ジュール・ヴェルヌはその豊富な知識と想像力から、科学と冒険に満ちた物語で今なお語り継がれている作家です。H・G・ウェルズと共にSF小説の開祖と謳われるヴェルヌは誰もが知っている有名なタイトルを多数残しています。
ジュール・ヴェルヌは1800年代後半に活躍したフランスの小説家です。科学的事実を織り交ぜ、技術の進歩を描くことにより、H・G・ウェルズと双璧を成してSFの開祖として知られる人物です。「SFの父」とも呼ばれています。
しかし、SFに対する姿勢はH・G・ウェルズとは真逆にありました。ウェルズが異星人による侵略や、火星を舞台にする近未来のSF小説を書いていたのに対し、ジュール・ヴェルヌは彼が生きた当時の最先端技術や、それを応用した一歩先の未来を描くことが多かったのです。つまり、読者はSFを遠い未来の絵空事ではなく、身近に起こりうる出来事かも知れないと楽しむことができたのです。
そんなヴェルヌのSFに対する姿勢は大学時代の交友関係によってその一部が築かれました。パリの法律学校で学びながら、ヴェルヌは様々な芸術家と交流をして、その才能を育んでいきました。そしてアレクサンドル・デュマ父子との出会いをきっかけに、劇作家を目指すようになります。また、友人が制作した気球に触発されて冒険小説を書き始めるなど、作家ジュール・ヴェルヌは広い交友関係の中で誕生したといえます。
小説や戯曲を書きながら、自然科学に関する論文を好んで読んでいたヴェルヌ。同時にお気に入りの作家だったエドガー・アラン・ポーが科学的事実を小説に盛りこみ、話の世界にリアリティを引き出す手法を始め、そのやり方に興味を持ちました。
こうしてできあがったヴェルヌの作風は、科学技術と冒険を盛りこんだ親しみやすいものとなったのです。ドキドキとワクワクが溢れる冒険譚は子どもに受け入れられやすく、その作品を読んだことがなくとも、作品名だけは聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。
そんな誰もが楽しめるヴェルヌの作品5選をご紹介します。
冒険と科学技術を融合させたヴェルヌの手法を代表する作品といえば『月世界へ行く』ではないでしょうか。月世界への移住というテーマは当時の人々には奇抜で、身近にある科学技術でリアリティを追求するヴェルヌの特徴に比べれば、少し突飛な感じがします。ですがそこには、冒険の中に眠るワクワク感をこれまでかとばかりに見せてくれる魅力がたっぷり詰まっています。
- 著者
- ジュール・ヴェルヌ
- 出版日
- 2005-09-10
本書のすごいところは、幕末の時代に書かれたという点。まだ現実にロケットが存在しない時代に、壮大な月への旅行を描いたヴェルヌの想像力に感服できます。事実、ロケットの開発者がこの本を愛読していたといいます。
内容は、月の一部にあるであろう空気の元で暮らすため、乗組員三人と犬や鶏などを乗せたロケットが大砲の砲弾の要領で月に向かって打ち上げられるというものです。しかし本作で描かれる本当の苦難は、前人未到の月での生活ではなく、そこに至るまでの道のりでした。思わぬ流星との出会いや軌道修正といった、度重なるアクシデント。果たして3人は、月に辿り着けるのでしょうか。
あらすじだけでも、ワクワクしてきませんか。科学技術に夢を託したヴェルヌの想像力が、驚きと興奮に満ちた冒険を提供してくれる本作。当時の宇宙に対する科学的知識にも大注目です。
『月世界へ行く』で月世界への旅行を描いたヴェルヌ。『海底二万里』では、深海世界への冒険を描きます。ヴェルヌの代表作といえるほど有名な本作。「読んだことはないけど、タイトルは知っている物語」のひとつに必ずあがるほど、名が知られている作品ではないでしょうか。
- 著者
- ジュール ヴェルヌ
- 出版日
- 2012-08-27
物語は、大量の船舶が、角のようなもので穴をあけられてしまう事件から始まります。事件の犯人がイッカクではないかと考えたアナロック博士は、仲間を募り、怪物退治に乗り出すのです。けれども戦艦を沈められ、海に投げ出されてしまいます。そんな博士たちを、ネモ船長率いる潜水艦ノーチラス号が救出。かくして潜水艦の捕虜という形で、世界の海洋を巡ることになったのでした。
本作も『月世界へ行く』同様、科学的知識が豊富に盛り込まれています。海にまつわる知識だけでなく、そこに住む生物たちの生態や部類、さらには豆知識などを紹介してくれるので、楽しみながら勉強できるお得な物語となっています。
魅力的なキャラクターも、物語に彩りを添える要因となっているでしょう。勇気と機転の利く知性とを兼ね備えたネモ船長、パリ博物館のアロナックス教授、銛撃ち名人のネッド、驚異的な能力を持つ潜水艦ノーチラス号など多彩なキャラクターが、興奮高まる冒険を読者に魅せてくれます。
『十五少年漂流記』は子供たちが主人公の冒険物語です。ニュージランドに住む様々な国籍の子供たちが、長期の休学日を利用して、帆船でクルージング旅行をする準備を進めるところから物語は始まります。いよいよ旅行が前日に迫った夜、少年たちが帆船で眠っていると、勝手に動きだした帆船が漂流を始めてしまいます。大嵐の中、ヨットがボロボロになりながらも漂流を続け、無人島に漂着してしまう少年たち。彼らはそこで、サバイバル生活をして生きていくことを決意するのでした。
- 著者
- ジュール・ヴェルヌ
- 出版日
- 1951-11-20
無人島で生活しようとする少年たちの知識とバイタリティーに感服できるお話になっています。食料となる動物を取るだけではありません。家畜として捕まえたり、生活のための油を取ったり、武器を作ったり……サバイバルに関する知識と知恵を存分に楽しめます。
『十五少年漂流記』の名の通り、物語に登場する少年たちは15人。ヴェルヌはしばしば、3人の主要人物によって重厚な人間関係を紡ぎ出す手法を使います。この話も例外ではなく、3人の主要人物が登場します。リーダー的存在でいつもみんなを引っぱるブリアン、いばりたがりのガキ大将的存在でトラブルメーカーのドニファン、そして冷静沈着で仲裁役のゴードン。子どもたちは喧嘩をしながらも、無人島という過酷な環境で生き延びようと奮闘するのでした。
SFではないけれど、サバイバル術や自然科学の知識が詰まったこの冒険譚は、子どもも大人も純粋に楽しめる物語になること間違いなしです。
『地底旅行』で冒険するのは、タイトルが示す通り「地底」。死火山の火口から地球の中心部へと進んで行く物語は、映画さながらの興奮を味わえることでしょう。
- 著者
- ジュール・ヴェルヌ
- 出版日
- 1997-02-17
ドイツの鉱物学者オットー教授が、地球の中心へと行く道を見つけたという錬金術師の暗号文を解き明かし、甥であるアクセルと共に地球の中心へと冒険する本作。地中へと続く道には空洞や海などが広がっていました。途中で怪物にであったり水が不足してしまったり、様々なトラブルに遭遇しながら地球の中心部を目指していきます。
本作最大の魅力は、ヴェルヌの人物構成の才能が発揮されているという点でしょう。オットー教授は頑固でとてつもない行動力の持ち主。彼と正反対の性格を持つ臆病な甥が、トラブルに巻き込まれる構図が実に面白いのです。さらに荷物持ちとして雇ったアイルランド人の男は、オットー教授のようにたくましいですが、寡黙な性格……。それぞれの登場人物の輝く個性をお楽しみください。
ジュール・ヴェルヌの名を世に知らしめた作品といえる『八十日間世界一周』は、主人公フィリアス・フォッグ卿が、世界を80日間で一周できるという賭けをしてしまうことから始まります。フォッグ卿は80日間で世界を一周するために奮闘しますが、彼の目の前には様々な障壁が立ち塞がるのでした……。
- 著者
- ジュール ヴェルヌ
- 出版日
- 2001-04-16
本作の魅力は、世界一周を80日で達成する目標を阻もうとする際に起こる、様々なトラブル。生贄にされそうになったインド人の未亡人を助けたり、インディアンに襲われたり、挙句の果てに銀行強盗にまで間違われたりしてしまいます。ドキドキワクワクの連続で、読者を飽きさせない本作を、ぜひ手に取ってみてくださいね。
宇宙に地中、海底、世界一周など、ジュール・ヴェルヌの小説を読めば、あらゆる冒険を経験できます。さらに、豊富な知識と科学的考察によって、未知に対する好奇心を掻き立ててくれることでしょう。日常の疲れから逃げたい時にうってつけの、「SFの父」ヴェルヌの作品をぜひ楽しんでくださいね。