真保裕一おすすめ作品ランキングベスト9!『奪取』を生んだミステリー作家

更新:2021.11.24

場面描写やアクションシーンが巧みな真保裕一(しんぽ ゆういち)。読みはじめたらページをめくるのが止まらない作品ばかりです。そんな真保裕一の作品のおすすめをランキング形式でご紹介します。

ブックカルテ リンク

アニメ制作者から作家に転向した真保裕一

真保裕一は脚本家であり、小説家です。1961年に東京都で生まれ、千葉県立国府台高等学校を卒業。「ドラえもん」などでおなじみの「シンエイ動画」で脚本の制作管理をする文芸、演出を担当していましたが、1991年『連鎖』で真保裕一は江戸川乱歩賞を受賞してデビュー。

デビュー間もないころは売り上げが芳しくなく生活が厳しかったようですが、『奇跡の人』や『ホワイトアウト』の映像化で注目されるようになっていきました。

ですが、『奇跡の人』は、出版元が真保裕一に無断でテレビ局側に許可してしまったため、激怒し、版元を移動させる騒動になったそうです。

映画版の「ドラえもん」でシナリオを担当し、作家としては推理小説、サスペンス小説の他に、時代小説や経済小説も手掛けるようになっています。

9位:真保裕一のデビュー作にして出世作『連鎖』

物語の語り手である羽川(はがわ)は検疫所に勤める、いわゆる食品Gメンです。物語は彼の大学時代の友人、竹脇が事故にあって海に落ちたと連絡をうけるところから、始まります。

竹脇は、「チェルノブイリ原発事故」で汚染されている食品がヨーロッパ経由で日本に輸入されているという警告の記事を最初に書いた人物の一人で、不審に思った羽川は、独自に調査を開始します。

著者
真保 裕一
出版日
1994-07-07

この小説の魅力のひとつは、いくつもの事件にからむ複雑な人間関係でしょう。

「自殺」と判断されつつある竹脇。竹脇の妻で主人公羽川と肉体関係を持っている枝里子。汚染食品を扱っていると告発され自殺した飲食チェーンの社長に、その中学生の娘。輸入食品を輸出しなおす「ダメージ屋」。

いくつもの事件が、多くの登場人物を巻き込みつつ、一つの復讐心として「連鎖」していきます。

本作には、1986年に起こった「チェルノブイリ原発事故」が重要な事件として登場します。当時ソ連の一つであったウクライナ共和国でおこった発電所の事故で、多くの放射能が飛散し、現在でも立ち入り禁止区域が設けられているほどの深刻な事故でした。

『連鎖』ではこの事件を一種のきっかけとして、輸入食品の安全性や裏話をエピソードとしてはさみつつ、多くのフラグがきれいな形でたたまれます。

輸入食品の「汚染問題」を学びつつ、複雑な人間関係を味わえる社会派小説であり、現実にも起こりうるフィクションとしてのハードボイルド・ミステリーです。

8位:仮釈放された元殺人犯の人生『繋がれた明日』

真保裕一『繋がれた明日』は仮釈放された元殺人犯、隆太の仮釈放後の生活と取り巻く人々の思いが描かれた物語です。

人の命を殺めてしまった場合、弁償できるというものでもありません。被害者の家族にとっては刑期を終えたからといって、その罪が許せるものでもないのです。また刑期を終えても世間は元殺人犯として白い目で見てしまうことは想像に難くありません。

著者
真保 裕一
出版日
2008-07-29

『繋がれた明日』では、そんな加害者に対する被害者の家族の気持ちや、世間の目線、また、殺人犯の家族という重荷を背負っていく家族の生活や、一緒に刑期を終えた服役仲間が、やはり復帰した社会でうまくやっていけない状況も描かれているのです。

隆太のように、「どうせ世間は認めてくれない」という思いや、「俺だけが悪いのか?」という感覚は、犯罪が絡んだ世界だけの話でもありません。仕事上の失敗や、家庭内での不和においても、「あのときの状況は自分だけが原因なのか?」と考えてしまうものです。出来上がってしまった人間関係の中では、「ほらまた」、「どうせこう思われてる」といった本作の主題そのものが日々展開されています。

そんな厳しい仮釈放後の世界であっても、手を差し伸べてくれる人は大勢いるのです。保護司をはじめ元服役者を雇い入れてくれる会社や励ましてくれる元の仲間もいます。

真保裕一は、事件そのものだけでなく、その事後談や経過に重きをおいた作品が得意です。普段は光のあたらない世界に光を当てることで、新たな人間ドラマを世に送り出しています。

『繋がれた明日』では、お互いが相手の立場や想いに気づいたとき、本人の鬱屈した思い込みや相手の思い込みをも変えていくこと、新しい関係に変化していくことが表現されているのです。最後にその部分に到達したとき、きっとすっきりとした読後感に浸ることができます。

7位:脳死ぎりぎりの瀕死状態からの生還『奇跡の人』

記憶喪失とは少し異なる、新たな人生を再び積み上げていくという「再成長」の物語となります。同じ身体でも過去の記憶がまったくなければ別人格なのでしょうか。『奇跡の人』は奇跡の大きさと過去の行状の深さの乖離がもたらす、新たな人生の苦悩を描いた社会派サスペンスです。

相馬克己は車の衝突事故により、脳死寸前の瀕死の重傷を負います。しかし母や医師による手厚い治療により、8年をかけ、退院して独り暮らしができるまでの「奇跡」の回復を遂げるのです。残念ながら母は病に倒れすでに亡くなっていましたが、病院や民生委員のサポートにより、克己は職を得、社会生活を営んでいきます。

しかし、記憶のない入院前の人生に疑問を抱いた克己は、周囲のサポートを振り切って単身東京に向かいます。わずかな手がかりから過去を少しずつ解明していくにつれ、現在とは別の「相馬克己」像が明らかになっていくのです。以前の相馬克己は何をしでかしたのでしょうか?

著者
真保 裕一
出版日
2000-02-01

過去と決別し、新たな人生を歩ませるためにあらゆる努力を施した亡き母のふるまいや、医師、以前の仲間は、克己に対し、過去ではなく未来「だけ」を向いていくよう諭していきます。しかし克己の「奇跡」により、それまで葬り去られていた関係者の過去も炙りだされてしまうのです。幾重にも重なる因縁を真保裕一が追い詰めるように明らかにしていきます。

脳死のような重篤な症状の場合は罪に問えるのか?医学の発達や「奇跡」のおかげで復活した場合、その犯した罪はどうなってしまうのか?真保裕一が『奇跡の人』によって読者に突きつけた重いテーマを是非お楽しみください。

6位:どうして主人公が狙われるのか?『正義をふりかざす君へ』

不倫の証拠写真の撮影者を調べてほしいと元妻に頼まれ、不破勝彦は故郷・棚尾市へ7年振りに戻りました。

不破は、義父のホテルを手伝うために新聞社を退職したものの、食中毒で幼い少女が死ぬという事件が起って義父が失脚、さらに妻とは不仲になり、故郷から離れていたのです。

そこで、不破はホテルの買収を知り、何者かに襲撃され……。

閉鎖的な地方都市で生きていく難しさを含めて、陰謀や権力などが描かれていく、真保裕一の硬派な社会派サスペンス小説です。

著者
真保 裕一
出版日
2016-03-04

「なぜ狙われるのか」という部分を読者は主人公・不破とともに知っていく形の展開になります。最後、その動機がわかったときの相手の執念にぞっとするのではないかと思います。

この過程で、不破はマスコミ報道の「犠牲」になったひとびとと出会うことになります。
間違いが訂正されなかったり、されても小さな記事で誰も気づいてくれなかったり……人生が狂ってしまったひとたちにとって「正義をふりかざす」相手とはマスコミであり、かつてそちら側にいた不破でした。

真実を伝え、知ることの重たさに苦しくなる真保裕一の作品です。

5位:フリーカメラマン・喜多川のヒストリー『ストロボ』

フリーカメラマン・喜多川は、若い女性から余命短い母親の遺影用写真撮影を依頼されました。その母親は以前、喜多川に撮影されたことがあるらしいのですが、喜多川には覚えがなく……。

「遺影」「暗室」「ストロボ」「一瞬」「卒業写真」の5作が収録された連作小説集です。

著者
真保 裕一
出版日
2016-07-08

「遺影」が50歳で、「暗室」で42歳、「ストロボ」で37歳、「一瞬」で31歳、「卒業写真」で22歳と、遡っていく形式になっています。

どうして22歳からの成長を追う形ではじめていないのかは、真保裕一の「あとがき」で明かされていて、そこまでが1つの作品として完成されている印象を受けました。

これだけでも構成が巧みなのですが、年齢ごとの章で描かれている人間の姿が的確で、それぞれの話をしっかりと形作っています。

長編ばかりが注目される真保裕一ですが、短編連作でも独特の魅力を放っていますので、ぜひ読んでいただきたいです。

4位:新田次郎賞受賞の山岳ミステリー『灰色の北壁』

大学山岳部のライバルである2人が遭難し、黒部の羆と呼ばれている屈強で無骨な男が救助に向かうことになる「黒部の羆」

山頂で撮影した写真は合成ではないかとの疑惑が糾弾されても、沈黙を守り続けるクライマー・刈谷を描く表題作「灰色の北壁」

雪山での事故で息子を失った坂入は、息子の3年後の命日に、息子が命を落とした山で死を遂げることを覚悟し、山を登る決意をする「雪の慰霊碑」

この3作が収められている真保裕一の山岳ミステリー集です。達成感を与えてくれると同時に牙をむいて襲ってくる両面性を持つ登山描写が素晴らしく、登場人物がしっかりと描かれて、心情の折り込み方も巧みで、ミステリーとしての完成度も高い作品ばかりです。

著者
真保 裕一
出版日
2008-01-16

どの作品も最後に意外な真実がわかるのですが、その展開のテクニックもさすがでした。実際に登山しているような緊張感も抱ける真保裕一の一作。おすすめですよ。

 

3位:偽札を作り上げていく復讐劇 山本周五郎賞受賞作『奪取』

テレフォンカードを偽造したり、外国通貨を使用してゲームセンターで遊んだりしているちょっとワルな道郎と雅人。

雅人がヤクザの街金でつくってしまった1260万円という借金を返すために、二人で偽札作りを実行していく……。

3部構成で、次第に偽札の完成度が上がっていくという展開です。そこに復讐劇が絡んでいきます。

著者
真保 裕一
出版日
2012-06-14

計画した犯罪を行動に起こすための準備が、ノリの良い会話とユーモアがあって、軽快で読みやすい文体で微に入り細に入り描かれていて、さくさくと読み進められる上に、緻密な構成が相まってクライムノベルとしての完成度がかなり高いです。

偽札で人を騙すわけですが、その理由が納得できるものなので、ふたりに反感は抱かないのではないでしょうか。

テンポの良さに引き込まれる真保裕一の傑作です。

2位:ダムを舞台にしたアクションサスペンス!『ホワイトアウト』

今作で真保裕一は吉川英治文学新人賞受賞作しています。

日本最大の貯水量を誇るダムを占拠した武装グループは、職員や麓の住人たちを人質にして50億円を要求してきます。期限は24時間。

ダムの職員である富樫は、荒れ狂う吹雪の中、敢然と立ち向かっていき……。
 

著者
真保 裕一
出版日
1998-08-28

何度もその場から逃げだすチャンスがあった富樫がどうしてひとりでテロリストに立ち向かっていくのか、が描かれる緊張感にページを捲る手が止まらないどころか、最後まで一気に読み進めなければ落ち着かない気持ちになるくらいの作品です。

とにかく、極寒の雪山、降りしきる雪の厳しさ、吹雪などの描写が素晴らしい。眼の前にダムが見えて、降り続く雪の中に立っている気分になってしまいます。

さらに、登場人物の置かれた状況や心理がひしひしと伝わってきますし、警察とテロリストとの間の緊張感やラストのどんでん返しに思わず驚きの声が出てしまうかもしれません。

映画以上に映画のような、真保裕一のアクションサスペンスです。

1位:真保裕一の最高傑作!『栄光なき凱旋』

1941年、日本によるハワイ真珠湾攻撃が行われた時からの、アメリカ西海岸、ハワイにおける日系人青年達の物語です。国籍とは?差別や偏見とは?愛や友情とは何なのか?様々なテーマを巧みに組み合わせて壮大な物語が展開されます。

真珠湾攻撃を境に、ロサンゼルスではジローとヘンリーの人生が、ハワイではマットの人生が一変します。それまでもアメリカでは日系人はあらゆる場面で差別を受け、生活は苦しいものでした。しかし戦争開始後、アメリカ西海岸では仕事や住居を国家から奪われ、強制収容所に押し込められます。ハワイでも日本人会の有力メンバーはFBIに連行され、長期拘留されたのです。

三人の青年は、それぞれの立場や考えでアメリカ人として認められたいという想いから、軍隊へ入隊します。ジローは日本語の才能を認められ、陸軍情報部へスカウトされ、マットは仲間と一緒に陸軍へ志願入隊します。ヘンリーは日系人のみを対象とした夜間外出禁止令に抗議して警察に逮捕されるのですが、その後志願して陸軍へ入隊します。

強制収容所においても軍隊においても、日系人たちはアメリカ人なのか日本人なのかをあらゆる場面で問われます。生まれた国の国民なのか、住みついた国の国民なのか。様々な場面で日系人は苦悩するのです。

著者
真保 裕一
出版日
2009-06-10

戦争小説としても本作品は卓越しています。前線の活動は映画を見ているようなスピード感と存在感を感じることができるからです。

実戦に入るまでの兵士たちの心の葛藤や変遷は読んでいるこちらも思わず緊張してしまいます。ガダルカナルにおける作戦では、ジローの敵に遭遇した際の緊迫感や、どこにいるかわからない敵を見極める息遣いを感じるのです。ヨーロッパ、イタリア戦線では砲弾の炸裂や、ヘンリーやその仲間の怒鳴り声、救出展開描写にスピード感・存在感を感じます。そして兵士達が感じる、恐怖感や高揚感、仲間への気遣いといった心の動きのダイナミックな描写が、物語に奥行きを与えているのです。

日系人に対し差別や偏見に溢れていた時代であっても、偏見を持たずに接してくる人々も少なからず登場します。国籍や人種を問わず約束を守る人を信じる、結果を出す人を信じる、そんな信じる人々に日系人社会も支えられていたんですね。

複雑な日系人社会をたくましく生き抜いた人々想いや時代をしっかりと感じることのできる作品です。


ビジュアル表現が大事なアニメのシナリオなどを書いていたからでしょうか。真保裕一の場面描写はほんとうに巧みで、それを読むだけでも得した気分になれます。もちろんミステリーとしても傑作ばかりですよ!

  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena
もっと見る もっと見る