爽やかで優しい人々が登場する日常ミステリを得意としており、読後の気持ち良さが魅力です。そんな彼の作品を今回はご紹介します。
坂木司は、2002年にデビューしたミステリ作家です。
プロフィールは1969年生まれ、東京都出身の作家としか明かされておらず、作品に先入観を与えないため、それ以外のすべてが不明となっています。ペンネームの「坂木司」というのもデビュー作である「ひきこもり探偵」シリーズの登場人物の名前をそのまま使用しており、性別も不明です。
この物語で謎を解き明かしていくのは、「僕」こと男子大学生の二葉と「先生」こと男子中学生の隼人です。頭の切れる隼人とそんな彼に振り回されるお人好しな二葉が日常の謎を解き明かしていくというのが作品の流れです。
中学生にしては大人びていて見た目もアイドル並に整った顔をしている隼人は自分が人にどう見られているかも把握した上でその容姿をフルに活かして情報収集し、二葉が思いつかない発想で謎を解いていきます。一方、二葉は特技といったら記憶力がいいくらいで性格もこわがりでお人好し、鋭い所を突くというよりかは突かれる方が多いのでよく隼人に頼まれごとをされてはいいように使われていることもしばしば。
そんないつも押され気味の二葉ですが、時々先生らしいことを言うこともあります。
「うまく言えないけど、生まれちゃったものはしょうがないっていうか。でもって生まれた以上は生きるしかないじゃない?」
(『先生と僕』より引用)
このように生きることに対して問いかける場面がところどころ出てくるのです。一見ぼんやりしているようですが、心の中では生きる姿勢を見直すことを繰り返しています。こういった短いセリフが忙しく生活している人にとっては、ふと立ち止れる機会になるかもしれません。
そういったことを口に出して言うことはあまりないですが、隼人に対して二葉は自分の考えを語り、それに対して隼人も黙って耳を傾けて受け入れます。
- 著者
- 坂木 司
- 出版日
- 2011-12-15
普段の二人は力関係の差が目にみえてわかるのですが、根っこの部分では対等な関係で結びついており、上下関係は存在しません。意見が違うこともありますが、否定をせずに、反対に従うということもせずに、相手の気持ちを認めているという二人の関係がこの作品の魅力です。
年齢や性格、育った環境も違う二人がどのような謎を解いていくのか、ぜひこちらの『先生と僕』を手にとってみてはいかがでしょうか。また、続編の『僕と先生』では新しい人物も増えてさらに個性的な仲間たちに出会えます。
平凡なサラリーマンである坂木司と、彼の親友でひきこもりの鳥井真一の二人が出会う「日常の謎」を取り扱った作品です。鳥井がホームズ役、坂木がワトソン役として様々な謎を解いていき、その中でいろんな事情を抱えた人に出会っていく、そういった連作短編シリーズとなります。
- 著者
- 坂木 司
- 出版日
- 2006-02-23
デビュー作となるこの作品、注目すべきは主役二人の関係性でしょう。いじめによって引きこもりとなった対人恐怖症鳥井と、彼の唯一の支えとなって日々彼を外に連れ出そうとする坂木という、少し他とは違う状況に置かれた男たちの物語です。この作品において大切になるのは推理の部分ではなく、事件に付随する様々な人の想いと言えるでしょう。
共依存の関係にあり、現状から変わらずにいた二人が謎の解決を通して人と触れ合っていく様子がこの作品の見どころです。たとえば彼らの同級生だった警察官、坂木の営業先の気のいいおじさん、事故で目が見えなくなった青年……。人との関わりによって変わる二人に注目してみてください。
高校卒業後、進学も就職もせずに無職となってしまった主人公がなんとなくデパ地下の和菓子店でバイトを始めるところから始まる物語です。和菓子にまつわるお客の不思議な行動とは? そんな日常の謎が散りばめられた作品となります。
- 著者
- 坂木 司
- 出版日
- 2012-10-11
魅力的なのはやはり登場人物たちでしょう。主人公の梅本杏子はちょっと太い体系がコンプレックスで、異性との付き合いが苦手な女の子。そんな彼女の同僚となるのが20代のイケメン男子、ただし乙女の立花早太郎です。主人公をあんこちゃん、アンちゃんと呼ぶ立花の姿はまさに女子で、登場時とのギャップがたまりません。この作品はちょっぴり少女漫画感が強く、彼と主人公のもどかしい関係も楽しめるポイントの一つとしておすすめです。
舞台はとある高校、主人公たちはそこに通う天文部の生徒たちという青春小説です。とはいうものの、まじめに部活をするタイプの青春小説ではありません。彼らにとって天文部は隠れ蓑、彼らはそれぞれの戦場を戦うためコードネームで呼び合うスパイなのです。要するに価値観の押し付けや、自分が置かれている家庭環境、そういう若者が感じる「ままならないもの」と戦う4人の高校生の短編連作という作品です。
- 著者
- 坂木 司
- 出版日
- 2011-08-28
語り手となる人物が一編ごとに変っていくタイプの連作集になります。4人の高校生たちはお互いに敵を抱える同志なのですが、だからと言ってずっと一緒にいるような関係でもありません。天文部の活動の時にだけ顔を合わせるだけの関係、しかし彼らにしかわからない信頼関係が見て取れるのがこの作品の面白いところかと思います。高校生だからこそ感じる閉塞感をうまく捉えた作品です。
元ヤンで現ホストな主人公、沖田大和のもとにやってきたひとりの小学生の男の子。彼が大和に対し「初めまして、お父さん」と衝撃的なことを告げるところから、物語は始まります。ホストクラブ経営者の計らいで、「ハニービー・エクスプレス」の宅配便ドライバーへと転身することになった大和は、小さな謎やトラブルに巻き込まれていくことになります。ぎこちない親子のやり取りから、家族とは何かと考えさせられる作品です。
- 著者
- 坂木 司
- 出版日
- 2010-01-08
坂木司特有の日常ミステリな今作ですが、その中でも謎要素は少し控えめでとにかく大和とその息子とのやり取りが物語のメインになります。元ヤンで少し子供っぽいところが残る大和と、しっかり者で家事全般が得意な彼の息子が少しずつ距離を詰めていくところがさわやかに描かれています。とても心が温まる家族の物語です。
この作品の主人公は街角のクリーニング店が実家の新井和也という青年です。大学を卒業する間際、一家の大黒柱だった父親が亡くなり当時就職も決まってなかった彼がなし崩し的にクリーニング店を継ぐことになります。クリーニングに対する知識が全くなかった和也は日々悪戦苦闘しながらも洗濯物の集荷に精を出す日々です。しかし、そんな中集荷された衣類と一緒に舞い込んだ数々の謎。どうしてもその謎が見過ごせなかった彼は、近所の喫茶ロッキーでバイトしている友人にどういうことだろうかと問いかけると、彼は和也に一言こう言ってみてくれとだけ告げるのでした。
- 著者
- 坂木 司
- 出版日
- 2009-07-05
坂木司の得意分野、職業系日常ミステリの作品です。デビュー作のひきこもり探偵と同じく語り手でワトソンでもある新井和也が謎を集め、それを聞いたホームズ、沢田直之が事件を解決するという流れの話になります。クリーニング店で働くアイロン職人のシゲさんや、集荷先で出会ったマジシャン、小・中と同級生だった女の子、いろんな人と関わる中で様々な人の事情に触れ成長していく主人公がとても魅力的に、清涼感ある形で描かれていきます。
困った生き物を見捨てられず、しかし助けたあとは自分の元を去ってしまうという和也と、自分から積極的に他人の相談に乗るのに、自分は一歩離れた付き合い方しかしない沢田。ひきこもり探偵シリーズとは一味違った男二人の関係も、魅力の一つです。
いかがでしたでしょうか。読んだ後にじんわり心が温まるような優しい世界観が坂木司の最大の魅力です。一人が寂しく寒い日に、一冊読んでみてはどうでしょう。