正直、メシなんて作りたくねえんだ【山本裕子】

正直、メシなんて作りたくねえんだ【山本裕子】

更新:2021.12.5

こんにちは、初めまして、山本裕子と申します。長野で農家の嫁をやりつつ、二歳児の息子を育てつつ、俳優をしています。今月から、好きな本をむにゃむにゃとご紹介させていただくことになりました。大変個人的なあれで恐縮ですがもしお時間ありましたら是非。

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ひょんなことから長野県でトマトを栽培している者と結婚して、月の半分は東京、あとの半分は長野で畑仕事の手伝い、という二重生活をしばらく送っていましたが、二年ちょい前に息子を産んだので、それからは基本長野で生活、俳優の仕事は片道三時間半かけてバスで通勤しています。

いわゆる主婦業が通常業務となったのもその時からです。つまりは、毎日家族のごはんを作らなあかん。

こーれーがーさー! もおおー、さあ!

大学に入った年から一人暮らしで二十余年、自分の思うまま好きなものを食べてきた。料理は料理したい時に作りたいだけ作った。「今月はカレー強化月間」と誰にともなく宣言し、無暗にカレーを食べた。ハンバーガー食べたきゃMへ行きゃいい、一人呑みたきゃ暖簾をくぐりゃいい、肴はあぶったイカでいい、誰に何を強制されるでもない、我々は自由を手に入れたのだ、うおー!

そんな生活を長々送った末の、『家族のごはん』ですよ。

うちは二歳児と、四十代夫婦、八十三歳義父が住んでいる。まあね、朝昼は、いいよ、適当で。ごはんかパンかせいぜいパスタだ。味噌汁に卵、納豆、じゃこ、ソーセージ、このあたりを順繰りに。

でもね、ごはん作りのメインっつったらそら、夕食でしょ? それぞれの一日の労務を終え、他愛ないことを話したり話さなかったり、いいことあったりなかったり、まあおいしいものでも食べて今日をリセット、また明日もがんばろうぜなんとなく。そう、夕食は毎日が宴だ。さて、そこで、何たべる?

私も夫も毎晩飲むのでつまみを食べたい、が、夜は炭水化物をとりたくないので野菜およびタンパク質中心でがっつりいきたい。義父は三食シロめしと味噌汁がマスト、ご飯を汚したくないので丼もの不可、あまり量を食べられないからせめて品数を増やしたいし、過度にスパイシーなものや脂っこいものはきつかろう、とはいえ煮物や薄味のやさしい料理はあんまり好きじゃない。二歳児は今、頭にあんこの詰まったキャラクターのポテトと、チーズと、チョコに夢中だ、どんな小さな野菜片もつまみ出して断固拒否、塩分量を控えたいがご飯には必ずわかめごはんのもとと野菜ふりかけをダブルで要求。さらに言わせてもらうならば、うちで採れる、市場に出さない自家用野菜の在庫を、悪くなる前にどんどん消費していただきたい。

これらの条件をすべてクリアできる献立なんて、献立なんて……!

『どーんと、グリーンカレーの大鍋ひとつ、あとに残して旅に出たい』(字余り)

自暴自棄な午後四時半、私はこの本を開くのです――。

『きのう何食べた?』

著者
よしなが ふみ
出版日
2007-11-22
講談社モーニングで月一連載中。現在単行本が12巻まで出ている。都内の2LDKに住むゲイカップル、弁護士のシロさんと美容師のケンジの夕食の献立を軸としたマンガ。ここに出てくるのは、日々の、生活にきちんと根差した食事。どこぞの味っ子みたくプリンを油で揚げたりしないの。究極だ至高だと労力採算度外視で、朝から漁船に乗ったり、しないの。

めんつゆ、だしの素上等。月三万の予算で、安い食材を繰り回し、甘辛すっぱいのバランスのとれた一汁三菜。例えばこんな感じ。

・鶏肉とアスパラの中華風塩いため
・大豆入りひじき煮
・新たまねぎのおかかじゃこ和え
・じゃがいもとわかめの味噌汁
・白ご飯

まるで実家のようなご飯を作っているのが、男であるシロさんであるところに、私は救われる。メシを母性で作らなくていいんだ、と。

料理を作ること、その行為自体を目的として、充実感を味わう。食材をぴったり使い切る、とか。なんか材料費すごい安く上げられた、とか。今日えらく彩りよくなーい?とか。いいよ~、くせになるよ~、このやってやったぜ感。

そんな私のごはんづくりゲームにつきあってもらおう。食べてうまけりゃなお幸せ。

『買い物は狩猟(ハンティング)に似ている』

仕事帰り、スーパーにカゴ持って入っていくシロさんの眼はまさにハンター。
よし、我も、いざ狩らん! 勇ましくSEIYUに突撃~~。

『ホクトのきのこレシピ』

著者
出版日
2013-09-26
副題がこれまた素敵。『おいしく、きれいに、健康に』。ありがてぇな!

おかずに、ごはんに、おつまみに、きのこメーカーによる、きのこレシピ。舞茸・ブナシメジ・ブナピー(ブナシメジの白いやつ)・エリンギ、を使ったレシピをご紹介。

体に良いレシピ集、とかいいつつ、変にヘルシーに偏ってないというか、なんせ写真がボリューミーでおいしそうなので。これ大事。実際、作りやすい材料で、おいしいし。きのこ、安いし。価格も年間通して安定してるし。これで免疫力アップ、むくみ解消、疲労回復とくれば、なんだこれ魔法か。

レシピのほかおまけ的に、ホクト社員による「私はこれで〇キロやせました」とか「これでお肌の調子が」といった体験記が載っていて、こういうの大好きです。

『食堂かたつむり』

著者
小川 糸
出版日
2010-01-05
え、この並びで、この本。やっつけご飯の対極じゃん。もちろんめんつゆとか使いません。

主人公は一日一組のお客のために料理を作るのだが、その作っている工程の描かれ方が、とても詳しく、楽しい。そして大変おいしそう。子羊のローストと野生のキノコのガーリックソテー、なんて、料理名だけで飲めちゃうぜ。

丁寧に、料理をすること。丁寧に、生活すること。食べるひとのことを思うこと。日々プラスチックトレイにパックされたお肉を買ってるうちに麻痺してくる、食べることはいのちをいただくこと、をきりりと思い出させる。「豚切り落としがグラム百円越え? そりゃねーわ」とかぶつぶつ言ってる場合じゃないのよ、切り落とされる身にもなれ。自戒を込めてこの一冊。

『わしらは怪しい探検隊』

著者
椎名 誠
出版日
それでも気分が上がらなきゃ、これでどーんと行ってやりましょう、どーんと。
海岸でどーんと火を焚いて、とりあえずまず、玉ねぎをむこう。それを刻んで油で炒めよう。あとはそこに水と、その場にあった野菜や肉もしくはその代用品を投入、ぐつぐつ煮よう。最後に①カレールー②醤油③味噌、のうちどれかをぶち込もう。カレーか、けんちん汁か、豚汁、が出来上がります。これにシロめしがあれば一食出来上がりだ。

青春小説だと思って読んでいます。おじさんたちが島へえいやっと出かけていって、重い荷物かかえてよたよた歩き、でかいテントはって火をおこし、海へ獲物を捕りに行く者、釜で飯を炊く者、ビール飲んでわあわあ食べて歌って踊って吠えて狂乱の宴会騒ぎ、朝むくんだ顔でのそのそ起きて、のそのそごはんの用意をする。

最高だ。シャレオツなアウトドアファッション、とか、異世界。テント前にぴらぴら三角の旗なんて飾らなくていい。ドテラでもいい、段ボールでもいい。このひとたち無人島に流されてもきっとなんとか生き抜くなあ、そんな生命力。永遠の憧れだ。じゃあ自分もキャンプに行きゃいいじゃん、と。ごもっとも。おかげさまですぐそこに山だ川だとアウトドア天国に住んでおります。でも、虫とか、嫌。暑いのも寒いのもごめんだ。冷暖房利かせたお家で寝ころがって、怪しい探検隊の本を読んでいるのが一番幸せです。おあとがよろしいようで。

さて、こんなんですが、どうですか。ひとさまに滔々と述べられるような主義主張はとくにないけれど、好きな本はたくさんあります。書評、などと大それたものではなく、主婦、農家、育児、俳優、その他いろんな目線で、本を話題にできれば幸いです。
では、スーパー行ってきます。

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