1947年佐賀県生まれ。純文学作家としてデビューした北方謙三ですが、『逃がれの街』を皮切りにハードボイルド小説でヒット作を生み出し、“ハードボイルド小説の旗手”と呼ばれるようになります。
その後、1989年の『武王の門』の出版から歴史小説を書くようになり、『三国志』や『水滸伝』などのベストセラーを生み出しました。
北方謙三の魅力は、史実をもとに独自の解釈で仕立て上げたオリジナルストーリーにあります。それでは5作品をランキング形式でご紹介してきます。
北方謙三が初めて中国史を書いた作品で全13巻からなる長編大作です。
『三国志』は西暦200年頃に中国大陸で起きた魏・呉・蜀の争いの話です。『三国志』には『正史』(歴史書)と『三国志演義』(実話をもとにしたフィクション)があるのですが、北方謙三の『三国志』は、『正史三国志』に重きをおいて描かれています。
“ハードボイルド小説の旗手”と呼ばれるだけあり、歴史小説の中でも登場人物が実にハードボイルドです。登場人物が多いのですが、みなそれぞれキャラが立っていてどの人物も主人公ばりの活躍をしています。
また他の『三国志』では尻すぼまりに消えていくキャラがしっかりとした終わりをみせたり、あまり登場しないようなキャラにスポットを当てていたりする部分が北方謙三オリジナルとなっています。
- 著者
- 北方 謙三
- 出版日
本作の魅力のひとつにセリフのカッコ良さというものがあるでしょう。一部を紹介します。
「ならば、去れ。私は、賊になるつもりはない。男には、命を捨てても守らなければならないものがある。それが信義だ、と私は思っている」
「兄弟の仇を討とうとするのが、劉備という男なのだ。それをやらなければ、劉備は劉備でなくなる。そしてそういう男だからこそ、自分は魅かれたのではないか」
といったセリフが登場するオリジナリティ溢れる北方『三国志』、是非読んでみてください。
新撰組の土方歳三を主人公とした話で、池田屋事件から五稜郭での闘いまでの時代を描いた作品です。武闘派集団に甘んじていては先がない、と新撰組のあり方を模索する土方の生きざまを描いています。
大筋は史実に沿って描かれていますが、史実の上で謎となっている部分などは北方謙三のオリジナルのストーリーで、史実上では出てこない登場人物が鍵を握っています。
- 著者
- 北方 謙三
- 出版日
本作の帯には、著者の言葉として次のように書かれています。
「小説である。正史をなぞるわけではない。権力移譲の不可解さから、想像力が働き、ひとつの仮説の中で、人の物語が立ち上がったのが、この作品である。」
「仮説」から描かれた北方歳三の新撰組を是非御覧ください。
時代は鎌倉幕府崩壊後、後醍醐天皇による建武の新政の頃。後醍醐天皇から陸奥守に任命された主人公・北畠顕家が、足利尊氏を破るべく奔走する話です。いわゆる公家VS武家の戦争となります。
- 著者
- 北方 謙三
- 出版日
公家でありながらも武将の北畠顕家が放つセリフ。
「私が間違っていると思った時は、いつでも言って欲しい。ここは宮中ではない。官位など、役にも立たぬ陸奥だ。私はここを、戦場だと思っている。だから、命令に誤りがあれば、兵が死ぬ。戦にも負ける。宗広、私はまだ戦をしたことすらないのだ」
これまだ20歳にもならない人が言っているんです。かっこよすぎませんか?
この若さで軍を率いて足利尊氏と戦うわけですから並大抵の人物ではありません。そんな北畠顕家の生涯を是非御覧ください。
「楊家将」シリーズとは『楊家将』上下巻、『血涙-新楊家将』上下巻からなるシリーズで、吉川英治文学賞受賞作品です。
中国の『楊家将演義』が原作となりますが、こちらの日本語訳がされていない中、北方謙三のオリジナルストーリーとして本作品は出版されています。
- 著者
- 北方 謙三
- 出版日
- 2006-07-04
時は西暦900年代後半。北漢の武将・楊業は、北漢を見限り宋へと帰順します。そして宋により中国は統一されるのですがそこから始まるのが遼との戦いでした。
『楊家将』ではその戦いについて描かれ、『血涙-新楊家将』は更にその数年後の話となりますが、そこでもまだ宋と遼の戦いは終わりません。
楊業には7人の息子がいるのですが、『血涙-新楊家将』では6男の楊六郎延昭と、記憶喪失の男・石幻果が話の中心となります。この2人は敵対している関係です。
六郎の持つ父が鍛えた吸毛剣との交わりで記憶を取り戻した石幻果。果たしてその正体とは…。
2作とも北方謙三らしいハードボイルド作品で、男臭さが抜群です。楊業とその息子たちの活躍を是非お読みください。
「大水滸」シリーズとは、『水滸伝』『楊令伝』『岳飛伝』からなる長編作。全51巻で17年かかって完結しました。
ストーリーを簡単に説明すると、悪政のはびこる12世紀初頭の中国(宋)で、世直しのために政府に戦いを挑んでいく「梁山泊」という集団の活躍を描いていくというものになります。
原作の『水滸伝』は独立した民間説話をまとめたもので、辻褄が合わなかったり、うまくつながらない意味不明な話だったりするのですが、それを北方謙三は説得力のあるオリジナルストーリーとしてまとめあげたのです。
梁山泊に集う英雄たちがどうやってのし上がっていくのかを経済の視点から書いていくのが北方『水滸伝』の最大の美点でしょう。政府の力の根源は、金にものを言わせた暴力です。ですので、いかに屈強な男たちが集まっても、金がなければ歯が立ちません。
今までの水滸伝はそこらへんをぼかしたまま話をすすめていましたが、北方謙三は資金源をはっきりと描くことで説得力を増すことに成功しました。
日本ではこれまでに多くの作家が『水滸伝』を書いてきましたが、北方版が最高のものであると言う人は多いでしょう。
- 著者
- 北方 謙三
- 出版日
- 2006-10-18
そしてやはり、本作の魅力のひとつも他作品と同様、カッコいいセリフでしょう。いくつかご紹介します。
「俺を、信じろ。多くは言わん。信じて、ただ闘え。生き残ろうと思うな。死のうとも思うな。生死を超越し、ただ闘うのだ」
「負ければ、この国はなくなる。それでいいのだ。覇者がいつも、この国を自分のものにしてきた。私はただ、力を尽さずに負けたくない、と思うだけだ」
「私は、生きていると思いたい。その思いを、全身で感じたい。つまらぬことで、惑わされたくもないのだ。私を圧倒するような敵と、全身全霊で闘ってみたい」
こんなハードボイルドなかっこいいセリフがいっぱいでてきます。豪傑たちの男らしさを見てやってください。