船戸与一のおすすめ小説5選!濃密な「船戸色」を操る骨太な作家

更新:2020.12.14 作成:2015.11.18

ダイナミックで息もつかせぬ展開を見せる作品の数々。船戸与一の作品は、好き嫌いははっきり分かれるかもしれませんが、そういう作家だからこその魅力が満載です。 「現代史と同伴随行したい」が口癖の船戸おすすめ作品を5作ご紹介します。

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ハードボイルドの最高峰を生み出した船戸与一

船戸与一は、日本の小説家であり、漫画原作家です。山口県下関市で生まれ、山口県立下関西高等学校を経て早稲田大学法学部を卒業しました。大学在学中には探検部に所属し、アラスカのエスキモーを訪れ、そのときのことを本名(原田建司)で『アラスカ・エスキモー』を共同執筆しています。

小学館、祥伝社などの出版社勤務を経て執筆活動をスタートしました。デビューのきっかけは、編集者の白川充と知り合いになったことから。豊浦志朗名義で『叛アメリカ史』を書いたと知った白川が小説を書くように勧められたのがきっかけでした。その際に書いた100枚ほどの作品がのち、船戸与一デビュー作『非合法員』の冒頭のベースとなっているそうです。

ちなみに、勧めた側の白川は、大流血描写が最初から登場する小説を読んで、驚いて、失敗したと思ったのだとか。

作風は、典型的なハードボイルドでありつつも、第三世界や少数民族が列強に収奪されている惨状の実態を訴えているものが多くなっています。小説を書く以前、船戸与一のドキュメンタリー、ルポルタージュ執筆が影響しているのかもしれません。

豊浦志朗の他に外浦吾朗の別名義も持ち、おもに漫画原作を執筆しています。船戸与一は特に劇画『ゴルゴ13』の原作としては30本近く書いており、中でも『落日の死影』『鬼畜の宴』『おろしや間諜伝説』はセルフノベライズ化し、時代背景やキャラクター設定などで船戸オリジナルの色付けをしているようです。

派手な人生を送るために傭兵にさえなる男の復讐の物語『猛き箱舟』

「ただ。派手にやりたかっただけさ。おれはおれの人生をおもしろおかしくしてみたかったんだよ。そのために歴史の裏舞台で暴れまくってみたかったんだ」と言い切る単細胞なチンピラ・香坂正次。海外に進出する日本企業の汚い裏側をフォローする傭兵のリーダー・隠岐浩蔵に売り込み、傭兵としてサハラ・アラブ民主共和国とモロッコの国境で戦います。

やがて、解放戦線の捕虜となってしまいますが、それ自体が隠岐の狙いで、香坂は捨て駒に過ぎなかった……。

著者
船戸 与一
出版日

ここからが『猛き箱舟』は本章に入っていきます。そう、この作品は香坂の復讐の物語というわけなのです。裏切られて捕虜となり、解放戦線の権力闘争、捕虜収容所脱出など、目まぐるしい変遷の中でチンピラだった男は鍛えられた屈強な兵士となっていきます。まさに、船戸与一のザ・冒険小説です。

物語はシンプルですが、登場人物が錯綜し、息もつかせぬ展開の冒険、サスペンス、極楽性と盛りだくさん。少し長いですが、スカッと楽しみたいときにおすすめです。
 

生きる希望をなくした「おれ」は山猫と出会って変わったのだ『山猫の夏』

互いに反目し合うふたつの一族が常に血なまぐさい抗争を繰り広げるブラジルのエクルウ――そこへ山猫(オスロット)と呼ばれる男・弓削一徳がやってきます。一方の家から、敵対する家の息子と駆け落ちした娘を連れ戻せとの依頼を受けて、物語がはじまります。

まさに、ブラジル版のロミオとジュリエットが発端で、両家の抗争の中で動く莫大な金と野望、ふたりを追跡する過程で顔を合わせる男と山猫との因縁ある対決……最後には山猫の正体や思惑も明かされます。

著者
船戸 与一
出版日
2014-08-05

とにかくドラマティックでスピード感あふれる展開、ページを捲る手が止まりません。作家・夢枕獏も絶賛したという船戸与一の名作です。

ですが、この小説の魅力は語り手である「おれ」の存在です。生きる希望もなく、だらだらと日々を過ごしていただけの「おれ」が山猫と出会い、ひとりの男として成長していく。ストーリーを追うとともに「おれ」の成長を見ていくのも楽しめると思います。男性はもちろん女性にもおすすめです。

少数民族クルドが命運を託す謎の日本人とは……? 『砂のクロニクル』

悲願である独立国家樹立のために活動する中東の少数民族クルドは、以前、共和国成立となった聖地・マハバードでの武装蜂起を企みますが、肝心の武器はまったく足りませんでした。クルドが命運を託すことにしたのは、武器の密輸をする謎の日本人・ハジ。

ハジは、はたしてカラシニコフ2万梃をイランに無事運び込めるのでしょうか……。

著者
船戸 与一
出版日
2014-05-08

中東情勢や時代背景がわからないととっつきにくいのではないかと思うかもしれませんが、そんなことはありません。ページを捲り、物語が動きだしたら、確実に夢中になれます。いろいろな立場の人間の胸の秘める理想や思惑。信念を貫いて戦っても、この戦いに未来はないように感じられるやるせなさ、すべてが胸に響きます。

平和な日本以外の場所でまさに起きている現実を知る意味でも是非読んでいただきたい船戸与一の1作です。

江戸時代でも蝦夷地でも「船戸色」に染めてアイヌ民族の存亡をかけた叫びを描く『蝦夷地別件』

18世紀の末、蝦夷に暮らすアイヌ民族は、搾取、蔑み、暴力、女たちへの凌辱という和人たちの横暴に苦しみ、戦いを決意していました。国後の脇長人・ツキノエはロシア船長に鉄砲を依頼しますが、その裏にはポーランド貴族団の没落貴族・マホウスキの策略があり……。マホウスキは、ロシアの目を極東に向けさせて南下政策を避け、ポーランド分断を阻止したかったのです。

著者
船戸 与一
出版日
2012-01-07

ロシアの南下政策を阻止するためにアイヌを利用しての紛争を作り上げるポーランド、蝦夷地を直轄したい幕府と権益を死守したい松前藩の思惑が入り乱れる中で、アイヌ民族最後の蜂起となった「国後・目梨の乱」を描く船戸与一の傑作です。

確かに込み入った話ですし、漢字にアイヌ語のふりがながついていて一行を二度読むようになる箇所もありますが、本当にスケールの大きなエンターテインメント小説です。読むときには少々体力がいるかもしれませんけど、読んで損はありません。

虹の谷のジャピーノ・トシオの成長を描く直木賞受賞作『虹の谷の五月』

90年代末、アキノ革命後のフィリピン・セブ島。未だにゲリラがいて、貧しい人々が残酷な搾取を受けている田舎町が舞台です。

主人公はジャピーノ(日比混血)のトシオ。彼が13歳のとき、クイーンと呼ばれる女・シルビアが村に帰ってきたことから物語ははじまります。彼女は日本人画家と結婚して金持ちになったことからクイーンと呼ばせていました。

トシオの13歳、14歳、15歳のそれぞれ5月を描いた3部構成で、闘鶏好きの生真面目な少年・トシオが、「虹の谷」に潜むゲリラ・ホセの闘争や変容していく村を見つめ、正義感に燃える青年に成長していくまでを描く成長物語の体をなしています。

著者
船戸 与一
出版日

その描き方は実に鮮やかです。活劇シーンも、ゲリラや軍人たちの戦いも、大迫力で展開していきます。

冒険物語としてはもちろん、現代のフィリピンに日本がさまざまな影響を与えていることが差し込まれていたりして考えさせられますが、同時に大切ななにかにも気づかされる船戸与一の名作です。直木賞の看板に間違いはありません。


船戸与一といえば、冒険小説と思えるほどの作家ですし、そのイメージ通り、短い文でテンポよく小気味よく展開していくエンターテインメント作品ばかり。好きか嫌いか断ずる前にまずは1作読んでみていただきたいです。