森博嗣は1957年に愛知県のとある工務店に生まれました。鉄道模型や飛行機模型、音響、自動車と子供の頃から凝った趣味に目覚めており、名古屋大学工学部へと進学。小説の執筆を始めたのは名古屋大学で工学博士を取得した5年後で、当時は大学の助教授をしていたそうです。
研究の傍らで小説の執筆を行っていたそうですが、そのペースが異常なまでに早く、今までに締め切りを守らなかったことはありません(締め切りに遅れてしまう作家さんの方が大多数だそうです)。大学でハイレベルな研究をしながら小説のヒット作を連発・・・う~ん、すごいですね。
作品の特徴は、論文執筆で鍛え上げたという論理的な構成と、そのロジカルな雰囲気に一見そぐわない詩や歌詞が挿入されたりするところでしょう。また、シュールなジョークや難解な数学の問題など、森ワールドが全開する文章は森博嗣の作品でしか味わうことができません。こうした圧倒的な理系知識と文学が融合された作風は今までになかったもので、一躍注目を浴びることとなりました。
また、執筆を始める時にはまずタイトルから考え、展開を半分までしか考えずに書き始めるようにしているそうです。論理的な思考と驚異的な記憶力を持つ工学博士と、想像力を持った森博嗣という作家の相乗効果によって可能となるプロセスかもしれませんね。
森博嗣のデビュー作ともなった『すベてがFになる』を第一編とする連作小説です。シリーズは全部で10作品にものぼり、全巻制覇するのが大変にも思われますが、作者の代表作であり、森博嗣ファンならば必読といえるでしょう。
物語はN大学工学部建築学科の助教授である犀川創平と、大学の元総長の娘である西之園萌絵の二人を主人公としたミステリ物となっています。猟奇的な殺人事件の真相を暴いていくのですが、この二人の推理・探索能力がものすごいです。犀川は大学の助教授を務めるほどですから頭が良いのは頷けますが、萌絵も負けず劣らない記憶力・計算力を誇ります。作者自身がそういうアカデミックな世界で生きているので、こういった脳みそをフルに使うお話が書けるんですね。
- 著者
- 森 博嗣
- 出版日
- 1998-12-11
このシリーズにはちょっとした逸話がありまして、実は第一編とされる『すべてはFになる』は元々4作目として書かれていたそうです。それを当時の担当者が、「こっちの方が第一編にふさわしい」として、刊行したんですね。
こんな逸話や巻数が多い事から、ファンの中では「どの作品も面白いが、刊行順に読むのが正解」とする人が多いよう。ただ、森博嗣はこのことに関して、「特に、先にこれを読んでほしいという希望はなく、好きな順に手に取ってもらえれば良いと考えている」とコメントしています。どうやら正解はないようですので、順番に倣うもよし、ビビッときた巻から読むのもよし、ということになりそうです。ちなみに、関係性はあるものの巻ごとに完結する内容となっています。
また、森博嗣の処女作品ですが理系ミステリ作家の名をほしいままにするように、生命工学や情報工学、認知科学といった理系分野のトリックを中心にお話は展開していきます。すべてはここから始まったのだ、と思わずにはいられないシリーズです。
長編5作、短編1作で計6作からなる連作小説です。私たちがいる世界とは一線を画す世界での話なのですが、この世界の説明はほとんどされません。淡々と主人公である「僕」の視点から語られ、物語が進んでいきます。
ある戦争で空軍に属する子供たちが、戦闘機に乗って際限なく空へ飛び立っては帰ってくる……というお話です。どうにも分かりにくい感じがしますが、お話としての明快な起承転結もなく詳しい説明もないので、多くが謎に包まれてしまいます。この子供たちは「キルドレ」と呼ばれる存在なのですが、これまた不思議で思春期のさなか辺りに成長が止まり、それ以降病気や不慮の事故さえなければ永遠に生き続けるという生き物なのです。この存在がなぜ、どのように生まれたのかなどは一切説明がありません。
- 著者
- 森 博嗣
- 出版日
物語を完全に理解するのにはとても難解な作品ですが、それ故に他の作品にはない魅力があるのです。詳細な説明があまりないので、読者は自然と自分でその穴を埋めていくことになります。それは活字のみから情報を得るという読書行為の神髄といっても過言ではないでしょう。また、読了後に読み返してみることで少しずつ理解が深まり、点と点がつながるような感覚を味わうこともあるようです。ある意味、壮大な推理小説ともいえるかもしれませんね。読むたびに発見があり、作品の味が出てくるこのシリーズは、森博嗣が用意してくれたスルメのようなものです。
また、読み応えをうまく演出するのが「キルドレ」と呼ばれる子供たちの存在です。彼らは半ば不死の存在であり、その多くが戦闘機乗りとして活躍し、そしていつかは空に散っていく運命にあります。そのため、彼らは普通の人間とは死生観や時間に対する観念が決定的に違っており、どこか哀愁漂う雰囲気です。彼らにも感情があり、もの思うこともあるのですが、私たちとは違うその境遇で「キルドレ」は何を思い、何のために生きているのでしょうか。この一風変わった存在が物語を一段と面白いものにしています。
このシリーズに関しても、読者の「順番に読むべき!」という意見と作者の「何処から読んでもいい」というスタンスは変わりませんが、内容が他の作品と比べても難解なので、順番に読んだ方がいいかもしれません。
シリーズものとなっていますが、作者いわく「元々4章だったものを別々にしただけ。本来は一冊の物語となっている」そうです。しかし、そんな細かいことは気にならないほど驚きに満ちた作品です。ある意味、森博嗣という作家の凄さを一番伝える作品かもしれません。
- 著者
- 森 博嗣
- 出版日
- 2006-11-16
主人公は真賀田四季(まがたしき)という、「人類のうちで最も神に近い」とされる天才プログラマーです。彼女は類まれなる能力を持ち、幼少期より数々の偉業を成し遂げるのですが、多重人格者という一面を持っていました。彼女の中には別の人格として「栗本基志雄」という男がいるのですが、ある時母親が殺害されるという事件が起きます。幼い14歳の四季は殺人の疑いをかけられてしまうのですが、真相はいかに!?・・・というのがあらすじです。この展開だけでもミステリーとして楽しめそうですが、この作品の本当の面白さはこれだけではありません。
この真賀田四季という人物、実は他のシリーズにも登場するのです。「S&M」シリーズと後述する「V」シリーズにも登場し、同じく天才的な頭脳を発揮して物語の展開に関わっていきます。森博嗣の作品は理系ミステリーであり、明かされる謎も明かされない謎も多く存在するのですが、この「四季」シリーズの真賀田四季という橋渡し的な存在によって、単体の作品だけでは謎に包まれてしまったものの真相が分かるようになっています。作品中だけでなく、作品の垣根を越えてつながる壮大な物語……森博嗣の他にはなかなか見当たらないスケールの「ミステリー作品」です。
また、今作で明らかにされる犯罪の手口やその背景などは「S&M」シリーズや「V」シリーズのみに留まらず、他のシリーズにとっても重要な意味を持っています。そういった意味でも、森博嗣を読むのであれば必読の作品といえるでしょう。
森博嗣の推理小説シリーズの2作目となるのがこの作品です。全10巻となっており、少々長いですが最終巻を読み終えた時の衝撃がものすごいと評判です。
まず作品の内容ですが、登場人物の一人である保呂草順平が、友人たちと立ち会ってしまった事件を回想するというものになっています。物語のカギを握るのは、この作品のキーマンで保呂草の友人の一人でもある瀬在丸紅子です(「V」シリーズのVは、venikoに由来しているそう)。
瀬在丸紅子はとある元旧家の令嬢で自称科学者を名乗る、頭の切れる女性です。その頭脳故に探偵役までこなしてしまいます。私立探偵を営む保呂草とは、お互い近所に住んでおり、警備や捜査の支援を頼むこともある関係性です。そして、二人の向かうところで次々と殺人事件が発生し、それを解決してゆくことで物語が進行していきます。
- 著者
- 森 博嗣
- 出版日
- 2002-07-16
このシリーズの見どころですが、ひとつは作者が挙げる「SSS」というコンセプトにあるでしょう。SSSとは、シンプル・シャープ・スパイシィのこと。確かに、ミステリーというわりにはその構造やトリックは比較的簡素なものが多いです。その分、人物の心理描写や関係性の変化など、行間を読ませる要素がふんだんに描かれています。簡潔でありながら鮮やかな装飾が施されているのですが、シャープ要素はどこにあるのでしょうか。
それはやはり、他の作品とのつながりなのでしょう。森作品ではすっかりお馴染みとなりましたが、作品の垣根をまたいで関係性が明らかになっていく展開と視点は、非常に痛快で鋭さを持っています。瀬在丸紅子と保呂草順平は「四季」シリーズなどにも登場しており、特に本作品10作目の『赤緑黒白』は最終巻にして、シリーズの関連性が強く感じられる、ラストにふさわしい作品となっています。ミステリーとしての展開はシンプルですが、やはり作品を越えた決着点が明らかになっていく様が爽快です。
また、「S&M」シリーズとは違って巻と巻が内容的につながっていたりするので、順番に読む方が無難です。
全3作となっているこのシリーズは、出版社の分類ではミステリーに属するのですが、中身はミステリーというよりはSFもので、近未来小説となっています。森博嗣の作品としてはあまりミステリー要素がなく、作者の味を出しつつも他の作品とはちょっと違った雰囲気がするシリーズとなっています。
時は2113年。21世紀初頭の文明はほとんど廃れて博物館で展示してしまうくらいに、あらゆる技術・文化においてブレイクスルーを果たしています。大きな国家がひしめき合っているわけではなく、比較的小規模にまとまった都市国家のような国が各地に点在している世界がこの物語の舞台です。
物語を進めるのは、小柄な日本人であるサエバ・ミチルと、背丈の大きな「ウォーカロン」のロイディです。エンジニアライターであるミチルはパートナーとしてロイディを引き連れ、各地をめぐっていきます。第一作では、とある地域に不時着したミチルとロイディがある変わった国に招かれ、そこで殺人事件が起きてしまいます。このようにして、ミチルとロイディのいるところ事件アリ、といった感じで次々に事件が起こっていくのです。
- 著者
- 森 博嗣
- 出版日
- 2004-01-28
ところで、「ウォーカロン」とはなんぞや?という事ですが、これはこの世界に存在するヒューマノイドとのことです。例えていうなれば、スターウォーズに出てくるC3‐POのようなもの。テクノロジーが発達したこの世界では、人間のサポートは自動で動く機械が行うようになっているんですね。この設定は森博嗣が独自に作り出したものであり、ウォーカロンの他にも、様々な近未来的ガジェットが登場します。事件の手口やトリックにもこのガジェット類は大きく関わっているので、この作品でしか味わえないドキドキがありそうです。
また、森博嗣のシリーズは作品を越えてあるつながりを持っているのが特徴的ですが、この「百年」シリーズには他の作品との関係はそこまでありません。ほんの少し示唆的な部分はありますが、この作品だけで完結しています。
以上、森博嗣のおすすめシリーズを5つご紹介いたしました。森作品の魅力はなんといっても「S&M」シリーズや「四季」シリーズなどの理系の分野をふんだんに盛り込んだ緻密なトリックや展開と、作品と作品を往来する壮大なストーリーですが、「スカイ・クロラ」シリーズや「百年」シリーズなど単体でも作者の世界観を楽しめるものがたくさんあります。ぜひこの機会に読んでみてはいかがでしょうか。