文芸

織田作之助のおすすめ作品5作!「人」をユーモアたっぷりに書いた作家

更新:2020.11.27 作成:2016.11.24

織田作之助はその名を冠した文学賞があるほどの大作家。さぞかし難しい作風かと思いきや、その中身は滑稽にして、庶民的。出身地大阪の陽気さを感じさせるユーモアにあふれているのです。

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大阪生まれの庶民的な文学者織田作之助

織田作之助は1913年大阪市天王寺区に生まれます。実家は生魚商を営んでいました。下町生まれながら第三高等学校文科(現在の京都大学教養部)に入学するほど頭が良かったそうです。在学中には同人誌を創刊し、戯曲等を発表しました。最初は劇作家を志していたようですが、スタンダールの『赤と黒』に影響を受けて小説家を目指すようになります。

社会人になってからは新聞社に勤務する傍ら、小説を書き続けました。『夫婦善哉』が改造社の第一回文芸推薦作品になると次々と作品を発表し、本格的に小説家として活動を始めます。『夫婦善哉』は戦時中に書かれたものですが、浄瑠璃の世界をパロディ化した悲しくも滑稽な恋愛物語。戦時下の生活を皮肉めいた目線で書きだす『世相』など時代の暗さをものともしない大阪作家の底力が織田作之助の魅力です(あまりに自由に書きすぎて『青春の逆説』などは時節柄ふさわしくないということで発禁処分になっていますが)。

庶民的な生活を生き生きと描いた作家、織田作之助。ファンからは「オダサク」の愛称で親しまれています。

織田作之助の半自伝的小説 『青春の逆説』

『青春の逆説』は織田作之助の自伝的小説といわれています。自意識過剰気味の青年毛利豹一の半生を書いた小説です。この豹一は女ならちょっと振り返るほどの美少年で、学校の成績も優秀なのですが、あまりに自尊心が強く恋愛行動でもヘンテコな行動が目立ちます。常に自分が行う行為に理由をつけないと気が済まないのです。その様は傍から見ている読者としてはあまりに滑稽で、コミカルです。

著者
織田 作之助
出版日
2008-07-25

例えばこんな場面があります。青年になった豹一は「日本畳新聞」という新聞社に勤めることになりますが、1年半勤めても昇給の気配がありません。実はこの会社には昇給システムがないのですが、

「少しも昇給しないのは侮辱されているようなものだ」

プライドの高い豹一はすっかりしょげてしまい、そんな風に昇給を期待している自分自身をも嫌になります。さらに自分が書いた記事の扱いに憤慨した彼はいきなり「会社を辞めます」と宣言し、外に飛び出してしまいました。失業者になった豹一はダンスホールをかねたような派手な喫茶店に迷い込みます。近寄ってきた女にボタンが取れたよれよれの上着のことを指摘された豹一は、この場で彼女をものにしたらきっとみじめな立場が回復するだろうと考えるのです。

しかし衆人環視の中で女をものにするなんてどうしていいのか豹一にはわからりません。こんなことではだめだ、と思った豹一は百を数えるうちに女の手をいきなり掴もうと決意します。そこで心の中で数を数え始めます。百まで数えてなにもできなかったら自分はおしまいなんだと切羽詰まった気持ちで。女が話しかけても答えず、しまいには声を出して数を数えるので女はあきれてこの人は気違いなんじゃないかと思い出す始末。この描写は本当に笑えて、コントが漫才のよう。

織田作之助のあっけらかんとした世界観が悲しくもおかしい青年期の心情を見事に描き出した長編です。
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メディア化もされた織田作之助の代表作 『夫婦善哉』

織田作之助の代表小説です。映画、テレビドラマ、舞台と様々なメディア作品の原作となりました。「三勝半七」という浄瑠璃のパロディだそうです。

しっかり者の芸者蝶子と道楽者の柳吉、でこぼこ夫婦の物語。蝶子は陽気な性格の娘で自分から芸者に志願し、座敷の盛り上げ役に。そんな蝶子が入れ込んだのは妻子持ちの安化粧問屋の息子柳吉。

二人は駆け落ちするのですが、そんなさなか関東大震災に巻き込まれます。蝶子の実家を頼った二人ですが、収入のない柳吉に代わって、蝶子がヤトナ芸者(日雇いの芸者)で稼ぎます。

著者
織田 作之助
出版日
2016-08-27

そんな蝶子をしりめに、柳吉は実家に残してきた自分の娘に未練たらたら。絶縁された実家に顔を出すのですが娘には当然あわせてもらえません。自暴自棄になった柳吉は蝶子の貯金を下ろし、二日で使い果たしてしまいます。蝶子は怒って家を飛び出します。

こんな風に蝶子が稼ぎ、柳吉が浪費する繰り返しの末、夫婦善哉をすする二人の姿が微笑ましいラストにつながっていきます。

ちなみに『夫婦善哉』は新潮文庫、岩波文庫、講談社文芸文庫など各出版社から文庫版が発売されています。同時収録されているほかの短編のタイトルを考慮しながら、お好きなものを選んでください。

織田作之助の名短編集 『世相・競馬』

『世相』には冒頭の闇屋に始まる戦時下の「世相」が描かれており、混沌とした雰囲気が伝わって来ます。前にもご紹介した通り『青春の逆説』は戦時下の検閲に引っかかって、発禁処分になっています。『世相・競馬』はこの発禁によって、今後何を書いても原稿が通らないのではないかと悩む織田作之助が、様々な執筆の構想を練っていくという筋立てになっている随筆風の作品です。

この中で触れられている阿部定事件にヒントを得、織田が書きたいと言っている作品は実際『妖婦』というタイトルで世に出ています。残念ながらこの短編集には収録されていませんが興味がある方は探してみてください。

著者
織田 作之助
出版日
2004-03-11

『競馬』は賭け事の奇妙さをまざまざと描いた作品です。かたくなに1番の馬にかけ続ける寺田という男、実は元中学教師の堅物でしたが、酒場の女給一代に惚れてから人生が狂いだしました。熱心に通い続けて彼女を娶ったものの、それがもとで教職を馘になってしまいます。

さらに悪いことに一代は癌を発病し、闘病生活が続くことに。そんなある日、一代に「競馬場で待っている」という手紙が届きます。差出人はどうやら女給時代に関係があった男の一人らしいと考えた寺田は嫉妬に苦しむのですが……。憎んでいた競馬にからめとられ、身を持ち崩す男の姿が哀れです。

他、織田作之助の著作にたびたび登場する破天荒な将棋棋士坂田三吉が登場する『聴雨』、幕末に数奇な運命をたどった「寺田屋お登勢」の物語『蛍』などが収録されています。
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人が良すぎる男は究極のダメ男 『天衣無縫』

『天衣無縫』は『夫婦善哉』と同じく、夫に苦労する妻のお話です。ただし、この夫軽部清正は柳吉のような遊び人ではなく、会社勤めをするまじめで人のいい男です。では妻政子の不満はというと……。

著者
織田 作之助
出版日
2016-10-06

実はこの清正はあんまりに人が良すぎるのです。彼はよく人に「金貸したろか」というのですが、初めてそれを聞く人は彼が金持ちで嫌味で言っているのだととる。ところがそうではなく、清正はわざわざ人に借金(それもかなり遠くにいるの親戚の家にまで)して金を貸そうとするのです。妻の身としてはたまったものではありません。人に金を貸さないように政子は彼の財布を厳重に管理するのですが…

ラストが衝撃的です。清正は帝大出、無遅刻無欠勤のまじめな勤めっぷり、それなのに昇給はしないし、ボーナスも人より少ないのです。政子は不思議に思うのですが、その原因ときたら、おもわずえっ?となってしまうようなありえない理由。まさに「天衣無縫」を地で行く男清正の滑稽さに苦笑いが浮かんでくる作品です。

短編から文学評論まで 『六白金星・可能性の文学』

表題作は短編と評論の違いはありますが、どちらもオダサクらしい、滑稽さと真剣さが見て取れます。

『六白金星』は楢雄の屈折した人生を描く作品です。兄の修一は勉強ができ優秀な生徒ですが、楢雄の方は頭が悪く落第までしてしまう劣等生。奇妙な行動ばかりして、母や父に精神病や早発性痴呆症を疑われます。

ある日兄に自分たちは妾の子だということを告げられるのですが、楢雄には何の事だかわかりません。妾がなんなのか知らないのです。兄はこのことでコンプレックスを抱き、父とも母ともたびたび衝突します。

著者
織田 作之助
出版日
2009-08-18

楢雄もまた、親子仲が芳しくなく、破天荒な行動をする彼に父も母も手を焼きます。タイトルの『六白金星』は楢雄が六白金星生まれであることに由来します。なにかをするとき、何かに納得したいとき、兄のように理屈で考えない楢雄はこの六白金星生まれということを理由にするのです。

『可能性の文学』は織田作之助が書いた当時の文学批判です。織田作之助は坂口安吾、太宰治らとならんで無頼派と称されていますが、この『可能性の文学』はその傾向をよく表した作品となっています。

志賀直哉を頂点とし、進化しようとしない当時の文学を厳しく批判しており、文化論的で難しい部分もありますが、そこは織田作之助。時折ユーモラスなたとえがはさまれており思わず笑いがこぼれてしまう場面も多々あるのです。

織田作之助の作品に登場する人物は、どれも癖のある一風変わったキャラクター。でもどこか憎めない魅力にあふれています。そして物語は滑稽ながら人の本質を突いたはっと思わせる部分があります。どうしようもない人々が繰り広げる哀しくも可笑しい日常をお楽しみください。