荻原浩のおすすめ文庫本ランキングベスト7!ついに直木賞受賞!

更新:2021.11.25

2016年第155回直木賞受賞作家といえばそう、荻原浩です。受賞作の『海の見える理髪店』は熟練の技が光る短編集として評価されました。そんな直木賞作家の作品、読んでみたいとは思いませんか?今回は初めての方のための荻原浩おすすめ作品です。

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幅広いジャンルが売りの作家、荻原浩

荻原浩は1956年、埼玉生まれ、広告制作会社勤務ののちフリーライターとして活躍されていた方です。97年に、小説すばる新人賞を『オロロ畑でつかまえて』で受賞、デビューします。小説を書き始めたのは39歳の時、広告とは違い、誰にも邪魔されない文章を書いてみたくなったというのが理由だと語っています。

デビュー後しばらくは大きなヒット作がありませんでしたが、2004年に発表された『明日の記憶』が本屋大賞2位に、そして山本周五郎賞に輝きました。同作品は俳優渡辺謙がその内容に深く感動し、直接手紙で映画化させてほしいと頼みこんだことによって2006年に映画が放映させることとなります。2014年には『二千七百の夏と冬』で山田風太郎賞を、そして2016年には『海の見える理髪店』で直木賞を受賞するなど、勢いのある作家と言えるでしょう。

7位:ダメ男と少年のユーモア・ロード・ストーリー『誘拐ラプソディー』

主人公・伊達秀吉は「金なし・家なし・女なし」、しかし借金と前科だけはあるという、完全に名前負けしているいわゆるダメ男。

そんな伊達が、ある日一人の少年と出会います。少年の名は伝助。伝助が金持ちの家の子だと確信した伊達は、誘拐を企てます。身代金を要求する伊達。しかし伝助の親はなんとヤクザで……。

著者
荻原 浩
出版日

まずこのダメ男と少年という設定が面白く、伊達と伝助のやりとりが小気味良いです。伝助がちょっと生意気で無邪気で可愛くて、とても素直に健やかに育っており、その行動や発言は微笑ましく感じます。伊達はダメ男で臆病で、どうしようもない奴なのに憎めず、ついつい応援したくなってしまいます。

誘拐やヤクザ、さらに中国マフィアの登場など、コミカルな中にも手に汗握るスリリングな場面もあります。誘拐から始まった伊達と伝助の奇妙な旅路。いつの間にか二人の間に友情のようなものが芽生え、旅の終わりの別れの場面ではしんみりします。ユーモアたっぷりで笑えて、時にはハラハラし、でも最後はホロリと胸が熱くなるでしょう。

例えば伝助が青年になった時などに再会して、再び二人でまたドタバタ珍道中を繰り広げてほしいと、続編を期待したくなる作品です。

6位:新興宗教の勃興と暴走をえがいた長編『砂の王国』

物語は、主人公で語り手でもある元エリートサラリーマンの山崎が、ホームレスとしてさ迷っているところから始まります。

そこで彼は辻占い師の錦織龍斎、同じくホームレスである仲村と知り合います。意気投合した三人は人生の逆転を目指して、宗教法人を立ち上げました。その名も「大地の会」。ルックスと声のよい仲村を教祖に仕立て、山崎の機知もあり、教団は順調に発展をとげます。三人の予想通り「大地の会」はビジネスとして成立し、彼らの懐にも次々と金が舞い込みました。

著者
荻原 浩
出版日
2013-11-15

この小説のおもしろさは、新興宗教の勃興を、克明に書いたところでしょう。

例えば、宗教の名前を決める段階では、火神教や荒神新教といった名前を思いつきながらも、様々な解釈ができる「大地」というネーミングを入れ、「教」ではなくソフトな言い回しの「会」にするなど、試行錯誤が見られます。また中盤で、冷やかし半分にセミナーへ来た飯村卓人が、いかにして大地の会にのめりこんでいくかの描写も読みどころです。しかしやがて、山崎と龍斎が仲たがいを起こしていきます。操り人形だった仲村も独り立ちをし始め、週刊誌にもスクープされ、何もかもが山崎の思い通りにならなくなりました。

そしてついに、自らが起こした大地の会から「神敵」とされたのを知るところは、スピーディーで圧巻です。

「私は思う。組織というのは、世間から分裂した、原生生物の一種だと。かたちも大きさも常に不定で、すべてを手のうちに収めることは不可能だ。たとえそれを最初につくった人間であっても」
(ハードカバー版 第三章 P270より引用)

他にも「大地の会」の発展と共に明らかになる山崎の過去や仲村の性癖など、短い文面では語りつくせない事柄がたくさんあります。

宗教を巡る人間の上昇と転落を書ききった長編である『砂の王国』。これを気にぜひ読んでみることをおすすめします。

5位:香水を売り込むための都市伝説、しかしそれが現実に?『噂』

レインマンという怪物が、女の子の足首を切ってしまう。それを回避するにはミリエルという香水をつけるといいらしい、というよくある都市伝説のような口コミを広めて新ブランドを売り出そう、最初はそれだけのことだったのに…というお話です。上手く広がった噂のおかげで香水は大ヒットしましたが、そんな時に足首のない少女の遺体が発見される、少し怖いサイコ・サスペンスです。

著者
荻原 浩
出版日
2006-02-28

この作品の一番の魅力はやはり衝撃なラスト、ですがそれを紹介するわけにはいかないので、ここでは別の話をしましょう。ラストシーンまで導いてくれるのは、名倉、小暮の名刑事コンビ組です。中年刑事たちの掛け合いもなかなか楽しく、この作品の見どころのひとつと言えるでしょう。真相に近づく中で縮まっていく二人の姿にも注目できますよ。

4位:社会で働く、すべての人へ『神様からひと言』

物語は、食品会社に再就職したサラリーマンの主人公が、入社早々にトラブルを起こしリストラ要員収容所と恐れられる「お客様相談室」へと異動させられてしまう、というところから始まります。クレーム処理に奔走し、ハードな日々を生きる彼の奮闘劇というエンターテインメント長編作品です。食品会社に寄せられる苦情や、会社内部の問題がとてもリアルでちょっとしんどい気分になりますが、だからこそ間に挟まるコメディな描写に、思わず笑みがこぼれます。

著者
荻原 浩
出版日
2005-03-10

いつも頑張るサラリーマンの皆様に、ぜひ読んでもらいたい元気の出る作品です。日々を頑張る主人公の姿は働く人々に対して大きな共感を、そして彼の行動に爽快感を覚えることでしょう。仕事とは、人生とは、少し立ち止まりたくなった時に読んでみるのもいいかもしれません。

3位:入れ替わる二人の男たちの運命は『僕たちの戦争』

現代のお気楽フリーター健太は、ある日突然なんと1944年の世界へとタイプスリップをしてしまいます。一方で1944年、霞ケ浦予科練で飛行訓練をしていた吾一は現代へとタイプスリップ、別の時代の二人の男が入れ替わってしまったのです。家族や友人にも全く見分けがつかない二人は、それぞれの行先で別の人生を翻弄されながらも元の時代に戻ろうとするが……、という青春の戦争小説です。

著者
荻原 浩
出版日
2016-08-04

はじめは元の時代に戻ることを考えていた二人が、少しずつその時代に順応する過程が丁寧に描かれた作品です。二人は戻れるのか、戻れないのか、最後はどうなってしまうのか、恋人であるみなみとの関係は……と気になってどんどん読む手が止まらなくなっていくことでしょう。自分が守ろうとしているものは何なのか、健太として生きる吾一の問いに胸が痛くなります。戦争もの特有のシリアス一辺倒というわけでもなく、ちょっと笑えるシーンもあるので気軽に読んでみることをおすすめします。

2位:バラバラな家族の元に現れた、愛しい存在『愛しの座敷わらし』

食品会社に勤める主人公が、東北の地に左遷され見つけたど田舎の古民家。彼はその家を気に入り、妻の反対を押し切って家族で引っ越すことを決めます。5人家族のこの家の住人は、バラバラで問題だらけです。しかしこの古民家、なんと座敷わらしが住んでいる! 新しい環境で成長し、変化していく、そんな家族と座敷わらしの物語です。

著者
荻原 浩
出版日
2011-05-06

この物語に出てくるのはちょっと問題を抱えたバラバラな家族たちです。主人公は左遷され、出世の見込みも家での居場所もない夫、日々に不満を持つその妻、友達ができない長女に、喘息持ちで過保護に育てられた長男、認知症の症状が出始めた祖母。見事にバラバラで、しかしどこにでもあるような問題点を抱えた一家の物語は、それゆえに読者の感情を揺さぶってきます。

とはいえ本編はのんびりと、ほんわかとしたお話です。とてもかわいらしい座敷わらしは、家族になにか特別なことをするわけではありません。それなのに、座敷わらしいるだけで家族の絆がつながっていくのです。三世代家族のそれぞれの心情が丁寧に描かれ、世代による「気づき」がある、そんな作品です。
 

1位:荻原浩の最高傑作!『明日の記憶』

知っているはずの言葉がとっさに出てこない。広告代理店のやり手営業マンだった主人公に告げられた病名は、なんと若輩性アルツハイマーでした。どんなにメモを書いたところで、自分の記憶は失われていく恐怖。自分には仕事もあり、妻も子も、もうすぐ孫もできるのに……、知らない間に自分の中に巣くっていた現実に直面し、自暴自棄になりながらも立ち直り、病気と向き合う主人公の物語です。

著者
荻原 浩
出版日
2007-11-08

アルツハイマーという残酷な、そのまま書けば鬱々としてしまうような物語が荻原浩の独特なユーモア感によって暗くならないように描かれています。かといって明るい話ではもちろんなく、悲しく、優しく、恐怖を感じ、温かさを覚える、そんな作品に仕上がっています。

この作品の特徴は記憶を失う当の本人の視点で語られていることです。少しずつ思い出せなくなっている自分、ふと意識したときに認識させられる自分自身の危うさ、それを「恐怖」として実感している人物から語られる話は読者からしても恐ろしく、悲しい気持ちにさせられます。まさしく、泣ける名作だと言えるでしょう。

いかがでしたでしょうか。荻原浩の魅力は読む側が身近に感じられる主人公と、彼らが取り巻く現実の壁、そしてそれを重く感じさせないユーモアにあるといってよいでしょう。映画化されている作品もいくつかあるので、そちらを見てみるのもいいかもしれませんね。

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