サマセット・モームのおすすめ5選!名作『月と六ペンス』など

更新:2021.11.24

孤独な青年期を過ごしたサマセット・モーム。彼が旅した経験から描かれる、情緒的な雰囲気が漂う名作をご紹介します。

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サマセット・モームの生涯

ウィリアム・サマセット・モームはフランス生まれの作家です。モームは10歳で孤児になり、単身イギリスへ渡ります。その後、医師となり、第1次世界大戦では軍医や諜報部員として活躍しました。その後、サマセット・モームは小説『月と6ペンス』を書き、一躍人気作家となるのです。また、彼は同性愛者でもありました。

サマセット・モームは孤独な青年期を過ごしました。彼が8歳のとき、母が肺結核で、10歳のときに父が癌で死亡してしまい、孤児となります。その後、叔父であるヘンリー・マクドナルドに引き取られることになるのです。13歳のころ、カンタベリーキングズ・スクールに入学しますが、英語がうまくしゃべれなかったこと、そして吃音があったことで迫害を受けてしまいます。このことから、彼は周囲にうまく馴染めず、孤立していったのです。

サマセット・モームは大変な旅行好きであり、長期の旅行をよくしたといわれています。作家デビューの後、スペイン・アンダルシア地方を旅行し、1905年には印象旅行記『聖母の国』を出版しました。その後もしばしばスペインを訪れ、歴史物語『ドン・フェルナンド』を発表するのです。

その後、サマセット・モームは劇作家としての顔も出し始めます。『信義の人』『ドット夫人』『ジャック・ストロー』『スミス』などを上演し、劇作家としても活躍していくことになるのです。そして1912年に、今や傑作となった『人間の絆』の執筆を開始します。

サマセット・モームの後期の活動は『シェピー』をきっかけに劇作家を引退しています。その後、1935年に自伝『要約すると』を出版しました。第2次世界大戦勃発時はロンドンへ亡命。翌年にその体験手記『極めて個人的な話』を出版します。そして、大戦中には大作である『剃刀の刃』を出版することになるのです。

そして、晩年、サマセット・モームは認知症を発症。親族と被害妄想をきっかけにトラブルなどを起こすことになります。そして、1965年には入院していたニースの病院から、彼自身の希望でリヴィエラの邸宅へ戻り、亡くなります。享年91歳でした。

絵に情熱を燃やした男『月と六ペンス』

主人公は、ある日、ぱっとしない男、ストリックランドに出会います。このストリックランドは、画家のゴーギャンをモデルに描かれているのです。不自由のない生活をしていたストリックランドは、ある日忽然と姿を消してしまいます。その後、パリでストリックランドと再会した主人公は、彼が全てを捨ててまで画家を選んだことを聞いて驚愕することになるのです。

サマセット・モームの本作で注目すべきなのは、ストリックランドのその壮絶な生き様です。才能が無いと言われても、そんなことは些事なのだと言わんばかりに、ストリックランドは自身の道をつき進むのです。その姿勢に、失われて久しい男気のようなものを感じてしまうのは、決して間違いではないでしょう。

ストリックランドは絵を描くことに情熱を燃やし、全てを捨ててその道を歩むことになるのですが、その描写にまるでゴーギャンそのものを見ているような印象を受けます。その鼓動まで感じられるのは、サマセット・モームがいかに人物描写に長けていたかの証拠になっています。その、息詰まる展開に、ページをめくる手が止まらなくなってしまうのです。

著者
サマセット モーム
出版日
2014-03-28

そして、絵を追求し続けてきたストリックランドがタヒチ島で見せる最期の姿にも、読者は胸を打たれ、脳裏からその姿が離れなくなってしまうのです。また、この物語にはもう1人の登場人物がいます。お人好しのストルーヴです。彼は、ストリックランドに妻を寝取られてしまいますが、最後までその妻の事を愛している。その愛情の深さにもまた、胸が熱くなること必至なのです。

読書の面白さの一つに「様々な人生を追体験すること」があると言われています。サマセット・モームの本書では、ストリックランドという男が全てを捨ててまで、自分自身の道を突き進んだ、その過程を追体験することが出来るのです。そんな読書の面白さを味わえる、非常に印象的な一冊。なにかにチャレンジしたいと考えている人にとっては、きっとその背中を後押ししてくれる一冊ですよ。

 

人生の根本への問い『人間の絆』

本書はサマセット・モームの自伝的小説になっています。両親を亡くし、叔父に育てられたフィリップは、足に障害を持っており、常に劣等感を持ちながら育っていくのです。そんな生活の中、信仰心すら失い、聖職者になることをあきらめた彼は、絵を学ぶためにパリへと渡ります。しかし、周囲の才能に押しつぶされ、再び挫折した彼は、イギリスに戻り医学の道を志すことになるのです。

サマセット・モーム自身は足に障害を持ちませんでしたが、実際の彼には吃音がありました。彼自身のコンプレックスを、足の障害に置き換えて本作の主人公に投影しているのでしょう。そしてその後もあまり恵まれない人生を歩むことになるのですが、読み進めていく内に、「生きている意味はあるのか?」という問いかけが自然に出てくるのも本書の面白さの1つでしょう。

人は誰しも幸福を願う存在ですが、その度に自分の理想と現実とのギャップに苦しむことが多いです。モームの本作の主人公である、フィリップもまた理想と現実との間のギャップに苦しめられます。

著者
モーム
出版日
2007-04-24

絵の道を志したのに、まったく評価されず、周囲の才能におしつぶされたこともそうですし、幼くして両親が亡くなったこともそうでしょう。幸せになるために行動してきたはずなのに、どうしてもうまくいかない。その原因が自分の能力に起因することも、ただ運命であることもありますが、それでも現実はどうしようもないものを突きつけてくる。その中心にいるフィリップの悲しみが、実際のサマセット・モームの人生と重なって、読者に問いを発せさせるのです。

きっとこの作品は、1人の人生を変えてしまうほどの力をもっているのでしょう。なぜなら、人生の根本について、問いを投げかける内容になっているのですから。1度読めば、きっと何度も読み返してしまいますよ。人生に迷ったときにはこの作品を是非お読みください。

人を狂わせる雨『雨・赤毛』

狂信的な宣教師が不況のために南洋の孤島に上陸するところから物語は始まります。この孤島で、宣教師は船の船室で相部屋になったいかがわしい女の教化に乗り出しますが、なにやら暗雲が立ち込めてきて、彼の理性は次第に狂っていくのでした。

本書はサマセット・モームがシンガポールのラッフルズ・ホテルで執筆したと言われています。旅先で描かれただけあって、本作も孤島のおだやかな雰囲気と宣教師の狂信的なおどろおどろしさが相まって、不思議な雰囲気を形成していますね。

さて、この作品は短編集であり、「雨」「赤毛」「ホノルル」の三つの短編から構成されています。冒頭で書いたあらすじは「雨」のものです。この短編では、雨から来る発想である「湿気」を感じさせてくれるモームの短編になっています。まるで、行間から雨が降り出して、読者の部屋の中に湿気を充満させて来るような、そんな迫力を持った短編に出来上がっているのです。

著者
サマセット・モーム
出版日
1959-09-29

実際に舞台であるサモアの雨は非常に激しく、モームのこの小説に出てくる宣教師が狂ってしまったように、雨には人をおかしくしてしまうような魔力があります。熱帯地方の雨自体がそういうものなのかもしれませんが、この地方に降り注ぐ雨には本当に異様なものがあるのです。モーム自身、この地方の雨を体験したからこそ、本作のような小説を発想したのかもしれませんね。

そのため、この小説「雨」のような事件が起きるのは、このサモアに行った人、サモアに住む人々ならば納得してしまうでしょう。だからもしも、読者の皆様がサモアに行くことがあれば、ぜひサマセット・モームの本作を持って行ってください。もしかすると、あなたの理性も狂ってしまうかもしれませんよ。旅のお供に是非お持ちくださいね。

叙情的な語りが美しい『お菓子と麦酒』

ある日、とある男は死んだ文豪の伝記の執筆を依頼されます。その男は、伝記執筆のために、文豪の無名時代の情報提供をある作家に依頼するのです。その作家から語られるのは、文豪と、その最初の妻とともに過ごした、楽しい日々の思い出なのでした。そこで、作家は、文豪と1番目の妻、ロウジーとの交流を情緒豊かに語っていくのです。

しかし、その作家の美しい妻、ロウジーは偉大な作家になるためには特に必要とされない人物でした。ロウジーは、すぐに周りの人々を惹きつけるため、スキャンダルが耐えない人物だったのです。しかし、ある日突然作家と妻の別れはやってきます。それをきっかけに大々的に作家を押し上げる周囲の人々でしたが、作家自身はロウジーとの思い出をとても大切にしていたのでした。

このロウジーですが、実在のモデルがいたようです。そのことについてはあとがきで触れられています。そして、サマセット・モームは彼女への想いを成就することが出来なかった。そのため、彼女への憧憬がこの作品の中で、文豪とその妻という形をとって語られているようです。そして、モーム自身もこの作品に最も深い愛着を抱いているのでした。

著者
サマセット・モーム
出版日
2008-04-11

この作品には劇的な出来事は起こりません。しかし、その牧歌的で穏やかな描写に、先を読み進める手が止まらなくなることでしょう。舞台は退屈な田舎町ですが、そこに住む変わった人々、魅力的なヒロイン、様々な要素が重なり合い、この作品の素敵な雰囲気を形作っているのでしょう。

刺激の強い展開は待っていませんが、牧歌的で美しい描写があなたを出迎えてくれる作品です。これを読むと、きっとモームの作品を全て読みたくなりますよ。穏やかな気持ちになりたい人は一読してみてくださいね。

旅のお供に!珠玉の短編『コスモポリタンズ』

本書は30の作品から構成されるサマセット・モームの短編集です。ヨーロッパ、アジア、横浜、神戸、様々な舞台から物語は展開します。1人故郷を離れ、異国の地に住む様々な人々。そしてその日常に忍び寄る、様々な事件の数々。かつて、コスモポリタン誌に掲載された様々な作品が掲載されているのです。

アメリカの雑誌、「コスモポリタン誌」は現在も刊行されている雑誌で、幅広い情報を提供することで知られています。本書は、そこに掲載されていた、ショートストーリーの数々をまとめたものになります。

例えば、本書の中の一遍である、「約束」では、主人公は、ホテルのレストランで、たまたま一緒に食事をすることになった女性であるエリザベスと出会います。この作品は、彼女の人物像が生き生きと描かれた短編になっています。

著者
サマセット モーム
出版日

さて、サマセット・モームという作家は彼自身も認めているとおり、この世界を超越した不思議で幻想的な世界を描くという才能には乏しかったのです。しかし、彼は、自分が見聞きした情報を題材にして小説を描くということに関しては一級品の才能を持っていました。本書で描かれるのも、モーム自身が見聞きした体験を基に描かれる物語です。

非常にライトなタッチで描かれているので、どっしりと腰を据えて読書をすると言うよりも、旅行中の汽車の中や飛行機の中、外の景色を見ながら、軽い気持ちで読書をするのに向いているのではないでしょうか。

肝心の小説の中身はと言うと、非常にシニカルでウィットに富んだ内容になっているのです。物語の展開も非常に小気味よく、さくさくと読むことが出来るでしょう。だいたいの作品が10数ページでありながら、それぞれの作品が各々の顔をもっているので、決して飽きることがありません。

一般的な短編よりも短いサマセット・モームによるショートストーリー集ですので、軽い気持ちで読むことが出来ますよ。旅のお供に是非いかがでしょうか。

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