ジャンルレスに様々な小説を生み出している五十嵐貴久。ホラーサスペンスの傑作と名高い『リカ』を筆頭にメディア化された『交渉人』などで有名ですが、中でも特におすすめしたい6作をランキングでご紹介します。作品選びの参考にしてみてください。
1961年生まれの五十嵐貴久は、成蹊大学を卒業後に扶桑社に入社し、1年目は販売、2年目からは編集部員として勤務していたそうです。
出版社に勤務している間から小説を書きはじめ、初執筆作品の『TVJ』でサントリーミステリー大賞の優秀作品賞に選ばれた後、2001年に発表した『リカ』でホラーサスペンス大賞の大賞を受賞し、2002年より本格的に作家活動をスタートしました。
その後は精力的に執筆作業をこなし、『交渉人』などのサスペンス小説、『1985年の奇跡』や『2005年のロケットボーイズ』といった青春小説、『相棒』や『安政五年の大脱走』などの時代小説と、エンターテイメントに富んだ多彩な作品を発表しています。
舞台は東京・蒲田。町工場の一人息子・梶屋信介(通称カジシン)は、高校受験を目前にして交通事故に遭ってしまいます。そのため入学できたのは、文系であるカジシンの志望校とはまったく別の、私立王島工業高校。望んでいなかった進路に戸惑いながらも入学したカジシンは、ひょんなことから「キューブサット設計コンテスト」に参加することになります。
キューブサットとは小さな立方体の人工衛星。文系少年だったカジシンは、キューブサットを無事作る事が出来るのでしょうか。
- 著者
- 五十嵐 貴久
- 出版日
- 2008-11-13
主人公・カジシンをとりまく登場人物たちがとにかく良いです。頭脳に絶対の自信を持つけれど守銭奴の大先生、実は優しい不良少年の翔さん、そして家業の電器屋を手伝うかつてのガールフレンド彩子。他にもカジシンの祖父や彩子に想いを寄せるオタクの大学生など、個性的で魅力的な仲間たちとともに、キューブサット完成に向けて奮闘します。
仲間たちと過ごす青春、それは何物にも変えがたい人生の贈り物。こんな仲間たちと必死になって一つの事をやり遂げたカジシンが、羨ましく感じます。等身大でまっすぐな登場人物たちはそれぞれが必要不可欠で、感じるのはチームワークの大切さ。あたたかい人情とロマンをたっぷり味わえる青春小説です。
1人の男が、とある探偵事務所を訪れるところから物語が展開する『Fake』は、2004年に幻冬舎から刊行された、ゲームのように二転三転するコンゲーム小説というジャンルの作品です。
巧みな心理描写でカジノのハラハラ感と、個性豊かな人物たちが織りなす大胆不敵なトリックを楽しめる痛快娯楽作品として人気を集めています。
- 著者
- 五十嵐 貴久
- 出版日
登場人物のキャラクター描写が秀逸です。探偵事務所を構える主人公の宮本をはじめ、宮本のもとで暮らす血の繋がらない家族・加奈、息子の将来を思うあまり探偵社にまで足を運ぶ西村と、美大志望の息子・昌史の4人を軸にしていますが、彼らの個性がぶつかりあい、より一層、痛快なストーリーに仕立て上げられています。
さらに、4人を罠に嵌めたカジノバーのオーナー、沢田が完全に悪役として描かれているので、4人の無念の思いや、10億だまし取ってやろうという復讐心に感情移入しながら読み進めることができます。
また、ディテールにこだわった描写や、読者が分かりやすい平易な表現をしているのも特徴です。手に汗握るポーカーのシーンや、冒頭のドキドキのカンニング場面など、その場にいるような臨場感を味わえますよ。
1本の映画を見ているようなエンターテイメントに富んだ良作です。コンゲームものらしいスリルも体感できる1冊、おすすめです。
2003年、双葉社より刊行された『1985年の奇跡』は、1985年という時代を舞台に、東京の高校野球部を題材にした青春小説です。成績至上主義の進学校にある弱小野球部に、転校生がやってくるところからスタートする本作は、青春時代のノスタルジックな雰囲気が魅力となり、愛されている人気作です。
- 著者
- 五十嵐 貴久
- 出版日
野球部に所属しながら練習もせずにおニャン子クラブに夢中になる部員たちが、情けないながら愛おしく感じるのは、そこに懐かしさを感じるからかもしれません。
1人の天才野球プレイヤー沢渡とダメダメ部員との絆と友情、「甲子園出場」という夢を追いかけはじめたところから展開する物語には、往年のスポ根もののようなアツい空気が漂っています。練習、何それおいしいの?と思っていた生徒たちも、次第に甲子園を目標に野球に打ち込むようになる成長過程も見どころの1つです。
誰か1人だけの力では奇跡は起こらない、多くの力が大きな力になって奇跡を引き寄せていく……そんな力のうねりを感じられる作品です。最後に潜んだトリックも注目ですよ。
理由もなく楽しかった、あの頃の自分を懐かしく感じる珠玉の1冊。読了後にはきっと、爽快感に包まれるはずです。
五十嵐の代表作の1つである『年下の男の子』は、「月刊ジエイ・ノベル」にて、2006年から2007年まで連載されました。男性作家である五十嵐が紡ぎ出す、女性心理の描写の妙が光る作品です。年下の彼と、年上の自分との間で揺れ動く主人公の感情に、つい共感してしまうはず。
- 著者
- 五十嵐 貴久
- 出版日
- 2011-04-05
37歳独身・課長補佐で仕事もバリバリこなす主人公、川村晶子に迫る14歳年下の男性、児島とは……? 波乱の予感しかない展開ながら、2人の関係が気になりグイグイ読み進めてしまいます。
突然、14歳も年下の男性から好意を告げられたとしても、「は?」としか対応できないだろうなー、と晶子の気持ちがよくわかる……。どんなに気の合う相手で仕事もできてイケメンでも、14歳年下というのはかなりリスキーな相手です。
晶子も、そんなことは百も承知なのに児島に惹かれる気持ちを抑えきれない、ここのジレンマにまた切なくなったり、それでも一途に晶子を想う児島にキュンとしたり、心臓がせわしない展開が続きます。実際にはなかなかありえない展開ながらリアルさを感じるのは、五十嵐貴久の心理描写が巧みなゆえでしょう。
泣きたくなったり、笑ったり、キュンとしたり、2人の恋の行方から目が離せません。「恋っていいな」と思わせてくれる1冊です。
2008年、双葉社から刊行された『誘拐』は、五十嵐貴久が手がける警察小説の代表作の1つです。ラストのどんでん返しや緻密な犯罪計画が話題を集めた意欲作で、2012年に文庫化されました。
日韓の条約締結の場で起きた、現職総理大臣の孫娘の誘拐事件を機に、物語は波乱の展開へと向かっていきます。緊迫感あふれる、警察小説の秀作です。
- 著者
- 五十嵐 貴久
- 出版日
緻密な犯行計画により証拠を一切残さない誘拐犯と、捜査にあたる警察との頭脳戦はハラハラする展開で読み応え充分です。犯人の要求は、条約締結の中止と破格の30億という身代金。果たして金や名誉は本当に大切なのか? を問いかけるヒューマンサスペンス小説として秀逸です。
「誘拐は人間を信じている者にしかできない」と作中で星野警部補が述べているように、基本的に「人間」というものを信じている秋月が、図らずも自らの過去の出来事がきっかけで、誘拐事件に手を染めてしまった哀しさも、物語全体に漂っています。
サスペンス小説ですが、心理描写が巧みで、人間ドラマを読んでいるような感覚にも陥る本作は、鮮やかに集結するラストも見物です。
誘拐犯の目的とは一体なんなのか? 息をもつかせぬ驚きにあふれた作品です。
『交渉人』は2003年に新潮社より刊行された推理小説です。冒頭に発生するコンビニ強盗、総合病院への立てこもりとスリリングな展開でスタートします。事件を解決する時の、FBI仕込みの交渉術を学んだ交渉人による犯人グループとの交渉シーンは必見です。メディア化もされた五十嵐のヒット作の1つです。
- 著者
- 五十嵐 貴久
- 出版日
犯人グループと交渉人による、息のつまるようなドキドキの交渉シーンから目が離せません。先の展開が知りたくて次から次へとページを捲っていくと、そこにはさらに衝撃の展開が!
交渉が成功し、そろそろ事件も解決か、と思われたあたりから五十嵐貴久の「そうはいくか」という気概で予想もしなかった真相へと急転直下する、スピード感ある展開は必見ですよ。
ドタバタの現場や交渉中の息を飲む雰囲気など臨場感たっぷり! まさか、総合病院への立てこもりにも真相が隠されていたとは……。 「交渉」自体にも、驚愕の真実への伏線が含まれているというトリック満載の内容ですが、リーダビリティに優れているので読み進めやすいです。
人質解放のための交渉を描いた物語というだけでなく、警察内部や医療現場の葛藤、ミステリ的な仕掛けや隠された真相などもあり、さらに人間ドラマもある内容の濃い1冊です。
恋愛小説から時代小説、ミステリから青春小説まで多彩な作品を有する五十嵐貴久のおすすめ5選、いかがでしたか? 今回おすすめした作品には、人気ゆえシリーズ化されたものもあるので、気になった人はぜひシリーズで読んでみてください。また違った魅力が発見できるはずですよ。