小学校、中学校の教科書に載っていた作品ってなぜか心に残っているものがありませんか?遠い昔に読んだもののはずなのに……。それだけ素晴らしい作品なのか、あの頃の思い出と混ざりあってさらに美化されているのか。 私はというとちょっと変わった作品により惹かれていて、教科書の作品で気に入ったものがあれば、続きが気になって、図書室へ借りに行ったり、購入したりもしていました。そんな中で、今回は皆様にも懐かしいと思ってもらえるような作品を中心に集めてみました。
宮沢賢治さんの作品は大学でも専攻していた授業で習い、レポートもいくつか書きました。いくら名作だと言われても趣味ではないものもありますが、私は宮沢賢治さんの作品は好きです。感性豊かで、優しさとほの暗さがいつも混ざっていて、なんだか少しメランコリックな気持ちにもなるところが学生時代の私の心をくすぐりました。
有名な作品がたくさんある中で国語の教科書に載っていた思い出深い作品と言えば『やまなし』ですよね。どちらかというと「クラムボン」という単語で私は記憶していました。
「クラムボン」とは何なのか?
先生の質問に挙手のない教室。普段の私でしたら、緊張するタイプなので極力目立たないように自分からは発言せず授業をやり過ごしていたのですが、その時はギリギリまで迷いながらも手を挙げてしまいました。国語の時間は集中して作品に入り込んでしまうことがしばしばあり、色々と思うところのある作品が多く、引っ込み思案の私も発言したくさせるぐらいのパワーを持っていました。その作品の1つが『やまなし』でした。
さて、あの頃の私がクラムボンを何だと思っていたのか。ハッキリと覚えています。「やまなしの汁なんじゃないかな、と思いました。」と答えると、先生が意外そうに目を見開いていました。「汁? つまりどういうこと?」と聞く先生に、「ぷかぷか浮かんでいるものは、やまなしから出た汁で、それに太陽が反射してキラキラ光って漂っているのを蟹たちがクラムボンと呼んで観察しているのかなと感じました。」と、私は答えました。
まだ子供ですから“クラムボン”が“サクランボ”の音にも似ている気がして、詩を書く人というのは韻などの言葉遊びも好きですから、そういう自由な発想から果物に結び付いて、タイトルでもあるやまなしのことを指しているのかなと考えた訳です。教科書に抜粋された部分を読んで、私の前に一気にその情景が広がったのですね。作者は水辺に浮かぶやまなしの汁がゆらゆら揺れるのを見て、この物語を作り出し、タイトルをやまなしにしたのではと小さいながらに考えたのでした。
今、読むと、クラムボンと言っているのは5月で、後の12月に蟹たちの所にやまなしが落ちてきます。でも、やまなしが近くに実る場所ということは若いやまなしの実が先にどこかに浮かんでいて、汁が出ていたという見解も出来るので、私はこのままの説でいきたいと思います。
皆様も、いま考えるとまた違う見解が見えてくるかもしれませんが、知識が昔よりもついてしまって、大人メガネで物事を見てしまう今、あの頃より読み解くことが難しくなってしまっているかもしれません。
それにしてもやまなしが熟成して出来るお酒、美味しそうですね。
- 著者
- 宮沢 賢治
- 出版日
- 2004-12-17
国語の時間に感動させられた作品はありますか?
私は胸の奥に突き刺ささるものがあった『スーホの白い馬』です。主人公スーホと白い馬の真っ直ぐな想いが心地よく、白い馬が矢で射たれるところで目を瞑りたくなり、人間の極端なエゴは何も生み出さず、マイナスにしかならないことを知った物語でした。楽しい気持ち、ワクワクする気持ち、羨ましい気持ち、悲しい気持ち、怒り、優しい気持ち、短いお話にも関わらず、これだけ感情が揺さぶられる作品というのは素晴らしいと思います。
白い馬の命は寿命よりも早く絶たれてしまって、当時読んでいてすごく辛かったのですが、スーホと白い馬のような絆を結べる相手に出会えたら、それだけで生きていた甲斐があると思えるようになるのだなと感じました。
このお話が心に色濃く残っているからか、なんだか馬のモチーフを見つけるといつも欲しくなってしまうのです。
- 著者
- 大塚 勇三
- 出版日
- 1967-10-01
絵を見るだけでもすぐ物語を思い出しますし、何より名前が心に残っているのが、『スイミー』です。
一匹の黒い小さなお魚が強く成長するお話。このお話を読んで、みんなと違い、一匹だけ黒いということが役に立つこともあるんだと知って、溶け込めきれていなかった自分と重ね合わせ、感動したのを覚えています。ひとりぼっちになってしまったスイミーが元気を取り戻すまでに見た、海の色々なものの表現が素敵で惹き込まれたことも今回、再読して思い出しました。
私の著書にも書かせていただいたことなのですが、本当に辛い時は何をしても駄目だけれど、美しい自然を見ることによって感情が少しずつ戻ってくるという経験をしたことがあったので、そのことが書かれていたのかなと今になってようやく分かった気がしました。
- 著者
- レオ・レオニ
- 出版日
- 1969-04-01
こんなにも初恋をうまく表現してくれている物語が教科書に載っているとは驚きです。
『赤い実はじけた』は初めての胸のドキドキを今読んでも思い起こさせてくれる青春ストーリーです。少女漫画みたいなときめきを感じるなぁと思っていたら、なんと作者の名木田恵子さんはあの漫画『キャンディ・キャンディ』の原作者なのだそうです。
“赤い実”というのが、まさに恋の甘酸っぱさをバッチリ表現してくれているとずっと思っていたのですが、どうやら作者は誰の心にも“赤い実”があって、恋だけでなく心の底から何かを感じた瞬間に実がはじけるということを表現したかったようです。
ほとんどの人が一度ぐらいはこの恋の赤い実がはじけるのを経験しているのではないでしょうか。
しかし不思議なものです。年齢と共に赤い実がはじけるような感覚が無くなっていくような気がします。これを読んで、胸が苦しくて、声にならない思いを噛み締めるようなあの気持ちをまた思い出して、人生を色づかせたいです。
- 著者
- 名木田 恵子
- 出版日
皆様にとっても懐かしい、グッとくる作品はありましたでしょうか?どれも大人になってから読んでも新鮮で、考え深いお話ばかりですね。
表紙の絵も幻想的だった国語の教科書が私は大好きでした。作品の最後の作者紹介の所もよく読んでいたので、本当にあの教科書が懐かしいです。なんだか無性に読みたくなってきました。残しておくんだった...
これからも何世代にも渡って受け継がれていって、お爺ちゃん・お婆ちゃんと孫で同じ物語の話題で盛り上がれたら素敵ですよね。