初めての大沢在昌!初心者向けおすすめ文庫作品ランキングベスト10!

更新:2020.12.14

大沢在昌といえばハードボイルドです。自分の信念を曲げることなく闘い続ける主人公が、どの作品でもとても魅力的に描かれています。胸が熱くなるような強さと、傷つきやすい繊細さ、コミカルな面白さなどが入り混じる、素敵な作品ばかりです。

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena

不遇時代を乗り越えた作家、大沢在昌

1956年3月8日、愛知県名古屋市で生まれた大沢在昌は、小さい時から生粋の文学少年でした。父親は新聞記者で、家には常に大量の本があったようです。中学生の頃から作家に憧れ、小説を書き始め、同時に毎日たくさんの本を読み漁る日々を過ごしていました。

1979年、大沢在昌は「感傷の街角」という作品で、念願の小説家デビューを飾ります。ですが、当時日本ではハードボイルドが売れず、大沢の作品は10年以上もの間、初版で消えていく運命を辿ります。“永久初版作家”と呼ばれていた時代もありましたが、1990年、自身の作品がついに初の増刷となると、ここから一気にブレイクを果たします。

1991年「新宿鮫」で日本推理作家協会賞・吉川英治文学新人賞を受賞。1993年には、「新宿鮫 無間人形」で直木賞を受賞し、その後も数々の文学賞を受賞する人気作家となりました。

今回は、初めて大沢在昌の本を読む人におすすめの文庫本をまとめました。

10位:ニューヒーローは不運なサラリーマン『走らなあかん、夜明けまで』

主人公は坂田勇吉・27歳。菓子メーカーに勤めるサラリーマンです。

ある日坂田は会社から出張を命じられます。新商品のチップスを持参し、大阪で会議を行うというもの。坂田は銀色のアタッシュケースに新商品の菓子を入れ、新幹線に乗り込みます。しかしそのアタッシュケースが、なんとヤクザの取引用のものとすり替わってしまったから大変!

坂田は会議に間に合わせるべく、アタッシュケース奪回を計画します。

著者
大沢 在昌
出版日
2012-03-15

大沢在昌作品に登場する主人公は、強くてクールで、一匹狼的なキャラクターが多いですが、この作品の主人公・坂田は運が悪いだけの、ごくごくふつうの青年です。そんな坂田が出会った人々に助けられながら、ヤクザと対峙し、ボロボロになりながらも立ち向かう姿はひたむきでまっすぐで、紛れもなくヒーローであると感じます。

梅田やミナミといった大阪の街並みも登場し、人情あふれる大阪の人々に助けられる坂田。ハードボイルドでありながら、そんなあたたかい雰囲気をまとった作品になっています。

大沢作品を愛する読者にとってはとても新鮮に映り、初めて大沢作品を読む読者にとっては人情派のあたたかいハードボイルドとして取り入れやすいのではないでしょうか。

不運で、頼りなく、でも泥臭さの中にひたむきさと芯の強さを感じさせるニューヒーロー。そんな坂田の物語をぜひご堪能ください。

9位:本当の「嘘つき」は誰なのか?『ライアー』

物語は上海の高級ホテルから始まります。指定暴力団の下部組織、唐仁一家の組長・木筑は、酔った身体で自らの部屋へと戻ります。その木筑を待ち構え、あざやかな手つきで偽装殺人を行ったのは、本作の主人公である神村奈々。しかしその名は本当の名前ではありません。

少女時代に殺人を犯した奈々を監視していた「研究所」と呼ばれる組織。「研究所」は処理対象者を殺害することを任務とした、決して公になってはならない機関でした。「研究所」からスカウトされた奈々は名前と新しい人生を手に入れ、任務をこなしながらも夫・洋祐との間に一人息子の智を授かります。

任務と幸せな生活の板挟みになりながらも、手に入れた生活を守っていた奈々ですが、洋祐が火災に巻き込まれ、謎を残して死亡します。夫の死に疑問を感じ、謎を追う決意をする奈々。奈々は謎を解明し、愛する息子を守り切れるのでしょうか。

著者
大沢 在昌
出版日
2017-03-01

大沢在昌作品には女性が主人公となったものが何作かあります。本作を含め、どの作品のヒロインも強く、美しく、そしてはかなさや悲しさを身にまとった魅力的な女性たちです。夫と息子のいる幸せな主婦である一方、優秀な工作員という顔を持つ奈々。愛する者を守ろうとする女は、とてつもなく強いのだなと感じます。

研究所をはじめとする組織のバックグラウンドや奈々の生い立ちなどがしっかりと説明されていて、ありえないと思いながらも、現実にこのような組織があってもおかしくないと感じてしまうリアルさがあります。奈々の母親としての葛藤と悲しさが切ない一方、処理能力のあざやかさはしっかりとハードボイルドです。

夫の死の謎を追うにつれ、深い闇に足を踏み入れてしまう奈々。息子を守りながら、真実を知ることができるのか、そして本当の「嘘つき」は誰なのか。騙し合いと殺し合いの果てに待つ真実を目撃してください。

8位:犯人とともに消えた、一枚の絵。神か、魔物か。『魔物』

北海道の麻薬取締官・大塚は、ロシア人と地元ヤクザとの麻薬取引が行われる現場へと赴きます。取引の際に麻薬は押収できたものの、麻薬の運び人であったロシア人は警官数人を素手で殺害し、逃走。

重症を負いながらも素手で警官を殺害したロシア人。大塚は新種の薬物の使用を疑います。ロシア人の行方を追う中、彼が一枚の絵を大事そうに抱えていたとの証言が。大塚はロシア人ホステス・ジャンナの力を借りながら、謎の絵とロシア人の行方を追います。

著者
大沢 在昌
出版日
2010-11-25

大塚は優秀な捜査官でありながら、心の中にしまいこんだ、ある「傷」を持っていました。その傷と対峙する決意をした大塚。犯人と謎の絵を追い、ジャンナとともに向かったのは首都・東京。

大塚を支えるジャンナがとても勉強家で良い娘で、とても好感が持てるキャラクター。そして大沢在昌ファンにはおなじみの「新宿鮫」シリーズに登場した麻薬取締官・塔下が大塚の上司として登場し、ファンとしてはとても嬉しいサプライズです。

ロシアで語り継がれる伝説が登場し、ホラーやオカルトな面も感じさせるこの作品は、非現実的な要素もあることから、好き嫌いは分かれるかもしれません。しかしストーリーが陳腐ではなく、ロシア人マフィアや麻薬、ヤクザなどがしっかりと絡み合い、ハードボイルド小説としてもしっかりとした作りになっています。

大塚とジャンナの結ばれる未来を願い、そして新たな大塚の活躍を続編として読みたいと感じる、魅力的な作品です。

7位:タフで静かなハードボイルド『パンドラ・アイランド』

物語の舞台は東京から約700キロ離れたところに位置する孤島・青國島。25年前までアメリカの信託統治下にあり、今なお当時の習慣が残っている青國島に、元刑事の高州康彦が「保安官」として赴任してきます。

着任早々、島の老人が転落死するという事件が起きます。死の前日、老人が高州に残した謎の言葉。高州の前任者の保安官の謎の死。

高州の登場により青國島の一見平穏だった生活は一変し、潜んでいた秘密が顔を出します。それはまさにパンドラの箱。謎を解明しようとする高州を、排他的な島の人間が阻みます。村長、アメリカ人医師、謎の美女……。島の人々が守ろうとする秘密とは?

著者
大沢 在昌
出版日
2012-04-20

大沢在昌の作品といえば、強い主人公が活躍するハードボイルドというイメージがありますが、『パンドラ・アイランド』には派手なアクションはなく、しかし不穏な島の空気と「保安官」という現実離れした主人公の立場が、靄がかかった雰囲気を醸し出し、独特の味わいが感じられます。

もちろんそこは大沢在昌、単なる孤島ミステリーではなく、静かで、タフなハードボイルドとして、「渋い」作品に仕上がっています。ゆっくりと、夜長にお酒片手に読み進めたい、そんな作品です。

6位:緊迫感のなかの安らぎと絆…… 『北の狩人』

「…狩りは終わったんだな」

病室のベッドの上で梶雪人はつぶやきます。

「狩りは終わったんだ。俺は山に帰んなきゃなんねえ」 

つぶやきからは、彼の人生のうえに大きく圧し掛かっていた荷物をやっと下ろすことのできた安堵と、一抹の寂しさが感じられます。

梶雪人は、この物語の主人公です。彼は大都会東京の、新宿という街に狩りをしに来たのです。12年前、犯人を護送中にこの街で殉職した父の死の真相を知り、犯人を捕らえるために……。

著者
大沢 在昌
出版日

「東京にやってくる前、雪人はこの街に真実がある、と信じた。掘りおこし、たぐっていけば、いつかその真実につきあたるにちがいないと思った。」
(『北の狩人』本文より引用)

梶雪人 25歳 秋田県出身 現秋田県警刑事部捜査1課の刑事。彼の経歴です。

新宿に降りたった瞬間、彼の真実を追求する姿は、刑事から、父を殺された一人の息子にかえり、犯人(獲物)を捕らえようとする狩人へと変わっていきます。

そして、その雪人の強い思いと行動は多くの人間たちを巻き込みながら衝撃の結末へと進んで行くのです。

物語がハードな内容であればあるほど、その作品の中に安らぎや人間同士の信頼や絆が引き立ちます。雪人の純朴さ・青年らしさ・誠実さが、少女の生き方を変え、彼の信念の強さや、人を選ばない誠実さが暴力団幹部をもって「雪人は殺させない、俺が守る!」と言わせる彼の人間性に触れたとき、なぜか心の中を爽やかな一陣の風が吹き抜けた感じがします。

この作品の中には、人間同士の深い関わり合いの中で、人は変われる分かりあえるという強いメッセージも感じるのです。

5位:女性が活躍するハードボイルド小説 「魔女」シリーズ

壮絶な過去を持つ、美しくもタフな女性を主人公に描いたハードボイルド小説で、2016年現在までに3作品が登場しているシリーズです。

主人公・水原は、一目見ただけでその男の本質を見抜く、という特殊な能力を持っています。その力を活かし、東京の裏社会でコンサルタント業をする水原は、必要とあれば女の武器を使うことも厭いません。

著者
大沢 在昌
出版日
2009-05-08

水原はかつて、“地獄島”と呼ばれる島に売られた経験があり、特殊な能力はそこでの忌まわしい体験から得られたものでした。10年以上もの間その島で過ごした水原は、ついに掟破りの島抜けに成功し、こうして東京にやってきたという過去があったのです。

幾多の追っ手から追われる水原ですが、シリーズを通してとにかくかっこよく、美人で賢く、クールで強いのです。エンターテイメント性に優れ、ついついハマるシリーズになっています。

4位:新しいハードボイルドの世界を創り出した作品 「アルバイト」探偵シリーズ

高校生をハードボイルド小説の主人公に置く、という当時としては型破りな設定となったこの作品は、大沢在昌の作品の中でも、たくさんのファンから愛される人気シリーズとなりました。2016年現在までにシリーズ6作品が登場しています。

主人公・冴木隆は高校生。探偵事務所を構えている、父親の涼介はなかなかにワイルドで、女性にモテるのですが、隆にもわからない謎の過去を持っています。隆は優等生でもなく、荒れているわけでもなく、ちょうど良い不良で、探偵事務所の手伝いを頼まれるたびバイクを走らせます。

著者
大沢 在昌
出版日
1995-07-06

様々な事件を解決していく中で描かれる、この親子の姿がなんとも魅力的なんです。全体的に軽い調子で描かれていますが、大事な所ではビシッとかっこよく決めてくれます。シリーズが進むにつれ、明かされていなかった涼介の謎が徐々に判明していき、隆がどんどん成長していく姿も描かれ、愛着の湧くキャラクターになっています。

テンポ良く軽快に進んでいくストーリーなので、本が苦手な方でも、面白く読みやすいシリーズです。

3位:島という閉じられた世界で…… 『海と月の迷路』

2014年、第48回吉川英治文学賞を受賞した、壮大なスケールで描かれるミステリー作品です。昭和34年、炭鉱都市として栄えていた頃の“軍艦島”をモデルとした島を舞台に、若き警察官の奮闘を描きます。

主人公・荒巻は警察官になり6年目。炭鉱の島であるH島への赴任を命じられます。赴任から1ヶ月後、1人の少女の水死体が発見されました。不審な点がありながらも、事故として処理されましたが、荒巻は納得がいかず、事件として独自の捜査を進めていきます。

著者
大沢 在昌
出版日
2016-10-14

島と言う閉鎖空間は、言わば密室。周囲約1,200mの小さな島に、人口5千人が暮らしているのです。島の中には独特のしきたりや掟が存在し、荒巻の捜査に周囲との軋轢を生じてきます。

捜査の行方はどうなるか?次の殺人は起こってしまうのか?まだ若い荒巻が、捜査を通して多くのことを学んでいく様子も読み応えがあります。ハラハラドキドキしながら読める、極上の長編小説になっています。

2位:スピード感溢れるエンターテイメント小説 「明日香」シリーズ

女性刑事を主人公としたハードボイルド小説です。2003年、大沢たかお主演で映画化もされ、たいへん話題になりました。「天使の牙」「天使の爪」の2作品が刊行されています。

主人公・河野明日香は、警視庁保安二課に所属する、正義感の強い男勝りの女性です。ある日、麻薬組織クラウンのボス・君国の愛人である美しい女性、神崎はつみの身柄確保を命じられた明日香は、極秘ではつみを迎えにいきます。ですが、明日香の任務は敵である麻薬組織に筒抜けになっており、はつみとホテルの一室に潜んでいたところを銃撃されてしまいます。

著者
大沢 在昌
出版日

明日香は身体に激しく被弾しましたが、頭は撃たれていませんでした。逆にはつみは頭を撃ち抜かれ、体にはほとんど外傷がなかったため、脳移植の提唱者であるコワラスキー博士により、明日香の脳は、はつみの身体に移植されたのです。こうして美しさと強さを兼ね備えた、“アスカ”が誕生することになりました。

脳移植を施されたアスカには、どんな運命が待ち受けているのでしょうか。元の明日香の仕事のパートナーで、恋人でもある古芳和正との関係はどうなっていくのか。常に先が気になるシリーズ作品になっています。

1位:大沢在昌を人気作家に押し上げた不朽の名作 「新宿鮫」シリーズ

このシリーズが大沢在昌の代表作となるでしょう。長い間苦労してきた大沢在昌ですが、この作品により一躍人気作家の仲間入りを果たしました。

映画化、テレビドラマ化、漫画化されたこともある大ヒットシリーズで、2016年現在までにシリーズ10作品が登場しています。1990年、第1作目となる「新宿鮫」が発売されてから、これだけの年月が経っているというのに、今でもシリーズ通して売れ続けているのは本当にすごいですね。

著者
大沢 在昌
出版日
2014-02-13

主人公は新宿署の警部・鮫島です。“新宿鮫”の異名を持ち、一匹狼で組織の嫌われ者である彼は、それでも検挙率トップを誇ります。一見すると刑事とは思えないスマートな風貌で、様々な犯罪組織との闘いを繰り広げます。

鮫島の他にも、ロックバンドのヴォーカルで鮫島の恋人・青木晶や、鮫島の直属の上司で、良き理解者である桃井課長など、シリーズ通してのレギュラーメンバーもとても魅力的です。

決して信念を曲げず、命をかけて闘う鮫島がたまらなくかっこよく、登場人物それぞれが抱える悩みや、背負う人生が様々に交錯していくストーリーに引き込まれるシリーズになっています。

どの作品にも大沢在昌という作家の魅力が溢れています。ハードボイルドというジャンルを、今まで読んだことがない方でも十分楽しめる作品ばかりなので、興味のある方はぜひこのかっこいい世界観を堪能してみてくださいね。