歴史漫画というと、小難しく思えて敬遠している方も多いのではないでしょうか。しかし実際に読んでみると、壮大な物語を堪能できる極上のエンターテイメントな作品が数多くあります。 この記事では、楽しみながら史実も学べる歴史漫画を、時代別にまとめてご紹介しましょう。
- 著者
- 大和 和紀
- 出版日
- 2008-04-25
格別高い身分でもない貴族の娘が、内裏へと召し上げられました。後年、桐壺の更衣(こうい)と呼ばれる女官です。
そして、彼女がある夜に出会ってから名を伏せて逢瀬を重ねる公達こそ、主上(おかみ=天皇)その人でした。
桐壺の更衣は他の有力な女御たちに疎まれつつも、主上との愛を貫き、ひとりの子を産んで生涯を終えます。その子は光源氏と名付けられ、理想の女性に母の面影を求めながら、栄華と苦悩の人生を歩んでいくことになるのです。
本作は1979年から「mimi」で連載されていた大和和紀の作品。日本人であれば誰もが必ず1度は聞いたことがある古典のビッグタイトル『源氏物語』をもとに描かれた少女漫画です。
それこそ古典や日本史でしか知らない方や、場合によっては内容を知らない方もいるのではないでしょうか。
源氏とは平たく説明すると、皇族に連なる一定以上の高い身分の者が皇籍を離れ、主に武家として家を立てた者に与えられる姓のこと。光源氏は皇族争いを避けるために皇籍から外れ、「光源氏」という名前になったのです。
本作はは少女漫画でありながら、可能な限り原典の『源氏物語』に忠実に描かれています。読者に受け入れやすいよう脚色されたり付け加えられたりしたものもありますが、古典の導入として十分に役割を果たしている作品です。
平安貴族の、どこか閉鎖的な恋愛観を体験してみてください。
『あさきゆめみし』に関しては、以下の記事でより詳しく紹介しています。
漫画『あさきゆめみし』の見所を13巻まで全巻ネタバレ紹介!
平安時代の貴公子、光源氏が理想の愛を求めてさまよう『あさきゆめみし』。原作は誰もが1度は聞いたことのあるあの有名な『源氏物語』です。古典では読むのが難しいかもしれませんが、漫画となった本作はよりわかりやすく、面白くなっています。人生の悲喜こもごもが詰まった平安恋愛絵巻の魅力をご紹介しましょう。
- 著者
- さいとう ちほ
- 出版日
- 2013-03-08
平安時代の貴族、藤原丸光(ふじわらのまつみつ)には2人の妻がいました。彼女たちは同じ日、同じように子を産むのですが、その子どもたちはまるで双子のように瓜二つでした。
そのうち女の子は「沙羅双樹の君」こと藤原涼子(ふじわらのすずしこ)、男の子は「睡蓮の若君」こと藤原月光(ふじわらのつきみつ)と名付けられます。
ところが成長した2人は、女の沙羅が男らしく、男の睡蓮が女らしく育ってしまうのです。周囲から性別を誤解されたまま成人を迎えた2人は、お互いに名前を偽り、立場を入れ替えて宮中へと上がっていくのでした……。
本作は2012年から「月刊フラワーズ」で連載されていたさいとうちほの作品。平安後期に成立した『とりかへばや物語』をベースにした少女漫画です。
「とりかえへばや」とは、「取り替えたいなあ」という意味の古語。男らしく成長した姫君と、女らしく成長した若君の性別を父親が嘆き、いっそ取り替えられればと呟いたことに由来します。
いまで言う性転換作品、トランス・セクシャル・フィクションに当たるでしょう。約1000年前の平安時代にTSFが成立していたというのは、驚異的と言うほかありません。本作は原作にほぼ忠実に作られているのですが、お話として古くさいところはまったくないため、元の物語の完成度の高さがうかがえます。
本来の性別とは異なる性別に入れ替わる主人公の2人。沙羅は宮廷に仕官し、睡蓮は後宮に出仕します。当時は現代よりも性別に厳格で、職業選択の自由もなく、偽っていることが判明すればどうなるかわかりません。そういった不自由さも、物語をとおして実感することができるでしょう。
当然、性別を偽っていることで生じる問題もあります。沙羅は男として女性と結婚しますし、睡蓮は求婚を拒むために後宮へ行くことに。その結果、さらなる問題が起こって……。
性別を取り替えた2人の運命がどのような結末を迎えるのか、ぜひお楽しみください。
『とりかえ・ばや』に関しては、以下の記事でより詳しく解説しています。
『とりかえ・ばや』の性別入れ替え物語がドキドキ!魅力を13巻までネタバレ
男女入れ替えものを描いた平安時代の古典「とりかへばや物語」をモチーフに、美しい姉弟が性別を入れ替えて宮廷に出仕していくさまを描いた『とりかえ・ばや』。覇権争いや愛憎劇に巻き込まれ、最後までハラハラドキドキの展開から目の離せない本作の見どころを、ご紹介しましょう。
茶人として知られる男、古田織部(ふるたおりべ)。彼は古田左介として織田信長に長く仕え、後に豊臣秀吉の筆頭茶頭となり、徳川家康の治世にも強い影響を与えました。
質実剛健が求められる武将でありながら、どうしようもない物欲の徒である数寄者でもあった古田。実に3人もの天下人の傍らで、したたかに、そして柔軟に生き抜いた彼の生きざまが描かれています。
- 著者
- 山田 芳裕
- 出版日
- 2005-12-22
本作は2005年から「モーニング」で連載されていた山田芳裕の作品です。
戦国時代において茶道は、武士が当然習熟しておかなければならない重要な作法でした。なかでも「わびさび」の千利休は、質素さを尊ぶ武将にも大変人気があったのです。
そんな千利休の直弟子のひとりが、古田織部です。しかし彼は型にはまることを嫌う利休以上に変わり者。師匠好みの作法や茶道具を「甲」とするなら、堅苦しさを感じさせないおちゃらけたものを「乙」として好みました。とにかく「面白い」ということを重視する人物だったのです。
タイトルの由来になっている「へうげる」とは、「ひょうげる」と言い、おどける・ふざけるなどの意味があります。際の本人がどうだったのかはわかりませんが、彼の顔芸や独特の表現が本作の見どころのひとつでしょう。
物語はコメディタッチで進みますが、その裏ではドロドロの政争がくり広げられます。
安土桃山時代から江戸時代は、とかく難しい名前の武将が多くてわかりにくいですが、本作に登場する歴史上の人物はみな特徴的なキャラクター設定がされているので、読むだけで楽しく時代の流れを知ることができますよ。
2011年には、テレビアニメ化もされています。
新免武蔵(しんめんたけぞう)は関ヶ原の戦いを生き延び、故郷に逃げ帰りました。武功を立てて出世するという夢が絶たれた彼は、故郷の宮本村で旅の僧侶と出会います。沢庵宗彭(たくあんそうほう)というその僧は、武蔵に生きる指針を与えてくれました。
剣士だった父に習い、剣の道に生きる決意を固める武蔵。新免あたらめ宮本武蔵と名を変えて、武芸の道を歩んでいくのです。
そして、時を同じくして彼と同じように戦いでしか生きられない男がいました。彼らの人生が運命的に、あるいは必然的に交差し、純粋な武の高みへと登っていきます。
- 著者
- 井上 雄彦
- 出版日
- 1999-03-23
本作は1998年から「週刊モーニング」で連載されている作品。作画は『SLAM DUNK』でも有名な井上雄彦です。
世界に名高い剣術家にして兵法家でもある宮本武蔵。外国人にサムライをひとり挙げてと言えば、絶大な支持を集めるであろう人物です。歴史的に有名なだけでなく、実戦で二刀流を用いたというロマンも、多くの創作の題材になっているゆえんでしょう。
本作も、そんな創作のひとつである吉川英治の小説『宮本武蔵』をベースにしています。武蔵だけでなく、ライバルとして知られる佐々木小次郎や、槍の名手である宝蔵院胤舜(ほうぞういんいんしゅん)も登場。
彼らが織りなす骨太なストーリーももちろんですが、本作の魅力は井上雄彦の精緻を極めた筆致ではないでしょうか。あまりの迫力と躍動感に、登場人物たちが激しく動いているかと錯覚を受けるほどです。
作中ではアクションのほかにも、哲学的、観念的な問いかけがおこなわれます。達人の心境はこういったものなのかもしれないと、読者に剣豪の心境を追体験させてくれるのです。
数々の賞も受賞している本作をぜひお楽しみください。
桶狭間の戦いから7年後、稲葉山城は織田信長軍によって落城してしまいました。城主である斎藤龍興(たつおき)の家臣・仙石権兵衛秀久は、城攻めを生き延び、そのがむしゃらさを敵方である信長に評価されます。
信長の差配で木下藤吉郎秀吉の配下となった彼は、ここから数奇なる運命を辿ることになるのです。
日本史史上もっとも手酷い失敗をしでかし、そしてその失敗を取り戻した武将、仙石。これは、栄枯盛衰をくり返す戦国時代を生き抜いた男の物語です。
- 著者
- 宮下 英樹
- 出版日
- 2004-11-05
2004年から「週刊ヤングマガジン」で連載されていた宮下英樹の作品。続編と番外編も発表されていて、2018年現在はシリーズ最終章となる『センゴク権兵衛』が同誌で連載中となっています。
戦国時代で有名な武将といば、伊達政宗や上杉謙信あたりでしょうか。本作の主人公である仙石権兵衛秀久はあまりメジャーではありませんが、彼らと同様実在した武将です。
九州を治めていた秀吉が、島津家久率いる島津軍と戦った「戸次川の戦い(へつぎがわ)」において、勢いあまって援軍を待たずに出陣したうえあっけなく敗走して、豊臣軍大敗北の原因となった人物。
物語は、彼が信長に取り立てられた後秀吉に見い出され、成り上がり、運命の戸次川の戦いへと徐々に向かっていきます。緻密な時代考証によるリアリティのある描写で、ひとりの男の人生を辿ってみてください。
越後を治める長尾家は、嫡男の晴景(はるかげ)が病弱なため、健康な後継ぎを熱望していました。そして1530年、城主為景(ためかげ)の正室・紺は、待ち望まれた赤子を産み落とします。
しかし生まれた子どもは、女の子。為景は赤子を虎千代と名付け、男として育てていきます。
- 著者
- 東村 アキコ
- 出版日
- 2015-09-11
2015年から「ヒバナ」、「ビッグコミックスピリッツ」などで連載されている東村アキコの作品です。
NHK大河ドラマの影響で、井伊直虎が女武将だった話は広く知られています。実は直虎以外にも、女武将が実在していました。本作は、「上杉謙信は女だった」という俗説をもとにして、女武将としての謙信を独自の切り口で描いています。
物語は創作によって補強されていて、最強武将の意外な側面として楽しむことができますよ。エンタメ歴史漫画として面白い作品です。
1600年の9月15日、歴史に名高い関ヶ原の戦いが始まります。東軍総大将の徳川家康に対峙するのは、西軍を束ねる石田三成です。
それから3年後に誕生する江戸幕府は、実に200年以上も続く時代となりましたが、幕末に起きた討幕運動は、実はこの関ヶ原の時点ですでに原因が生じていました。
本作は、関ヶ原の戦いから幕末に至るまでの日本で、時代の礎となった風雲児たちの生きざまを描いた物語です。
- 著者
- みなもと 太郎
- 出版日
- 2002-03-28
本作は1979年から「コミックトム」で連載されていた、みなもと太郎の作品。2018年にNHKでドラマ化されたことでも話題を呼びました。
江戸時代の端緒から終焉までを、各時代の節目で活躍した偉人=風雲児の視点で描いています。「徳川幕府成立編」、「蘭学黎明編」、「蘭学鳴動編」、「風雲児幼年編」、「幕末編」の5つから成る大長編。もともとは幕末だけを取りあげる予定でしたが、幕末の状況を生み出したきっかけを探っていったところ、そのきっかけは幕府成立時にあると作者が考えたためこのような構成になりました。
全編にわたってコメディ調で、連載当時の時代性を反映した時事ネタなども見受けられます。ややこしくなりがちな日本史が平易な表現に置き換えられているので、世代を問わずだれでも楽しむことができるでしょう。
また、ふりがながふってあるので、小学生の歴史学習にも打ってつけかもしれません。
本書を読めば、きっと歴史に親しみを持てるはずです。
『風雲児たち』に関しては、以下の記事でより詳しく解説しています。
漫画『風雲児たち』の魅力がすぐ分かる3つの見所!
歴史漫画の新たな境地を切り開いた作品として知る人ぞ知る大作漫画、みなもと太郎の『風雲児たち』。NHKの正月時代劇として、三谷幸喜脚本で2018年1月からドラマ化されることでも話題の作品です。今回はその魅力が分かる、3つの見所をご紹介していきます!
時は文久3年、世に言う幕末です。後に「新撰組」と呼ばれることになる壬生浪士組宿所に、隊士志願の少年がやって来ます。神谷清三郎と名乗る彼は、小柄でありながら気概だけは人一倍あり、それを評価され念願叶って入隊を許可されました。
清三郎の本名は富永セイと言い、蘭方医である富永玄庵の娘。長州勤皇派に父兄を殺害された彼女は、仇討ちのために新撰組に志願していたのです。名前と性別を偽り入隊した彼女は、沖田総司を慕って新撰組隊士として成長し、激動の時代を生きていきます。
- 著者
- 渡辺 多恵子
- 出版日
- 1997-11-01
本作は1997年から「別冊少女コミック」に掲載され、後に「月刊フラワーズ」へ移籍している作品です。新撰組といえば、誰もが知っている幕末のラストサムライ。その知名度の高さからか、さまざまな作品が生み出されています。
主人公の富永セイという少女は創作されたキャラクターですが、彼女が名乗っている神谷清三郎は実在した人物だといわれています。近藤勇や土方歳三ほどではありませんが、名前は残っている隊士なのです。
本作はところどころにコメディ要素も散りばめられ、非常に読みやすくなっていますが、史実に関してはしっかり考証されています。
新撰組という男所帯にうら若い女子が紛れ込み、互角にわたりあうかと思いきや沖田総司ともよい仲になるなど、歴史漫画でありつつ少女漫画としても読者の心をしっかり掴んで離しません。
1944年夏、バカンスに最適な南国のペリリュー島に、ものものしい兵士の一団が上陸します。太平洋戦争末期、そこは苦しい戦局に立たされていた日本軍の前線のひとつでした。
主人公の田丸は、常に眼鏡をかけた冴えない男です。英雄でもなければ、職業軍人でもない、召集されただけの一等兵。日々刻々と迫り来るアメリカ軍の前に、同期の兵士や、上官が次々と亡くなり、戦争の恐ろしさを体感していました。
- 著者
- ["武田一義", "平塚柾緒(太平洋戦争研究会)"]
- 出版日
- 2016-07-29
2016年から「ヤングアニマル」で連載されている武田一義の作品です。戦後70年を過ぎ、第二次世界大戦を直に経験した世代も少なくなりつつあると同時に、貴重な記憶と話者が失われています。
そうしたなか、史実をすくい取って戦争を感じさせてくれる作品は、とても重要な役割を果たすのではないでしょうか。
本作は実際に起きた「ペリリューの戦い」をベースに、物語として再構成したもの。フィクションですが、きっとあの頃、確かにこの悲惨な出来事が起きていたと感じさせてくれる作品です。
全編をとおして、デフォルメされた3頭身のキャラクターが登場。絵柄とは乖離した過酷な現実に直面していきます。リアルに描けばリアリティをもつわけではないとつくづく思い知らされるでしょう。
多くのメッセージが詰まった本作からどんな意味を見出すかは、読み手しだいです。
『ペリリュー ─楽園のゲルニカ─』に関しては、以下の記事でより詳しく解説しています。
『ペリリュー 楽園のゲルニカ』に太平洋戦争のリアルを見る【無料漫画】
太平洋戦争について描いた漫画は数多くあれど、可愛らしい絵柄で戦場の壮絶さをここまでリアルに描いた作品はそう多くはないはず。『ペリリュー 楽園のゲルニカ』は読みやすい絵柄と内容でありながら、リアルな戦争を描いた作品です。ここでは、2017年現在無料で読むことができるこちらの作品についてご紹介していきます。
春秋戦国時代の末、中国の西に秦という国がありました。その国のさらに田舎の土地に、主人公の信は住んでいます。
ある時、信よりひと足早く仕官していた友人の漂が、大怪我を負って戻ってきました。彼は信に地図を託して息絶えます。
図に示された場所へ行くと、そこには漂に瓜二つの「えい政(せい)」という少年がいました。彼は秦の若き国王です。
くしくも政と信の2人は、中国を統一し戦乱を収めるという同じ大望を持っていました。そして成長した彼らは、戦国の世を平定する始皇帝と、その将軍となっていきます……。
- 著者
- 原 泰久
- 出版日
- 2006-05-19
本作は2006年から「週刊ヤングジャンプ」で連載されている原泰久の作品です。
物語の舞台は今から2000年以上前の、紀元前の中国。統一王朝である秦誕生まで続いた長きにわたる戦乱の時代を、中国統一という巨視的視点で駆け抜けた少年たちのお話です。
「秦の始皇帝」は、歴史に疎い方でもなんとなく聞いたことがあるのではないでしょうか。本作に登場する政こそ、世界史上で初めて「皇帝」を名乗ったその人なのです。
そんな始皇帝になる政と、彼に仕え大将軍になる信。作中の2人はまだ若いものの、その情熱と志の高さは人並みを外れています。
また「中国統一」という同じ目標を持ちながら、政は政治による治世、信は軍力による平定とやり方がまるで違うのも面白いところ。時代性を考えれば、どちらの言い分にも理があります。
水と油、あるいは炎と氷のように相反する2人の主人公が、史実を辿りながら名を挙げていく一大スペクタクルです。
『キングダム』に関しては、以下の記事でより詳しく解説しています。
漫画『キングダム』の結末を考察!面白い理由は登場人物や、終わり方にある?
『キングダム』をご存じでしょうか? 紀元前の中国を舞台に、中華統一を目指す人々を描いた戦記漫画です。史実どおりにストーリーが進むことでも有名な作品で、歴史の勉強にもなる作品ですが、本作の魅力はそれだけではありません。 史実に沿った本筋の随所に織り交ぜられたフィクションが、物語をより一層面白くしているのです。また、戦いの中で葛藤を感じながらも強い意志で困難を乗り越えていくキャラクターの姿も魅力的です。 今回は、そんな漫画、『キングダム』が面白い理由を徹底解説!分析すると、本作の面白さは登場人物や2019年の映画化、そして結末にあるのではないかと分かってきました!この記事では最終回の考察もご紹介。少々長い記事ですので、目次からご自身の気になる内容をご覧くださいね。
後漢の末期。後に曹操として覇を唱える少年は、英雄の片鱗が垣間見える、覇気あふれる若者でした。
幼い頃から過激な行動が多かった彼は成長して北部尉になると、厳しい取り締まりを断行するともに、規律を守るため時の皇帝である霊帝に上奏します。しかしこれが叶わなかった曹操は朝廷に見切りを付け、「蒼天已死」という文言を市井に密かに流しました。
その言葉は広く浸透し、「黄巾の乱」の引き金となっていきます。そしてそれに呼応するように劉備、孫権といった眠れる龍が目を覚まし、世は動乱の時代へと突入していくのです。
- 著者
- 王 欣太
- 出版日
- 1995-10-19
本作は1994年から「モーニング」で連載されていた李學仁原作、王欣太作画の作品です。
『三国志』といえば世界でも有名な中国の歴史書。劉備、孫謙、諸葛良孔明などの名前は聞いたことがあるでしょう。正史『三国志』やそれを脚色した物語『三国志演義』ともに、歴史の勝者である劉備が主人公ですが、そういった傾向に反して本作の中心に据えられているのは曹操です。
虐殺を敢行する独裁者として知られ、何かと悪役として描かれることが多い彼ですが、果たして本当にそうだったのでしょうか。史実に疑問を投げかける内容になっています。
実際に歴史というのは、時の王朝の正当性を担保するために、敵対勢力や敗者の悪い側面を誇張して書くことが少なくありません。本作でも正史や演義を精査して、まるで曹操がツッコミを入れるようにつくられたとのことでした。
基本的には1巻や2巻でひとつのエピソードが完結する連作形式なので、中だるみすることなくテンポよく読み進めることができます。『三国志』自体を敬遠していた方にもおすすめしたい作品です。
2009年には、テレビアニメ化もされています。
『蒼天航路』に関しては、以下の記事でより詳しく解説しています。
漫画『蒼天航路』の魅力を徹底考察!キャラクターの名言が沁みる!
原作・李學仁、作画・王欣太で、アニメ化もされた『蒼天航路』。曹操が主人公だという、三国志のもうひとつの形を確立した本作の魅力を、この記事ではたっぷりと紹介していきます。とめどなく登場する名言や、ド迫力の作画など、見どころがいっぱいです。
時は紀元前、共和制ローマの時代です。ローマの勝利で終わった「第一次ポエニ戦争」ですが、敗戦国のカルタゴには戦後処理で新たな火種が生まれていました。
それはやがて「雷光」という意味の名を持つハンニバル・バルカという男の姿となって、ローマの脅威へと成長していきます。
一方のローマでも、ハンニバルに比肩する男が運命的に生まれていました。プブリウス・コルネリウス・スキピオです。後の歴史に名を残すこの2人が、国家間の行方を左右する大戦争の鍵となっていきます。
- 著者
- カガノ ミハチ
- 出版日
- 2011-10-19
2011年から「ウルトラジャンプ」で連載されているカガノミハチの作品です。「第二次ポエニ戦争」は、世界史はもとより、戦史や軍事学において重要なターニングポイントとして語られる出来事。特にハンニバルとスキピオの天才戦術家の計略は、いまだに考証に値するのだとか。
主人公であるカルタゴのハンニバル・バルカと、後に「大スキピオ」とも呼ばれるローマのプブリウス・コルネリウス・スキピオは実在した人物です。
そのほか一部のキャラクターやストーリーの流れに創作はありますが、基本的に物語は史実に忠実に進んでいきます。
2人の天才がいかに勝ち、いかに負けたのか……ダイナミズムに溢れる迫力満点の戦記です。
カルディア市の有力者であるヒエロニュモスの次男として幼少期を過ごしたエウメネス。父親が亡くなった際に、実は彼は養子で、しかも流浪の民スキタイ人であることが判明してしまいます。
大富豪の次男から一気に奴隷にまでなり下がったエウメネスは、数年後、その才気で再びカルディアへと戻ってきました。マケドニア王フィリッポスは彼の類い希なる才能を見抜き、異例の登用をおこないます。
こうしてエウメネスは、後にアレクサンドロス大王の側近になるという数奇な運命をたどっていくのです。
- 著者
- 岩明 均
- 出版日
- 2004-10-22
本作は2003年から「月刊アフタヌーン」で連載されている岩明均の作品です。
世界史に「王」は数多く存在しますが、「大王」と言われて思い描くのはアレキサンダー大王ではないでしょうか。広大な領土を持つマケドニアの王にして、エジプトのファラオでもある偉大な征服王です。
エウメネスはそのアレキサンダー大王と、先代のフィリッポス2世に仕えたとされる実在の人物。「カルディアのエウネメス」とも呼ばれていましたが、その前半生は謎に包まれています。
そこで本作では、その謎とされていた部分に創作を加え、スキタイ人というルーツを与えてキャラクター付けをおこなっています。
また古代ギリシアが抱えていた数々の問題や戦争もダイナミックに描かれており、当時を垣間見ることのできる優れた歴史漫画です。
『ヒストリエ』に関しては、以下の記事でより詳しく解説しています。
漫画『ヒストリエ』10巻までの魅力を徹底考察!【ネタバレ注意】
『寄生獣』の作者、岩明均が連載している漫画『ヒストリエ』。かつて存在していたことはわかっているものの、半生が謎に包まれているエウメネスを主人公に、フィリッポス2世、アレクサンドロス大王が築きあげたマケドニア王国の黄金期を描く物語です。
11世紀初頭。文明が栄枯盛衰しているヨーロッパの各地で、侵略と略奪をくり返す若者たちがいました。彼らはデーン人、もしくはノルマン人と呼ばれ、現在はヴァイキングとして知られる武装集団です。
父親の仇討ちのため、ヴァイキングの海賊団に身を寄せる主人公のトルフィン。仇敵アシェラッドに導かれるように力強く成長し、当時蛮勇一色だったヴァイキングとは異なる戦士になっていきます。
本当の戦士とは何なのか、愛とは、そして生きるとは何なのでしょうか……。
- 著者
- 幸村 誠
- 出版日
- 2006-08-23
本作は2005年から「週刊少年マガジン」、その後「月刊アフタヌーン」で連載されている幸村誠の作品です。
いまでこそヴァイキングは海賊の代名詞で、野卑で粗暴で喧嘩っ早く、金銀財宝の強奪をくり返す無法者のイメージがあるかもしれません。
本作に登場するほとんどのヴァイキングたちもそのような者が多いのですが、主人公のトルフィンだけは違います。彼は自身もヴァイキングでありながら、その生き方や戦い方に疑問を抱いていました。そしてドラマチックな出会いと別れを経て、見違えるように成長していくのです。
このエピソードは、史実とフィクションが巧みに織り交ぜられ、ダイナミックに展開されていきます。
ところでトルフィンのモデルになったのは、ソルフィン・ソルザルソンという探検家。ヨーロッパ人で初めてアメリカ大陸への移住を試みた偉人です。
青年期のトルフィンもまた、ソルフィンと同じようにアメリカ大陸=ヴィンランドを目指して旅を始めます。しかしその航路にはさまざまな困難が立ちはだかるのです。暴力と謀略の連鎖から、彼は逃れることができるのでしょうか。
2019年には、テレビアニメ化もされています。
『ヴィンランド・サガ』に関しては、以下の記事でより詳しく解説しています。
アニメ化『ヴィンランド・サガ』の魅力を全巻ネタバレ考察!【最新22巻】
11世紀初頭の北欧には、人々から恐れられる戦士、ヴァイキング達がいました。『ヴィンランド・サガ』はそんなヴァイキングの1人である少年が、成長して新たな世界を切り拓いていく壮大な叙事詩です。 この記事では、2019年7月からはテレビアニメの放送も始まる本作の魅力をご紹介します!
14世紀初頭、ドイツとイタリアを結ぶザンクト・ゴットハルト峠に関所が設けられました。その土地は、本来スイスの3つの州が結ぶ「森林同盟三邦」の所有地でしたが、オーストリア公ハプスブルク家に支配されてしまったのです。
関所は通称「狼の口」と呼ばれ、ハプスブルク家の代官・ヴォルフラムが非道極まる圧政を敷いていました。
ハプスブルク家に謀反心を抱く人々は、反抗しようと試みるのですが……。
- 著者
- 久慈光久
- 出版日
- 2010-02-15
2009年から「Fellows!」で連載されていた久慈光久の作品です。現在は永世中立国として知られるスイスですが、地理上で主要各国に囲まれていることから、当時は多数の国から干渉を受けていました。
本作は、そんなスイスが独立を懸けてハプスブルク家に戦いを挑んだ「スイス独立戦争」をモチーフにしています。
物語の構成も作画も、説得力のある真に迫った表現がされていて圧巻。極悪人として描かれているヴォルフラムが処刑されるシーンは、かなりの見どころになっています。
14世紀のヨーロッパ、これから起こる大乱を予期してか、各地で内乱が起こっていました。そんななか、どこの国にも属さない「白鴉(はくあ)隊」という傭兵団が現れます。
団長は、ジョン・ホークウッドという男。頭の切れる彼は、騎士道も誇りも二の次にして、ただ金のために過酷な戦いを生き抜いてきました。
ある戦いで、彼は敵として出会ったイングランドのエドワード王太子に見い出され、行軍をともにするようになります。そして知らず知らずのうちに、大きな戦乱の流れに飲み込まれていくのでした。
- 著者
- トミイ大塚
- 出版日
- 2011-05-19
2011年から「月刊コミックフラッパー」で連載されていたトミイ大塚の作品です。
作中で描かれる大乱とは、イングランド王朝とフランス王朝の間で長く続いた「百年戦争」のこと。
主人公のジョン・ホークウッドは、前半生には不明な点があるものの、傭兵として勇名を馳せた実在した人物です。イングランドとフランス両国の立場で戦いに参加した経験があり、後にはイタリアでも活躍したそう。
信念や誇りが無いゆえに、合理的な作戦を執ることができたホークウッド。その言動には非常に説得力があり、また魅力的でもあります。
さらに彼を引き込んだエドワードもかなりしたたかな逸材。歴史上の人物がいきいきと感じられるでしょう。策謀渦巻く百年戦争をぜひ体感してみてください。
いかがでしたか?悠久の時のなかで紡がれ、有形無形で遺された数奇な出来事を、歴史漫画をきっかけに少しでも知っていただければと思います。