西條奈加のおすすめ5作品をご紹介!ファンタジー時代小説から現代ものまで!

更新:2021.12.4

ファンタジー色のある時代小説でデビューし、現代ものや本格的な時代小説へと作風を広げて注目を浴びる西條奈加の作品の中からおすすめ5作品をご紹介します。

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仕事をする意欲が湧いてくる作品を生み出す作家・西條奈加とは

西條奈加は、1964年北海道生まれの作家です。高校卒業後、帯広の薬品会社で7年勤めた後、25歳で上京して東京英語専門学校に入学し、翻訳を勉強しました。卒業後、貿易会社やメーカーで13年にわたって勤務した後、2005年『金春屋ゴメス』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞して作家としてデビュー。その後、2012年に『涅槃の雪』で中山義秀文学賞を、2015年には『まるまるの毬(いが)』で吉川英治文学新人賞を受賞し、人気・実力を兼ね備えた作家として活躍しています。

ポジティブに生きる人の姿を生き生きと描き、特に仕事をするうえでの知恵や工夫が満載された西條奈加の作品を読むと、仕事をする意欲がモリモリと湧いてきます。これも、作家デビューまでOLとして働いた20年間の彼女の経験の中で培われてきたものが存分に作品に投影されているからなのでしょう。

ストーリー性のある本が好きという西條奈加は、自身の作品でも、ストーリー展開の面白さに大きな魅力があります。和菓子や金貸し、人材派遣業といった専門的な仕事の話でも、その仕事に興味がなくても、読んでいるうちにぐいぐいと惹きつけられてしまうのです。

ファンタジーものから出発した西條奈加の小説は、人情あふれる時代小説、職人を描いたもの、そして現代ものと幅を広げながら、主人公の前向きな姿勢を描き、時代背景が江戸時代でも現代でも、こだわりなく楽しむことができます。

人情厚い金貸し屋は町の人気者!

ある目的のために田舎から出てきた庄屋の長男・浅吉は、金貸しで生計を立てているひとり暮らしの老女・お吟の家に住み着き、金貸し稼業を手伝い始めます。

けちで金に細かく嫌われ者のお吟でしたが、浅吉が手伝うようになってからというもの、店の評判はうなぎ上りです。ただ金を貸すだけでなく、借金を繰り返す者には計画的な金の使い方を教え、本当に困っている人には、仕事まで世話をするという浅吉に感謝する客が増えてきたからです。そんな浅吉の商売のやり方を描いた時代小説です。

浅吉は、故郷で知り合った丹羽九厘という算術家とともに江戸に出てきて、江戸でもたまに九厘と会っていました。

実は、彼だけが知っている浅吉の秘密があったのです。浅吉がお吟のもとに現れた理由は、いったい何だったのでしょう。

 

著者
西條 奈加
出版日
2009-12-08


武家の嫁姑と孤児の子どもたち、身売りされそうだった娘など。浅吉は、持って生まれた優しさで、ぶっきらぼうに振る舞いながらも知り合った人たちに救いの手を差し伸べていくのです。

この作品を読んでいて気持ちがいいのは、一方通行で終わらずに、浅吉も自分が助けた人たちから色々なことを学んでいくところです。人間関係次第で人生は変わっていくものだと感じさせられました。

お吟といい、丹羽九厘といい、クセのある登場人物と浅吉の間でテンポよく交わされる会話につられてあっと言う間に読んでしまいます。江戸時代の金貸しの仕組みや娯楽だった算術のことがわかりやすく表現され、なるほどなぁと、知識欲も刺激される本です。

また、この作品に出てきた孤児たちは、後に『はむ・はたる』という作品で大活躍し、浅吉を助けた高安門佑という役人は、『涅槃の雪』で主人公となります。合わせて読むと、より作品に親しみが湧いてきます。

祖母と暮らす中2少年の日常を爽やかなタッチで描いた現代もの

父の転勤に伴って北海道に引っ越した両親と離れ、祖母と2人暮らしをしている中学2年生・望(のぞむ)の日常を描いた短編集です。

望の祖母・お蔦さんは、若い頃芸者をしていて映画にも出演したことがあるという、粋なおばあちゃんで、こじんまりとした和装履物の店を営んでいます。

 

著者
西條 奈加
出版日
2013-09-20


店舗兼自宅のある神楽坂の商店街の連中がしょっちゅうやってきては店の奥で茶飲み話をしていて、近所との関係が濃い分、ちょっとした事件もみんなで共有しながら解決していきます。周りの人たちも家族のような目で望を見てくれて、こんな場所が増えれば、毎日ニュースで見る様々な事件も、少しは減りそうな気がします。

そして、二人の家庭では、なんと中学生男子である望が毎日の料理を担当しているのです。望の作る料理はみなおいしそうで、読んでいるとお腹がすいてきます。なぜそんなに料理が上手なのか、望の料理の師匠が誰なのか、それがまた、驚きなのです。

小さな失恋や、幼なじみや中学の同級生との友情、近所で起こった事件などを通して、望が少しずつ成長していく姿と、何かがあった時のお蔦さんの言葉が印象的で、思春期に親から離れて祖母と暮らしたことは、望の人生の宝物になるんだろうな、と思いました。

テレビドラマになれば、きっと面白いだろうなぁと思います。

感動のラストが待っている純愛時代小説

時代劇でよく知られている“遠山の金さん”こと、北町奉行・遠山景元の下で与力として働く高安門佑が主人公の時代小説。

天保の改革で人々の楽しみがどんどん制限されていくことに反感を持ちながら、改革を強引に進める水野忠邦に意見を受け入れられない不満が日毎にたまっていく遠山。その愚痴の聞き役である門佑でしたが、じくじたるものがありながらも、与力として町人たちを取り締まらなければなりません。

 

著者
西條 奈加
出版日
2014-08-07


冒頭、橋の上で雪を食べる遊女・お卯乃と出会った門佑は、取り締まりでひと暴れしたお卯乃とお白洲(現在の法廷)で再会し、遠山景元の気まぐれから、お卯乃を自宅に住まわせることになってしまいました。

料理も掃除も縫い物も、家事がてんでダメなお卯乃でしたが、素直な性格で、何事にも一生懸命取り組みます。ちょうどその頃、嫁に行った門佑の姉・園江が出戻ってきました。門佑にとって、子どもの頃から親よりも怖い存在だった姉は、誰に対しても厳しく、当然、お卯乃へのしつけにも力を入れ始めますが、お卯乃はいやがることなくそれに従います。きつい性格として描かれている園江のことをちっともいやな気持ちにならずに読めるのは、西條奈加の筆力でしょうか。

奢侈禁止令も出され、人々の楽しみが減っていく中で、職人や女浄瑠璃の起こした事件などの取調べの仕事に明け暮れる門佑は、いつしか家に帰ったら待っているお卯乃の存在に心が安らぐようになっていきます。

窮屈な時代に苦悩しながら生きる人々の中で一片のきらめきの存在となっているのが、お卯乃です。お卯乃は門佑だけでなく、読者の心も明るく照らしてくれるのです。門佑とお卯乃の関係はどうなるのでしょうか?最後のシーンでは、胸がいっぱいになります。一人で読んでいても思わず叫びたくなる印象的なラストシーンです。

この作品では、直情径行の遠山景元の人間くささが描かれたり、人を陥れてでも出世を狙う鳥井耀蔵の冷酷な姿が描かれたりと、数多くの時代小説で書かれてきた歴史上の人物が登場するのもまた、興味深いものがあります。鳥井耀蔵は、宮部みゆき著『孤宿の人』で主人公の少女に書を教える“加賀さま”のモデルとなった人物です。作家によって歴史上の人物の描写が違うのも面白いなと思います。

祖父・娘・孫娘の3代で営む和菓子店

麹町で和菓子屋「南星屋」を営んでいる祖父・娘・孫娘の仲のいい3人。主である治兵衛は、若い頃、全国を旅しながら菓子職人として修業を積んできたので、その頃に各地で覚えた菓子の中から毎日2品ずつを作って売るという商売の仕方で評判を呼び、「南星屋」の菓子欲しさに行列ができるほどのお店でした。

本作は、治兵衛が作る菓子をモチーフに、家族3人それぞれに起こる出来事を描いた連作短編集です。

治兵衛の作ったお菓子が真似だと訴えられたり、逆にそれがもとで平戸藩と懇意になったり、武士の子どもが弟子を志願して来たりとさまざまな出来事が起こる中で、治兵衛は職人として変わらず自分の菓子を作り、娘のお永と孫娘のお君とともに店を営んでいきます。

ある時から治兵衛は、自身の出生にまつわる秘密から、騒動に巻き込まれてしまいます。和菓子職人としての暮らしが長くなり、優しいおじいちゃんでもある治兵衛には、どんな出自が隠されていたのでしょう。

 

著者
西條 奈加
出版日
2017-06-15


治兵衛と弟の昔のエピソードや、家族がお互いに思い合う優しさにぐっとくるものがあります。寺の住職をしているこの弟が、個性的で愛すべき好人物なのです。

店の看板娘である、孫のお君の恋も描かれ、読んでいる誰もが応援してしまうことと思います。その恋の行方はどうなるのでしょうか。

おいしそうな和菓子がたくさん出てきますが、読み終えてから、作者の西條奈加が実は甘い物が大の苦手だと知り、びっくりしました。どうしてこんなにおいしそうに書けるのでしょう。読みながらおいしい和菓子を想像し、3人の幸せを祈るという至福の時間を送ることができます。読後感のふんわりとした、読みやすい時代小説です。

江戸時代の人材派遣業!

現在もハローワークや人材派遣業がありますが、江戸時代にも“口入れ屋”という人材派遣業があり、武家の女中や中間(武家の奉公人)などは、口入れ屋を介して決まることが多かったのです。

この作品の主人公であるお藤は、この時代には珍しく若い女性の身で、知り合いの大店の主・太左衛門から見込まれて、“冬屋(かずらや)”という口入れ屋の差配(管理人)となりました。太左衛門は、本店である油問屋の増子屋をはじめ、3つの支店を持っていました。その1つである冬屋“は深刻な経営不振に陥っていたのです。

 

著者
西條 奈加
出版日
2016-02-26


冬屋では、手代の島五郎たちはみな、新しく差配となったお藤に対して初めからいい感情を持っていませんでした。そう、(女だてらに何ができる?)という先入観で見ていたのです。

そんな厳しい視線の中でお藤が、次々とアイディアを実行し、冬屋の業績を上げていく姿は、読んでいて痛快な気分になります。お藤の実行した改革の1つに、奉公指南がありました。これは商家に世話する前に、冬屋で一定期間、仕事の内容を教えて慣れさせることです。いわば、今で言う職業訓練です。指南役にとお藤自ら抜擢したお兼のキャラクターが個性的で不思議な魅力を持っているため、奉公指南のシーンは特に楽しく読み進めることができます。

店の男たちからも信頼を寄せられるようになるお藤の仕事っぷりから、読者は大きな勇気とやる気をもらえることでしょう。

さて、仕事に生きるお藤ですが、小さな頃から苦労を重ねてきていました。お藤の過去にどんなことがあったのでしょうか。途中からは、仕事だけでなくお藤の一途な恋模様も描かれていて、切なくなってしまいます。お藤の恋の行方も大きな見どころです。

西條奈加のおすすめ5作品をご紹介しました。颯爽と生きる人間を描き、いつ読んでも新鮮な感動に包まれる、そんな作品が、まだまだ増えることが楽しみです。

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