『となりの関くん』や『アイホシモドキ』などの作品で知られる森繁拓真。彼の描き出す、ゆるく穏やかに笑って楽しめる作品を厳選して4作品ご紹介します。肩の力を抜いて、リラックスして、楽しんでみてください。
森繁拓真は1978年生まれ、宮崎県出身の漫画家です。『アイホシモドキ』や、アニメ化された『となりの関くん』などの作品で知られる森繁ですが、もう1つ知名度をあげたのが、自身の姉が、『東京タラレバ娘』や『海月姫』などの作品で知られる東村アキコだったこと。東村の自伝的著書に、弟として登場もしています。
2000年に『ライフアーツ』でちばてつや賞優秀新人賞を受賞し、翌年に週刊ヤングマガジンで漫画家デビューを果たします。デビュー前は木林拓真名義で執筆しており、デビューの際に森拓真に変更され、その後森繁拓真というペンネームになりました。
小学生の頃から鉛筆で漫画を描いては誰かに見せる、ということをしていたそうで、高校ではパラパラ漫画を辞書に描くと友人たちに宣言したものの、なかなか終わらず数日間ひたすら描き続けていこともあったそう。誰かに見せるために根気強く描き続けられるという、すでに漫画家としての才能の片鱗を感じさせるエピソードも持っています。
プロを目指すと決めたのは、大学生の頃に希望する就職先にはつけない可能性が出てきたため、就職したくなくなってしまったことが一番大きな理由だったとインタビューで答えていました。他の漫画家志望の人よりも描き始めるのが遅くなったことで不安も感じていたそうです。
『となりの関くん』で一気に知名度をあげた森繁拓真の作品、他にも人気のおすすめできる作品がいくつもあります。ぜひ一度、読んでみてください。
アニメ化もされ、森繁拓真の名を一気に全国的に知らしめた『となりの関くん』。内容は非常にシンプルで、男子生徒、関くんがひたすら授業中にこそこそ遊び始める究極の授業サボり漫画です。
- 著者
- 森繁 拓真
- 出版日
- 2011-04-20
一話完結でテンポよく進んでゆくので、サクッと読めて楽しい作品です。毎回どの話においても関くんは様々な1人遊びをしているのですが、それを隣の席の女子生徒、横井さん視点で読者は楽しむことができます。横井さんと一緒に、先生にばれないかドキドキしながら楽しみましょう。
関くんは、まず授業中はもちろんのこと、作中で声を発することがありません。一応会話をしている様子はあるものの、セリフは描かれていないのです。横井さんも関くんの1人遊びに、授業中なので声を出すわけにはいかず、心の声でツッコミ続けています。
授業をサボってひたすら遊び続けるという物語の主軸、そしてメインキャラクターのセリフはなし、という珍しい設定も斬新で目新しいのです。会話がないのに全て成り立っているという、なんとも言えない緩さが醸し出されるのがこの作品の最大の魅力でしょう。もちろん、毎回違うインパクトのある関くんの1人遊びにも注目です。
小さな教室の机の上だけで繰り広げられる遊びの数々から、漫画の無限の可能性のようなものを感じさせます。淡々としていて派手な起伏はありませんが、関くんの遊びが気になって授業に集中できない横井さんのように、どうも関くんが気になってしまう、ついつい先を読みたくなる魅力のある作品です。
『いいなりゴハン』は、森繁拓真が姉の東村アキコの指定した料理店を巡りながらひたすらグルメリポートしていくエッセイ漫画。漫画界の食通を姉に持った森繁が、姉のいいなりになりながら、旨い!を読者に届けてくれます。
- 著者
- 森繁 拓真
- 出版日
- 2012-12-10
有名な売れっ子漫画家を姉に持った弟、森繁拓真は、昔から自分に指図する姉に逆らえなかったようです。そして漫画家となった森繁に、姉はこれから描く漫画、その内容、取材先まで全部まるまる指図してきたそう。昔も今も、姉の決定には反論を挟む隙も無い様子がよくわかります。
仕事も欲しいし逆らえない森繁拓真が、結局姉のいいなりでグルメエッセイ漫画を描き始めることになった、というエピソードが冒頭で語られています。この描写だけで、ちょっと切ない姉弟の現実を感じさせますね。同じような兄弟構成で、同じような経験をしたことがある方もいるのではないでしょうか。
せっかくの連載企画であっても乗り気になれないまま取材に向かう描写は、見事なまでに姉のいいなり感が満載です。森繁拓真自身の心の声を鮮明に描いているのですが、一人で入るお店に緊張していたり、好きでもないものを食べに遠くまで行かされていたり、なにかと文句はありながらも結局食通の姉が選ぶお店はハズレなし。エッセイをやるつもりなんてなかったはずなのに、ついつい旨い!と感動してしまっているあたりもクスッと笑えてしまいます。
気合が入りすぎていないのも、森繁拓真作品らしい魅力で、なんとなく、緩い感じが心地よいのです。姉のいいなりになっているので、森繁自身には良い意味で強烈な思いのようなものが欠けるのかもしれません。程よく気の抜けた緩さは、肩の力を抜いて気軽に楽しめます。美味しいお店もいっぱい出てきて、ここ行ってみたい!ここ知ってる!なんて楽しみ方もできておすすめです。
『おとうふ次元』。200年後の未来、CLEAR AGEと呼ばれる時代の時空修復官を務めるジン・トライが、任務中のアクシデントにより21世紀の日本に漂着。彼は過去の歴史を変えないため、未来から救助が来るまで何もしない生活を送り始めます。しかし次々と彼を襲う過去改変の危機!果たして彼は過去も未来も守れるのか!?
- 著者
- カミムラ 晋作
- 出版日
- 2015-12-22
未来からやってきたジン・トライは、漂着してしまった現代日本で未来のテクノロジーをこっそり駆使して寅井仁名義の戸籍を作り、銀行口座を作り、家を借り、地味に目立たず救助を待っているのですが、アパートの大家さんや新聞勧誘など、ご近所レベルで未来改変の危機が訪れてしまいます。その度やはり未来のテクノロジーで乗り切るのですが、問題自体は本当に小さくて些末なこと。でも本人は21世紀の日本が理解できずにいたって真面目。この温度差が最高です。
この寅井仁、未来から来た結構屈強な男性で、彼が真剣に現代日本に困惑している様と周囲のほのぼの具合がなんとも可愛いのです。未来の機器もかっこよく、解説も本格的にしてくれますが、起こりうる問題は21世紀を生きる現代人読者にとっては単なる日常なので、絶妙に笑える違和感が生まれています。
屈強な寅井 仁が、住む家が決まる前に公園の茂みにこっそりうずくまっているだけの絵、不動産屋の建物横でひっそりと闇に溶け込み夜を明かすだけの絵、何もないアパートの畳の一室でただ寝転がっているだけの絵、たったそれだけでも面白い。森繁拓真の絵、そしてセンスが光っています。
1話完結でテンポよく進むので、飽きることなく次の話に進みます。タイトルの『おとうふ次元』の名にぴったりの緩い日常SFな展開が、穏やかに楽しめておすすめです。
『あねぐるみ』の主人公は、おもちゃメーカーに勤める楠木健郎と姉の暦。社内では極力姉を避け、関わらないようにしている健郎なのに、なにかと目立つ暦の言動にいつの間にか巻き込まれていくという内容の4コマ漫画。
- 著者
- 森繁 拓真
- 出版日
- 2013-04-06
楠木健郎は27歳、新人の総務部平社員。姉の暦は、企画部の敏腕女性課長にしてその名は社内だけでなく業界にもとどろく有名人。そして何かにつけて弟を振り回し、困らせています。真面目で素直な健郎は、自由奔放でやりたい放題の姉には適わないようですが、同じ会社に勤めるなど、なんだかんだと関わる姿は、どことなく姉弟愛を感じる設定です。
2作目にご紹介した『いいなりゴハン』の内容を思うと、姉に振り回される健郎が、作者の森繁拓真にぴったり重なってクスッと笑いながらも応援したくなってくるようなってきます。自由奔放だけど仕事はバリバリこなす姉の暦のキャラクター像で、真面目に振り回される健郎がより切なく、面白く、引き立てられています。
『いいなりゴハン』を読んで、森繁拓真と東村アキコ姉弟の関係を面白可笑しく知ってから読むと、自身の体験から着想を得た内容なのか、など想像をめぐらすこともできてより一層楽しめます。ぜひ『いいなりゴハン』を一読してから『あねぐるみ』を読んでみてください。
森繁拓真のおすすめ4作品いかがでしたでしょうか?知名度を上げた『となりの関くん』以外にも魅力的な作品がいろいろありますので、ぜひ読んでみてください。