村上春樹は短編も面白い!おすすめランキングトップ9!

更新:2021.11.25

村上春樹、という作家をご存じない方はまずいないでしょう。『ノルウェイの森』『海辺のカフカ』『IQ84』……彼の代表作は多岐にわたります。では、彼の短編作品を読んだことはありますか?今回は、村上春樹短編集についてご紹介します。

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日本を代表する作家村上春樹

村上春樹は1949年生まれ、京都出身、兵庫育ちの小説家です。アメリカ文学の翻訳家としても高く評価されています。

1972年に『風の歌を聴け』で群像新人文学賞を受賞しデビュー。本作は長編2作目の『1973年のピンボール』、長編3作目の『羊をめぐる冒険』とあわせて「鼠三部作」とされています。

続く長編4作目の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』は谷崎潤一郎賞を受賞。長編5作目の『ノルウェイの森』は計1000万部を超える大ベストセラーになり、村上春樹の知名度を一気に押し上げました。

今回は、そんな春樹の短編集のおすすめ作品を紹介します。

9位:村上春樹ワールドより愛をこめて『象工場のハッピーエンド』より「スパゲティー工場の秘密」

村上春樹と、安西水丸がタッグを組んだ超短編集の中のこの作品は、春樹作品でおなじみの羊男と双子の208、209が登場します。

書斎をスパゲティー工場と呼ぶ彼ら羊男と双子の美少女は、「私」が原稿を書いているとやってきては話しかけます。まるで村上春樹の心象風景を描いたようなこの物語は、本当に春樹が何か不思議なものと交流しながら書いているんじゃないだろうか、そう思ってしまいます。

著者
村上 春樹
出版日
1986-12-20

手伝いたいと申し出る三人に、鉛筆を削ったりビールをとってこさせたり、別の仕事を言いつける「私」。暇になっては、歌を歌い出す「彼ら」。村上春樹の作品は、確かに大人の小説でありながら、同時に絵本のような絵画的で牧歌的なものを持ち合わせています。

奇妙な人や生き物たちは、どこからか春樹の書斎を訪れて、好き放題しては元のところへ帰って行く――そんな想像が膨らむ、一編の絵本のような物語です。

この『象工場のハッピーエンド』は、どれも短い話と、印象的な挿絵からなる作品です。詩のようであり、エッセイのような短編集は、忙しい合間に少しずつ読むのにぴったり。きっと疲れた心を優しく解きほぐしてくれることでしょう。

8位:深読みするか、あるがまま受け取るか『TVピープル』より「TVピープル」

TVピープルとは、普通の人間をそのまま二割か三割縮尺を小さくしたような人間。それらが三人連れだって「僕」の家にテレビを持ってあがり込んできます。TVピープルは「僕」の存在などものともせず、勝手にサイドボードにテレビを設置し、テレビが機能することを確かめて帰って行きます。

放送を受信するということには興味を示さず、ただ新品のテレビを置いて出て行くTVピープル達は、読みようによっては「僕」の味方でもあり、または異次元に誘い込む不気味な存在にもとれる存在です。

著者
村上 春樹
出版日

このTVピープルは「僕」の勤めている会社にも現われ、ここでもテレビを設置していきます。TVピープル達はいったいどういう存在なのか、そして目的は何なのでしょうか。

テレビなどメディアの情報に左右される現代社会への警鐘とも読めますし、テレビの形を借りた異形が世界を侵食していくという、当たり前にある身近な物が実は自分を侵すものだったという解釈もできます。

謎多い行動をとる彼らの行動を読んで、作者が何を言わんとしているのかを考えて見るも良し、あるがままに奇妙な彼らを受け止めても良し、色々な読み方の出来る短編です。

7位:村上朝日堂のおくる超短編小説集『夜のくもざる』より「インド屋さん」、「能率のいい竹馬」

表題作の「夜のくもざる」を含む三十六の短編小説集は、春樹作品おなじみのおかしなキャラクターがあり、ブラックで風刺のきいた短編があり、よく考えるとホラーなのではないかとも思うような奇妙な話もあり、春樹ワールドのエッセンスが余すところなく詰め込まれています。

「インド屋さん」は、インド屋という奇妙な店が読者に出オチのようなインパクトをあたえます。特にインド屋は、字面で言えばインドの物を売る人のように思えますが、実は「インド」を売っているのです。

インドという物が、国のインドなのか他にインドなるものがあるのかはわかりません。わかるのは、インド屋は自分の仕事に誇りをもっているらしいということ。

「坊やもね、ちゃんとインドしてれば、おじさんみたいに強く成熟した大人になって、しっかりとした理念のある人生を送れるんだよ」とのインド屋の言葉に、もはやインドが何であるのかよくわからなくなってきます。

そうして彼は、主人公や主人公の母を、インドの使い方が少ないと叱ります。インドを使っているかそうでないかは、目を見ればわかるそうです。しかも、インド屋には商売敵のバリ屋がいるそうで、インド屋は「本気でやるならなんといってもインドだよ」と商品を売りつけてきます。

このよくわからない不条理さがいかにも村上春樹ですが、安西水丸のイラストが、話におかしみを添え、わからないながらもインド屋の存在を読者に飲み込ませてしまうのです。

著者
村上 春樹
出版日
1998-03-02

「能率のいい竹馬」では、竹馬が家に現われて小林ヒデオやモーツァルトについて意見を求めてきます。「日曜日のお昼前に、切干大根を煮ているときに、能率のいい竹馬が僕のところにやってきた。」という出だしは、非常にインパクトがあります。

なぜ竹馬がしゃべれるのか?それをいちいち考えていては読んでいけません。そして能率がいい竹馬とは?という主人公の質問に竹馬は「小林ヒデオの文章の中に能率のいい竹馬という言葉がでてくる」という言葉を返します。読んだ事のなかった主人公は何も答えられません。

無機物の竹馬であっても妙に教養の高いところに、シュールな面白さを感じます。なにせこの竹馬は、パイプをたしなみ、モーツァルトで主人公の教養レベルを試すような真似をするのですから。

このまま竹馬と主人公の問答は進んでいきますが、インテリっぽい竹馬に押し切られるように話は終了します。「ほら見ろ、あなたが世間そのものだ!」という竹馬の捨て台詞は、はたして何かを風刺しているのか深い意味はないのか、あれこれ想像が膨らみます。

6位:小人は「僕」を悪夢に誘う『蛍・納屋を焼く・その他の短編』より「踊る小人」

「僕」は夢の中で小人に踊りに誘われますが、それを丁重に断わり、彼のたくみな踊りを眺めていました。北から来たという小人は、「僕」に皇帝の前でも踊ったという昔語りをしながら踊り続けます。

しかし、物語を追うにつれ、童話のような雰囲気は薄れ、悪夢に誘われるかのごとく不気味な展開へと変化していきます。

「あんたはまたここに来ることになるからさ。ここにきて、森に住み、そして来る日も来る日もあたしと一緒に踊り続けるのだよ。そのうちあんただってとても上手く踊れるようになる」
(『蛍・納屋を焼く・その他の短編』より引用)

全てを知った後、この小人の台詞がとても怖ろしいものに感じられます。

著者
村上 春樹
出版日
1987-09-25

たまたま小人の夢をみた「僕」ですが、それは逃れられない恐怖の始まりでした。正体を知るにつれ、小人がただ踊りの上手い妖精ではなく、人を破滅させる悪魔のような存在であることがわかってきます。

人ではない者の不条理さと残酷さを持つ小人に囚われた「僕」に救いはあるのでしょうか。

小人の目的は、「僕」を手に入れること。なぜ「僕」が選ばれたのかは不明ですが、小人はあらゆる手段で目的を果たそうとします。まるでホラー映画のたちの悪い怪物に目をつけられてしまったかのようで、理不尽極まりないです。

夢の世界の住人が、悪夢の水先案内人に変貌する、それを知ってしまったが最後、その悪夢からは逃れることが出来ないのです。

5位:日常にある、恐怖『レキシントンの幽霊』より「沈黙」と「七番目の男」

1996年発行の短編集です。収録短編は全部で7つあり、不思議で楽しく、底なしの恐怖を感じさせる短編が収録されています。心の奥底にある、人間の薄暗さを表現した、村上春樹らしい風合いのある短編集といえるでしょう。

著者
村上 春樹
出版日

この本で注目したいのは「沈黙」と「七番目の男」です。「沈黙」ではとある事件をきっかけにクラスメイトから黙殺されてしまった少年の苦悩が、そして「七番目の男」では大波に浚われた友人を恐怖から助けることができなかった主人公の自責の念が、それぞれつらいまでに描かれています。特に「沈黙」は学校を舞台とした小説として非常に高いレベルでまとめられた短編です。もし、ある日誰も自分のことを信じてくれなくなったとしたら……? 人間に対する恐怖がそこには鮮明に描かれています。

4位:デビュー初期の村上春樹が見られる短編集『カンガルー日和』より「鏡」

こちらは1983年発行のショートストーリー集です。文庫本252ページの中に全部で18篇収められています。初期のほうの作品集ですが、非常にゆったりと軽いお話が多い一冊になります。収録作品はすべて伊勢丹主催のサークルが会員に配る「トレフル」という雑誌に掲載されたものです。村上作品の中では比較的軽く、気負わない風に仕上がっている作品集です。それでも、彼独特の淡々と読ませる文体、比喩表現のうまさは残っており、一本一本の短さも相まって、さらっと世界に入るのに適した一冊ではないでしょうか。

著者
村上 春樹
出版日
1986-10-15

たとえば、「鏡」という掲載作品は、夜警の仕事をしていた「僕」が懐中電灯の中に見た鏡の中に映った自分という状況を書いた作品です。「僕」は鏡の中のもう一人の自分が、自分のことをひどく憎んでいると思い、木刀を鏡に投げつけてしまいます。しかし、そこには鏡など最初からなかった……というホラーのような話です。文庫本10ページ程度の短い話ですが、そこに書かれた「自分を見つめるということ」をぜひ、村上春樹の文体で味わってみていただきたいです。

3位:ねじまき島クロニクルに関わる短編も収録『パン屋再襲撃』より「パン屋再襲撃」

1986年に発行された短編集です。収録された6作品のうち「双子と沈んだ大陸」を除く5作品が英訳されています。「ねじまき島と火曜日の女たち」という収録作品タイトルからもわかるように、村上春樹の代表作である『ねじまき島クロニクル』に関わる作品ですし、「双子と沈んだ大陸」は『風の歌を聴け』から続く一連のシリーズの4作目ともいえる短編です。村上春樹長編をさらに深く理解したいという人におすすめの一作です。

著者
村上 春樹
出版日
2011-03-10

表題作となる「パン屋再襲撃」のストーリーは、新婚夫婦がマクドナルドを襲撃してバーガーを強奪するという話です。もっと詳しく言うと、新婚夫婦はコーラの値段はしっかりと払い、パンだけを強奪しているのです。飲み物を買うお金はあるのになぜバーガーを強奪するのに至ったのか、それはこの作品を読んだ上で一人ひとりが考えることに意味がある、そういった短編なのです。

2位:「新潮」に掲載された作品集『東京奇譚集』より「偶然の旅人」

こちらは2005年に発行された短編集です。全部で5本の作品が収録されており、「週に一本のペースで、一か月の間に5本の作品を書き上げた」作品だということです。今回収録されている作品は、どれもおだやかさの中に日常が感じられ、日常の中で起こる不思議な符号とかめぐり合わせ、予感、示唆といったものがテーマとなっています。奇譚、というほどの怪奇現象や偶然の奇跡を描くことはありませんが、ささやかなほんのちょっとしたことが起こすような出来事が書かれている作品集です。

著者
村上 春樹
出版日
2007-11-28

一番目に収録されている「偶然の旅人」はゲイである主人公が、偶然カフェで知り合った女性と出会い交流していくストーリーです。彼女との出会いがきっかけで、主人公は長い間縁を絶っていた姉と和解することができるのですが、そこには驚くような偶然の一致があったのでした。本当は最初から、すべて用意されていたのかもしれない、そんな「奇妙さ」が味わえる一本です。

1位:阪神・淡路大震災をテーマにした村上春樹の傑作短編集『神の子どもたちはみな踊る』より「蜂蜜パイ」

2000年発行の短編集です。6本の短編が収録されており、そのうち5本は「地震のあとで」という副題付きで「新潮」に連載された作品です。

この本の登場人物達はみんな1995年1月に発生した阪神大震災に間接的に関わった人たちです。舞台こそ神戸からは離れた場所ですが、みなそれぞれに地震につながりを持っているという分かりやすいテーマをもっています。阪神・淡路大震災を題材として、常識や日常などがもろく儚いことだと感じさせてくれる一冊と言えます。直接地震に関わった人が主役ではなく、離れた位置にいる人間だからこそ感じる、地震にどう向き合うかという物語は、日本人にとっては共鳴せざるおえないことでしょう。短編でありながらも、一本一本に余韻が残る良質な短編集です。

著者
村上 春樹
出版日
2002-02-28

「蜂蜜パイ」はこの中では唯一の書き下ろし作で、大筋としては主人公が大学時代からの友人である女性にプロポーズをする、という話です。大学時代からずっと片思いをしていた主人公、主人公が地元関西に帰っている間にその女性と結婚した友人、そして本当はずっと主人公を愛していた女性の三角関係が主軸となる短編になっています。その中にエッセンスとして加わるのが女性と友人の娘です。奇妙な生活をする4人の姿が表現され、最後にはしっかりと救いがある作品です。

いかがでしょうか。長編作品では少し敷居が高いという方でも短編なら読みやすいのではないでしょうか。また、短編作品でも濃厚な村上春樹の世界を感じることができるはずです。村上春樹をよく読む人も、普段全く読まない人も、短編集を読んでみることをおすすめします。

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