モノローグの詩人、キヅナツキ。彼女が作中で描く言葉は、まるで魔法をかけるように読者を物語に引き込みます。今回はそんな詩人漫画家キヅナツキの作品3冊をランキング形式でご紹介します!
主に少年漫画の二次創作活動をしており、2013年『雪村せんせいとケイくん』で漫画家デビューを果たしたキヅナツキ。2017年現在も漫画家として連載を持つかたわら、「ぐさり」というペンネームで同人誌活動を続けています。
キヅナツキの描く物語は繊細かつデザイン性の高い画力と少年漫画で培った圧倒的表現力に加え、キャラクターの現在と過去が複雑に絡み合う重厚なストーリーから、まるで一本の映画を見ているようです。中でも、彼女が紡ぐモノローグは詩人のようで、その言葉運びは読者を物語に引き込む魔法とも言えるでしょう。
キヅナツキが描く一コマは日常の中に埋もれてしまう美しい一瞬を切り取った写真のようでもあり、彼女の紡ぐ詩に読者は切なくも愛しい映画の世界へ引き込まれてしまうのです。
今回はキヅナツキの切なさと愛しさに胸が締め付けられる、そんな3作品ランキング形式でご紹介します!
まずは第3位、キヅナツキのデビュー作でもある『雪村せんせいとケイくん』。この作品は美しいと噂の大学教授雪村せんせいと、雪村せんせいのことが大好きな大学生ケイくんのお話です。
大学では美しい容姿と気さくで優しいことで有名ですが、ケイには何故か冷たい雪村。冷たくされも一向に諦めないケイに雪村は少しずつ心惹かれていきます。
しかし、ケイは現役大学生でしかもノンケという変えようのない事実に雪村は臆病になってしまい、ついつい近い距離を許しつつも「お前とは付き合わない」と一線を引いてしますのです。
- 著者
- キヅ ナツキ
- 出版日
- 2013-01-10
雪村は動物に例えるなら猫のような男で、壁を作っていると思いきや頭を撫でさせてきます。その姿はもちろん凄く可愛らしいのですが、そんな雪村に翻弄されるケイの姿も愛しく思えます。
ケイくんに強く惹かれながらも「若いから」「ノンケだから」「飽きられるかもしれない」という疑念から一歩を踏み出すことのできない雪村の不安と切なさは、モノローグから明確に伝わってくるので読んでいて思わず共感してしまうのではないでしょうか。
また、後半には義兄弟の不器用すぎる恋物語を描き読者に衝撃を与えた「シメコロシノキ」が収録されています。
「シメコロシノキ」とは通称「絞め殺しの木」という実在する植物の名前で、木の幹に芽吹くイチジクの木がカーテン状に木を覆い、中の木を枯らしてしまうことに由来するそうです。
依存していたのは兄か弟か。依存していると分かっていても愛することを止められず、歪な愛の形ながらも、そこに純粋な愛情を感じてしまう不思議な作品です。不器用な……いえ、不器用過ぎる2人が本当に愛おしくて応援してしまうこと間違いありません。
2作品とも全く違った作品で1読で二度美味しいお得な1冊となっていますので、初めてキヅナツキを読むという方は是非読んでみてはいかがでしょうか。
続いて第2位は『ギヴン』です。分かりやすく言えば男子高校生がバンドを組む話なのですが、侮ってはいけません。本格バンドBL漫画です。
ギターの神童との言われている高校生、上ノ山はある日、弦の切れたギターを抱えるポメラニアンのような?同級生、真冬と出会います。そして、真冬のギターを治してやったことをきっかけに上ノ山と真冬の距離は一気に縮まり、頼りなさげで自分を頼ってくる真冬に上ノ山は少しずつ惹かれていきました。
しかし、上ノ山のバンドの誘いを真冬が断ったことをきっかけに真冬の過去が少しずつ明らかになっていくのです。
「佐藤君さ、同中の男子と付き合ってたらしいよ。
しかもその相手、去年突然自殺したって」
(『ギヴン』より引用)
- 著者
- キヅ ナツキ
- 出版日
- 2014-11-29
この作品はBL作品であると同時にれっきとしたバンド漫画でもあります。細部まで描かれた楽器や機材はもちろん。エフェクターの種類まできちんと取材をして描かれているのでバンドをしている方やバンドが好きな方も楽しんで読んでいただける作品です。
1巻で辛くなってしまっても、2巻まで読んでいただきたいです。未完結の作品なので2巻で終わりではありませんが、2巻では1巻ではあまり語られなかった真冬の過去と、死んでしまった元彼由紀への想いが全て曝け出されています。その歌詞は曲が聞こえてくるほど切なく、思わず心を奪われてしまうのではないでしょうか。
「さみしくないよ もう二度と会えないけど
もう、言葉を持てないけど あの日
とある冬のはなし、 とある夜のはなし、
君はほんとうにいなくなってしまった」
(『ギヴン2』より引用)
2巻の終わりには由紀と真冬の思い出が描かれている書き下ろし漫画「海へ」も収録されています。こちらは真冬の歌詞を聞いた後に読むと切なさが6億倍に膨れ上がる話になっています。この作中での由紀のセリフと真冬のモノローグはキヅナツキを詩人だと思わざるを得ないものになっているので必見です。
3巻では真冬と上ノ山は次のステージへ。今後はドラムである秋彦と、秋彦に片思いをし続けている春樹の恋の行方も気になりますね!
バンド好きな方には必ず読んでいただきたい作品です。
『ギヴン』については<『ギヴン』青春バンドBLが尊い。4巻までの見どころをネタバレ【アニメ化】>の記事で紹介しています。気になる方はあわせてご覧ください。
そして第1位『リンクス』。こちらは4組のカップルが紡ぐオムニバス形式の作品になっています。
一冊の中で4組のカップルがリンクする。というと何だか、どこもかしこもホモばかりというように思えてしまうかもしれません。しかし、導入部分の1ページ目でその心配は消え去ってしまうのでご安心ください。
カップルは4組でてきますが、1組目の声フェチのカフェ店長 新発田とイケボのラジオパーソナリティ関谷はキヅナツキの魅力の一つでもあるコメディタッチな部分が多く盛り込まれているので楽しんで読んでください。
後半に向かうにつれて切ない爆弾がいくつか仕掛けられているので辛くなったらこのカップルに戻ってくることをおすすめします。
この物語の鍵になる出来事。それは、とあるクズ男の死です。クズ男に初恋を捧げた秋葉とクズ男の弟である佐渡、そしてクズ男の命を奪った車に乗っていた忍。これをきっかけに少しずつ彼らの人生はリンクしていきます。
- 著者
- キヅ ナツキ
- 出版日
- 2014-12-10
読了後は本当に一本の映画を見たような満足感でした。
4組の中でも1番複雑なのが、ヤクザの時期組長である佐渡×組の跡取り息子忍のカップルですね。兄の死の原因でもある忍の罪悪感に付け込み関係を持った佐渡と、抗えないという形で関係を続けている忍。そこにはもう愛が宿っているにも関わらず自分たちの関係はそんな綺麗なものではないと否定し続けている2人は、簡単な関係ではないだけに正直見ていられないほど切ないです……。
「欲しいと願ってはいけない。手には入らないから。この男の人生は自分のものにはならない。」
(『リンクス』より引用)
こちらが忍で
「お前が不幸でも全く構わないんだ。傍で俺に愛させてくれ。」
(『リンクス』より引用)
こちらが佐渡です。これはもう素晴らしいすれ違いっぷりですね。出会ったからずっとこのスタンスで関係を保ち続けられるのが愛だということに何故気づかない?と聞きたくなります。
不器用な男たちが出した答え、その愛の形に最後まで目が離せません。
彼らを繋ぐ過去と現在、その想いが複雑に交差する人間ドラマオムニバス。重厚なストーリーが好きな方、泣きたい方、切ない映画が好きな方は是非ご一読ください。その切なく苦い愛に思わず涙してしまうこと間違いなしの1作です。
さて、いかがだったでしょうか。BL特有の過激なシーンも無く、物語で魅せてくるキヅナツキの作品はBL初心者の方にもおすすめですのでこの機会に是非、お手に取っていだたけでば幸いです!