目を背けたくなるほどの、人間の黒い感情を描き出し、イヤな気分になりながらも読むのをやめられないミステリー作品“イヤミス”。ここでは、話題の小説ジャンル・イヤミスの名手、真梨幸子の描くおすすめ作品をご紹介していきます。
1964年生まれ宮崎県出身の真梨幸子(まり ゆきこ)は、2005年『孤中症』で第32回メフィスト賞を受賞し作家デビューを果たします。2008年に発行された『殺人鬼フジコの衝動』が口コミで売り上げを伸ばし、大ベストセラーとなって一気に注目を集めました。
その作風は、人間の奥底にあるどす黒い心理をこれでもかとえぐり出し、見たくないのに読み続けてしまう、中毒性のある“イヤミス”として人気を博しています。真梨幸子は過去の作品も続々と文庫化される、イヤミスの女王として注目を集めている作家です。
パワースポットをテーマとして描く、5つのストーリーが収録された真梨幸子の連作短編集です。
ハッピーエンドとは程遠い、人間のエゴが交差する恐ろしくせつない物語が綴られています。
表題作の『カンタベリー・テイルズ』では、イギリスへの格安ツアーに参加する男女4人が、観光のため一緒にカンタベリー大聖堂へ向かうことになります。到着するまでの電車の中、メンバーはカンタベリー物語のように、1人1人とっておきのお話を披露し合うことに。子供の頃の奇妙な体験や、兄を鬱にして自殺未遂にまで追い込んだ母の話、そして主人公が子供の頃に目撃した不吉な新聞記事の話が繰り広げられます。
- 著者
- 真梨 幸子
- 出版日
- 2015-11-13
真梨幸子のこの文庫本では、全編通して、『カンタベリー・テイルズ』が軸となって描かれており、登場人物たちがそれぞれのストーリーで少しずつ繋がっていきます。とりわけ女性陣たちが恐ろしく、背筋が寒くなるような、どろどろとした嫉妬や憎悪が描かれています。
パワースポットが、善のパワーを与えてくれるだけとは限りません。真梨幸子のこの物語のように、逆にパワーを吸いとられてしまうことだってあるかもしれないのです……。
5人のジュンコが登場する連作短編集で、それぞれのジュンコがとても腹黒く歪んでいて、不快感を煽られつつも先が気になって仕方ない真梨幸子の一作。2015年、松雪泰子主演でドラマ化されたことでも話題になりました。
元スナックのホステスで、前代未聞の連続殺人事件を起こす佐竹純子。その佐竹純子に、中学時代不登校に追い込まれた過去をもつ篠田淳子。佐竹純子が起こした事件を追う、ジャーナリスト久保田芽衣のアシスタント・田辺絢子。そんな田辺絢子が取材対象としている、守川美香の母親・守川諄子。社宅暮らしに不満を募らせる主婦・福留順子。
この5人のジュンコの視点により物語は進んでいき、名前がジュンコだったがために事件に巻き込まれていくことになるのです。
- 著者
- 真梨幸子
- 出版日
- 2016-06-03
それぞれの章で語り部となっているどのジュンコも、悪意に満ち溢れていて、そこかしこに嫉妬や憎悪が渦巻いているのです。しかもジュンコのみならず、他の登場キャラクターもなかなかの悪人揃い。
読むのが辛くなるほど恐ろしいのに目が離せない、最悪な人間たちを描いた真梨幸子による最高のミステリー小説になっています。
1962年から2013年まで、半世紀にわたり西新宿で繰り返し起きる惨劇の様子や真相を描く真梨幸子の長編ミステリー小説です。
昭和37年、小学校6年生の洋食屋の息子“こうちゃん”は、出前の際に偶然近くの料亭・鸚鵡楼にて、美しい同級生“ミズキ”の秘密を目撃してしまうことになります。そしてこの鸚鵡楼で、3人の人間が惨殺される事件が発生し、この事件の真相は闇に葬られてしまいます。
- 著者
- 真梨 幸子
- 出版日
- 2015-07-07
時は過ぎ30年後、鸚鵡楼の跡地には高級マンション「ベルヴェデーレ・パレット」が建設されました。そこに住む人気エッセイストの蜂塚沙保里は、あることがきっかけで自分の息子を心から恐れるようになり、自身が創り出した妄想の世界に取り憑かれていきます。そしてついに鸚鵡楼の惨劇は繰り返されることになり……。
作品内のあちこちに巧妙に張り巡らされた伏線が、すべて回収され真実が明らかになったとき、人間の残酷さに戦慄し、その闇の深さに言葉を失ってしまうことでしょう。
読み出したら止まらない、真梨幸子独特の救いのない結末が訪れるミステリー小説になっています。
いったい何が現実で何が虚構なのか。今の自分はしっかりと現実を見ているのか。真梨幸子のこの一作は、そんなクレイジーな世界にどっぷりと浸ってしまう連作短編集になっています。
ある女流作家が、この本には自分のことが書かれている、という妄想を抱えた男に刺されてしまう、という事件が発生する『エロトマニア』。この物語を皮切りに、作家と犯人の男に関係する人物たちが、奇妙な物語で繋がっていきます。
- 著者
- 真梨 幸子
- 出版日
- 2016-10-07
デパ地下のコロッケに指が入っていたと客が騒ぎ出す『クレーマー』。やってはいけないことをやってみたい、という衝動が抑えられない『カリギュラ』。自分の記憶には確かにあることなのに、誰もそのことを知らず疑念を持つ『ゴールデンアップル』などなど、登場人物たちが歪んだ世界へと足を踏み入れていきます。いったい正しいことを言っているのは誰なのか?
妄想を持った人間と行動を共にしていると、正常な人間までが妄想を共有するようになる。そんな二人狂いと呼ばれる現象を描く、なんとも言えない恐怖を感じる真梨幸子の作品になっています。
衝撃的なタイトルとともに、醜く歪んだ中年女性たちが次々と登場する、悲惨な現実を描いた作品で、“イヤミス”の世界に触れてみたい方にぜひおすすめしたい真梨幸子の作品になっています。
かつて少女たちの間で人気を博した漫画“青い瞳のジャンヌ”。物語は、この漫画を愛し、ファンクラブを結成する“青い六人会”のメンバーたちに降りかかる惨劇が描かれています。
お互いを、エミリー・ガブリエル・シルビア・ミレーユ・ジゼル・マルグリットというニックネームで呼び合い、40代から50代の女性を中心に結成されている青い六人会ですが、ただ1人、ガブリエルだけは若く美しいのです。
- 著者
- 真梨 幸子
- 出版日
- 2011-12-06
美しく謎めいたガブリエルに、誰もが羨望の眼差しを向け、気を引こうと必死。それぞれに悲惨な日常を送る他のメンバーたちの間では、嫉妬から来る憎悪や、見栄から来る嘘が飛び交います。こうして徐々にどす黒い感情に支配され、闇に落ちていくメンバーたちには、悲惨な末路が待っているのです。
どの女性も、一見どこにでもいる普通の中年女性で、醜く歪んだ本性が姿を現わす描写には、恐ろしさと不快感を感じずにはいられません。とにかく結末が気になり、イヤだイヤだと思いながらも読むのをやめられない、これぞ真梨幸子の“イヤミス”といった作品になっています。
いかがだったでしょうか?今回は、真梨幸子のおすすめ文庫をご紹介しました。どの作品も重苦しく、読んだ後にはどんよりとした気分になるのですが、なぜだかクセになってしまうのです。ハマりすぎには注意が必要な真梨幸子の描く世界。興味のある方は、足を踏み入れてみてはいかがでしょうか。