本当に面白い直木賞受賞作品おすすめ5選!【2010年代編】

更新:2021.12.4

1935年に芥川賞と共に創設された直木賞。選考は年2回行われ、数々の人気作品を世に知らしめてきました。今回は2010年代の受賞作の中からおすすめの作品をお届けします。

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直木賞とは

直木賞とは正式名称を「直木三十五(なおきさんじゅうご)賞」といい、作家の直木三十五の名を冠した賞になっています。創設したのは文藝春秋社を作った菊地寛。自らも作家であり、『恩讐の彼方に』や『父帰る』、『真珠夫人』などを残しています。この菊地寛が、友人であった芥川龍之介と直木三十五の死後に彼らの業績を讃え、新しい才能を発掘するために作ったのが芥川賞と直木賞なのです。

芥川賞は純文学に、直木賞は大衆文学に与えられる賞ということになっています。菊地寛自身は「自分のために書くのが純文学、他人の為に書くのが大衆文学」と言っていたそうですが、エンターテインメント作品の中にも作者の哲学はあり、純文学の中にも読者が楽しめる要素があるのは必然ですから、ここ、と明確に線引きするのは難しいでしょう。もともとは両方とも新人作家向けの賞でしたが、近年では直木賞は中堅作家に与えられることが多くなっています。これは、多くの人に読まれるものを書き続けることができるか、という部分も含め選考を行っているからなのです。

時代小説が多い印象がある方もおられるでしょうが、実はそればかりでもありません。多様な受賞作の中から5作をご紹介します。

夢を打ち上げる弱小メーカーの奮闘

ロケットエンジン開発失敗の責任を問われ、信じていた人からも見捨てられて宇宙科学開発機構を辞めた過去を持つ佃。

父親の電子部品工場を継いだ佃はかつての研究を生かしてエンジンやデバイスを手がけていましたが、大手の取引先から突然取引中止を言い渡され、メインバンクからは追加融資に難色を示されるという窮地の中、更にナカシマ工業が特許侵害で佃製作所を訴えたという知らせが届きます。ナカシマ工業は裁判を通じ他社を蹴落とす卑劣なテクニックを持っていたのです。

著者
池井戸 潤
出版日
2013-12-21

「倍返しだ!」のセリフで有名になった『半沢直樹』の原作者池井戸潤による、奮闘する中小企業の物語です。

佃工業にはナカシマ工業との裁判をはじめ、特許買取を望む帝国重工との攻防、佃のやり方に対する内部からの不満など問題が次々に起こります。銀行からの出向組で冷たく見えるものの実は佃製作所を想う経理の殿村、高卒で先代の頃からの生え抜き社員津田、経営難を心配する江原、村木、真野などの若手社員たち。個性豊かな社員に囲まれ、研修者魂を捨てきれない佃は開発への熱意を持ち続けながらも経営者としての自分に目覚めていきます。

佃は、会社は2階建てだと考えています。1階部分は食べていくための儲けを出す部分、でもそれだけではつまらない。夢をみる部分が2階なのだと。ただ暮らしていくために働くだけではなく、夢や希望を持っているからこそ高品質のものを作り続け、更なる高みを目指して開発も続けていく、という佃の姿勢には納得させられるものがあります。そしてやはり最後は池井戸潤らしい、スッキリするラストが待っています。

次々に起こる問題を佃製作所がどう乗り越えていくのかというドキドキ感を味わうだけでなく、自分らしく生き、仕事をしていくとはどういうことなのかを考えさせられる1冊です。

物静かだが人を魅了する男の生き様

城中で刃傷沙汰を起こした檀野庄三郎は、切腹をする代わりに隠居し戸田秋谷を手伝って三浦家の家譜の清書をするよう命じられます。向山村で家譜編纂をする秋谷は江戸屋敷で側室と密通して小姓を切り捨てた罪に問われ、事件発生から10年後の8月8日に切腹をするよう申し付けられていました。

清書は表向きの命令で、実は秋谷の監視と家譜の内容確認が真の目的です。しかし、庄三郎の前に現れた秋谷は明晰かつ穏やかで家族を深く愛しており、不届きな真似をする人物には見えません。秋谷への処分には何かウラがあると感じた庄三郎は、3年後に迫った切腹の日までに真相を突き止めて切腹を回避させようとします。

著者
葉室 麟
出版日
2013-11-08

タイトルにもなっている「蜩ノ記」というのは家譜編纂の傍ら秋谷がつけている日記です。庄三郎の前でも日記の中でも、秋谷は事件の真相を語らず、恨みがましいことも言いません。自らの事件の裏を知ろうとするのも、ただ公明正大な家譜を残すことが勤めと思い定めているからです。彼は行動範囲を制限されている中でも村人たちの生活を思い、武士としての知識や経験を生かして何とか彼らを導こうとする、非常に魅力的な人物なのです。

秋谷の息子で賢く真っ直ぐな郁太郎、逆境の中でもしなやかさと瑞々しさを失わない娘の薫、学はないのに人生の真実を言い当てる、いつも明るく家族思いの源吉など、若いキャラクターたちも魅力たっぷりです。それだけに、自らの出世の為に策略の限りを尽くす兵右衛門やずる賢く村人たちを借金地獄に落とそうとする播磨屋の悪どさが際立って見えます。しかしそんな兵右衛門も、実は秋谷には一目置いていたのでした。

自らを省みず忠義を尽くし、為すべきことを行い潔く果てる。最後まで読めば、読者もきっと物静かでありながら凛々しい秋谷の生き様に感銘することでしょう。秋谷の志を胸に、共に生きることを誓い合う庄三郎と郁太郎の周りで鳴いていた蜩の声が聞こえてくるようです。

時代に翻弄されても歌い続ける恋のうた

20歳の頃に小説家デビューしたものの、今は哲学者三宅雪嶺の妻である花圃は、入院した歌の師である中島歌子から、女中の澄と共に書類整理をするよう頼まれます。整理をするうちに歌子の手記を発見した花圃はその内容に魅せられ、読み進んでしまいます。それは若くして亡くなった夫への、歌子の生涯をかけた恋の歌だったのでした。

著者
朝井 まかて
出版日
2015-10-15

新撰組や西郷隆盛など、ドラマの題材になることも多い幕末はファンの多い時代です。薩摩や長州が大きく取り上げられることが多いですが、実は徳川御三家の1つである水戸藩でも、大きなうねりが起こっていました。当時の水戸藩は藩主擁立問題で天狗党と諸生党が対立。そこに開国か攘夷かという日本国の問題も絡み、藩同士の戦争のみならず藩内での粛清が横行していたのです。

のちに歌人中島歌子となる登世は江戸の池田屋の娘でしたが、水戸藩士である林以徳に恋をし、嫁ぐことになります。天狗党であった以徳は刀を取るばかりが武士ではないと考えていました。しかし、急進派を抑えることが出来ず天狗党は決起。逆賊の汚名のもとに凄惨な粛清に合い、以徳も命を落としてしまいます。生き残った登世は以徳に心からの歌を詠むために勉強を始めます。同時に、なぜ同じ藩内で争い、夫を含め多数の尊い命が失われたのかを考え続けていました。

幕末の波に翻弄されたのは実際に戦う男たちだけでなく、女子供も同じでした。幼子までむごい仕打ちを受ける様を目の当たりにしてきた登世が考え抜いた憎しみの連鎖を止める彼女なりの方法。手記の中にあった情熱的なうただけでなく、その方法までが、生涯をかけた彼女の恋の歌であったのです。

夫の死後生涯独身を通し、才気あふれ我儘で気まぐれだと思われていた歌子の一途な熱い想いを知り、花圃は驚きます。そしてそれが単に一人の男性を愛するのみならず、敵味方に分かれて戦わざるを得なかった水戸藩の人々への思いにも繋がっていたことを知った時、花圃のみならず読者もその思いの深さに感じ入ること必至です。

全力の青春小説、かつ読み応えある家族小説

蒋介石が死んだ1975年に、自らを不死身と笑っていた秋生の祖父も死にます。殺されて浴槽に沈められている祖父を発見したのは秋生でした。高校退学、恋、徴兵制と軍隊での生活などを経て、ついに秋生は祖父の死にまつわる真実を確かめに行く決意をして中国へ渡ります。

著者
東山 彰良
出版日
2015-05-13

台湾出身の作家、東山彰良の小説です。描かれているのは、全力で喧嘩や恋に向かっていく若者像。時代背景として台湾と中国や日本との複雑な関係も下敷きになっており、暴力的な描写もあるのですが決して暗い作品になってはいません。それは、軽妙でユーモラスな東山の筆力と、力漲るばかりに少し踏み外してしまう若者が時代や国を超えていつでもいるということが大きいのでしょう。

また、この作品は家族と友情の物語でもあります。危険を顧みず友人の小戦を助けようする秋生や、その秋生を命をかけて守ろうとする宇文叔父さん。情に熱いのは、中国と日本という二つの国に翻弄されてきたゆえの反骨精神と強い同士愛からなのでしょうか。

終盤で祖父殺しの犯人が明らかになりますが、動機は戦争中の遺恨によるものでした。主義を持ち戦った者、後ろ指を指されても家族を守ろうとした者。……どちらもそうするだけの理由があったにせよ、殺しあわなければならなかった時代を思うと切なくなります。それでも未来への光を見せて『流』は幕を閉じます。おバカだけれど一生懸命だった青春を懐かしむ言葉とともに。

至福のギフト

芳ヶ江国際ピアノコンクールは、優勝者がその後著名なコンクールで優勝するのということで注目を集めています。そこにエントリーした演奏者の中でひときわ注目を集めているのが「ジン カザマ」。正式な音楽教育を受けていないものの、亡くなった高名なピアニスト、ユウジ・フォン=ホフマンの推薦状を受けているというのです。

ピアノは演奏人口も多いことからコンクールは熾烈を極めるといわれています。そんなコンクールに挑戦するのはジュリアード音楽院の隠し子マサル・カルロス、天才少女だったがブランクのある栄伝亜夜、結婚し子供もいるがピアノを諦めきれない高島明石、そして風間塵です。ホフマンの推薦状には、彼はギフトであり、劇薬である。彼をギフトとするか災厄とするかは我々にかかっている、とありました。実際に塵の演奏は度肝を抜くものでしたが、評価は賛否両論で……。

著者
恩田 陸
出版日
2016-09-23

直木賞と本屋大賞をダブル受賞した作品です。とにかく演奏者たちそれぞれの個性的な演奏の描写がすごいです。コンクールには3回の予選と本選がありますが、登場人物の演奏をすべて書き分けています。まさに頭の中に音楽が鳴っているように感じられるほどの描写力です。

コンクール描写の間に登場人物たちの人となりや過去などが描かれます。皆、音楽を愛しピアノを愛しています。コンクールさえも楽しむことが出来るマサル、母の死で音楽をなくしてしまった亜夜、人柄がにじみ出る温かい演奏をする明石の胸にある葛藤、旅する養蜂家の子でピアノすら持たない塵……。彼らはコンクールを通じ足を引っ張り合うのではなく、互いを高め合い、更なる音楽の悦びを知ります。そしてそれは審査員や聴衆にも伝播していくのです。

更にそして、魅力的な演奏者のうち誰が選に残るのか、亡きホフマンが塵の推薦状に託した意図は何だったのか、というところでも読ませます。音楽に造詣のない人でも十二分に楽しめる作品です。

様々な時代や舞台を描いた作品を取り上げてきましたが、いかがでしたか?どの作品もさすが直木賞受賞作!と思える面白さですので、ぜひ一度は読んでみてください。

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