遠藤周作の代表作・『沈黙』が、2017年、注目のハリウッド映画として公開されるとあって話題を呼んでいます。ここでは、不朽の名作をいくつも遺し、海外でも人気の高い作家、遠藤周作のおすすめの作品をランキングでご紹介します。
1923年東京に生まれた遠藤周作は、慶應義塾大学文学部仏文科を卒業したのち、フランスへ留学。現代カトリック文化についての研究をおこないます。帰国後の1955年、発表した『白い人』が芥川賞を受賞し、戦後派の次の世代であたる“第三の新人”の1人として注目を集めました。
遠藤周作は、日本人の精神的性質と、キリスト教を題材にした作品を多く執筆し、晩年はユーモア溢れる小説やエッセイなども発表しています。1996年、73歳で亡くなるまでの間、数々の名作を生み出してきました。
大学生の吉岡努が森田ミツという女性に出会うところから始まります。二人は何度かデートをしましたが、吉岡がミツの顔かたちやスタイルに不満や嫌悪感を覚えていたため、体だけ強引に奪ったのち、一切連絡をとらずにいました。
それでもミツは吉岡のことを一途に思っています。そんな中、ふと自分の腕に赤いアザがあることに気づき……。
- 著者
- 遠藤 周作
- 出版日
- 2012-12-14
ミツのことなど忘れていた吉岡でしたが、大学卒業後、勤め先で知り合ったマリ子は、実はミツと昔同じ職場で働いていたことがありました。そんなこともあり、吉岡はミツのことが気になり、再会を果たすことに。
しかし、そこで出会ったミツから告げられたのは、自分にハンセン病の疑いがあり、御殿場の病院で精密検査を受けなければならないという事実。涙ながらに告白してくれたミツを前に、恐ろしくなった吉岡は慰めの言葉をかけ、逃げるように立ち去ってしまうのでした。
結果的にハンセン病ではなかったミツでしたが、病院で修道女として奉仕をすることを決意します。吉岡はその後マリ子と結婚していましたが、ミツはどうしているだろうか、ととある年に便りを出しました。すると、病院の看護婦から、ミツは交通事故にあって亡くなったという訃報が……。その手紙には、ミツの最期の言葉が記されているのでした。
この登場人物・ミツは、ハンセン病と誤診され、その後看護婦となった井深八重という実在の女性がモデルとなっているようです。
ミツの吉岡に対する一途な愛や、ハンセン病患者を修道女として生涯支えていくところには、遠藤周作がたびたび小説で扱うキリストの愛に通ずるものがあります。これは、2017年に映画が公開される遠藤の名作『沈黙』のテーマでもあります。今作は他の遠藤周作作品にみる純文学より読みやすくなっているので、まだ作品を読んだことがない方におすすめです。
この作品は、遠藤周作から見たイエスの新しい姿が書かれています。
聖職者と呼ばれるひとたちからの批判は覚悟の上で、遠藤は、この作品を書きました。また、イエスをすべて理解し、解釈したものではないことを遠藤周作自身は述べています。
- 著者
- 遠藤 周作
- 出版日
- 1982-05-27
「愛」を体現したイエスの姿がこの作品には描かれています。しかも、誰しもができるやり方で体現しました。
この作品は一人の人として、苦悩し続けたイエスの姿を鮮明に描き出しています。そして、その中で貫いた彼の「愛」は、ただただ「そばにいること」だけです。それは、無力のようであり、実は、人を変えうるつよいものなのです。
どんなときも、見捨てることもなく、自分がどんなに無力だとしても行うことのできること―そばにいる―をわたしたちに示してくれています。
「愛したい」「愛されたい」すべての人に、読んでいただきたい作品です。
遠藤周作が芥川賞を受賞した、フランス人の青年を主人公に描く「白い人」と、日本人の青年を主人公にした「黄色い人」の2作品が収録されています。テーマとなっているのは“宗教”ですが、主人公の2人の青年は神の存在を信じていません。
「白い人」の主人公は第二次世界大戦中の1942年、フランス人でありながら、ナチスドイツの秘密警察の一員として活動していた過去を回想します。ドイツ語が話せることから、リヨン占領軍による拷問の際の通訳として採用された主人公は、サディスティックな一面を見せながら、残虐な拷問の現場に立ち会うようになります。
旧友である敬虔な神学生の信仰心を妬み、これでもかと傷つけていく主人公。いったい、彼をここまで惨忍な行動に走らせるものはなんなのでしょうか。主人公が、幼少期から青年になるまでの日々が語られていきます。
- 著者
- 遠藤 周作
- 出版日
- 1960-03-17
「黄色い人」では、第二次世界大戦中の日本を舞台に、洗礼を受けながらも信仰心のもてない日本人青年と、女性と関係をもったために教会を追放された白人神父の物語が綴られています。
日本人と白人の、宗教に対する歴然とした価値観の違いも描かれた、遠藤周作の興味深い作品になっています。
太平洋戦争の末期、捕虜のアメリカ兵に人体実験をおこなうという、日本で実際に起きた事件を下敷きとして描かれた作品です。遠藤周作は、この作品で新潮社文学賞・毎日出版文化賞を受賞しました。
おこなわれた人体実験は3つ。捕虜の血液に生理食塩水を注入し、どれほどの量まで死亡せずにいられるのか。捕虜の血管に空気を注射し、どれほどの空気量で死に至るのか。捕虜の肺を切除し、死亡しないためにはどれほどの量を残す必要があるのか。
遠藤周作は、この恐ろしい人体実験に参加することになった、医師や看護師たちの心の内を描きます。戦争という極限状態の中、参加者たちはそれぞれ何を考え、どんなことを思ったのか。登場人物の心理が細かく丁寧に描写されています。
- 著者
- 遠藤 周作
- 出版日
- 1960-07-15
この作品でも、遠藤周作はやはり信仰心というものを作品全体のテーマにしています。神を信じるものは、神に許されるかどうかで善悪の判断をおこないますが、信仰心がない場合、その基準となるものは何なのでしょうか。
神を持たない日本人独特の考えかた、というものにスポットが当てられた、遠藤周作渾身の1冊になっています。
下級武士である主人公の侍が、キリスト教の宣教師とともに、ローマまでの長い道のりを旅する長編小説です。遠藤周作の今作は、批評家たちから高い評価を受け、第33回野間文芸賞を受賞しました。
- 著者
- 遠藤 周作
- 出版日
- 1986-06-27
この作品は実在した人物、慶長遣欧使節・支倉常長の生涯をモデルに描かれた物語です。
主人公の侍は、藩主の命によりローマ法王との貿易交渉のため海を渡ります。メキシコ、スペインと、通訳兼案内人の宣教師・ベラスコとともに行く命がけの旅は続き、ついにローマに到着。そこで役目をはたすべく、キリシタンとなるための洗礼を受けることになります。
ですが侍たちが、7年にも及ぶ長い旅をしている間に、幕府の政策は大きく変わり、キリシタン禁制、鎖国へと舵をきったのでした。旅の途中、日本人の元修道士との出会いなどを通し、キリスト教への信仰を深めていく侍の人生は、どのような結末を迎えるのか。
人生とは、信仰とは何かを考えさせられる、キリスト教をテーマとした遠藤周作の感動作になっています。
インドの仏跡巡りをするツアーに参加した人々の、人生と想いを描いた物語です。遠藤周作が病と闘いながらの執筆となった本作は、キリスト教と日本人について書き続けてきた遠藤にとって集大成となる作品で、1994年毎日芸術賞を受賞し、代表作の1つとなっています。
- 著者
- 遠藤 周作
- 出版日
- 1996-06-13
熱心なクリスチャンであった純朴な青年・大津を誘惑し、捨てた過去のある美津子。癌で亡くなった妻の最後の言葉、「生まれ変わるから必ず探して」という遺言通り、妻の生まれ変わりを探す磯辺。動物や鳥を心の支えとして生きてきた童話作家・沼田。
戦時中、ビルマで壮絶な経験をし、ある罪悪感に苦しめられてきた木口。どのツアー参加者もそれぞれの思いを抱えてツアーに参加し、インドまでやってきました。
大津は、美津子に捨てられた後フランスへ渡り、紆余曲折を経てインドへとたどり着いていました。ただ1人の神を、絶対的な存在として信じる西洋の宗教観と、八百万神を古代から神の観念としてきた日本人の、宗教観の違いに悩み続けてきたのです。
はたして登場人物たちは、胸に抱える苦悩を払拭することはできるのか。聖なる河・ガンジス河を舞台に、それぞれの人生を丁寧に描いた物語になっています。
日本に密入国したポルトガル人神父を主人公に、厳しく壮絶なキリシタン弾圧を描いた歴史小説です。第2回谷崎潤一郎賞を受賞し、海外でも高い評価を受けた遠藤周作の本作は、マーティン・スコセッシ監督による『沈黙-サイレンス-』として映画化され、2017年に公開されます。
舞台となるのは江戸時代初期の長崎。主人公の・セバスチャン・ロドリゴは、日本で布教活動をしていた恩師が弾圧に屈し棄教した、という噂が信じられず、仲間の神父とともに日本への密入国を果たします。しかしそこでは、想像を超える過酷な現実が待ち構えていました。
ロドリゴは、布教活動の途中、弱く臆病な日本人キチジローと出会いましたが、彼の裏切りによって、捕らえられてしまいます。ロドリゴを捕らえた長崎奉行は、キリシタンが拷問され呻く声を聞かせ、キリスト教信者に棄教を迫るのです。こんな地獄のような光景が繰り広げられる中、神はなぜ未だに沈黙を貫くのか……。ロドリゴの心に迷いが生じ始めます
- 著者
- 遠藤 周作
- 出版日
- 1981-10-19
遠藤周作のこの作品では、やはり日本人独特の性質についても描かれています。日本のキリスト教徒たちが見ていた神は、本当に西洋の神と同じだったのか。棄教したロドリゴの恩師は、日本人たちが祈っていたのは我々の神ではない、彼等の神だったと語ります。
ロドリゴの苦悩とともに、日本人にとってのキリスト教とは?というテーマを描いた、ぜひおすすめしたい遠藤周作の作品になっています。
遠藤周作の代表作をご紹介しました。キリスト教と日本人というテーマが多いですが、宗教に興味はない、苦手、という方でも抵抗なく読める作品ばかりになっています。気になる作品があれば、ぜひ一度読んでみてくださいね。