リズム良く読みやすい文章で、登場人物の心情をリアルに描く作家・佐藤多佳子。一般小説から児童書、童話まで幅広く手掛け、様々な世代の読者から愛されています。ここでは、映画化された作品も含め、佐藤多佳子のおすすめ作品をランキングにしてご紹介していきましょう。
佐藤多佳子は、1962年東京都で生まれます。青山学院大学文学部史学科に入学すると、児童文学サークルに入り、積極的に創作集を作成。サークルの顧問には、翻訳家の神宮輝夫が付いていたそうで、厳しい指導を受けていたようです。
1989年、『サマータイム』でMOE童話大賞を受賞し、作家デビューを果たすと、その後も次々と良作を発表。2007年には、『一瞬の風になれ』で本屋大賞、吉川英治文学新人賞を受賞しました。2011年には、『聖夜』で小学館児童出版文化賞を受賞するなど、佐藤多佳子は子供から大人まで、幅広い年代から支持を受けている人気作家です。
子供たちの心の動きを、巧みな文章で描いた、佐藤多佳子のデビュー作『サマータイム』。MOE童話大賞を受賞した『サマータイム』をはじめ、4つの物語を収録した連作短編集で、ある姉弟と、事故で父親と左腕を失くした少年との交流が描かれています。
『サマータイム』の語り部・伊山進は、小学校5年生の夏に聴いた、忘れられないジャズナンバーを思い出します。6年前の夏、進は市民プールへ行き、そこで広一という少年と出会いました。出会った瞬間、進はショックのあまり、広一をじろじろと見つめてします。彼には、肩から下の左腕がなかったのです。
その後雨が降り出し、プールを追い出された2人。広一は、進を自宅へと招きます。進はそこで聴いた、広一が右手だけで弾くジャズナンバー「サマータイム」に魅了されたのでした。その後、進の姉・佳奈と、広一の母・友子も加わり、物語は進んでいきます。
その他、「五月の道しるべ」「九月の雨」「ホワイト・ピアノ」と、季節を彩るカラフルな佐藤多佳子の1冊。
- 著者
- 佐藤 多佳子
- 出版日
- 2003-08-28
いろいろな男性と付き合う、ジャズピアニストの母に、大人の表情を見せる広一や、一見ワガママなだけの佳奈が、実は不器用で傷つきやすい一面を垣間見せる様子など、心理描写が素晴らしく、心に響いてきます。
佳奈が作った、失敗作のゼリーを、「海の味だ」と表現する広一の描写には、胸がキュンとすることでしょう。文章がとにかく綺麗で、それでいてリアルティがあるので、場面場面の光景が映像となって、頭の中に浮かび上がってくるようです。
この年代でしか味わえない、輝きと切なさが混ざったような、かけがえのない時間が、丁寧に描かれ、そのピュアさと透明感に、心が洗われる思いがします。とても読みやすい作品なので、男女問わず、子供から大人までおすすめできる佐藤多佳子の傑作です。
電車の中で集団スリを目撃した辻はその中の少年を捕まえるものの、反対に投げ倒されてしまいます。
そこへ占い師の青年昼間があらわれ辻を病院へ連れていきますが、辻が自宅へは帰れないということを伝えると自分との同居生活を昼間が提案します。そこから2人の生活が始まるのです。辻は自分を投げ飛ばした少年を探しだすためにスリを生業といている仲間と協力してそのスリ集団の行方を追います。一方で昼間も仕事中に出会った女子高生が気になり出し……。
- 著者
- 佐藤 多佳子
- 出版日
- 2004-08-28
スリ師と占い師という奇妙な組み合わせですが、2人の共同生活は穏やかに過ぎていきます。辻が自分はスリをして金を稼いでいることを昼間に告白をしますが、彼は辻のことを本当に悪い人ではないだろう考えて同居生活を始めるのです。
2人はお互いの仕事にも、プライベートにも干渉しません。その2人が一度昔話をする場面があるのですが、そこでもある一定の距離感を保って会話をしているのが伺えます。そんな2人ですが、辻がスリ集団のアジトを突き止め人質にされてしまった時に昼間について語っている場面があります。
「あいつは占い師の仕事、大事にしてるからな。お客さんのことを大事にしてるんだ。俺とは友達だけど、それでも、あんたを裏切ったりはしないよ」
(『神様がくれた指』から引用)
一緒に生活をするようになり2人はお互いに自分に対する接し方や仕事に対する姿勢、家族との関係などがわかってくるようになり人間性に関しても信頼できると感じとっていったのでしょう。そういう2人の些細な感情の揺れ動きもこの物語も魅力かもしれません。
スリ師が主人公というのも少し抵抗がある方もいるかもしれませんが、はじめはまったくの他人同士だった辻と昼間の2人の関係〈男の友情〉が徐々にはっきりと表れてくるのを楽しんでみてはいかがでしょうか。
落語家である主人公が、ふとしたきっかけで集まってきた、話の苦手なメンバーたちに落語教室を開くことになる『しゃべれども しゃべれども』。2007年、国分太一主演で、映画化もされた佐藤多佳子の作品です。
主人公の今昔亭三つ葉は、落語家です。古典落語を愛するあまり、私服も着物。頑固で気が短く、二ツ目に昇進するも、落語の腕は思うように上達しません。
そんな三つ葉の元に集まったのは、気弱でうまく話せないテニスコーチ、綾丸良。嫌われるのを恐れ無愛想な、十河五月。学校でいじめにあっている小学生、村林優。話下手で解説ができない元プロ野球選手、湯河原太一の4人です。
彼らに落語を通して、話し方を教えることになった三つ葉ですが、当の本人も落語はスランプ、恋にも悩むと迷走中。物語は、三つ葉も含めたこの5人が、徐々に前を向いて、一歩を踏み出していくまでの姿が描かれます。
- 著者
- 佐藤 多佳子
- 出版日
- 2000-05-30
「気持ちだけじゃだめなの。言葉が必要なの。でも、言えないのよ」というセリフが印象的です。どんなに言葉を尽くしてみても、伝えたいことが伝わらない。そんなもどかしさを感じたことのある人は、多いのではないでしょうか。言葉は時に誤解を生み、傷つけたり傷つけられたりするものですが、佐藤多佳子の今作を読んでいると、人を勇気づけ、救えるのもまた言葉なのだと痛感します。
とにかくテンポの良いこの作品。三つ葉の語り口は、落語家だけあってとても小気味良く、明るい気持ちにさせてくれます。登場人物たちも皆個性と魅力に溢れているので、ついつい応援したくなることでしょう。読後、心が暖かくなる、佐藤多佳子のとても素敵な物語です。
ある日突然、巨大なグリーン・イグアナを飼うことになってしまった、家族のドタバタを描く『イグアナくんのおじゃまな毎日』。産経児童出版文学賞、日本児童文学者協会賞、路傍の石文学賞をそれぞれ受賞し、高い評価を受けた作品です。
主人公の樹里は、11歳の誕生日に、親戚の「徳田のジジイ」から、1mはある巨大イグアナをプレゼントされてしまいます。実際には、それはプレゼントではなく、「徳田のジジイ」の孫が飼っていたペットで、面倒を見切れなくなってしまい押し付けられたのでした。
イグアナの世話は大変。室温は25℃以上45℃以下に保たなくてはいけないため、新しく増築した自慢のサンルームは、イグアナに占領されました。爬虫類嫌いのママは、日に日に機嫌が悪くなり、「徳田のジジイ」に頭があがらないパパと喧嘩ばかりしています。
イグアナを家族から押し付けられた樹里は、「ヤダモン」という名前をつけたイグアナの世話に、いやいや奮闘することになります。喧嘩を繰り返す両親を見て、「うちに家族はどんどんアホウになっていく」と、ドライな感想を持つ樹里が印象的です。
- 著者
- ["佐藤 多佳子", "はらだ たけひで"]
- 出版日
最初は、家庭崩壊のような状態になってしまう家族ですが、段々と愛情が芽生え、イグアナを受け入れていく姿が微笑ましく、犬だろうと猫だろうとイグアナだろうと、生き物を飼うことには責任が生じ、命はとても大切なものなのだ、と気付いていく樹里の成長が、佐藤多佳子によって魅力的に描かれています。
何を考えているかわからないイグアナが、いつの間にかしっかり家族の一員になっている様子が可笑しく、生き生きとした文章に惹きこまれ、優しさに溢れた1冊。子供はもちろん、大人が読んでも充分に楽しめる佐藤多佳子の作品でしょう。
陸上競技を題材に、男子高校生の青春を描く『一瞬の風になれ』。全3巻からなる佐藤多佳子のこの作品は、2007年本屋大賞に輝き、吉川英治文学新人賞も受賞した話題作で、きらきらとした青春の日々を、リズミカルに描き、多くの人に感動を与えました。2008年、内博貴主演でテレビドラマ化され、漫画化もされた佐藤多佳子の人気作品です。
主人公・神谷新二は、中学校までサッカーに明け暮れる日々を過ごしていました。将来を期待される天才プレーヤーを兄に持ち、そんな兄に憧れていた新二でしたが、自分には、兄に追いつけるような才能がないことを悟り、複雑な感情を抱きます。そんなとき再開したのが、中学時代、陸上で非凡な才能を発揮していた、幼なじみの一ノ瀬連。新二は、連の走る姿に魅了され、陸上部への入部を決意するのです。
- 著者
- 佐藤 多佳子
- 出版日
- 2009-07-15
努力を重ね、短距離走の才能を開花させはじめる新二と、人並み外れた能力があるにもかかわらず、真面目にやろうとしない連。そんな連の心情も、新二と一緒にいることにより、次第に変化していきます。
新二と連以外の陸上部員たちにも、様々なストーリーがあり、ひたむきに陸上に取り組む彼らの姿に、胸が熱くなります。陸上シーンは軽快にリアルに表現され、そのスピード感までもが、体に伝わってくるようです。運動の好きな方は、ついつい走り出したくなる衝動に駆られるでしょう。
物語では、不器用な恋愛模様なども描かれ、まさに王道とも言える青春ストーリーに仕上げられています。運動には興味のない方でも、楽しんで読むことができるでしょう。疾走感と爽快感に包まれる佐藤多佳子の一作。輝くようなこの物語に、浸ってみてはいかがでしょうか。
16歳の男女2人を主人公に、等身大の高校生の姿を描いた『黄色い目の魚』。恋人なのか、友達なのか、2人の甘酸っぱい関係を、若々しい文章で綴り、たくさんの人から高い評価を受けた佐藤多佳子の連作短編集です。
両親が離婚し、疎遠になっていた父から、突然連絡があり会う事になった木島悟。父の部屋は、油絵の道具であふれていました。その翌年、父は病気で亡くなってしまい、悟はそんな父の影響を受け、絵を描くことに特別な思いを抱くようになります。
村田みのりの叔父はイラストレーター。家族とは反りが合わず、頑固な性格のため、学校でも孤立しがちな彼女が、唯一落ち着ける場所が、叔父のアトリエでした。絵を描くことが好きな悟と、絵を見ることが好きなみのり。この2人が、高校2年で同じクラスになり、出会うことになります。
- 著者
- 佐藤 多佳子
- 出版日
- 2005-10-28
物語は、悟の視点からと、みのりの視点からが交互に描かれ、お互いがなんとなく観察しあっている描写には、リアリティーがありドキドキさせられます。1つの場面を、両方の視点から描くので、クールにしているように見えて、実は心の中であたふたしていたことがわかるなど、巧妙な構成がとても魅力的です。
悟とみのりの心情が、余すことなく丁寧に描かれ、大人とも子供とも言えない、この年代特有の悩みや葛藤に、自分の学生時代を思い出す方もいることでしょう。2人の周りにいる登場人物たちも、それぞれ皆個性があり、物語により厚みを加えています。結末は爽やかの一言。元気が欲しいときにもおすすめの、心に響く佐藤多佳子の傑作です。
佐藤多佳子のおすすめ作品を、ランキングでご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。優しい気持ちになれる、素敵な作品ばかりですから、ぜひたくさんの方に読んでみていただきたいと思います。