黒川博行の初心者向け文庫小説おすすめランキングベスト6!

更新:2021.11.24

黒川博行とは、一体どんな作家なのでしょうか?彼の作品では、軽妙な大阪弁の掛け合いが多く描かれます。その実、扱うテーマは大変硬派な社会問題。今回は、そんな絶妙なコントラストを楽しめる、ベスト6作品をご紹介します。

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人間らしさを軽妙に表現する推理作家、黒川博行

小説家、黒川博行は、1949年に愛媛県今治市に生まれました。作中で大阪弁が多用される理由は、彼が6歳の頃に大阪に移り住んだことによるものです。

会社勤めは性に合わず、辞職。その後、教員免許を取得し、美術教師となります。

この時期に、半ば暇つぶしで小説を書き出します。1983年に発表された『二度のお別れ』が、第1回サントリーミステリー大賞佳作に入選。翌年、同作品によって小説家デビューを果たします。

その後、多くの傑作を生み出します。2014年には、『破門』が第151回直木賞を受賞。作家として確固たる地位を築くに至りました。

どこかユーモラスで、時としてドタバタコメディを髣髴(ほうふつ)とさせる作品群。今回は、初心者にもおすすめの黒川作品ベスト6を見ていきましょう。

6位 その展開は『迅雷』の如く、一髪千鈞を引く駆け引き合戦

唐突ですが、皆さんは「ヤクザ」と聞いて何を思い浮かべますか? 極道、任侠、暴力団、はみ出し者に犯罪者……ざっと挙げれば大体こんなところでしょうか。少なくとも、好き好んで関わり合いになりたい人種ではないことだけは確かです。

黒川博行『迅雷』は、そのヤクザと丁々発止の攻防を繰り広げる男達の物語です。ヤクザを誘拐して身代金をせしめる。そんな大胆不敵、かつ奇想天外な発想の元、同じく社会不適合なはみ出し者達が前代未聞の賭けに出ます。

主人公の友永は、日々の生計をダライコ(ネジの切り屑)業で細々としのぐ回収屋。ある日事故に遭った彼は、入院先の病院で稲垣という男に知り合います。ひょんなことから意気投合する二人。そんな中、稲垣はとんでもないことを言い出します。

「堅気が極道をさらうやて、どこの誰が考える。絶対に足はつかへんで」(『迅雷』より引用)

ヤクザを攫って金を奪う。博打めいた提案はうまく運び、まんまと大金をせしめます。思わぬ収入に、ほくほく顔の友永。しかしそれからしばらく経ったある日、再び稲垣が現れて……。

著者
黒川 博行
出版日
2005-05-01


 

本編で登場する人物は、いずれも一般的には「ろくでなし」と呼ばれる類の人々ばかりです。ヤクザは言うに及ばず、当たり屋・拳法家くずれ・汚職理事長と、これでもかとばかりにろくでもない人々が出てきます。友永のダライコ屋は真っ当な職業ですし、本人も比較的マシな人格の持ち主ではありますが、それでもこうした連中とつるむ道を選んでしまう辺り、根っこの部分は推して知るべしと言えるでしょう。

そんな彼らが繰り広げるドラマは、どこか憎めず不思議な痛快さを感じさせます。理想でも正義でもない、欲望を下敷きにした物語。人間の業をむき出しにして描かれた内容は、まっとうに生きられない者達の歪みが見て取れると同時に、ピカレスク作品特有の諧謔味に溢れています。

果たして友永一味は再び大金を手にすることができるのか。それともヤクザ達が一味の尻尾を捉えて報復に打って出るのか。最後まで目が離せない痛快誘拐ピカレスク。一度読みだせば、疾風『迅雷』の如き展開の虜になること請け合いです。

5位 思わずうなってしまう誘拐サスペンス『大博打』

まさに黒川博行の奇想ともいうべき、大胆な誘拐サスペンス。犯人は、追跡する大阪府警をあざ笑うかのように、緻密な計算の上に成り立つ、荒唐無稽な要求を繰り返します。

人質の身代金は、時価32億円の金塊。誘拐犯は、金塊を、大阪湾に係留させた無人漁船によって運ぶように指示します。夜の海を突き進む漁船の運命やいかに…!

著者
黒川 博行
出版日
1998-03-30


タイトルの『大博打』という言葉そのままに、大胆不敵で、常にギリギリの賭けを繰り返す誘拐犯と、それに振り回される大阪府警。予測不能な展開に、読者は時を忘れ、熱中してしまうことでしょう。ありきたりの展開に飽きてしまった読者の皆さん、あなたの予想は当たるでしょうか?さあ、「大博打」!

4位 策謀渦巻く、詐欺師たちの騙し合い『文福茶釜』

古美術の世界を舞台に繰り広げられる、男たちの騙し合い、化かし合いのミステリー小説。欲望渦巻く人間ドラマが展開されます。本物、贋物、ピンからキリまでの古美術世界の中で、価値のないものに価値を持たせる様々な手練手管が繰り広げられていきます。

著者
黒川 博行
出版日


作中の詐欺師の技術には、圧巻されます。たとえば、墨絵を薄く二枚に剥いで、複製を不正に作成する相剥(あいはぎ)本という技術や、贋物を価値あるものとして見せかける、ニセの入札目録。嘘の価値を創り出す男たちの情熱には、ある意味、脱帽します。

軽快でユーモラスに描かれた古美術ミステリーは、黒川作品初心者の方にもぴったり!普段知ることのできない世界を覗けることも、楽しいですね。

3位 黒川流ハードボイルドの傑作「堀内・伊達」シリーズ

主人公の堀内と伊達は、かつて、大阪府警今里署のマル暴担当(暴力団担当)刑事でした。二人は善人としてではなく、黒川博行の得意とするなぜか憎めないチャーミングな悪人として描かれています。こんな二人が本作で大暴れ!

著者
黒川 博行
出版日
2010-09-25


警察の内部をリアルに描く「警察小説」の最高峰と言っても過言ではない本シリーズ。捜査の実態、癒着、横領など、警察の裏事情とも言える側面が、赤裸々に描かれています。悪を追っているうちに、悪行に手を染める警官なども多く登場します。

理性的でリアリティある、傑作警察小説。これぞ、黒川のハードボイルドといわれる作品を、ぜひ堪能してください。

2位 現代の弱さに斬り込む衝撃作『後妻業(ごさいぎょう)』

老齢男性の遺産を狙う「後妻業(ごさいぎょう)」という仕事を描く本作品は、現実に起こりうる、寂しい老齢者を狙った姑息な生業をリアルに描いた問題作。

著者
黒川 博行
出版日
2016-06-10


91歳の耕三は、年老いてから妻と死別し、寂しい晩年を余儀なくされていまいた。そんな心の隙間を狙う「後妻業」が生業の、69歳の小夜子。耕三は、小夜子を後妻に迎えます。

月日は経ち、ある日、耕三は倒れます。小夜子は、それを待ち望んでいたかのように、動き始めます。結婚相談所の柏木という男と共謀し、耕三の預金を引き出すのです。前もって耕三に書かせていた公正証書遺言を、彼の娘達に突きつけ、遺産の大部分を相続すると宣言します。

フィクションではありますが、現実感のある小説です。実際、似たような事件が起こってはいますが、作家の想像力をまざまざと見せつけられる力作と言えるでしょう。

1位 シリアスなのに、大阪弁の掛け合いに笑ってしまう『疫病神』シリーズ

主人公は、二宮啓之という建築コンサルタント。建設業界では、マンションやビルの建築現場につきまとう暴力団関係者から、嫌がらせを受けることがあるそうです。これに対策する、通称「サバキ」という仕事があります。「毒をもって毒を制す」ような方法です。ある暴力団に対して、違う暴力団をぶつけて解決するのです。

著者
黒川 博行
出版日
2014-12-25


二宮は、建築コンサルタントという肩書ですが、主に「サバキ」を仲介することで、収入を得ています。サバキの仲介を通して出会ったのが、「疫病神」こと、桑原という男でした。二宮は、桑原に執拗につきまとわれ、散々な目に合います。

重苦しく、凄惨な物語のように思えますが、心配ご無用。ドタバタ喜劇のような、ユーモラスな仕上がりになっていますから、ご安心あれ。特に、二宮と桑原の大阪弁の掛け合いは、軽妙洒脱。漫才のようなおかしさがあります。

丁々発止(ちょうちょうはっし)の掛け合いは、黒川博行の真骨頂。誰もがすぐに愛せるであろう、二宮と桑原コンビが、あなたを黒川の世界に誘ってくれるのではないでしょうか?

硬派なテーマに、ユーモア溢れる作家、黒川博行

黒川博行は、シリアスな社会問題をテーマに取り上げます。しかし、描き方は、実に可愛げがあり、読者は、登場人物たちへ愛情を感じずにはいられないはず。悪人であっても、どこか憎めない愛嬌があるのです。これは、黒川が慈しみを持って、人間観察をしていることのあらわれなのではないでしょうか?

人間味溢れる登場人物たちが、時に四苦八苦し、時に大活躍する独特な黒川ワールドを、この機会にぜひとも体感してみてください。

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