トラベルミステリーの第一人者であり、ドラマ化もされた人気キャラクターである十津川警部の生みの親・西村京太郎。他のジャンルの作品も数多く書いています。そんな西村京太郎作品のおすすめを6作ご紹介します。
西村京太郎は、1930年に東京府荏原郡荏原町(現在の東京都品川区)で生まれます。東京陸軍幼年学校在学中に終戦となり、東京都立電気工業学校(現・東京都立産業技術高等学校)卒業後、臨時人事委員会(のちの人事院)に就職します。その後、トラック運転手、私立探偵などを経験し、作家となります。
初期は社会派推理小説を書いていましたが、スパイ小説、クローズド・サークル、パロディ小説、時代小説と多種多様なジャンルの作品を発表するようになります。
トラベルミステリーというジャンルを知らしめるきっかけとなった『寝台特急殺人事件』では、人気キャラクター・十津川警部、左文字進などを生み出しました。
オリジナル著作は550冊、単行本の累計発行部数は2億冊を越えており、これを達成しているのは、日本では赤川次郎と西村のふたりだけです。
本名は矢島喜八郎で、ペンネームの由来は、人事院時代の友人の苗字と、東京出身の長男という意味の「京太郎」を組み合わせたものなのだとか。江戸川乱歩賞などに応募する際には、黒川俊介や西崎恭というペンネームも使用しています。
原稿執筆は手書きで、月に平均約400枚を書き上げているそうです。
巧みに時刻表を操ったトラベルミステリー。
寝台特急を取材するため、週刊誌記者・青木は、東京駅から西鹿児島行きの寝台特急「はやぶさ」1号車に乗り込みます。薄茶色のコートを着た女に話しかけますが、相手にされず、食堂車でも合席になるものの、すぐに席を離れます。
- 著者
- 西村 京太郎
- 出版日
- 2009-09-08
その後、弁護士の高田と食事を済ませ、寝台に戻る際に、カメラを忘れたことに気づいて引き返します。ところが薄茶色のコートを着た女を写したフィルムが、カメラから抜き取られています。人間の入れ替わりや、目覚めると乗車していた寝台車が違っているなどの異変が起こり、ついには事件が発生します。事件を解決するのは、警視庁刑事部捜査一課所属・十津川警部。颯爽とした手腕にご注目ください!人気キャラクターの理由がわかることでしょう。
作家・綾辻行人との対談でも、自選ベスト5に入れている作品です。トラベルミステリーを読むきっかけにしてみてはどうでしょうか?
1976年、セ・リーグペナントレースの終盤。球団初の最下位となった昨年の汚名返上のため、長嶋茂雄監督率いる読売ジャイアンツ(巨人軍)は、吉田義男監督率いる阪神タイガースと優勝争いを繰り広げていました。
甲子園球場で行われる阪神との3連戦前の移動日。球団職員たちに見送られ、巨人軍ナインは新幹線ひかり号で東京駅を出発します。ところが翌朝、球団職員は、常宿からまだ巨人軍選手団が到着していないことを知らされます。確かに出発したはずだった選手たちは、いったいどこへ行ってしまったのか……?
- 著者
- 西村 京太郎
- 出版日
- 2014-07-23
日本プロ野球のペナントレースを舞台にしたミステリー小説で、実在の人物、それも懐かしい巨人軍のスター選手たちが次々に登場します。黄金期前後の巨人軍を好きな方にはたまらない作品。特に「喝!」でおなじみの張本勲は、イメージ通りの台詞を言ったりします。
推理面も動機も見事です。ドラマなどでは変装の名人であり、ポップでコミカルな名探偵・左文字進。小説では、アメリカ帰りのハーフで、オースチン・ミニクーパーやムスタングを乗り回すクールな男前として描かれています。野球が好きな方に、特におすすめのミステリーです。
『名探偵が多すぎる』『名探偵も楽じゃない』『名探偵に乾杯』と続く名探偵パロディ作品1作目です。
- 著者
- 西村 京太郎
- 出版日
- 2006-07-12
日本の富豪・佐藤大造によって呼び集められて登場するのは、エラリー・クイーンの「エラリー・クイーン」、ジョルジョ・シムノンのメグレ警部、アガサ・クリスティのエルキュール・ポワロ、江戸川乱歩の明智小五郎。佐藤は彼らに、「3億円事件」を再現し、事件の実態に迫ってもらうという挑戦をつきつけます。これに、名探偵たちは承諾し……。
名探偵が原典で扱った事件も本作では登場します。名探偵への批難も含むシニカルな作品でもあるのです。それぞれの名探偵を好きな人はもちろんのこと、純粋にミステリーを楽しみたい方にもおすすめです。
西村京太郎初の長編書き下ろし作品です。
ろう者の青年・晋一は、病気の母親との生活を支えるために、小さな工場で働いていますが、周囲との意思疎通がうまくいかずに孤立しています。近所のバーで働く幸子だけが、晋一に優しいのでした。
そんな中、晋一が買った栄養剤飲んだ母親が毒死します。栄養剤の中に砒素が入っていたのです。晋一は病気の母親を邪魔に思い、毒殺したのだと決めつけられ、逮捕されます。無実を訴えるものの、取り合ってはもらえず……。
- 著者
- 西村京太郎
- 出版日
- 1981-10-15
周囲の無理解に腹が立ったり悲しくなったりもしますが、目を背けずに読んでほしい1作です。
西村は、ろう者も、ろう学校の教師も必死に努力をし、発音するものの、一歩社会に出れば嘲笑の対象となることに対して、怒りにも似た問題提起を行っています。本作のあとがきでは「彼らを理解する手助けになれれば幸いである」と述べらています。そんな西村の気持ちも受け止めながら、ページをめくってみてください。
新聞記者・田島が、恋人の昌子と郊外でハイキングを楽しんでいたところ、刃物で胸を刺された男に遭遇。男は「テン……」と奇妙な言葉を残し、死んでしまいます。警察へ通報し、現場付近はすぐさま封鎖されたというのに、犯人は見つかりません。
事件に興味を持った田島が、独自捜査をはじめると「天使は金になる」という言葉にぶつかります。この「天使」こそが、自分が聞いた「テン……」という言葉なのだと判明しますが、謎はまだまだ深く……。
- 著者
- 西村 京太郎
- 出版日
- 2015-02-13
西村の社会派推理小説のひとつです。執筆当時の社会問題である、アルドリン睡眠薬を服用した妊婦から奇形児が生まれた「サリドマイド事件」を扱っています。被害を受けた者たちの、これからの生き方まで問題提起なされており、西村の思慮深さを知ることができます。
物語は、都内にて強盗事件が起こったことから始まります。顔も隠さず、次々と犯行を重ねる大胆不敵な強盗犯。警察の捜査により犯人と思しき人物が捕らえられますが、ここで思わぬ問題が起きました。
「あんなに似てたんじゃ、どうしようもありませんよ」
「だが、どっちかが犯人だ」
(『殺しの双曲線』より引用)
なんと、その容疑者、いや、容疑者「達」は一卵性双生児。つまり双子だったのです。証言と一致している以上、どちらかが犯人であることは間違いない。しかし、犯人は顔以外手がかりを残しておらず判別がつきません。
目の前にいる犯人に手を出せず、気を揉む一方の警察。そんな中、東北の山奥で殺人事件が発生したという情報が飛び込んできます。それは、恐るべき陰謀の結実でもありました……。
- 著者
- 西村 京太郎
- 出版日
- 2012-08-10
本作最大の特徴は、作中同時に展開される2つの事件にあります。
片や閉鎖空間を舞台にした連続殺人、片や都内で続発する強盗事件。趣向も中身もまるで違うそれぞれの事件は、作中で明かされるとあるキーワードによって繋がり、ついには1つの壮大な陰謀劇に集約します。
当初は緩やか、かつ不気味に展開される物語ですが、一度そのキーワードが明かされれば、後はジェットコースターのごとく快刀乱麻に解き明かされていく感覚を味わえるでしょう。
もちろん、それぞれの事件内容も見逃せないところです。1人、また1人と被害者が手にかけられていく恐怖に満ちた連続殺人。警察をあざ笑い、巧みに網をかいくぐる不敵な双子達。根っこの部分でつながりつつも、それを一切感じさせない構成は、まさにサスペンス大家西村京太郎の面目躍如と言えるでしょう。
かの名作推理小説、『そして誰もいなくなった』を参考に執筆されたという『殺しの双曲線』。読み終えた暁にはそれぞれ読み比べ、互いの良さを探してみるのも面白いかもしれません。
トラベルミステリーを書く作家のイメージが強い西村京太郎ですが、それ以外にも様々なジャンルを手掛けています。個人的には、初期作品は特に胸に響く作品が多いと思います。ぜひ手にとってみてくださいね。