『紅茶王子』で人気の山田南平のおすすめ漫画作品5選!

更新:2021.11.26

いわゆる恋愛ストーリーや、学園コメディにおいて、何よりもワクワクするのは、予想の付かなかった展開が繰り広げられた時ではないでしょうか。今回は、そんなハラハラ、ドキドキを得意とする、山田南平の5作品を、紹介いたします。

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幅広い世界観と独自性を兼ね備えた漫画家、山田南平とは

山田南平は、1991年に、『花とゆめプラネット増刊』春の号でデビューし、以降『花とゆめ』を中心に白泉社の雑誌で活躍する漫画家です。

恋愛漫画を得意とし、思春期の男女の心情を描かせればピカイチの存在。そこにファンタジーの要素や、山田南平自身が興味を持ち、趣味としている世界を作品の中に取り入れ、ストーリーに幅を持たせていえるのです。

公式ブログでは、作品の裏話をはじめとして、人気作のラフスケッチや、作者本人の近況、題材となったモチーフについての思い入れなど、頻繁に更新が行われていて、作者の素顔を伺い知れるものとなっています。

山田南平が描く恋と「オトナ」の関係

本作は、1990年から1997年にわたり連載されていた山田南平の代表作のひとつ。歳の差カップルをテーマした作品です。元々は「123cmのダンディ」から始まり、「久美子&真吾シリーズ」として連載されていましたが、後にシリーズ全体を総称してこのタイトルとなりました。

著者
山田 南平
出版日


さて、歳の差カップルと言うと、それだけで様々な障害が思い浮かぶかもしれませんが、本作の主人公である久美子と真吾は、7歳差の恋人同士です。成人した大人同士であれば、7歳と聞いてもそれほど大きな差は無いように感じられますが、ふたりの場合は久美子が17歳の高校2年生。真吾はなんと、10歳の小学4年生なのです。

野良犬に吠えられている所を真吾に助けられたことをきっかけに、久美子は真吾に恋をします。猛アタックの末にめでたく両想いとなりますが、価値観の違いはもちろんのこと、受験問題や家庭の問題など、現実的な壁が次々と立ちはだかります。時にはぶつかり合いながらも、それぞれが成長していく姿がコミカルに描かれます。

久美子は美人で、周囲からの評判も申し分のない優等生ですが、真吾のこととなれば話は別。毎日小学校に真吾を迎えに行ってしまったり、嫉妬心をあらわにして真吾に詰め寄ったりもします。

「誰にでもやさしいのはいやなの」(『オトナになる方法』より引用)

真吾は久美子とつり合うようになりたいという気持ちと、10歳であるが故の純粋さ、誠実さで、そんな久美子を真正面から受け止めていくのです。短気で乱暴な言葉遣いをすることもありますが、恋人に対して真剣に向き合う姿は久美子が恋に落ちてしまうのも当然と言えるくらい、魅力的です。

真吾の成長はもちろんですが、久美子も真吾からたくさんのことを学び、考え、成長していきます。そんな二人の姿が微笑ましい本作は、恋をすることで得られる、大切な気持ちを思い出させてくれる作品です。

3つの願い、あなたは王子に何を願う?山田南平の代表作!

満月の晩に、紅茶の入ったカップに満月を映して願い事をすると願いが叶う。そんなおまじないを「風早橋学院」お茶会同好会会員、奈子(たいこ)、雪子(通称・そめこ)、美佳(はるか。男子部員)が試してみると、カップの中から小さな王子様が飛び出してきました。

著者
山田 南平
出版日


そして彼が「呼び出した人間の願いを3つ叶えるまでは帰れない」と言うところから、ストーリーが始まります。可愛らしい絵柄とファンタスティックな設定で、現実離れしたような印象を与えるかもしれませんが、ストーリーは現実に近い学園ラブコメディと呼べる作品です。

奈子のカップからはアールグレイが、美佳のカップからはアッサムという名の紅茶王子が出てくるのですが、アールグレイはこれぞ王子様!というキャラクターであるのに対して、アッサムは口も悪くぶっきらぼうという、両極端な性格です。それだけでも、一体どんな展開になるのか想像が膨らみますよね。物語が進むにつれ、アールグレイの妹であり、紅茶王女のオレンジペコーや、セイロン、ホンムータンも登場し、風早橋学院の生徒会メンバーも加わって、どんどんストーリーが展開していきます。

この物語は、個性豊かな登場人物たちが織り成す人間模様や恋愛模様、人間界と紅茶王子たちの世界が絡み合い徐々に交錯してく部分など、様々な楽しめるポイントが詰まっています。そしてその中でも「願いごと」というキーワードが最も重要な要素となってきます。

王子たちの叶えられる願いごとは、「ささやかな願い」でなければなりません。一体どんな願いごとを叶えてもらうのか?という点ももちろんですが、その願いごとするまでの経緯が、時には切なさも交え、とても丁寧に描かれているのです。

恋愛、コメディ、ファンタジーなど、たくさんの素材を盛り込みながら、気が付けば紅茶の名前にも詳しくなってしまう、1粒で何度でも美味しい、欲張りな作品となっています。

『紅茶王子』の後日譚でもある短編集『紅茶王子の姫君』について紹介した<『紅茶王子の姫君』が面白い!原作の後日談をネタバレ紹介!無料で読める!>もおすすめです。ぜひご覧ください。

ある日突然ヒーローに!山田南平の痛快学園コメディ

こちらは、歌舞伎「三人吉三」をモチーフとして取り入れた、ユニークな作品となっています。もちろん、歌舞伎をご存じなくても充分に楽しむことのできる、学園コメディです。

著者
山田 南平
出版日
2005-05-19


舞台となる庚申丸(こうしんまる)高校には、「三人吉三」と呼ばれる謎のグループが存在しています。生徒からの依頼によって、盗みや、問題のある教師をこらしめるという、学園のヒーロー的役割を担っています。主人公で、この学園にやってきた転校生、八百屋七々子(やおや ななこ)、通称やぁや。彼女は新聞部の見習いですが、正式な部員になるため、この「三人吉三」の存在を突き止めようと調査を開始します。

しかし、やぁや本人が「三人吉三」のメンバーである三代目のお嬢吉三に任命されてしまいます。ストーリーでは彼女が戸惑いながらも、徐々に吉三として活躍する姿が描かれます。そして、やぁやは元々引っ込み思案な性格なのですが、お嬢吉三として活躍していくうちに、友達ができたり、自分の想いを伝えることができるようになったりするなど、成長していくのです。

また、実際の歌舞伎では「小悪党」という位置づけの「三人吉三」ですが、本作ではヒーロー的存在。言動はもちろんのこと、装束なども非常にカッコ良く描かれています。そのビジュアルも本作の魅力の1つと言えるでしょう。

なお、歌舞伎「三人吉三」のストーリーと、本作のストーリーは全く異なるものですが、登場人物の名前や高校名なども、実は歌舞伎の中に出てくる名称とリンクしているなど、細かいこだわりを感じさせる作品となっています。

歌舞伎という和のテイストを取り入れながら進む山田南平の得意とする、学園コメディである本作。前向きな気持ちにさせてくれると同時に、こんな学校に通ってみたい!と思わせてくれる、とても愉快な物語です。

切なくも暖かい。山田南平が描く、海辺の町での恋の奇跡

ビーチコーミングという行為をご存じでしょうか。本作は、海で拾った、貝殻などの漂着物を収集して標本にしたり、アート作品を創作したりする、通称浜拾いと呼ばれる、ビーチコーミングや、そこから派生したシーボンアートを題材としています。その作風はとても爽やか。その題材に関わる登場人物たちの恋愛が海の近くで進んでいきます。

著者
山田 南平
出版日
2007-01-19


舞台は海辺の町。通学バスの中で痴漢に遭った、主人公の桜井朝(さくらいとも)は、ある青年に助けられます。青年が落としたキーホルダーには、幼い頃海で出会った男の子に貰ったメノウとそっくりな石が付いていました。朝を助けた青年は、同級生の田中天人(たなかてんと)の兄であり、二人が通う高校の校務員である田中陸。助けてもらったことをきっかけに、朝は陸に惹かれていきます。

かつて海で出会った男の子は天人なのですが、それに気づいているのは天人だけ。過去の出会いと約束、現在の状況や心情が絡み合いながら、テンポよくストーリーが進行していきます。

これまでご紹介した山田南平の作品は、設定こそ特殊であっても、ラブコメディの要素が強いものでした。しかし、本作は兄妹の死による親子関係の不和や不登校といった、少々重いエピソードも含まれます。

しかし、それらを通してもなお、主人公である朝が、どんなことにも一生懸命で優しい。どんな相手に対しても真っ直ぐに向き合う姿が嫌味なく描かれていて、重いテーマを扱っていながらもどこか爽やかさが感じられる作品となっています。

天人の制作したシーボンアートに感銘を受け、弟子入りする朝。恋する相手は陸ですが、ひょんなきっかけから、天人の双子の兄妹である洋子が亡くなったことを知ります。そして自分にできる最善を尽くそうと、天人の作品を世に出すために奮闘します。

また、留年したことをきっかけに、不登校がちになってしまった満(みちる)。彼女のことを気にかけて欲しいと陸から頼まれれば、複雑な心境になりながらも懸命にコミュニケーションを取ろうとするのです。

高校生にして、すでにシーボンアートの才能を発揮し、高い評価を受けている幹夫も登場し、恋愛に関してももちろんですが、ビーチコーミングや、登場人物たちの人間関係も、色濃く描かれています。

海に流れてきた物を、ただのゴミとはせず、価値あるものに昇華させるビーチコーミング。その題材に相応しく、朝と関わっていく登場人物たちは皆、真っ直ぐに、前に向かって歩いていきます。彼らの「再生」の姿が、清々しい気持ちにさせてくれることは間違いありません。

山田南平が日舞の世界を題材に!繰り広げられる胸キュンストーリー

ある日突然、憧れの人と心が入れ替わってしまったら?

本作は、そんな面白そうだけれど、全く予想のつかない事態をコミカルなタッチで描いた作品です。それだけでも展開が気になりますが、日舞の世界が取り入れられていてより興味をそそられるシチュエーションとなっています。日舞というと、一般的にはなかなか馴染みの薄い世界。しかしそんな世界の様子も自然に作品に組み込まれていて、山田南平の力量を存分に感じさせる作品となっています。

著者
山田 南平
出版日
2009-06-19


千尋、通称ちろは、近所でも噂の美少女ですが、天然でどこか抜けたところのある中学3年生です。幼なじみの律、通称りっちゃんの家は、行谷流(なめがやりゅう)の家元で、ちろも、そこで日舞を習っています。家元の家で育ち、すでに「おいらん王子」と呼ばれ、売れっ子の花形スターである律に、幼い頃から憧れを抱いていたちろ。ある時、彼女は社で「りっちゃんになりたい」と願います。するとなんとその願いが叶ってしまい、ちろと律の心が入れ替わってしまうのです。

しかし、この入れ替わりは、一定の時間が過ぎると元に戻ります。でも、ちろか律のどちらかが、「りっちゃん(もしくは、ちろ)になりたい」と願うことで、再び入れ替わってしまいます。元々律に憧れを抱いていたちろが、律になりたいと思うことは当然としても、律が、ちろになりたいと思うのは、なぜなのでしょうか。

もちろん、幼い頃から可愛らしい律を、妹のように慕っているということもあるでしょう。しかし、それだけではなく、女形としての苦悩や、ちろに対する複雑な心境も絡み合い、ふたりの関係がこの先どうなっていくのか、という期待にも繋がります。

ちろの姉でもあり、律のマネージャーでもある百合や、律の兄であり、律の通う高校の教師でもある鎮(しずか)も、メインの登場人物としてストーリーを盛り上げます。物語中盤から登場する、人間の姿にも化けることのできる狐の左近と右近も加わり、一体どんな結末となるのでしょうか?ハラハラ、ドキドキの連続で、続きが気になって仕方がない作品となっています。

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