2017年夏にアニメ化される『ボールルームへようこそ』。普通の少年の成長を描いたアツい競技ダンス漫画です。今回はそんな本作のアツいポイントをご紹介!最新巻9巻のネタバレを含みますのでご注意ください。
スポーツ漫画で重要なのがどれだけ主人公に共感できるか。キャラに感情移入できなければその主人公がどれだけ成長しようと、活躍しようと全く心が震えません。
- 著者
- 竹内 友
- 出版日
- 2012-05-17
本作で感情移入できる要因のひとつは主人公、多々良の性格とルックスの身近さです。
主人公の多々良はごく普通の中学3年生。特にやりたいこともなく、進路希望調査を空欄のまま提出するような少年です。無気力で気弱な性格はいじめにあってもヘラヘラとしてしまうほど頼りないもの。
そんな弱気な主人公という要素は多くの少年漫画で取り入れられている手法ですが、本作はさらに競技ダンスという世界でルックスにもハンデを設けているのが引き込まれるポイント。
また、彼が足を踏み入れた競技ダンスという世界は、見た目を重視する残酷な世界。体格だけでかなりの有利さが得られるほど白黒はっきりしています。その中で背も小さく、足も短い、経験者ではないので体も柔らかくないとかなりのハンデを背負っている多々良。
しかし彼は目の見えないおばあちゃんのために相撲を口頭で説明するということを長年してきたおかげもあり、目で見た動きをトレースする能力に長けているのです。そして言うなればそれしか長けていません。
普通の少年が自分にできる唯一のことを活かせる場を見つけ、ハンデとなる要因を抱えながらも自分の進むべき道を見つけて成長していく様子に感動させられるのです。
初めて正式に出場した大会で途中でスタミナ切れを起こしてしまう多々良。ライバルを意識しすぎたことと、その洞察力の高さから自分の身体能力を度外視して「良い動き」をそのままに真似てしまったことから無理をし過ぎてしまったのです。
1日に2kgは落ちることもあるほどハードな競技ダンスの世界。そんな知識も、連続で複数の種類のダンスも踊った事もなかった初心者の彼ですが、それでもパートナーの真子のためにと踊り続けようとします。
- 著者
- 竹内 友
- 出版日
- 2012-07-17
しかしべた足になり、パートナーを支える構えのホールドは崩れ、膝はガクガク、笑顔もひきつり、どんどん落ちていくダンスの精度。その様子を見たコーチの仙石にバリエーション(応用)の振り付けを止められ、多々良は自分の不甲斐なさに涙が溢れてきます。やっと見つけた居場所で圧倒的なハンデを背負っていることを自覚させられるのです。
「なんで僕はこんななんだ(中略)
なんでだ?なんで僕
もっと早くダンスに出会わなかったんだろう」
弱気すぎていじめられても言い返す事ができず、特に目標もなくやる気がなかった今までの時間を悔やむ彼。体格や時間など、どうしようもできないハンデを抱えている彼の姿は、応援せずにはいられないものです。
大会後、一回り大きくなったような多々良の様子に、同じダンススタジオのしずくはかつて先生に教えられた、ダンスでもっとも重要なことについて思い出します。
- 著者
- 竹内 友
- 出版日
- 2012-11-16
「『下手だ』『下手くそだ』『自分の踊りは話にならない』と肝に銘じることだ
自分を下手だと思っているうちは人は成長する
謙虚な客観性をもってダンスに仕えろ」
多々良の弱気な性格は実はいい部分でも作用していたのです。彼女と別れた後も家で夜更けまで大会のビデオを見て研究し、シャドー練習をし、そして高校受験の勉強も怠らない多々良。彼は晴れて志望校に入学し、高校生になります。
ハンデを抱えても自分にできることを地道に続けていく多々良の様子はまさに少年漫画のヒーローです。
以下8巻の内容となります。
いい部分にも作用した彼の気弱さですが、自分と全く合わないパートナーと出会い、その面を変えなければならなくなります。
高校に入学し、固定のパートナーがいなかった多々良に、クラスメイトの千夏というパートナーができます。彼女は5巻に初登場するキャラクター。それ以降多々良のパートナーとして重要な人物です。しかし彼女は中学時代に女性同士で組む競技ダンスでリード(主導側)をしており、もともとの気の強い性格も相まって、まったくフォロー(リードに合わせること)ができません。
彼女は自分の気の強さを自覚してはいますが、それをパートナーに圧倒してほしいと考えていたのです。それがわからない多々良は今まで通りパートナーの動きを察知して自分も動くような踊り方をするのですが、そのせいでずっと彼女と息が合いません。
- 著者
- 竹内 友
- 出版日
- 2015-10-16
一度感覚をつかめそうになった多々良ですが、それをどうしたら再現できるのかわからないまま彼女との険悪な雰囲気が続きます。そんな風にしばらく千夏と多々良の試行錯誤が描かれる展開でしたが、ついに8巻で多々良は変革をとげます。
千夏とダンスをしながら、自分のやりたいようにしか踊らない彼女の性格や、ふたりの不仲を見た周囲から好き放題言われた言葉に憤る彼。しかし最も怒っているのは自分自身でした。
「わかってるよ
この性格に一番嫌気が差してるのは…
僕だ」
そのことを自覚した時、自分のダンスへの欲求をそのまま千夏にぶつける多々良。そして自分よりも圧倒的な力を感じた千夏は、彼の感性や、音楽性、そして今彼の頭の中に流れているリズムを感じ取り、それが自分と同じものだと気づくのです。
正反対のようでお互いに一致する部分に千夏が気づいた瞬間、ふたりは以前に感じた、あの一体感をもう一度手にするのです。
以下最新9巻の内容となります。未読の方はご注意ください。
最新9巻は明と千夏の過去が明らかになり、明の気持ちが丁寧に描かれた内容でした。今まで千夏に様々な嫌味を言ってきた彼女ですが、それは千夏がダンスを一時やめていた時までの憧れが強すぎたゆえの行動でした。
今でこそダンス体型でシュッとしている明ですが、小学校時代は太っていてのろまな少女だったのです。自分に自身がなかった彼女の前に颯爽と現れたのが千夏でした。
- 著者
- 竹内 友
- 出版日
- 2017-06-23
明のこの心情を描くことで、千夏に選ばれた多々良と選ばれなかった明、ダンスというものを男女カップル、女同士のカップルの両面から見ることができます。ダンスホールで輝き、脳裏に焼きつくような、まぶしい女の子。
彼女の輝きを、ダンスを一緒に踊っている間だけは自分の近くに留めておける。そんな強い憧れで焦がれるようにただただ彼女に執着していたのです。
しかし少女たちは15歳になり、男と女で踊る競技ダンスがふたりの前に立ちふさがります。小学生から糸をたぐり寄せるように必死にしがみついてきた思いで憧れの気持ちで踊ってきた明と、競技ダンスに挑戦してみたい千夏。ふたりの意見は食い違い、そこから仲違いしてしまったのです。
しかし明はパートナーや多々良たちに触発され、そこだけに執着していた自分の殻をやぶります。そしてダンスの幅を広げていくのです。
明が千夏につっかかる理由や、彼女の成長の様子がメインに描かれた本作。ちなみに明はふっきれて千夏卒業かと思いきや、より彼女にべったりになってしまいます。可愛いからよしとしましょう。
ちなみに、多々良は8巻最後で掴みかけた「何か」が9巻ではまだ確信に変わっていません。一次予選で観客たちの注目は集めたものの審査員の評価は良いものではなかった多々良と千夏。しかし二次予選で見せた圧倒的な踊りは冴えない印象を劇的に変えました。
審査員のひとりはトイレにこもって、震えています。ただの「キモチワルイ踊り」だと思っていたものはそんなものではない、言葉に言い表しがたい凄さがあったのだと二次予選で実感させられたのです。
果たして次巻10巻で多々良と千夏はどんな踊りを見せるのか?ふたりの成長が楽しみです。
8巻で千夏との一体感を感じ取りますが、それがまだ9巻では形になっていません。しかし、ペアの難しさが明と千夏の関係性から描かれ、また物語に深みが増しました。10巻での展開が今から楽しみです!
今回ご紹介仕切れなかったまだまだたくさんあるストーリーの過程。物語はむしろそこが作品の本質なので、ぜひその面白さ、アツさを作品で体感してみてください!