初めての村上龍!初心者におすすめの長編小説ランキングベスト9!

更新:2021.11.25

1976年にデビューして以来、文壇のトップとして走り続けている作家、村上龍。誰もが一度は耳にしたことがあるでしょうが、その小説を読んだことがないという人もいるでしょう。今回は村上龍初心者の方におすすめしたい作品をご紹介します。

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村上龍とは

1952年生まれの日本を代表する小説家であり、映画監督です。村上の作品は、その形態を小説や映画だけに限定せず、様々な形で目に触れることができます。また、紙の書籍だけでなく、早くから電子書籍やJMM(ジャパン・メール・メディア)などのインターネットを通じた電子配信などにも力を入れているのも特徴的です。

村上龍のデビュー作は大学在学に執筆した『限りなく透明に近いブルー』。この作品で、群像新人文学賞、そして芥川賞を受賞しています。衝撃的なデビューを飾った彼は、その後結婚し、大学を中退。そして作家として本格的に活動を開始します。村上春樹と共に、その時代を代表する作家として注目される存在です。

代表作として、前述の『限りなく透明に近いブルー』のほか、野間文芸新人賞を受賞した『コインロッカー・ベイビーズ』や、読売文学賞を受賞した『イン ザ・ミソスープ』などがあります。

9位:村上龍の芥川賞受賞作『限りなく透明に近いブルー』

舞台は東京、福生市。主人公はリュウ。麻薬、暴力、酒、乱交に明け暮れている若者で、大半はリュウの一人語りの形式で物語はつづられています。リュウの仲間であるケン、リリー、オキナワ、レイ子、ヨシヤマ達もリュウと同じで麻薬使用者であり、リュウの部屋で乱交に明け暮れる日々を送っています。

読んでいてあまり好ましくない表現が多く出て来たり、麻薬を使用する様子が細かく描かれていたりして、登場人物たちの麻薬中毒に陥っている様子がリアルです。また、性描写や暴力的な場面も実際に目にしているような感覚になります。

著者
村上 龍
出版日
2009-04-15

大きな事件が起こるわけでもなく、物語はたんたんと進んでいきます。警官が麻薬を使っている彼らのアパートに踏み込んでいくシーンでさえ、彼らは落ち着いています。逃げるわけでもなく、あっけらかんとしているのです。彼らの感情の起伏が感じられないようにさえ思えてきます。

現実では決してあり得ない、犯罪まみれの作品ですが、なぜか最後まで一気に読んでしまいます。ページ数も少なく、会話形式で進む部分も多いので村上龍の作品を初めて読む人も読みやすいのではないでしょうか。

8位:村上龍が描く中学生の脱出劇『希望の国のエクソダス』

2001年、CNNを通じパキスタンで地雷処理をする中学生について報道されたことから物語が始まります。

報道された少年ナマムギに影響された日本の中学生たち。日本の教育、経済などに不満を抱いていた彼らは希望を求め、集団不登校を起こします。そして彼らは映像配信サービス、金融、ITなどさまざまな事業を展開し、世界にも影響を及ぼし始めるのです。

さらには北海道の土地を購入し、日本から独立した経済組織を作ります。その行動の先に彼らは、希望を見いだすことは出来るのでしょうか。

 

著者
村上 龍
出版日

あらすじだけ見てみると、突拍子もない話に思えます。しかし取り上げている内容は、日本が抱えるリアルな問題ばかりです。

一致団結した中学生たちは、少子高齢化や低迷する景気について自分たちなりに考え大人に対抗していきます。それは必ずしも遠い未来の話、というわけではありません。架空の状況を想像しながら、日本の未来について考えさせられることでしょう。

本作はなにより、政治、経済、金融などの細かい部分までよく描かれているのも特徴です。作者の村上龍は、主宰するメールマガジン「JMM」では日本の金融・政治経済関連の問題について発信を行い、また経済テレビ番組「カンブリア宮殿」では長年司会者を務めています。本作はその英知が詰まった作品だといえます。

専門的な用語も出てくるため、調べながら読み進めると勉強になるでしょう。なお、この作品を書くために行った取材内容が『希望の国のエクソダス 取材ノート』として後日出版されており、そちらも一読の価値ありです。

エクソダスとは“脱出”という意味です。少年達は希望の国へ脱出することが出来るのでしょうか。ぜひ、ご自身の目でお確かめください。
 

 

7位:若者VSおばさん『昭和歌謡大全集』

第一章から十章までのタイトルが昭和の歌謡曲で形成されていて、カラオケ大会ばかりしている6人の若者と6人のおばさんたちによる殺し合いの物語です。

スギオカがナイフでヤナギモトミドリをナイフで殺してしまうところから、若者たちとミドリという名前だけが共通するおばさんたちの集まりである「ミドリ会」との復讐と称する殺し合いが始まり、銃や燃料帰化爆弾まで出てきます。金物屋でトカレフを手に入れたり、燃料帰化爆弾の作り方を教わったり。最後まで設定や登場人物の考え方、行動が現実離れしすぎていて驚きの連続です。

著者
村上 龍
出版日

村上龍特有の、1文がとにかく長く、句点(。)がほとんどない文章、読点(、)が多く、1文を一気に読んでしまいます。1ページ全部が1人のセリフになることもあり、会話も友達と会話するような話し言葉になっていて、一緒に会話に参加しているような感覚にもなります。

また、死体の描写もリアルで、登場人物が嘔吐するシーンが何度か出てきたり、性的な描写も繰り返し出てきたりきます。読んでいて決して気持ちの良い表現とは言えないのですが、なぜか常識はずれなふたつのグループの戦いに巻き込まれ、衝撃のラストシーンまで引き込まれていってしまう作品です。

6位:殺人鬼と過ごした3日間『イン ザ・ミソスープ』

ケンジは20歳ですが大学には行かず、日本に来た外国人観光客のアテンドを職業としています。ただし仕事の実質は主に性風俗店を案内して、外国人男性の旅先での性的な要求を満足させてあげることでした。

年末にケンジはアメリカから仕事で来たフランクという中年男性からの依頼で、12月29日~31日の3日間、夜9時~12時までのコースを請け負います。フランクに面会したケンジは、彼が時々見せる狂暴な目と不自然な表情から本能的に危険を感じますが、「セックスがしたい」という彼の希望に応じるべく夜の新宿歌舞伎町を案内することにしました。

いくつかの店を回りながら会話をするうち、ケンジはフランクが嘘つきだと気付きます。前の店では姉がいると話していたのに次の店では兄に囲まれて育ったと言い、トヨタ自動車の部品の輸入の仕事で来日したはずなのにトヨタレンタカーの営業所の前を通っても何の関心も示しませんでした。その時ケンジは、フランクに会う前に読んだ新聞に載っていた女子高生殺害事件を思い出します。売春をしていたその女子高生は何者かに殺され、バラバラに切断された少女の遺体は新宿のこの営業所の近くで発見されたのでした。

著者
村上 龍
出版日

 

嫌な予感を振り切るようにケンジはフランクをバッティングセンターに誘います。野球少年だったというフランクの話の真偽を確かめたかったのですが、フランクはまったくボールを打つことができませんでした。その後2人は、バッティングセンターの中に1人のホームレスの男性がいることに気が付きます。そしてケンジは翌日のニュースで、新宿で1人のホームレスが殺害された事を知るのです。さらに家を出るとき玄関のドアに人間の皮膚の切れ端のようなものが貼り付けられているのを発見し、ケンジはフランクの仕業だと直感し戦慄します。

ケンジは内心に恐怖を抱えつつも再びフランクを夜の新宿に案内します。その夜はプロの売春婦がいると聞いたお見合いカフェに行き2人の女性と飲み始めるのですが、女の1人が自己中心的な話を繰り広げ決して楽しい席とは言えませんでした。会計の際フランクはケンジに少し外に出ていくようにと言い、フランクに呼び戻されて再び店に入ったケンジの前には、2人の女をはじめ店にいた人々の惨殺死体が転がっていたのです。

本作はフランクの異常な人間性を描くと同時に、日本人の言動や慣習が外国人にとっては極めて異様に見えるという事についても描かれています。フランクが日本を選んだ理由、彼が日本に求めたものとは何だったのか、日本人として考えるべき問題なのかも知れません。

 

5位:日本を変えようとする、独裁者の物語『愛と幻想のファシズム』

この作品は、カナダで狩猟していた主人公・鈴原冬二(トウジ)が、アラスカで日本人・相田剣介(ケンスケ、通称"ゼロ")と出会うところから始まります。世界が恐慌に向かい日本も閉塞し混乱している世の中で、今の社会を破壊し、人間が狩猟生活していた頃の世界を再構築するために、主人公は相田とともに政治結社を作り独裁者として立ち上がります。

主人公・トウジはかなり強烈な性格をしていますが、自分の正義を芯に宿し行動するところは、憧れてしまう人も多いでしょう。例えば彼は、狩猟をしていた経験から導いた世の中の真理として、「弱者は経済的、社会的、あるいは物理的に排除されていくのが自然だ」と主張します。一見、暴論のようですが、ここで指す「弱者」とはいわゆる社会的弱者ではなく、自分の頭で考えたり行動したりしない、社会に支配されて快楽のままに生きている奴隷のような人間のことを述べているのです。すなわちそれは、社会に支配されるんじゃない、目を覚ませ、というエールなのです。

このような、過激ながらも明確な発信を行うトウジは魅力的ですし、加えて、親友となるゼロ(ケンスケ)との関係にもまた、惹かれるのです。

 

著者
村上 龍
出版日
1990-08-03

一見めちゃくちゃで、ファンタジーのように思えてしまう設定ですが、それが現代の社会問題に絡み、かつ、いかにも現実の話かのようなリアルな描写で書かれているため、「現代において、我々はどう生きるべきであるのか」と考えさせられます。それはおそらく、作者・村上龍からの問いかけなのでしょう。

この作品が世に出たのは1987年のことですが、時代が変わっても色あせない良さがあります。今こそ、改めて読んでみたい一冊です。

なお余談ですが、庵野秀明監督によるアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」に”鈴原トウジ”と”相田ケンスケ”という名前の人物が登場します。そう、本作と同じ名前なのです。これは過去に公式WEBサイトで庵野監督自身が「小説から借りた」と述べており、他にも時田、万田、八杉、ウイッツなども村上龍の小説から借りたのだといいます。

「革命、独裁といった外枠の話よりも、ただ、"ゼロ"という登場人物に惹かれた」と述べる監督ですが、キャラクター造形にこだわりの深い庵野監督がどんな人物に惹かれたのか、確かめるために読んでみるのも、おもしろいかもしれません。

4位:立ち上がれ、アウトロー『半島を出よ』

近未来型のストーリーが展開される本作は、失業率が10%を超え、アメリカにも見放された経済孤立状態である日本が舞台です。弱り切った日本を襲ったのは北朝鮮。プロ野球の開幕戦が行われていた福岡ドームを9人の北朝鮮コマンドが占拠することから、物語は展開していきます。

その2時間後に約500名の特殊部隊が博多に襲来、10日後には12万人の兵士が上陸と、日本は危機的状況に陥ります。そんな状態で手を打てない政府。それに反して立ち上がったのは、社会から拒否されていたアウトローたちでした。

 

著者
村上 龍
出版日

訓練で鍛えぬかれた北朝鮮と、たるみきった日本という対比が描かれた村上龍の作品です。膨大な参考資料、そして膨大な登場人物をもって書かれた大作で、小道具の細部までひたすら作りこんであります。圧力を感じるぐらいの文章量ですが、その中で活動するアウトローたちのちょっと場違いな雰囲気に心が和むことでしょう。

3位:村上龍が描く、もう一つの日本『五分後の世界』

箱根でジョギングをしていた主人公が、いきなりどこかわからない場所で集団と共に行進している、そんな不思議な状態から始まるのがこの作品です。

彼がたどり着いたのは5分ズレて現れたもうひとつの日本でした。

 

著者
村上 龍
出版日

どうして主人公がそんなパラレルワールドに紛れ込んでしまったのか、その理由は語られることはありません。しかし、彼が紛れ込んだのは、身に着けていた腕時計から5分進んだ世界であること、そしてここが原爆を落とされても日本が降伏しなかった世界だということが分かります。

作中でかなりの戦闘シーンが書かれていますが、それがとても緻密でグロテスクなのが、また作品のリアルを感じさせます。没入感が素晴らしい村上龍の名作だと言えるでしょう。

2位:コインロッカーで生まれた、義理の双子の物語『コインロッカー・ベイビーズ』

1972年の夏、「キク」と「ハク」はコインロッカーで生まれました。実際に起こったコインロッカー幼児置き去り事件が題材となった作品です。

コインロッカーで生まれた二人の子供は、横浜の孤児院で暮らした後、島で暮らす養父母に引き取られることになります。そして少年時代を過ごしたあと、ハクは母親を探して東京へと消えていき、彼の後を追ってキクもまた東京へと向かいます。「本当の母親」を見つけた時、二人のとった行動とは……。

 

著者
村上 龍
出版日
2009-07-15

不幸な生い立ちの二人の子供が、紆余曲折あって幸せになる、そんなストーリーがイメージできそうなあらすじですが、そういった物語にはなりません。どちらかというとサイバーパンク的なお話で、ひたすらに暗い雰囲気が続く本になっています。それでもこの話を村上龍の最高傑作だと評する人も多いので一度読んでみるのをおすすめします。

1位:村上龍の自伝的青春小説『69 sixty nine』

主人公は佐世保に住む高校三年生のケン、彼はマドンナの樹を引くために仲間たちとあれやこれやと画策する、そんな男子高校生たちのお馬鹿な日常が描かれた作品です。

舞台となるのは1969年の長崎県佐世保市。村上龍の出身地であるこの場所を舞台に描かれるのは、実体験を交えた、いわば自伝的な青春小説だといえるでしょう。

2004年に主演・妻夫木聡、脚本・宮藤官九郎で映画化されたこともあり、この時代を直接体験していなくても情景を想像できる人も多いと思います。

 

著者
村上 龍
出版日
2013-06-26

冗談のように書かれた学校のバリケード封鎖や、フェスティバルの開催に向けて準備をすすめる日々など、村上龍本人が言っているように、とても「楽しい小説」です。この作品は青春小説としてはかなり明るいもので、思春期ゆえの葛藤や息苦しさよりも、笑い、勢い、そういったもののパワーが強く伝わってきます。とにかくいろんなことは二の次にして、読んでみてもらいたいです。落ち込んだ気分もさらっと解決してくれるぐらい本当に楽しい小説なのです。

いかがでしょうか。圧倒的文章力によって描かれる数々の物語、構築された世界観、それらすべてが高い水準を保っているからこそ、村上龍が時代を代表する作家と言われ、文壇のトップに立ち続けている理由だといえるでしょう。ぜひ本屋で手にとっていただきたいです。

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