歴史や芸術、宗教を背景に繰り広げられるダン・ブラウンの壮大な世界観は、読者を惹きつけてやみません。世界中で大ブームを巻き起こした『ダ・ヴィンチ・コード』をはじめ、数々の作品の持つ魅力に迫ります。
本書は『ダ・ヴィンチコード』同様、歴史や宗教に焦点をあてています。著者ダン・ブラウンがこのような作品を産み出すに至ったのは、彼の家族環境が多分に影響していたと思われます。父は数学者、母は宗教音楽家で、妻は美術史研究者、そして自らは元々英語教師でした。
そんな著者がラングドンシリーズ最初の主要テーマに選んだのは、中世の科学者ガリレオ・ガリレイでした。ロバート・ラングドンの知的探求の物語はここから始まります。
- 著者
- ダン・ブラウン
- 出版日
- 2006-06-08
ロバート・ラングドンが協力を要請されたのは、謎の紋章が原因でした。その紋章は、殺人事件の被害者である科学者に焼印としてが刻まれています。その科学者が取り組んでいたのは、核をも超える強力なエネルギーを誇る反物質の生成。しかし、それは今回の事件で盗まれていたことが判明します。紋章に導かれたラングドンは、一路ヴァチカンを目指します。
一方その頃、ヴァチカンではコンクラーベ(法王選挙)の真っ只中。しかし、その最中にも大きな問題が浮上していました。新法王候補4人が揃って失踪してしまっていたのです。混乱の中で前教皇の侍従にかかってきた一本の脅迫電話によって、物語は怒涛の展開を見せます。
本書の中で重要な存在を占めているのが、秘密結社「イルミナティ」。殺害された科学者の胸に刻まれた紋章は、この組織のものであるということが判明し、脅迫電話の主も自らをイルミナティと名乗りました。実はガリレオもまたこの秘密結社に属していたのです。
これらの一連の流れは本書のテーマが「科学と宗教」にあるということを物語っています。教会とイルミナティ、法王と反物質、まさにタイトル通り『天使と悪魔』という構図ができあがります。
様々な歴史的事実や宗教的事柄など、膨大な量の知識や蘊蓄が一冊の中に込められていますが、それらが単なる豆知識で終わらず、物語の一部として機能し、一体化しています。全てがプロットの一部とであり、どこかを削ればたちまち崩れ去ってしまうような、あらゆる角度から計算し尽された作品と言えるでしょう。
世界中で大ヒットとなった本書『ダ・ヴィンチ・コード』は、宗教象徴学者ロバート・ラングドンを主人公とする大人気シリーズの第二作目にあたります。タイトル通り、主要テーマはルネサンス期の巨匠・レオナルド・ダ・ヴィンチです。
舞台はパリ・ルーブル美術館。静けさが漂う館内で起こった猟奇殺人事件。ある人物と面会の約束をしていた主人公ロバート・ラングドンが滞在していたホテルの扉がノックされ、物語の幕が上がります。
- 著者
- ダン・ブラウン
- 出版日
- 2006-03-10
ドアを開けるとそこにいたのはフランス司法警察と名乗る者たち。彼らに連れ出されたラングドンはルーブル美術館館長であるジャック・ソニエールの死と、その遺体が示していた異様な構図について伝えられました。
ソニエールが自らの身体で形作っていたのは、「ウィトルウィウス的人体図」と呼ばれるもの。それは、古代ローマの建築家ウィトルウィウスが著した建築理論書を基にレオナルド・ダ・ヴィンチが描き直したものでした。
宗教象徴学者として名の知られる存在であるラングドンは、この残された「ダ・ヴィンチ・コード(暗号)」を解読出来る人物として自分が呼ばれたのだと思っていました。しかし、警察の本当の狙いはラングドン本人。彼は容疑者として連行されたのです。
警察の追跡の手を逃れながら、館長の死の謎を探るラングドン。ソニエールの孫娘で、彼の無実を確信しているフランス警察の暗号解読官・ソフィーと真実の扉を開く旅が始まります。
空前のダ・ヴィンチブームを巻き起こしたきっかけとなった本書は、古典的な謎解き要素を主軸におきながらも、ヨーロッパの歴史や芸術、宗教などに秘められた謎と融合させることにより、単なるミステリの枠を越えたダイナミックなスリラーとして社会現象にまで発展しました。
分かり易く丁寧に読者を導きながらも、歴史ミステリが陥りがちな説明過多になることを避けつつ、アナグラムを使った暗号解読の楽しさが感じられます。誰もが知っている「モナリザ」や「最後の晩餐」などといったアイテムを上手く盛り込み、ある種の宝探しをしているような感覚を読者に味合わせてくれます。
ロバート・ラングドンシリーズで一躍名を馳せた著者ダン・ブラウンですが、本作はノン・シリーズです。『天使と悪魔』と『ダ・ヴィンチ・コード』の間に書かれたもので、両者に引けを取らない仕上がりとなっています。
主人公はNRO(アメリカ国家偵察局。国防総省の諜報機関)職員のレイチェル。情報分析を専門とする彼女は、若くしてその才能を発揮し、大統領のために機密文書を分析をすることを主任務としていました。
- 著者
- ダン ブラウン
- 出版日
一方、世間は大統領選の真っ只中。NASA(アメリカ航空宇宙局)への莫大な予算配分を非難し、支持を集めていた対立候補はなんとレイチェルの父。そんな中、NASAがとんでもない大発見をしたという一報を受けたレイチェルが現場である北極へ向かうと……。
本書は、大統領選やNASA、NRO、自然科学をテーマにしたもので、ラングドンシリーズとは全く方向性の異なるものとなっています。このようにテーマだけを並べ立てると難解そうな雰囲気が漂いますが、やはりそこは名手ダン・ブラウンの腕の見せ所です。読者はただ流れに身を任せるだけで、登場人物たちがスムーズに理解へと導いてくれます。
重厚かつスピード感溢れるこのポリティカル・サスペンスは、読み手を選り好みすることなく万人に受け入れられやすいものとなっています。歴史や宗教的なお話ちょっと苦手という方は、政治を扱ったダン・ブラウンの新境地である本書から入ると良いかもしれません。
ロバート・ラングドンシリーズ第四作目にあたるは、イタリア・フィレンツェを舞台にした歴史・芸術・宗教を題材にしたミステリとなっています。シリーズにとってはもはや毎度おなじみの恒例行事のようなものですが、今回もラングドン教授は否応なしに事件に関わっていくことになります。
フィレンツェの病室で目覚めたラングドン。彼にはここ数日の記憶がありませんでした。そこへ突然銃を持った人間に襲われるのですが、居合わせた医師の手を借り、間一髪逃げ延びることに成功します。
- 著者
- ダン・ブラウン
- 出版日
- 2016-02-25
何とか安全な場所へと避難すると、ポケットの中にあるものが入っていることに気付きました。それが示し出したのは、ボッティチェリ「地獄の見取り図」。自身が狙われた理由がはここにあるに違いないと考え、秘められた暗号を解き明かすため行動を開始します。果たして暗号に秘められたものは一体?そして大富豪の企てていた恐るべき計画とは……?!
本書の主要テーマである「地獄の見取り図」は、ダンテの「神曲:地獄篇(インフェルノ)」に感銘を受けたことでボッティチェリが描いたものです。著者ダン・ブラウンもまた両者から着想を得てこの『インフェルノ』を産み出しました。
このことから見出せるのは、ダン・ブラウンの持つ豊かな発想力、そしてそれを具現化する優れた文章力と構成力ではないでしょうか。たった一枚の絵から、これほどまでに壮大な物語を紡ぎ出せる作家は他には見当たりません。
さらには、近い将来現実に起こりかねない問題提起すら含んでいるのだから驚きです。一体、一冊の中にどれほどの労力が込められているのだろうかと驚嘆するばかりです。
また情景の描写能力の高さも彼の魅力の一つです。彼のどの著作にも共通して言えることですが、情景がまざまざと頭の中に浮かび、まるで映画を見ているかのような錯覚を覚えます。