胸にずしりと響く物語を生み続ける、柴田よしき。重く暗いミステリーが多くありますが、他の種類の物語も多く書いています。そんな柴田よしきの作品のおすすめを6作ご紹介します。
柴田よしきは日本の小説家です。1959年、東京で生まれ、青山学院大学文学部フランス文学科を卒業し、被服会社、病院、出版社などに勤務。結婚、出産で退職後、執筆をはじめ、『RIKO-女神の永遠―』で横溝正史賞(現在の横溝正史ミステリ大賞)を受賞してデビューしました。
それ以来ハードボイルド、コージーミステリー、SF、ホラーなど多くのジャンルを書いています。
小粋な小料理屋「ばんざい屋」を舞台に、過去を持つ女将とそこを訪れる客たちとの心のふれあいが7編の短編ミステリーの形で描かれます。
それぞれの短編には「ばんざい屋の十二月」というふうにサブタイトルがついていて、その季節の旬の食材が登場します。女将が作る料理はどんな味なのだろうと想像が広がって、ミステリーとともに楽しむことができるのもこの小説の魅力です。
- 著者
- 柴田 よしき
- 出版日
- 2004-06-01
女将は、ばんざい屋の客たちの話に静かに耳を傾け、客の細かい感情の揺れにまで心を配ります。ゆっくり話を聞いてもらえて美味しい料理が食べられるばんざい屋は、そこを訪れる客たちにとっては、とても居心地の良い空間なのです。
そしてこの小説には恋愛模様も描かれています。女将の良き相談相手である清水は、店の近所にある骨董屋の主人です。お互いに友情以上の感情があるのですが、客たちのミステリーを解いていくうちに、二人の距離はどんどん近づいていきます。
後半、女将のつらい過去が明らかになりますが、それは想像していた以上に波乱に満ちた出来事でした。そんな過去を清水はゆったりと受け止め、二人は静かにお酒を飲むのです。
万引き犯が犯行後に見せた安堵の表情と境遇に自分自身を当てはめた女性を描く「やすらぎの瞬間」ほか、「トムソーヤの夏」、「深海魚」、「どろぼう猫」、「花のゆりかご」、「誰かに似た人」、「切り取られた笑顔」、「化粧」、「CHAIN LOVING」の9作を収録する短編集です。
- 著者
- 柴田 よしき
- 出版日
- 2004-09-10
タイトルは、あとがきの「猫は水が嫌いなのに、どうして魚が好きなんでしょう? 女の子は辛いこと、苦しいこと、めんどくさいことなんかみんな嫌いなはずなのに、なぜ、いつも恋を追い掛けているのでしょう?」という文章を短くしたとのこと。
描かれるのは、不倫、万引き、覗き、睡眠傷害……恋をするがゆえに壊れていく女性たち。
女性はいくつになっても女性として扱ってほしいし、マウンティングもするし、恋をして、そんな女性が、「こんなに怖くなる生き物なのか」と思わせてくれる1冊。ちょっと怖いけれど、おすすめですよ。
1975年、渋谷。16歳のノンノは自分にどことなく似ているナッキーと出会って、強く惹かれていきます。
ある日、ノンノの家が不可解な火事にみまわれ、ふたつの焼死体と記憶を失ったひとりの少女が発見されました。
21年後の1996年。ひとりの刑事が、既に時効になっていたこの事件を改めて捜査しはじめ、あまりにも意外な真実が浮かび上がりました。その真実とは……
- 著者
- 柴田 よしき
- 出版日
1975年と1996年のそれぞれの時代の中で、宿命に操られていくふたりの少女の姿が描かれていきます。
前半は、エネルギーとロックと夢が満ちていた70年代の少年少女たちの青春もので、後半は、その頃に起きた事件の謎を解いていくミステリーものとなっており、つい惹き込まれてしまうことでしょう。
そして、張り巡らされた伏線が、少しずつ回収されていき、裏の裏を飛び越え、その向こうの裏をかくような構成がとても面白いです。読み進めていけば、驚きとともに納得できるオチが待っていると思います。
ミステリーとしてはもちろん、青春物語としても充分に楽しめる作品です。
スキャンダルで警視庁から新宿署へと飛ばされた刑事・村上緑子は、男が男を犯すレイプの現場を写した裏ビデオを追っていました。このビデオをめぐる捜査に警視庁の刑事たちが乗り出してきて、緑子はスキャンダルの原因となった男たちと顔を合わせることになります。
一方、事件は殺人、誘拐、脅迫と多様な犯罪が広がってゆき……
- 著者
- 柴田 よしき
- 出版日
- 1997-10-25
主人公の緑子は、凄腕の刑事でも目立つ美人でもないのですが、読み進めるうちにその魅力に引っ張られていきます。
緑子は「愛ならば対等。欲望なら平等。そうでないなら、それは欺瞞だ」と言い切る強気な女性です。ですが完全には強くなりきれず、安らぎも必要で、日々苦しみもがき続けています。そんな緑子の姿は女性から見ると、同族嫌悪のような感情がありつつも、共感もできてしまうことでしょう。一方男性から見ると、強気な女性の普段見せない部分が垣間見えて、なるほどと納得させられてしまいます。
キャラクターの内面が重要視されている作品のため、ミステリーというよりも恋愛小説として読んだほうがしっくりくるかもしれません。
裏切り、妬み、憎悪とあらゆる感情が溢れていて、息苦しくもなりますが、最後までしっかり楽しめる1作。このあとに続く『聖母の深き淵』も合わせて読んでみていただきたいところです。
元刑事・花咲慎一郎、通称ハナちゃんは、新宿2丁目で、無認可24時間保育園を営んでいます。いつも資金不足な園のためどんな依頼も引き受ける探偵業も兼ねているというシリーズものです。
- 著者
- 柴田 よしき
- 出版日
- 2008-07-15
無認可の保育園に子どもを預ける人たちには様々な事情があり、悩んだり苦しんだり困ったりしているので、ついついハナちゃんが彼らのために頑張ってしまいます。
ではハナちゃんはなぜ頑張ってしまうのでしょうか。ハナちゃんの言葉に次のようなセリフがあります。「保育ってのは子供達の人生に関わる仕事だもんな……半端なことはできないよ。ただいい人って言われて満足してたんじゃダメなんだ。憎まれても、しなくちゃいけないことがあるってことだな。」そう、このハナちゃんの言葉に、頑張りの理由が現れているのです。
園長と探偵を無難にこなして、誰に対しても優しく思いやりを持てるハナちゃん自身も、過去に大きな傷を持っているので、余計に人の痛みがわかるのかもしれません。
ハナちゃんのような人に面倒を見てもらった子どもたちは、きっと優しい大人になるんだろうなと思えるくらい、優しく心にしみる作品ばかりでおすすめです。
東日本連合会春日組大幹部の韮崎誠一が殺され、容疑者となったのは美しい企業舎弟・山内練。
彼と警視庁捜査一課・麻生龍太郎には10年前からの因縁があり……
- 著者
- 柴田 よしき
- 出版日
柴田よしきといえば、この作品を真っ先にあげる人がいちばん多いのではないかと言われているほどの代表作です。
気弱なインテリ青年が、ある事件のせいで闇の世界へ転落していくきっかけを作ったともいえる刑事との男同士の関係性は、まさに「愛憎」が入り混じった複雑な関係。互いにとって互いが絶対の存在であるということがまた憎たらしい部分です。
どんなに離れても別れても、絶対、最後には互いのもとへ戻っていくと思わせる空気感がありました。
運命の相手と出会ったことで、それぞれのそれまでの生き方や人間関係まで変わり、すべてをも捨ててしまう。
事件そのものよりもこのふたりの関係に気持ちが引っ張られてしまうと思います。メインのふたりは男同士ながら極上の恋愛小説です。
もちろん、ミステリーとしても充分楽しめますので、長いお話ですが、ぜひ手に取ってみてくださいね。
人間の裏を描くミステリーを得意とする柴田よしき。1作はまれば、次々と読みたくなるに違いありません。ぜひ読んでみてください。