中島敦のおすすめ作品5選!彼の作風や性格、人生などが感じ取れる名作たち

更新:2021.11.24

一切無駄のない、整えられた美しい文体が特徴の中島敦。彼の作品『山月記』は、国語の教科書にも掲載され、広く知られている人気作品です。 ここでは青空文庫ですぐに読むことのできる、中島敦のおすすめ作品をご紹介していきましょう。

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中島敦のおすすめ作品5選!彼の人生とはどういうものだったのか

中島敦は、1909年、東京都で生まれます。祖父は有名な漢学塾を設立していて、親戚にも多数の漢学者がいたようです。父親は漢文の中学校教師を務め、自身も大学を卒業後、教師となりました。教職の傍ら、小説の執筆をしていましたが、持病の喘息が悪化したため教師を退職。療養も兼ねて、パラオの南洋庁に赴任します。

その後体調はさらに悪化し、1年余りで日本へ帰国。弱る体で小説の執筆に没頭したようです。1942年、『山月記』と『文字禍』を発表し作家デビューを果たすと、続いて『光と風と夢』を発表。高い評価を受け、作家としての地位を確立させようかという頃、33歳で死去してしまいまった悲劇の作家です。

代表作『山月記』にも感じられる漢文調の端正な文体が魅力です。この記事では彼の人生や作風などが感じ取れるおすすめの作品をご紹介します!

教科書にも掲載される中島 敦の代表作「山月記」

中島敦のデビュー作である短篇小説『山月記』。追いつめられた主人公の男が、虎へと姿を変えてしまう、変身譚となっています。国語の教科書に、度々掲載されている作品ですから、学生時代読んだ覚えがある、という方も多いのではないでしょうか。

主人公の李徴はたいへん賢く、才能に恵まれた男です。若くして難しい試験を突破し、役人となりましたが、プライドが高く頑固な李徴は、それでは満足しません。

著者
中島 敦
出版日

役人の仕事を早々に辞職すると、気に入らない上司に屈するよりは、詩人となって100年後まで名を残そうと、詩の創作に耽るようになるのです。ですが詩人としての成功は容易ではなく、李徴は自尊心を深く傷つけられることになります。

ある晩、突然姿を消してしまった李徴は、その翌年虎となり、唯一の友人だった男の前に姿を現わすます。しかし日に日に自我を喪失させ、完全な虎となることに恐れおののいている李徴の姿は切なく、彼の孤独感を強めていきます。人並みはずれた能力を持ちながらも、報われることなく、ついに獣となってしまった男の悲哀に満ちた作品です。

無駄がなく流れるような中島の文体は、リズミカルにテンポ良く読み進めることができ、気持ちよく読書を楽しむことができるでしょう。李徴の後悔や絶望に、胸が痛む物語ですが、作品全体には品格が漂い、その美しい日本語でその感情を芸術作品のように高めて結晶化しています。漢文調とはいっても、それほど難しいものではありませんから、読んだことのない方も、ぜひ挑戦してみていただきたい名作です。

中島敦の生前最後の発表作 「名人伝」

弓の名人となることを志した男の姿を描く、中島敦の傑作短篇『名人伝』。中島が亡くなる直前に発表されたこの作品は、名人とは何か、ということを考えさせられる、読み応えのある物語です。

主人公の紀昌は、天下第一の弓の名人となるべく、名手・飛衛のもとを尋ねます。まず、瞬きをしないよう訓練しろと言われた紀昌は、2年かかってこれを修得。紀昌の目は、もはや何があろうと瞬きをせず、見開かられたままとなりました。

著者
中島 敦
出版日
2016-12-08

続いて飛衛は、視ることを鍛えろと言います。紀昌は3年かかって、小さな虱が馬のように、馬は山のように視えるまでになるのです。

人が何かを目指し、向上心をもってそれに挑んでいるときが、一番輝いているということを実感させられる作品です。究極の名人となり、もうこれ以上登れないところまで来てしまったとき、人はどうなるのでしょう。

紀昌の様子を追いながら、様々なことを考えさせられる作品です。奥が深く、読む人によって、いろいろな解釈の仕方がある作品でしょう。短いながらも面白く、惹きこまれることでしょう。

文字のもつ魔力とは?何度も読みたい中島敦の傑作短篇「文字禍」

文字について研究する博士が、次第に文字の霊に取り憑かれていくという、奇異な物語「文字禍」。『山月記』とともに、「文學界」に掲載された作品で、奇妙で奥深い作品です。

古代アッシリア・ニネヴェの宮廷には、妙な噂がありました。夜な夜な図書館から、文字の精霊たちの話し声がするというのです。大王は、老博士のナブ・アヘ・エリバに、この未知の精霊について調べるよう命令します。研究に研究を重ね、博士が行きついた考えは、文字の普及により、人々の頭がどんどん働かなくなっていくというものでした。

著者
中島 敦
出版日
1994-07-18

中島敦の綴る一文字一文字がとても魅力的で、物語に引き込まれます。文字があることによって、人間の記憶力が退化していくという博士の考えは、突飛ですが妙な説得力があり、文字が無かった時代の人間たちは、さぞ躍動的だったろうと想像してしまいます。

歴史とは記録されたもののことであり、書かれなかった事は、なかった事なのだという、そのあまりに的確に表現された真実に、はっとさせられる思いがします。小気味よく物語は進んでいき、軽快なテンポで面白く読むことができるでしょう。中島敦の魅力溢れる、極上の短篇小説になっています。

運命に翻弄される男たちの姿を描く「李陵」

武帝が皇帝についていた時代の中国を舞台に、李陵、司馬遷、蘇武の3人が登場し、それぞれの男の生き様を綴った「李陵」。「漢書」と呼ばれる歴史書をもとに描かれたこの作品は、中島敦の死後、「文學界」にて発表されました。

李陵率いる漢軍は、モンゴル高原の遊牧民・匈奴との戦いを繰り広げますが、戦況が危うくなり、撤退を余儀なくされます。ですがそこを敵軍に見つかってしまい、捕らえられてしまいます。李陵が捕虜となり、敵に寝返ったと誤解した武帝は、激怒し李陵の一族を皆殺しにしてしまうのです。

著者
中島 敦
出版日
1968-09-09

ここから物語には、李陵を弁護したがために、男でいられなくなる厳しい罰を受けることになる司馬遷と、李陵よりも前から匈奴に捕らえられ、いつか漢に戻ることを待ち望む蘇武も登場します。

3人の男の、それぞれの屈辱との戦いが、克明に描写され胸をうたれます。心理描写は真に迫り、男たちの抱える想いの深さや重さに、終始圧倒させられるばかりです。間違ったことは何もしていない。それでも、どうにもできない理不尽な事態に陥ったとき、人はどこまで強くいられるのでしょう。

司馬遷には仕事への熱意があり、蘇武には故郷を想う純粋な心がありましたが、すべてを奪われた李陵は、物語の後、いったいどのように生きたのでしょうか。死の記録以外には、なんの記録も残されていないという、李陵のその後の人生に想いを馳せたくなります。苦悩の末に、それぞれの男が選んだ道、生き様に、圧倒される作品です。

中島敦の小説論も堪能できる長編小説 『光と風と夢』

『ジーキル博士とハイド氏』の著者としても有名な英国作家、ロバート・ルイス・スティーブンソンの、サモアでの暮らしを描いた『光と風と夢』。日記調のスタイルで描かれた長編小説で、発表当時から高い評価を受けてきた作品です。

35歳のとき、スティーブンソンは突然の喀血に襲われます。以来、療養地を求めて転々とすることになりますが、どの場所も思わしくありません。ですが、1889年にたどり着いたサモアはとても快適で、島の生活や気候がスティーブンソンにぴったりだったのです。

著者
中島 敦
出版日
2016-07-20

物語では、島での生活や、島の人々について描かれ、彼の生い立ちや思い出についても綴られていきます。スティーブンソンの日記を通して、中島敦自身の小説への熱い想いも存分に語られ、とても惹きつけられます。

まるで、スティーブンソンの本物の日記を読んでいるのでは、と思ってしまうほど、文章は生き生きとしたリアリテイに溢れ、島の様子も魅力的に描かれています。漢字が多く読むのが難しい、と思われがちな中島敦の作品ですが、この物語はとても読みやすく、わかりやすく書かれています。敬遠せず、ぜひ1度読んでみてくださいね。


中島敦のおすすめ作品を、5つ選んでご紹介しました。一見難しそうな文体ですが、慣れれば、その流れるようなテンポの良い文章がクセになります。青空文庫でいつでも読む事ができますから、ぜひ気軽に挑戦してみいただければと思います。

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