「医学」という言葉を聞いた時に最初にイメージするのは、医師の診療や手術などではないでしょうか。しかしそれは、医学のほんの一部です。実際の医学の分野を見てみるとその履修範囲はとても広く、そしてかなり細かく細分化されています。医学を学び、資格を得るための進学先や、医学を学んだからこそ就職できる職業はたくさんあります。近年では、その専門性を高めるために細分化された分野をより深く学ぶことが求められる時代となりました。今回は、そんな医学について少し掘り下げていきたいとおもいます。
医学について辞典で検索すると、下記のような情報が表示されます。
人体や病気の本態を研究し、病気の予防・治療をおこない、健康を維持するための学問
参照:goo辞典
身近なところで提供されている医学に基づくものといえば、まぎれもなく病院でおこなわれている「診療」ではないでしょうか。主に医師が学習し、その知識や経験をもとにおこなわれています。
ひとことで「医学」とくくられてはいますが、その分類やジャンルはかなりの数におよびます。聞いたことがある内容ならば「西洋医学」や「東洋医学」といったところでしょうか。その起源や考え方、発展の流れが大きく違うので対比的、に用いられることもしばしばあります。
さらに医学は細かく細分化されている分野でもあり、医療に携わる代表的な職業でもある医師や看護師、助産師などは基礎・臨床・社会医学をまんべんなく学び、国家試験をパスし国家資格を取得します。
その後、さまざまな専門分野にわかれていきます。
その専門とする分野により細かく細分化されているのが「医学」なのです。
医学をもとにした資格は基本的にどの資格も「国家資格」となります。
その受験資格を得るには、国に定められたある一定の分野における必要数の単位と、場合により臨床実習を履修したうえで初めて受験資格をもらえます。そのためには、そのほとんどが専門学校や短大・大学に受験し、合格する必要があります。
多くの場合、理数系の教科を得意とする必要がありますので、医学を志すのであれば数学や化学、生物学など、医学に通ずる勉強を重点的におこなったほうがよいでしょう。
医学の歴史は、古いものであれば紀元前から始まっています。私たちが経験的におこなっていることも現代医学の礎となっているのです。
たとえばですが、蚊に刺されたときにその部位をたたいて我慢することもあるかとおもいます。これは経験的に古くから、かきむしるとさらに熱を持って腫れが強くなり、症状が悪化することを経験的に知っているからです。
また一昔前は「やけどにはアロエ」という考え方が普及していました。最近では感染症を危惧する観点からもこの方法はおすすめできません。
そんな小さなことから始まり、数々の大きな失敗も経験し、現代の医療は安全に、迅速に、そしてできるだけ安楽な方法で疾患を治療できるように日々研究が重ねられています。
比較的最近までおこなわれていた治療法に「ロボトミー」という手術がありました。これは、重篤な精神疾患を保有している患者さんの脳の一部に手術と称し損傷を与え、疾患の状況を管理・コントロールするための手術としておこなわれてきました。
この方法は確かに、精神疾患医おける易怒的・易興奮状態を改善した例もあるようです。しかし副作用として人格崩壊や廃人状態になってしまった症例が多々あり、近年では非人道的な医療として昭和50年に廃止されています。
発展した現代医療の背景には、そうした危険な医療や、経験則だけに基づいた治療などもおこなわれてきたのです。しかしそうした歴史があったからこそ、研究が盛んにおこなわれ、安全で迅速な治療方法が生まれてきたとも考えられます。
現代医療において、私たちが受ける医療のそのほとんどが「西洋医学」といっても過言ではないでしょう。
「西洋医学」とは簡単にいうと「疾患そのものに対しアプローチして、治療する医学」であるといえます。もっと簡潔に表すと「手術や投薬治療」ということになります。
疾患に対しての検査法や診断法、投薬される薬の種類や根治的手術の術式の発展はまさに西洋医学の得意とするところであり、西洋医学の進化の歴史ともいえます。
とは言っても私たちはまだまだ克服していない疾患や傷病がたくさんあります。これから発見される未知の病気や、細菌・ウイルス感染症などもあるでしょう。現在も発展途上であり、進化の過程でもあるのが私たちの身近にある「西洋医学」です。
とくに私たち日本人は江戸時代までは、東洋医学や加持祈祷を用いた治療法に依存してきました。
そこから杉田玄白によって「解体新書」が出版されてからの「蘭学(西洋医学)」の発展は、目覚ましいものでした。そのおかげで今の私たちは病気の発見から治療、治癒までの安定性と安全性、迅速な対応が可能になっているのです。
西洋医学に対して中国を発祥とする医学を「東洋医学」と分類されています。
疾患が発症してから治療を開始する西洋医学に対し、東洋医学は「未病」という考え方があり、病気を発症する前の段階、何かしらの不調はあるけれども、診断ができない状態のことを指します。
大きく体調を崩す前に身体の不調やリズムを改善し、心身の状態の健康を維持することが東洋医学の考え方といえます。その大きな治療法は、私たちの身近にあるものであれば「漢方薬」がその代表ともいえるのではないでしょうか。
そのほかには、「ツボ」や「鍼(はり)」「お灸」なども東洋医学に基づく治療法です。
とくに漢方薬はその材料のすべてを自然界にある生薬としているので、西洋医学に代表される人工生成物の薬物とは異なります。劇的な改善は西洋医学で処方される薬と比較するとやや緩慢ではありますが、そのぶん副作用は起こりにくいとされています。
劇的な効果や改善よりもゆっくりと体の調子を整え、健康を維持することに重点を置いている東洋医学の得意とするところです。診断名がついていない体の不調に対して対応できるのが東洋医学の最大の強みでもあります。
東洋医学における漢方薬は、生薬で生成される原料でできていますので、その薬理作用を理解するにもかなり専門的な知識が必要となります。
実際に、西洋医学を主として学んでいる医師よりも、特定の分野を専門的に履修した薬剤師のほうが漢方薬に詳しいことも多々あります。漢方治療をおこなう際は医師と薬剤師、二人三脚で治療を進めることもあります。
世の中には漢方に精通し、専門の漢方薬取り扱い薬局を経営している薬剤師もいるほどです。
医学の道を目指すなら医療が学べる大学への進学を検討するのがよいでしょう。前述したように医学系の資格はすべて国家資格となっています。その国家資格を取得するには、医学系の大学への進学が必須となっているのです。
助産師や看護師を目指すなら看護学科のある大学、医師を目指すなら医学部や医学科のある大学へ進学しましょう。
医療系の大学への進学は難しいと言われていますが、なかでも最難関なのが医学部医学科への進学です。医学部のある大学は全国に82校あり、国公立が50校、私立が30校となっています。
医学部はそもそも試験内容がトップクラスに難しいことに加え、私大の場合は6年間の授業料が4000万円台にもなるため、国公立の方がさらに倍率が高くなります。その点でも合格最難関と言われているのです。
また現役合格率は4〜5割ほどと言われているため、早くから医師を目指している方は現役合格率の高い高校への進学をまず考えた方がよいとも言われています。
国公立の医学部への現役合格率の高い高校がこちらです。傾向としてはこれらの高校は中高一貫校であり、そのほかの現役合格率の上位校も私立高校がほとんどとなっています。
もちろん私立高校には通わずに勉強し現役合格を果たしている方もいますが、私立の中高一貫校であればより勉強に集中する環境が整っているということでしょう。まずは高校選びから始めるのもひとつの選択肢だといえます。
医療系の大学に進んだとあれば就職も医療系だと考えるのは普通のことでしょう。しかし医学を学んだ方は意外にもさまざまな職への就職をしています。
一例として「大阪大学の医学部医学科の卒業生進路データ」を見てみましょう。
医療の道に進む方が圧倒的に多いことが分かりますよね。そもそも目的を持って医学部医学科に進学してきているわけですから、それ意外の就職先は考えていないという方も多そうです。
一方薬学部卒の進路はいくつかにわかれています。東京薬科大の「2019年度卒業薬学部の進路状況」はこのようになっています。
▶︎男子学生
▶︎女子学生
2018年や2017年は調剤薬局への就職が男女ともに3〜4割だったのに対し、2019年にはドラッグストアへの就職が多くなっています。意外と通常の企業への就職する方も多いのが印象的です。
最後に歯学部卒の学生の進路について解説します。医学部同様、卒業後は研修期間があるのですが、その研修期間終了後の進路にはいくつかの選択肢があるようです。
今回は「大阪大学歯学部の卒業後の進路状況(平成21年度)」を元に見ていきましょう。
最も多いのが病院や医院への勤務です。次に大学院進学、そして大学勤務と続きます。年度によって多少の違いはあるものの例年このような状況になっているようです。
しかし特徴的なのが5年、10年、20年と経過した時点での進路状況です。卒業3年後までは上記のような状況なのに対し、卒業5年後となると開業する卒業生がでてきます。
このように卒業後20年を超えたあたりで約8割が歯科医院を開業をするのが薬学部卒業生の特徴です。開業医として地域に貢献している学生が多いのです。
医学を学んだうえでつくことができる職業はさまざまありますが、代表的なところでいえば「医師」「看護師」「助産師」などのメディカル職が代表でしょう。
その他、医師や看護師、診療の補助をする「薬剤師」、「臨床検査技師」「臨床工学技士」も人体の基礎を学ぶ意味では医学を学びます。
また、必ずしも臨床の場にいるとは限りませんが、救急隊員やソーシャルワーカーも医学の一部を学ぶ必要があります。
これだけの職業が医学を学んだうえで成り立っており、さらに医学の分野のなかでも細分化され、専門性をもって突きつめた内容を学んでいます。
医学の知識を必要とする職業は、人類が存在する限りなくなることはない職業であるともいえるでしょう。その分、まだまだ未開発で不透明な部分も多く秘められている学問が「医学」です。
医学を学び、人生や生命を尊ぶ職業はとてもやりがいがあり、まさに生きがいにもなり得るでしょう。
西洋医学に関する漫画や書籍として考えるとその多くが医師や看護師が主役のジャンルが多いですが、次に紹介する「はたらく細胞」シリーズは一見違った目線から西洋医学の見解について描かれています。
- 著者
- ["初嘉屋 一生", "原田 重光", "清水 茜"]
- 出版日
こちらの漫画は、西洋医学で紐解かれてきた人体の機能や各種細胞の働きを擬人化して表現しているとても面白い内容となっています。とくにこの「はたらく細胞BLACK」シリーズは、「自分たちの勤める企業=細胞たちの体」をブラック企業(不健康体)と形容している点がとても面白いです。
このシリーズでは、主人公は赤血球となっています。実際の身体の機能として、赤血球が身体循環をするように、主人公の赤血球が体の隅々まで循環していくなかで出会う細胞や病原体、疲弊したり死んでいくほかの細胞たちを見取とる場面もあります。
ストーリーのなかには、西洋医学の得意分野でもある投薬治療がおこなわれる場面もあります。それによりどのように身体に効果が表れ、異常が改善していくのか。検査治療のひとつでもあるカテーテル治療や酸素投与など、随所に西洋医学に関する治療の様子が分かりやすく描かれています。
また各細胞や身体の機能・構造がとてもわかりやすく表現されており、医学的知識がない方でも楽しめる内容となっているとおもいます。
この「はたらく細胞」シリーズは多くの種類が出ていますので、医学に興味のある人は一度手に取ってみてください。とくに細胞学などが苦手な医学を学んでいる学生さんにもおすすめです。永久保存版といっても過言ではありません。
アンサングシンデレラ 病院薬剤師 葵みどり (1)
2020年04月01日
この漫画は、病院薬剤師である「葵みどり」を主人公とした物語です。最近では、石原さとみさんや西野七瀬さんをキャストに抜擢した実写版ドラマが放送されていたことで話題となりました。
今まで医師や看護師が主人公となって展開されていた物語はたくさんありますが、『アンサングシンデレラ』は薬剤師が主人公の珍しい内容となっています。
「病院薬剤師」は働く場所こそ限定されているものの、医学のなかでもとくに重要な立ち位置でもある「薬理学」に基づいた職種であり、なかなかお目にかかることが少ない職業でもあります。
しかし実は、臨床の現場にはなくてはならない職業なのです。
薬剤師の仕事以外にも医師や看護師など、ほかのメディカルスタッフとのやり取りもあり、また違った目線から「医学」と臨床現場を垣間見れるリアリティのある内容となっています。
病院薬剤師でもある原作者が書いているだけのことはありますよね。医学のなかでもとくに「薬学」に興味のある方は必見の物語です!
- 著者
- ["ケイン,リディア", "ピーダーセン,ネイト", "久美子, 福井"]
- 出版日
こちらの書籍は、現代の医療の確立がなされるまで、人類史として今では考えられないような治療や健康法をおこなってきた歴史が書かれています。
一例ですが、今では当たり前のように危険な物質であるヒ素や水銀を治療に使っていたり、アヘンやコカインを治療薬やエナジードリンクとして常用していた歴史について書かれています。
当時、新しい物質として注目され、その初速的効果にばかりとらわれ、副作用や重副作用には着目されにくかった、効果の経過についての統計が得られにくかったなどの時代的背景もあるのでしょう。
今では考えられないような治療法や健康法が当たり前のようにおこなわれている時代があったのです。
その過程でおそらく多くの方が犠牲になったはずです。しかしその尊い犠牲があったことで、いま私たちが安全な医療を受けられているのだと実感する内容になっています。
本当に驚くべき内容がたくさん載っています。今の私たちが携わっている医学からみると驚くことばかりですが、もしかしたら私たちが当たり前に受けている医療もいずれ信じられないようなものになるのかもしれませんね。
いかがでしたか。「医学」は長い歴史もありますが、まだまだ発展途上でもある分野です。人類史が続いていくならば同じように医学史も続いていくことでしょう。医学というものを学んでみたい、でもどこから学ぶべきかわからないという方は、ぜひ一度おすすめした書籍も手に取ってみてくださいね。