森絵都の初心者おすすめランキングトップ6!『カラフル』だけじゃない

更新:2021.11.24

『カラフル』や『DIVE!!』といった書名を、目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。今回は児童文学、絵本、アニメシナリオまで手掛ける女性作家・森絵都の初心者向け作品を6つ紹介します。

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直木賞作家、森絵都とは?

東京出身の森絵都は、児童文学創作の傍らアニメーションシナリオまで手掛ける、マルチな女性作家です。彼女の作品は、児童文学らしい少年少女の心理を描き、若い世代の共感を得ています。

デビュー作は講談社児童文学新人賞を受賞した『リズム』。翌年、同作で椋鳩十児童文学賞も受賞します。2006年には『風に舞い上がるビニールシート』で直木賞を受賞。作家としての成長がうかがえる作品だと評価されました。

森絵都の代表作は、1999年に産経児童出版文化賞を受賞した『カラフル』でしょう。ベストセラーとして多くの人から支持されている作品です。中高生にぴったりな青春小説として思い出に残っている方も多いでしょう。

どの作品も異なる魅力をもつ彼女の小説ですが、なかでも今回は、初めて森絵都の作品を読まれる方におすすめの6冊をご紹介します。

6位: 弱さと強さを詰め込んだ

中学生の梨利とさくらは、万引きグループを抜けるため、最後の仕事として入ったタツミマートで店員に捕まります。メインの人物は4人。仲間は売らないという約束を破ってさくらを見捨てた梨利、さくらを逃がしたタツミマートの店員・智、さくらと梨利の仲を取りもとうとした勝田です。智はさくらを自分の部屋に招くようになり、勝田もその部屋に入り浸るようになります。しかし智は少しずつおかしくなっていき、梨利は売春斡旋容疑取り調べを受けます。4人は一体どうなってしまうのか……。

著者
森 絵都
出版日
2005-11-25


梨利やさくらは、万引きが常習になってしまった子どもたちです。学校で居場所がなくなるかもしれないから、万引きはやめられない。そんな彼女たちの前に、智の部屋という安らげる場所が現れます。彼の部屋の尊さを思うと、胸が締め付けられるような思いがします。本作では、そんな大切な居場所のために奮闘する少年少女が描かれます。

5位: 森絵都が描く、揺れ動く10代の心

本作は、主人公・紀子の小学3年生から高校3年生までの成長物語です。

各章で1学年ごとに話が進んでいきます。小学4年生の頃の誕生日会に始まり、怖い先生との戦い、家族旅行、そして恋愛の様子などが描かれています。またその中で、友人との別れを経験したり、主人公がグレたりと様々なことを学びながら成長していくお話です。

著者
森 絵都
出版日
2006-02-17


内容は決して派手なものではありません。いやな先生を敵対視しクラスで一致団結したり、恋に恋するような初恋を経験したり。これは自分の事か?と驚いてしまうほどに身に覚えのあることばかりです。あっと驚くような展開はありませんが、自然で身近にありそうな状況や紀子の心境に、アルバムをめくっているような気持ちになるのではないでしょうか。

さりげない日常の中で着実に紀子は成長していきます。自分に見えているものがすべてだった小学生時代、自分の環境に不満を抱き道をそれてしまう中学生時代、恋愛やアルバイトの経験で大人に近づく高校生時代。一生懸命楽しんだり悩んだりする紀子がうらやましく思えるかもしれません。自分も確かに感じていた事ばかりなのに、いつの間にか忘れてしまっていた感情を思い出させてくれます。

森絵都らしく、とても読みやすい作品です。自分の学生時代に重ねてみるのも面白いですし、自分の子供に置き換えてみても新たな発見があるかもしれません。また、今まさに学生の方が読んでもきっと楽しめる作品です。紀子の成長とともに青春時代の思い出を振り返ってみてはいかがでしょうか。

4位: 青春スポ根ストーリー

『DIVE!!』は水泳競技の一種である“飛び込み”に青春をかける少年達の物語です。森絵都原作のこの小説を題材に、ラジオドラマ、映画、漫画、アニメと、マルチメディア展開をしています。

舞台は、赤字経営により存続の危機に脅かされていたあるダイビングスクール。そこには競技の成績が平均並みの中学生の知季、両親が飛び込み選手である高校生の要一らが所属していました。スクールの存続のため、新しいコーチ夏陽子のかかげた条件は「このスクールから来年のオリンピックの日本代表選手を出すこと」でした。ここから、知季たちの猛特訓が始まります。天才ダイバーと呼ばれた飛沫を巻き込み少年達が苦しみ、悩み、葛藤しながらオリンピックに向かって進んでいく姿が描かれています。

著者
森 絵都
出版日
2006-05-25


「ザ・スポ根」といえる内容です。少年達がオリンピックという目標に向かってそれぞれもがき苦しみながら、それでも目標をあきらめず進んでいきます。周りにはライバルがいたり、「出場選手枠」という壁にぶつかったり、スランプに陥ったりします。それでも諦めずに進んでいく姿に胸が打たれることでしょう。

ここでは10mの高さから飛び込む“高飛び込み”が題材として描かれています。約1.4秒の間に技を繰り広げる競技です。

知季らにはそれぞれ個性があり、得意な技も違うのです。それゆえに、ライバルの存在に焦りを感じたり、嫉妬したりしてしまいます。そういった心境もしっかり描写されていて、青春っていいな、と思わせてくれます。

後味がすごくさわやかな物語です。森絵都は児童文学も書いている作家ですが、本作も読書感想文の課題図書として選ばれていたこともあり、とても読みやすい作品です。何かに打ち込むことの素晴らしさを教えてくれることでしょう。ぜひご一読ください。

3位:本屋大賞にノミネートされた森絵都の新代表作

舞台は1961年の日本。小学校の用務員室に勤める五郎は、生徒の母親千明に教師として見初められ、一緒に塾を起業することになります。月日が経ち、家族となった五郎と千明でしたが、塾の経営は一筋縄ではいきません。

塾運営をよく思っていない文部省との戦い。考え方の違いから訪れる家族崩壊の危機。時代の流れを描いた大島一家3代にわたる家族の物語です。

著者
森 絵都
出版日
2016-09-05


塾が世間に浸透していない時代から始まり、教育格差の広がる平成の時代まで描かれています。塾ブーム、文部省との対立、少子化問題など日本が歩んできた教育に関する問題が取り上げられています。これらの塾に降りかかる問題と、家族に訪れる困難がどことなく重なって見えてくるでしょう。

まずは五郎の目線で、次に千明、最後に二人の孫、一郎へと話し手を変え語られます。話し手が変わることで、色々な局面から塾の問題、家族の困難を見ることが出来るのです。五郎、千明から孫へと話し手の世代交代が行われることで時代の流れを感じることが出来るのではないでしょうか。

また、個性豊かな登場人物たちもこの作品の魅力の一つです。女性の比率が高い一族で、女性陣は千明をはじめ子供達もみんな強気なところがあります。それに比べ男性陣は比較的おおらかな性格です。登場人物はみな弱い部分を持っていて、それが共感を誘い応援したいと思わせてくれます。

「今はまだ儚げな三日月にすぎないけれど、かならず、満ちていきますわ」五郎を塾に誘う千明がこう語ります。『みかづき』は満月になれるのでしょうか。変遷の時代を生きた人、何かを教える人、これから教わる人、誰が読んでも考えさせられる作品です。森絵都による『みかづき』を、ぜひ読んでみてください。

2位: 森絵都のベストセラー作品

主人公は、死んでしまった中学三年生の「ぼく」。彼は天使のボスの気まぐれで、再挑戦のチャンスを与えられます。3日前に服毒自殺を図った「真」の体に入り込み、彼として生活を始めます。約1年間で前世のあやまちを自覚すれば、輪廻のサイクルに戻る「ぼく」の魂。

著者
森 絵都
出版日
2007-09-04


しかし「ぼく」には、前世に対する記憶がありません。いまの体となっている「真」のことすら知らないのです。身勝手な父、不倫する母、いやみしか言わない兄。そして学校では友達がいない「真」として生きながら、「ぼく」は自分の気持ちを考えていくことになります。

一見平凡な家庭にいる「真」を冷静に見つめる「ぼく」の図が、奇妙な世界観を作り出します。服毒自殺は、まっとうな選択肢の一つだったということが痛いまでに、ただし爽やかに書かれた作品です。森絵都といえば『カラフル』!という人も多いほど、多くの人に愛されている代表作です。

1位: 森絵都の直木賞受賞作

『風に舞い上がるビニールシート』は表題作含む全6編からなる短編集です。それぞれ、まったく違った舞台背景の物語が紡がれています。

いい意味でありきたりな、飾らない生活をおくる登場人物に自分を重ね合わせて読んでしまう場面もあるでしょう。そんな主人公達を通して森絵都が描くのは、すべての作品で一貫して“一生懸命生きること”、“自分自身の価値観の大切さ”です。

いずれも、いかにも森絵都らしい胸に迫る作品でありながら、社会性に切り込むこんな文章も書けるのか、と気づかせてくれる、大人に向けた良作です。表題作は、2006年に直木賞を受賞しています。
 

著者
森 絵都
出版日
2009-04-10


表題作「風に舞い上がるビニールシート」はUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)に所属する里佳とエドの物語です。里佳とエドは夫婦関係にありながら職業柄ほとんどの時間を一緒に過ごすことができていませんでした。里佳は平穏無事な生活を望み事務職をこなし、エドは一人でも多くの人を救おうと現場での業務にあたっていたのです。すれ違いの生活でも二人は愛し合っていましたが、エドのアフガンへの赴任が決まります。価値観の違う二人は、その後どうなるのでしょうか。

これは、一見愛し合う二人の大人の恋愛物語とも読めます。愛し合う者同士が環境の変化と、自身の価値観との間に葛藤する姿は誰にでも経験しうることなのではないでしょうか。また、自分の信じる道がある者同士が想い合う中で、その道がすれ違うときどういう選択をするのか。“自身の価値観と向き合う”という点では純粋な恋愛物語とは違う楽しみ方もできる作品です。

「器を探して」は、ケーキに人生を賭ける主人公の物語。大好きなケーキと仕事、そして恋人との板挟みにあう主人公の姿が描かれます。この恋人がどうしようもないワンマンパティシエで、自分が望んだ仕事だろう、やるならやるで黙ってやれ、など延々と彼女に対して文句を垂れる男です。それでも簡単には投げ出さない主人公の結論に、注目です。

その他の収録作品では、恋愛以外にも、仕事、勉強などを通じ自身の価値観と向き合い前向きに生きる人々が描かれています。読んだ後、きっと元気をもらえる作品たちです。ぜひご一読ください。

いかがでしたでしょうか。繊細で美しい点は森絵都作品の大きな魅力です。ぜひじっくりと時間をかけて読んでみてくださいね。

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