『模倣犯』や『名もなき毒』といった小説の映像化でも有名な宮部みゆきですが、時代小説も多数執筆しています。宮部の時代小説はまだ読んだことがない!というそんなあなたにおすすめしたい作品をランキング形式でご紹介します。
宮部みゆきといえば、『模倣犯』『楽園』『誰か』など現代の社会生活に潜むミステリーやサスペンス、あるいは『ブレイブ・ストーリー』に代表されるファンタジーものなど、あらゆる作風で読者を楽しませてくれる稀代の作家です。
そんな宮部の魅力を余す所なく集めているのが、時代小説なのです。時代背景が違うからこそ実現できる、ミステリー・サスペンス・ファンタジー・ホラー、そして人情ものなど多くの要素が散りばめられた宮部みゆきの時代小説のおすすめ5作品をご紹介します。
江戸を舞台にした、様々な怪奇や人情話が描かれた作品です。12の短編からなっており、それぞれの月を舞台にした物語になっています。
そのうちの1編はこんな話になっています。
18歳で大女のお信は力持ちですが美しくありません。お信は自分のことを醜いと思っていますが、彼女のことを美しいと言う男が現れ、彼女に求婚してきました。最初は抵抗していた彼女でしたが、結局この男の家に嫁ぐことになります。嫁いでみると、彼だけではなく彼の家族は全員お信を美しいと思っているようでした。
どうにもおかしいと感じていたお信でしたが、彼女の前に男の家を祟っているという女の霊が現れます。そうして真相を知ったお信は、やがて重大な決断を下すことになりました。
このお話のように、他のどの話もなんだか不思議な物語ばかりで引き込まれてしまいます。
- 著者
- 宮部 みゆき
- 出版日
- 1998-08-28
元々作品の世界観作りが非常に上手な宮部みゆきですので、読んでいるうちに自分も江戸にいるような気分になっていきます。収録されている物語の中にはハッピーエンドで終わるものもありますが、全体的には切ない物語の方が多いです。
怪奇を通じて、人がしでかす恐ろしいことや心の弱さが描かれる一方で、だからこそ起こり得る心あたたまる場面も描かれます。
是非一度読んで頂きたい短編時代小説ばかりです。
深川の七不思議を題材に下町人情を描いた7編を集めた短編小説集である本作は、吉川英治文学新人賞受賞作品です。岡っ引き(現代でいうところの私立探偵)の茂七というキャラクターを全編共通で登場させた連作短編小説であり、まる7編でひとつの作品のように感じられます。
- 著者
- 宮部 みゆき
- 出版日
- 1995-08-30
七不思議に絡んだ事件解決の後にしんみり余韻を残し、感情のひだが細やかに描かれているのが本作の特徴。日常と人々の心情が丁寧に描かれています。
「大人は、何かはっきりと言いにくいことがあると、それを見えない綿にくるんでから口に出すために、ちょっと考えるのだ。」
(『本所深川ふしぎ草紙』より引用)
言われてみると納得できる、けれど普段言葉では言い表しにくい人の動きや感情が作中に何度も登場します。
どの短編もミステリー仕立てになっており、殺人事件も起こります。物語の真相はハッピーエンドではないものが多いですが、なんだか納得できるのです。それはきっと、作中の登場人物の感情、善い部分も悪い部分も、誰もが心の片隅に持っているからではないでしょうか。
2014年にNHKBSプレミアムにてテレビドラマ化もされている本作は『おそろし』『あんじゅう』『泣き童子』の3作から構成されたホラー時代小説シリーズです。
叔父の営む袋物屋「三島屋」に見習いとして身を寄せているおちかが、訪れる人々の持ち込む不思議話の聞き手となりストーリーは進んでいきます。おちかは、過去のある事件により心を閉ざしてしまっているのですが、百物語に耳を傾けることで、語り手とそこに関わる人々の呪いや想いを浄化し、それにより自らの心の闇の根を見つめ、対峙していきます。
- 著者
- 宮部 みゆき
- 出版日
- 2012-04-25
「亡者はおりますよ」
(略)
「確かにおります。おりますけれど、それに命を与えるのは、わたしたちのここでございます。」
ここというところで、(略)胸の上に掌を置いた。
(『おそろし——三島屋変調百物語事始』より引用)
というセリフがあるように、おちかは不幸や悲劇によって形成された人間の怨年に寄り添います。
描写の繊細さや、語り手たちの心の闇のリアルさ、どれも宮部みゆきの筆力の高さを表しており、気づくとシリーズ全作品、どんどん読み進めてしまいます。
江戸を恐怖に陥れる辻斬り“かまいたち”の犯人を捜す主人公「およう」の視点から描かれた時代小説ミステリー。「かまいたち」の他に「師走の客」「迷い鳩」「騒ぐ刀」の4本の短編小説で構成されています。
- 著者
- 宮部 みゆき
- 出版日
- 1996-09-30
「迷い鳩」「騒ぐ刀」は超能力をテーマとした作品。時代小説×超能力とはなんとも異色な組み合わせですが、とても読みやすく、ファンタジー小説としても通用するような雰囲気を漂わせています。
タイトルとなった「かまいたち」には主人公「およう」を手助けする医者「新吉」が登場し、その男っぷりにはうっとりさせられます。短いながらも適切な人物設定がされており、納得のいく展開で完成度が非常に高い作品です。
料理屋「ふね屋」の一人娘「おりん」は、高熱で生死を彷徨ったことにより幽霊が見えるようになります。そんなおりんが様々な亡者と心を通わせ、三十年前に起きた事件の真相に迫っていくというストーリーです。
- 著者
- 宮部 みゆき
- 出版日
- 2006-12-22
タイトルにもなっている“あかんべえ”をする少女、美男若侍など、ふね屋にいる五人の亡者は皆魅力的でお茶目、優しくて謎めいています。彼らとおりんの触れ合いはとても温かく、読み進めるうちにおりんの心情に吸い込まれていきます。
五人のお化けはなぜ成仏できないのか?お化けたち自身もその理由をわかっていません。そこでおりんは幽霊たちとともに成仏できるよう謎に迫っていくのです。
本作はホラーとミステリーとファンタジーの3種が融合しており、時代小説が初めての方にもおすすめの作品となっています。
本作品は長編好きにも短編好きにもおすすめな、宮部みゆき渾身の一冊。本作の主人公はいわゆる「ぼんくら」な怠け者の用心棒、平四郎です。
一話完結型のエピソードを読み進めていくと、長編ミステリーへと繋がっていくという構成になっています。
- 著者
- 宮部 みゆき
- 出版日
- 2004-04-15
宮部作品で必ずといっていいほど感心させられる登場人物の描写の素晴らしさですが、この作品も魅力のあるキャラクターが次々に登場します。
愛らしい平四郎だけでなく、皆の世話役・未亡人のお徳や事件を共に探る美少年で頭の切れる甥っ子・弓之助など個性豊かなキャラクターに出会えるでしょう。
『ぼんくら』の後に『日暮し』『おまえさん』とシリーズ化されており、どんどん続きを読み進めたくなります。
以上6作品を紹介させていただきました。時代小説は見慣れない単語や言い回しが多く、なかなか気が進まない方もいらっしゃるかもしれませんが、読みやすい宮部みゆき作品から是非手に取ってみてください。