚らない人間の本性の方が余程グロテスクに感じられてきます。
運命的な出会いから決別に至る、夏子とぬりえちゃんのイノセンスな友情も見所。
最終話でタイトルの本当の意味を理解し、ぬりえちゃんを喪失した夏子のその後の人生を見届けた読者は、虚脱感で一杯になると断言したいです。
ジェノサイドを生き残った夏子とその加害者・ぬりえちゃんの閉じた関係性は妄想が捗るので、「共依存」「ストックホルム症候群」などのキーワードにビビッとくる、二ッチな性癖持ちの小学生百合スキーは必読。
- 著者
- 大島 清昭
- 出版日
大島清昭『最恐の幽霊屋敷』は事故物件もの好きに押さえてほしい小説。
嘗て霊能者が惨殺された曰く付きの一軒家が、最恐の幽霊屋敷の宣伝文句で貸し出され、常識では考えられない不審死がそこで連続している……。
のっけから死亡フラグが乱立する、この導入からしてドキドキしませんか?
婚約者と新生活を始める為引っ越してきた若い女性、オカルト雑誌の取材で訪れたライターと霊能者、心霊番組のロケに来たディレクターと元アイドル、新作のアイデアを求める映画監督とホラー作家……。
それぞれが体験した超常現象の子細と並行し、最初の事件の被害者が回収していた呪物や悪霊の来歴が紐解かれていくのですが、そのパートだけでも実話(風味)怪談として大変読みごたえあり。
大島清昭は他に怪談作家・呻木叫子シリーズを手掛けており、こちらでも本格的ホラー描写が堪能できます。
ホラーとミステリーが融合したクリーピーな怪異憚 大島清昭『影踏亭の怪談』ネタバレレビュー
2020年に『影踏亭の怪談』で第17回ミステリーズ!新人賞を受賞し、ホラーとミステリーが融合した怪作をコンスタントに送り出し続けている大島清昭。 今回は幽霊や妖怪の研究者でもあり、実話怪談にも造詣が深い彼の代表作、『影踏亭の怪談』のあらすじや魅力をネタバレレビューしていきます。
- 著者
- ["甲田 学人", "potg"]
- 出版日
電撃文庫から刊行された『断章のグリム』『Missing』シリーズで多くのファンを魅了した甲田学人。現在は作家業の傍ら、カクヨムなどでも小説を公開しています。
- 著者
- 甲田 学人
- 出版日
- 著者
- 甲田 学人
- 出版日
最新作『ほうかごがかり』は、学校の怪異の萌芽を記録する「ほうかごがかり」に任命され、毎週金曜日の夜に異界化した校舎に閉じ込められる、小学生たちの恐怖体験を描いたホラー小説。イラスト担当はpotg。
前シリーズで培った背筋も凍るホラー描写をしっかり受け継ぎながら、精神的に幼稚な父親の虐待でPTSDを負った少年、ルッキズムに苦しむキッズモデル、いじめの標的にされるジェンダーレス男子を配置し、令和の価値観に添ってキャラクター造形をアップデートしているのがポイント。
登場人物の深層心理に恐怖の源泉や怪異のカタチを求め、それぞれが担当する七不思議と紐付ける着想が、大人の庇護なしで生きられない子供の歯痒さや逃れられない運命の恐ろしさを強調していました。
七不思議を全て描き切ることで封じ込めに挑む、主人公・啓の狂気にも注目。芸術に魂を売り渡し、寿命を削ってまで絵を描き続ける、ストイックな覚悟に当てられます。
筆者はまっかっかさんこと「赤い袋」のエピソードがお気に入り。
人気イラストレーター・メイジが作画を担当するコミカライズも進行中なので、今後の動向から目が離せません。
甲田学人おすすめの小説5選!実はメルヘン?電撃文庫を代表するホラー作家
ライトノベルを中心に都市伝説や童話を基にしたホラーファンタジーを多数手がける甲田学人。グロテスクな描写と、人間の心の闇を描き出す心理描写にハマる人が後を絶ちません。作者本人はあくまで「メルヘン」だと主張してやみませんが、果たしてその真相は?
- 著者
- 阿泉 来堂
- 出版日
阿泉来堂『ナキメサマ』はホラー作家那々木悠志郎シリーズの第一作目、装画担当は美麗な絵柄が人気のイラストレーター・七原しえ。作者はホラー文芸で活躍しています。
本作は怪異の祟りに端を発する因習村もので、北海道の田舎の集落に伝わる奇妙なしきたりとナキメサマの真実が、陰惨な連続殺人を招きました。
村人が代々語り継いできた後ろ暗い秘密、ナキメサマのおぞましい本性に加え、探偵役を兼ねる那々木悠志郎のキャラが立っているのが見所。
空気を読まないエキセントリックな言動と、所構わず饒舌に喋り散らすオカルト雑学は、ホラー好きの心を捕らえてはなしません。
総評としてホラーとミステリーをバランスよく含んだエンタメに仕上がっており、叙述トリックを用いたどんでん返しも多く、エキサイティングな読書体験ができました。
本作が気に入った方はぜひ『ぬばたまの黒女』『忌木のマジナイ』『邪宗館の惨劇』の順に読破してください。
那々木悠志郎シリーズは『那々木悠志郎の怪異譚蒐集』のタイトルでコミカライズされている為、こちらから入ってもいいかもしれません。
- 著者
- ["キャンデス・フレミング", "三辺 律子"]
- 出版日
キャンデス・フレミング『ぼくが死んだ日』は、古き良きアメリカの雰囲気が堪能できるジュブナイルホラー。
ドライブデート帰りに古い墓地に迷い込んだ青年・マイクが、そこに埋葬された生没年のばらけた死者たちから、各々の「死因」と関連付く奇怪な出来事を聞かされていきます。
『ぼくが死んだ日』は一話ごとに語り手が交代するスタイルを踏襲し、近くは数年前の現代、遡れば19世紀後半まで、時代背景や語り口のテイストが異なるストレンジストーリーが楽しめました。
彼等の早逝の引き金となったのは幽霊・怪物・呪物・悪魔・UMA・エイリアンその他超常的な存在の暗躍ですが、保険金や厄介払いが目的で葬られた子供も無視できず、様々なジャンルのホラーに挑んだ作家の気概を買いたいです。
エドガー・アラン・ポーの世界観を意識したエドガーの話は、精神病への偏見が招いた悲劇を扱っており、一際やりきれない余韻を残しました。『猿の手』『黄色い壁紙』『青髭』など、古典の名作ホラーのオマージュも多く、ホラー好きにこそ読んでほしい上質な一冊です。
5分でわかる!世界最恐と名高いホラー短編の傑作 W・W・ジェイコブズ「猿の手」あらすじ解説
皆さんは世界最恐のホラー小説と聞いて何を思い浮かべますか? エドガー・アラン・ポー「黒猫」、シャーロット・パーキンス・ギルマン「黄色い壁紙」、メアリー・シェリー「フランケンシュタイン」など諸説ありますが、W・W・ジェイコブズの「猿の手」は、短編にもかかわらずその完成度の高さと戦慄の結末で、幅広い層の支持を獲得しています。 今回はゴースト大国イギリスの古典的ホラー小説、「猿の手」のあらすじや魅力をわかりやすく解説していきます。
5分でわかるシャーロット・パーキンス・ギルマン『黄色い壁紙』サイコホラーとオカルトの境界線
世界で一番怖い小説をご存じですか? アメリカの女流作家シャーロット・パーキンス・ギルマン『黄色い壁紙』は、サイコホラーとオカルトの境界線を跨ぐ一冊として注目を集めました。 今回は19世紀に活躍した作家シャーロット・パーキンス・ギルマンの傑作ホラー短編、『黄色い壁紙』のあらすじや登場人物、魅力をご紹介していきます。
- 著者
- 一 肇
- 出版日
- 2008-11-18
一肇『幽式』はオカルトマニアの美少女転校生・神野絵ユイと渡崎トキオの凸凹コンビが、鄙びた地方都市で遭遇する怪異を描いた青春オカルティックホラー。
黒髪ロングのミステリアスヒロインや、友人以上恋人未満の男女バディが好きな人に自信をもっておすすめしたいです。
本作はガガガ文庫初期の傑作。
十数年経った現在も面白さは全く色褪せず、地方都市特有の閉塞感や思春期ならではの焦燥感と、人間の悪意にフォーカスしたホラー描写が強烈な化学反応を起こし、乙一『GOTH リストカット事件』入間人間『みーまー』シリーズに比肩しうる爪痕を残しました。
「赤い部屋」の真相には必ずや背筋がぞぞっとするはず。
ガガガ文庫からは一冊のみ刊行されたものの、『フェノメノ: 美鶴木夜石は怖がらない』に設定が引き継がれているので、興味がある方はチェックしてください。
- 著者
- ["一 肇", "安倍 吉俊"]
- 出版日
初めての乙一!別名も含めたおすすめ文庫ランキングベスト9!映画化多し!
乙一、中田永一、山白朝子、実はこれらの作者はすべて同一人物。作者名に幅のある乙一ですが、その作風も広いんです。
入間人間のおすすめの小説5選!絶えずヒット作を生み出す大人気ラノベ作家
独特の文体から紡ぎ出される個性的な世界観と、キャラの濃い登場人物たちの軽快な会話に魅了される読者が多い入間人間の作品。映画化やアニメ化なども多くされています。そんな入間人間の作品を今回はシリーズも含めて5作品ご紹介します。
- 著者
- 小野 不由美
- 出版日
- 2015-07-29
小野不由美『残穢』は竹内結子主演で映画化されたホラー小説。主人公のホラー作家「私」は、読者から寄せられた実話怪談がもとで曰く付きのマンションに興味を示し、住民の不審死が相次ぐ土地の調査に乗り出します。
現在隆盛を極めるモキュメンタリーホラーの鏑矢となった小説で、「私」が地元住民への取材や膨大な資料の収集を通し、呪われた土地の由来を遡っていく展開にハラハラドキドキ。
それぞれ無関係と思われた事件、及び人物の意外な接点や因果が繋がった時は、穢れの元凶が今もって手ぐすねを引く、どす黒い悪意に絡めとられるような戦慄を覚えました。
和室から聞こえる畳を掃く音の正体、小さい子供が虚空を指さして口にする「ぶらんこ」の意味も怖いです。
本作終盤には小野不由美の友人のホラー作家、平山夢明と福澤徹三も登場。ホラー小説ファンには嬉しいサプライズですね。
初めての小野不由美!初心者向けおすすめランキングベスト6!
小野不由美、という作家を知っているでしょうか。背筋がぞっとするようなホラー、精緻に作られたファンタジーといったジャンルをまたにかけ、魅力ある作品を生み出す作家です。 今回は話には聞くけど、何を読んでいいか分からない、そんなあなたに向けておすすめ作品をご紹介します。
- 著者
- シンシア・アスキス他
- 出版日
- 2006-08-30
シンシア・アスキス他『淑やかな悪夢』は、近代に活躍した欧米の女流作家に限定し、十二編のホラー小説を収録したアンソロジー。
シャーロット・ギルマン『黄色い壁紙』の理性が侵蝕される不穏さは言うに及ばず、ゴシックホラーな世界観で母娘の確執を描いたディルク夫人『蛇岩』の、皮肉すぎる結末に衝撃を受けました。
国内では刊行点数が少なく知名度が低い、マイナー目の作家と出会えるのも魅力で、怪異へのアプローチにお国柄が出ているのも面白かったです。
余談ながらグロ描写は控えめ。
愛する人と引き裂かれた死者の悲哀、生者の愛憎が巻き起こす惨劇、隣人に化けて信仰心を試す悪魔の計略を扱った話が多く、全編通してエレガントな品格を保っているのも素敵でした。
5分でわかるシャーロット・パーキンス・ギルマン『黄色い壁紙』サイコホラーとオカルトの境界線
世界で一番怖い小説をご存じですか? アメリカの女流作家シャーロット・パーキンス・ギルマン『黄色い壁紙』は、サイコホラーとオカルトの境界線を跨ぐ一冊として注目を集めました。 今回は19世紀に活躍した作家シャーロット・パーキンス・ギルマンの傑作ホラー短編、『黄色い壁紙』のあらすじや登場人物、魅力をご紹介していきます。
- 著者
- 高野 和明
- 出版日
第169回直木賞にノミネートされた高野和明『踏切の幽霊』は、某所の踏切に化けて出る幽霊の噂を読者の投稿で知った雑誌記者が、その正体を追いかけるストーリー。
本作は高野和明が手掛けた初ホラー作品ですが、どんでん返しが連続するミステリーの意外性と、じわじわ外堀を埋めるホラーの恐怖が融合した巧みな構成でもって、最後まで興味を引っ張ってくれました。
フィクションをノンフィクションと錯覚させるかのような考証の細かさは、オカルトを取り入れた作品のリアリティーを補強し、平成初頭の空気感の再現に成功しています。
霊が起こす現象そのものより「何故そこに化けて出るのか」の背景を突き詰め、カタルシスに浸りたい人におすすめ。
ラストには慟哭の真実と心揺さぶる感動が待っています。
- 著者
- 『このミステリーがすごい!』編集部
- 出版日
最後に紹介するのは『このホラーがすごい!2024年版』。『このミステリーがすごい!』編集部が満を持して世に送り出す、ホラー小説の特集本です。
目玉となるのはモキュメンタリーホラーの旗手、雨穴・梨・背筋の鼎談。
綾辻行人・三津田信三らの書き下ろしホラーエッセイ、モダンホラーの巨匠スティーヴン・キングがテーマの座談会、国内外のホラー小説ランキングベスト20の発表など見所盛りだくさんです。
今回選んだ作品も載っているので、ぜひチェックしてください。