優しい少女と残酷な少年というのが「普通」? それとは反対の物語を、そして飛び切り人が死ぬ物語を読みたい。さらには、人の生死や感情を露とも感じない「人でなし」だけど抜群に賢い学者の論文が読みたい。 テーマは「自我」と「敵」。危険とは思わないが、有害かもしれない書籍群。 こぼれ松葉をかきあつめ おとめのごとき君なりき こぼれ松葉に火をはなち わらべのごときわれなりき (佐藤春夫 「海辺の恋」)
2019年、事故以外で人が死ぬことがなくなった健康・幸福社会。そのなかで、仲良しの少女3人組の1人が、主人公の目の前で自殺する。同じ時、世界で6,582人が「同時多発自殺」を敢行する。
謎を追う主人公の前に3人組のもう1人の影……。彼女が実行しようとする「ハーモニー・プログラム」とは。
- 著者
- 伊藤計劃
- 出版日
- 2014-08-08
同じ作者の短編「From the Nothing, with Love」がこの話の元になる。
英国最強の諜報員ジェームズ・ボンドは、最新科学技術により肉体を交換しながら超難度のミッションを遂行し続ける。 だが、ある時から記憶が欠落し始める。実在のベンジャミン・リベットの実験を背景に、人間の意識が行動自体の後追いであること、肉体とは別の実体としての意識など存在しないことが明らかになっていく。
個体というシステムは共生系である。
遺伝子が永劫の転生の旅の途上で宿る「一期の宿」に過ぎない。しかし進化の過程で、この「宿」は「主体性」を身に着ける。
- 著者
- 真木 悠介
- 出版日
- 2008-11-14
個体は個体という現在のかたちを愛し、執着する。だが、同時に個体は個体自身ではない何かのためにあるように作られている。
我々は「自己」「同種の他者」「異種の他者」の誘惑に同時に晒されることで自由と歓喜を得た。データと論理で思考する80年代最強の社会学者・見田宗介が、自らが捏造した真木悠介という右脳側の別人格に成りきって書き上げた「愛とエゴイズム」の物語。
「彼(エンダー)には問題がある。人に影響されすぎる。おのれを殺して他人の意志に沿おうとしすぎるんだ。」
だが、だからこそ彼は「敵」を理解することができる。最強の戦争指導者になれるはずだ。 6歳の天才少年エンダーは地球を襲う異性生物「バガ-」の強大な軍勢に対抗する最後の切り札として選ばれる。
- 著者
- オースン・スコット・カード
- 出版日
- 2013-11-08
1980年代SFの最高傑作。「忘れるな、敵のゲートは下だ!」は有名なセリフだ。
エンダーはコンピュータの繰り出す敵側の作戦をすぐに理解し裏をかく。そして仲間の心理状態も即座に把握する。敵味方双方に対する理解力は彼本来の「優しさ」に起因する。 だが、「優しい」指揮官は実際の戦闘では敵の殲滅を躊躇するという重大なミスを犯すだろう。少年は「優しさ」を保ったまま、宇宙戦争を勝利に導けるのだろうか?
- 著者
- C.シュミット
- 出版日
経済社会では、競争の勝者は敗者と邪魔者を弾き出す。それは「平和的なやり方」で餓死させるだけだ。
だが、政治的世界では、国家は戦争を遂行し、「公然と人間の生命を意のままにする」。一つの国が政治的な「敵と友」の世界を否定した時、「政治的なものが、この世から消え失せるわけではない。」
「ただ、いくじのない国民が消えうせるだけにすぎないのである。」 ナチスの御用学者が語る理論は妄想なのか、真実なのか?
「アクチュアルなもの、リアルなもの、実質的なものがまっすぐに語り交わされる時代を準備する世代たちの内に、青々(せいせい)とした思考の芽を点火することだけを願って、わたしは分類の仕様のない書物を世界の内に放ちたい。」(「自我の起源」あとがきより)
このセリフを吐く「真木悠介」という存在こそがもっともリアルから程遠くないだろうか?
「伊藤計劃(Project Itoh)」はもちろん単なる「プロジェクト」であり人間ではない。「カール・シュミット」にも人の匂い、実在感がない。恐らく、皆「有機交流電燈」※のような「現象」なのだと思う。
※わたくしという現象は仮定された有機交流電燈のひとつの青い照明です。
(宮沢賢治 「春と修羅」第一集 序)
そうしてみると、やはり、この書籍群は危険かもしれない。