筒井康隆のおすすめ作品10選!バリエーション豊かな作品を堪能する

更新:2021.12.11

数々の名作を世に送り出している巨匠、筒井康隆。その類い稀なる創造力と、絶妙なブラックユーモアで、いつも読者を楽しませてくれています。ここでは、そんな筒井康隆の魅力溢れる、おすすめの10作品をご紹介していきましょう。

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人間の内に秘めた心理を抉り出す! 『家族八景』

『家族八景』はテレパシー能力を持つ美少女の七瀬が、様々な家庭の秘められた内情を覗き見るSF小説です。七瀬シリーズの第1作目となる作品で、後に続編として『七瀬ふたたび』『エディプスの恋人』の2作品が執筆されました。

著者
筒井 康隆
出版日
1975-03-03

人の心を読むテレパシー能力を持った火田七瀬は、両親に先立たれ天涯孤独の身です。自身の能力が、人に知られることを恐れた彼女は、高校を卒業後、住み込みのお手伝いとして働き始め、様々な家を転々とする生活を送るようになりました。

七瀬は、ある裕福な家庭のお手伝いとして雇われます。一見仲が良く幸せそうな家族ですが、それは上辺だけ。心の中ではお互いを罵り、軽蔑し合っていました。そんな家族たちの心の声が、すべてわかってしまい呆れ果てる七瀬でしたが、彼女はこの家庭で、ある女性のとんでもない心の内を知ることになるのです。

この作品は、8つの短編で構成される連作短編集になっています。行く先々の家で、人の醜い内面がこれでもかと強烈に描かれていき、読んでいて恐ろしさを感じずにはいられません。主人公の七瀬も、か弱いだけの少女かと思いきや、決してそんなことはなく、失望や葛藤を感じながらも、徐々に実験的に能力を活用するようになり、言いようのないたくましさを感じてしまいます。

1972年に発行された本作ですが、まったく古さを感じることなく、存分に世界観に引き込まれていくことでしょう。SF作品とは言え、1つ1つの描写に圧倒的なリアリティがあり、所々に筒井康隆独特のユーモアも感じられる、読み応えたっぷりの作品です。

旅した気分を味わえる!世界観に酔いしれる筒井康隆の名作 『旅のラゴス』

文明が失われた世界で、ひたすら旅を続ける男の生涯を、壮大なスケールで描いたSF小説『旅のラゴス』。奇抜な作品が印象深い筒井康隆ですが、この作品は誰にでもとても読みやすく、初めて筒井作品を読む方にもおすすめしたい素敵な一冊です。

著者
筒井 康隆
出版日
1994-03-01

舞台となるのは、文明が退化し荒廃した世界。かつて他の星から来た人類は、この世界で文明を維持させることができませんでした。科学は衰退し、今では宇宙船の残骸などが、遺跡として残るのみとなっています。主人公のラゴスは、ある目的を果たすため、その遺跡がある南へと向かう旅に出るのでした。

科学の力がなくなった代償として、人々の中には特殊な能力を持つものが現れ出しています。ラゴスは旅の途中で、集団でのテレポートができるものたちや、壁抜けができる男、空中を浮遊出来る少女など、様々な超能力をもった人間と出会うことになるのです。

何か大きな事件が起こるなど、怒涛の展開が訪れるわけではなく、ラゴスは様々な出来事を経験しながら、淡々と旅を続けます。苦難を乗り越え、前に進み続けるラゴスの姿には、感動を覚えるでしょう。

シンプルであるにもかかわらず、その世界観に無性に心惹かれてしまい、こちらまでラゴスと一緒に旅をした気分になる、不思議な魅力のある作品です。

1986年に初版が発行されたこの作品は、近年再びの大ヒットを記録し話題になりました。少ないページ数の中に、旅のロマンがぎゅっと凝縮された傑作です。皆さんもぜひラゴスとともに、この素晴らしい旅を体験してみてくださいね。

衝撃的な虚構世界に胸が震える! 『虚航船団』

擬人化された文房具と、鼬(イタチ)族との壮絶な戦いの顛末を描く、筒井康隆渾身の1冊です。驚くほど突飛な世界観と、実験的な表現方法が多分に盛り込まれた本作は、1984年発表当時、たいへん話題になり、評論家たちの論議の的となった衝撃の作品です。

著者
筒井 康隆
出版日
1992-08-28

第1章の主人公は、宇宙船団となり航海を続ける文房具たちです。船長の赤鉛筆、副船長のメモ用紙、コンパスに輪ゴムにホチキスなど、船には多種多様な文房具たちが乗っています。行き先や目的も知らされず、いつ終わるかもわからない長い長い航海が原因で、彼らは皆気が狂い常軌を逸していました。

第2章では、鼬族が住む惑星クォールの、これまでの歴史が濃密に描かれ、第3章ではついに、攻め込んできた文房具たちと、鼬族との戦争が勃発するのです。

文房具たちにはそれぞれ強烈な個性があり、狂い方も尋常ではありません。その形状や性質を上手く活かし、1つ1つの文房具を巧みに描写する、筒井康隆の創造力に思わず驚嘆してしまいます。

鼬族の歴史は、そのまま地球の歴史として捉えることができ、虚構だらけの物語に、ふとリアリティを感じて引き込まれてしまうでしょう。

後半、時間も空間も飛び越え、話があっちに飛びこっちに飛び、混乱必至の怒涛の展開が待っています。筒井康隆の凄さに、ただひたすら圧倒されるこの作品。興味のある方は、ぜひ挑戦してみてはいかがでしょうか。

言葉の素晴らしさを教えてくれる傑作実験小説! 『残像に口紅を』

言葉が消えていく世界で、残された使える言葉だけを駆使し物語を紡ぎ出すメタフィクション『残像に口紅を』。日本語表記の「音」が1文字ずつ消えていき、消えた音を含んだ、ありとあらゆる物も消滅していきます。使える言葉がどんどん減っていく中で、それでも巧みに表現していく、筒井康隆の多彩な技に感動してしまう傑作です。

著者
筒井 康隆
出版日
1995-04-18

主人公であり作家の佐治勝夫は、「現実は虚構」だと考え、自らが虚構の存在となり、「『音』をひとつずつ消していく」という、実験的な小説の執筆を試みます。世界からは既に「あ」が消えており、故に「愛」もなければ「朝」もなく、「ありがとう」も存在しません。続いて世界からは「ぱ」が消え、美味しい「パン」もなくなってしまいました。

世界からはこうして、1つまた1つと言葉が消えていきます。20音減り、30音減り、ついには使える言葉がごくわずかとなっても、佐治は表現することを止めず、物語を描いていくのです。

その試みの斬新さはもちろんのこと、本作は物語としても非常に面白く描かれていて、作者の語彙力の高さにとにかく驚かされてしまいます。他の登場人物が、表現方法が尽きてしまい会話できなくなっても、主人公だけは言い換えを駆使して、どうにか言葉を伝えていくのです。

言葉が消え、人が消え、世界が消え、どうしようもない喪失感を感じるとともに、言葉にある無限の可能性を教えてくれる作品となっています。刺激的で充実した、最良の読書時間を満喫できることでしょう。

筒井康隆の小説への思いが詰まった1冊 『創作の極意と掟』

多彩な手法と類稀なる技術で、数々の名作を生み出してきた筒井康隆が、小説の読み方・書き方を伝授するエッセイ『創作の極意と掟』。筒井が、「作家としての遺言」だと語る本作は、自身の「創作論」をはじめ、小説の楽しみ方や文壇の裏話などが惜しみなく書かれた、貴重な作品となっています。

著者
筒井 康隆
出版日
2014-02-26

「小説は誰にでも書ける」と言う筒井。文章の上手い下手にかかわらず、ちょっとした助言だけで傑作になってしまうことも多いのだそうです。このエッセイでは、「凄味」「色気」「揺蕩(ようとう)」「破綻」など、小説を構成する様々な観点から、自身の経験に基づいた持論や、アドバイスが展開されていきます。

「実験」の章では、これまでに世界中で生み出されてきた、奇抜とも取れる様々な実験小説が紹介されています。実験を試みる作家として有名な筒井が、何に影響を受けて作品を執筆したのかを知ることもでき、ファンは思わず興奮してしまうことでしょう。「評価されなくても、実験そのものには必ず価値がある筈」という言葉に、作家としての熱意を感じます。

「創作論」とはいっても難しいものではなく、誰でも気軽に読めるエッセイです。有名作家によるたくさんの名作についても解説され、ブックガイドとしても楽しむことができます。

小説とはなんと自由なものなのかと実感することができ、小説を書いている、書いてみたい、という方だけでなく、本が好きな方だったら誰にでもおすすめできる1冊です。

痛快な喜劇とともに文学理論を学ぶ 『文学部唯野教授』

『文学部唯野教授』は大学内で起こるドタバタ劇や、奥深い文学理論を講義として展開させる、ブラックユーモアたっぷりの長編小説となっています。繰り広げられるギャグに爆笑し、文学についても勉強できる、読み応え充分の作品です。

著者
筒井 康隆
出版日
2000-01-14

主人公の唯野仁は、早治大学の英文学部で教授を務めています。彼の周りには、教授への昇進や講師の座を狙う幼稚な大学人ばかり。友人の牧口は、1年のフランス留学の費用を、教授就任のための資金に充てようと考え、2ヶ月で日本に戻ってきてしまい、隠れるように暮らしています。

その他の教員たちも、皆一癖も二癖もあり、彼らが起こす珍事件や権力争いでドタバタと大騒ぎです。振り回されっぱなしの唯野教授ですが、当の本人は大学に内緒で小説の執筆をしており、その秘密をある女生徒に気付かれてしまいます。

大学の内情をこれでもかと皮肉った、コミカルでテンポの良いストーリー展開は痛快の一言。そしてそんなドタバタ物語の合間に、唯野教授の文学理論に関する講義が行われるのです。饒舌に語られる、文芸批評についての講義はとても面白く、文学に興味のある方は夢中になってしまうでしょう。

普段何気なく読んでいる小説の批評が、また違う視点で見られるようになります。文学って何?という方でも、本書をきっかけに関心が湧くかもしれません。喜劇と講義、ぜひ両方を楽しんでみてくださいね。

いつまでも色褪せない不朽の名作 『時をかける少女』

1967年に刊行され、これまでに映画・ドラマ・アニメなど、様々なリメイク作品が登場したSF小説『時をかける少女』。通称「時かけ」と呼ばれ、多くのファンの心を掴んだ不朽の名作です。表題作の他、「悪夢の真相」「果てしなき多元宇宙」の3作品が収録されています。

著者
筒井 康隆
出版日
2006-05-25

主人公、芳山和子は、ごく普通の中学3年生。ある日、同級生の深町一夫や浅倉吾朗とともに、理科室の掃除をしていると、実験室から物音が聞こえてきました。男子たちはトイレへ行ってしまい、理科室にいるのは和子1人です。

和子が恐る恐る実験室の扉を開けると、ガラスの割れる音とともに、誰かが物陰に身を隠しました。ですが、漂ってきたラベンダーの香りを嗅いで、和子は気を失ってしまうのです。

その3日後、大きな地震が起きて、吾朗の隣の家が火事になります。そしてその翌日、車に轢かれそうになった和子は、前日へとタイム・リープしてしまいました。

映像作品として、鑑賞したことのある方は多いと思いますが、原作を読んだことがない方もいるのではないでしょうか。突然タイムトラベルの能力を持ってしまった謎と、思春期の甘酸っぱい恋模様とが描かれた、素敵な青春小説です。登場人物の少年・少女もとても魅力的で、映像作品とはまた違った感動が味わうことができます。

短い作品ですから、ちょっとした時間に気軽に楽しめる作品です。「時かけ」を知らないという方も、昔夢中になったという方も、色褪せることのない、愛され続けるこの名作を、ぜひ一読してみてください。

夢と現実が交差する傑作エンターテインメント! 『パプリカ』

夢の中に入り込み、心の病を治療する最新機器を巡り、壮絶な争奪戦が勃発するSF小説『パプリカ』。夢と現実を行き来するという、エンターテインメント性に富んだ世界観が話題となった人気作品です。

著者
筒井 康隆
出版日
2002-10-30

主人公の千葉敦子は、ノーベル賞候補にも挙げられるほどの優秀なサイコセラピスト。同僚の時田とともに、夢を映像化できる装置「PT機器」を発明しました。ですが研究所内では、そんな2人の活躍を快く思っていない職員もいるようです。

PT機器は患者の夢をモニタリングするだけでなく、夢の中の登場人物として入りこむことができます。敦子は、夢の謎を解く夢探偵「パプリカ」となって、患者の夢にジャック・インし、抜群の治療成果を上げていたのでした。

そんな中、時田がPT機器をさらに進化させた「DCミニ」を開発したことをきっかけに、研究所内で不可解な出来事が起こり始めます。そこから物語は一気に加速し、何人もの夢が交錯する大荒れの展開へと進んでいく様子は圧巻です。

夢なのか現実なのかも曖昧になり、誰の夢なのかもわからなくなるスリリングな戦いから、目が離せなくなってしまうでしょう。

あまりのリアリティに、こちらまで悪夢を見ているかのような感覚に陥ってしまいます。読む手が止まらなくなるくらい巧みな技で描かれた、迫力あるスピーディなエンターテインメント作品を、ぜひ堪能してみてください。

ナンセンスなのにどこかリアルな自選短編集! 『最後の喫煙者—自選ドタバタ傑作集(1)』

刺激的で毒の効いた作品が集められた、筒井康隆の短編集『最後の喫煙者—自選ドタバタ傑作集(1)』は、表題作「最後の喫煙者」の他に「急流」「問題外科」「老境のターザン」など、全部で9つの短編が収録されています。

著者
筒井 康隆
出版日
2002-10-30

「最後の喫煙者」の主人公は人気小説家です。世間では禁煙運動が盛んになっていましたが、家に篭りっきりで執筆を続ける「おれ」は、相変わらずのヘビースモーカーでした。

そんなある日、訪れた女性編集者の名刺に「わたしはタバコの煙を好みません」と大きく印刷されているのを見た「おれ」は、不愉快になり依頼を断ってしまいます。

怒った女性編集者が、実は禁煙運動の旗頭だったことから、誌面には「おれ」をはじめ、喫煙者全般への痛烈な批判が載せられるようになりました。「おれ」はそれに真っ向から反論。そのことがきっかけで、喫煙者弾圧が激化する事態に陥ってしまいます。

この短編が発表されたのは1987年ですが、現在の禁煙ブームを予測していたのでは、と思ってしまうほど不思議なリアリティのある作品です。その他どの短編でも、非現実的でナンセンスな展開に笑ってしまうのですが、ふと「もしかしたらあるかもしれない」と想像しゾッとしてしまいます。

グロテスクな表現が多用されている短編もあるので、苦手な方は注意が必要かもしれませんが、筒井康隆のブラックユーモアがこれでもかと凝縮された、シュールで面白い作品ばかりです。強烈なドタバタ劇をぜひ体験してみてくださいね。

筒井康隆の魅力が詰まったショートショート! 『笑うな』

筒井康隆お得意の、スラップスティックとブラックユーモアが満載のシュートショート『笑うな』。ジャンル問わず、バラエティに富んだ短い作品が、実に34篇も収録されています。

著者
筒井 康隆
出版日
1980-10-28

表題作の「笑うな」では、友人が発明したタイム・マシンを使い、「おれ」と友人2人が、その直前に起こった出来事へと戻ります。「いいか、笑うなよ」と言われてしまっては、余計に笑いたくなるのが人間というものですね。

たくさんの物語が収録されていますが、どの物語もどこか不思議で、それでいてなぜか無性に面白く、ついハマってしまいます。声を上げて笑ってしまうものや、思わずにやりとしてしまうもの、苦笑いがこみ上げるものなど様々ですが、作品を通してとにかく発想が豊かで、筒井康隆の魅力が満載の作品です。

1話1話が短いので、とても読みやすく、普段本を読まない方でも楽しめると思います。筒井作品の世界観を覗いてみたい方は、手始めに本書から試してみてはいかがでしょうか。ピース・又吉直樹も絶賛の1冊です。


筒井康隆のおすすめ作品をご紹介しました。筒井ワールドに引き込まれる良作ばかりですから、興味のある方はぜひ1度読んでみてくださいね。

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