これだけは読んでおきたい横山秀夫おすすめランキングベスト6!

更新:2020.12.10

警察ものを得意とする横山秀夫ですが、舞台や登場人物もひたすら地味、起こる事件にも派手さはなく、淡々と流れていくストーリーに惹かれてしまいます。そんな横山秀夫のおすすめを6作紹介します。

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重厚なミステリーを得意とする横山秀夫

横山秀夫は1957年生まれ、東京都出身のミステリー作家です。1998年に『影の季節』で松本清張賞を受賞し、デビューを果たしました。

「このミステリーがすごい!」などのランキングの常連で、『半落ち』、『64』はそれぞれ1位にランクインしています。

謎解きとしての面白さよりも人間ドラマに重きをおいた重厚なミステリーを得意とする横山秀夫のおすすめ作品を6作ご紹介します。

6位:横山秀夫が世に出た注目作

「全く新しい警察小説のジャンルを開いた」として、第5回松本清張賞を受賞した横山秀夫の小説家デビュー作です。第120回直木三十五賞の候補にも推挙され、TBSテレビでドラマ化されました。

D県警を舞台とした短編4作です。異色なのは、警察小説でありながら、刑事や大きな事件が全くと言っていいほど登場しません。警務部と呼ばれる、県警内部の管理部門を軸に物語は展開します。
 

著者
横山 秀夫
出版日

警察という硬直化した階級社会の中で県警本部、とくに職員の人事を握る警務部門は中枢組織であり、そこで働く職員はノンキャリアながらもエリートとして登場します。

横山秀夫が秀逸なのは、警察組織や登場人物のプロフィール描写が丁寧な点、かつ、説明調でなく自然な点にあります。

おすすめは、第一話はタイトル作の「陰の季節」です。横山秀夫の作品は、タイトルにもこだわりを感じます。「陰の季節」とは、「陰」、つまり、うららかな季節から遮られ、春の光が当たらない「人事部屋」を軸に繰り広げられる人事異動時期を意味します。

主人公は警務部警務課調査官の二渡真治、同期ナンバー1で警視に昇格したノンキャリアエリートです。人事を巡りさまざまな人間模様がうごめく中、二渡は「陰」のように動きます。

この調査官の働きぶりを、さまざまなシーンを通じて読者に自然に伝えているところに、横山秀夫のこだわりを感じます。

-くそったれが
二渡は、パソコン画面の前に映し出されるS署長の顔写真に毒づいた
-やはり、運転免許課か教養課あたりで眠ってもらうか
マウスの手で画面の組織図を縦断しながら、二渡はS署長の収容先を探していた。
(『陰の季節』(文春文庫) P10~11より引用)

二渡が不祥事を起こしたS署長の更迭先に悩むシーンです。このシーンを通じて、不祥事を起こした署長は、表立って処分するのではなく本部の閑職に異動させること、署長の運命も調査官のクリック一つで決まる現実を丁寧に描いています。

横山秀夫は印象に残るシーンを張り合わせながら、物語を展開するのがとても上手です。

その他にも、
「地の声」では、不祥事を起こした警察官を処分する「警察の中の警察」監察官、
「黒い線」では、自己保身のために隠蔽も厭わない組織の中で苦悩する婦人警官
「鞄」議会対策に追われながら、子供のいじめ問題に悩む秘書課の警部
と、警務部内の各セクションで働く職員たちの働きぶりを、出世欲、野心、時には使命感を絡ませながら詳らかにし、読者を引き込んでいきます。

いずれの話にも二渡が登場し、4つの作品を組みひものようにつなげています。また、「陰の季節」の舞台は、「64」と同じD県警です。「64」の前に一読することをおすすめします。

5位:「陰の季節」に続くD県警第2作

「陰の季節」の「黒い線」で登場した、似顔絵婦人警官の平野瑞穂が主人公の短編集7作です。仲間由紀恵主演でテレビドラマ化されました。

プロローグは、山間の廃校でタイムカプセルを開けるところから始まります。「わたしのゆめは、ふけいさんになることです。(中略)ふけいさんは、すーごくかっこいいです。ぜったい、ぜったいふけいさんになりたいです 一ねん一くみ ひらのみずほ」
(『顔』(徳間文庫) P5~6より引用)
 

著者
横山 秀夫
出版日

 

憧れの警察官に採用された瑞穂を待ちうけていたのは、閉鎖的で硬直した警察組織でした。この作品では、「だから女は使えねえ」と罵倒されながら、愚直に立ち向かう瑞穂たち女性警察官の生きざまに魅かれます。とくに男性たちが保身や足の引っ張り合いに汲々としているのに対して、彼女たちのひたむきさ・真摯さが際立ちます。

前回の事件もあり、瑞穂はリハビリを兼ねて広報に異動になります。その広報の職場はというと・・

「婦警なんか寄越されたんじゃ、一人減と同じじゃねえか」

瑞穂の配属が決まったとたんに、船木が警務課で当たり散らしたという話は、回りまわって瑞穂のところまで届いた。

予想通り船木は荒れた。南係長の椅子を蹴り、乙部主任の机には拳を落とした。

(『顔』(徳間文庫) P15~17より引用)

警察って本当にこんな職場なのかと思わせるほど、男尊女卑の男社会、パワハラがまかり通る職場が浮き彫りになります。

「陰の季節」では大きな事件が起きないのに対して、「顔」では、平野瑞穂が女性ならではの推理で事件を解決する筋立てになっています。


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4位:県警幹部の人間模様をえがいた話題作

阪神大震災の発生時、N県の地震計は「震度0」を記録、つまり人間にとってはほぼ無冠であったことを意味します。皮肉にもそんな時に、N県警では幹部を右往左往させる事件が起こりました。

その大事件というのが、県警警務課長の不破が失踪したというのです。警務課長とは会社でいえば人事課長のような存在で、県警職員の異動や昇格を一手に握る人物です。
 

著者
横山 秀夫
出版日
2008-04-04

エリートキャリアの警務部長冬木の下で、県警内部の人事に精通しノンキャリアのお側役よろしく仕えてきた彼がなぜ突然消えたのか。

その謎ときよりも、物語は事件に慌てふためく警察幹部の自己保身、無能ぶりにフォーカスを当てています。他の横山秀夫作品と異なり、組織の中で必死に頑張る人物は出てこず、登場するのは身勝手な小悪人ばかりです。

物語では、キャリアながら私大出身のためか退任が近い本部長、キャリアとして栄達を求める警務部長、準キャリアという特殊な立ち位置の警備部長、ノンキャリアの刑事部長・生活安全部長・交通部長と、同じ警察幹部でありながら、微妙な立場の違いを上手にえがいています。

結末もやりきれなさだけが残る救いのない作品です。

しかし一方で、神奈川県警幹部の不祥事事件が起こった時期でもあり、組織内のパワーバランスや隠ぺい体質の暴き方はさすがだなと感じます。

3位:横山秀夫の最高傑作の呼び声も高い作品

NHKでテレビドラマ化され、佐藤浩市主演で映画化もされた、横山秀夫の代表作です。この作品でも、警察内部、とくに広報や秘書といった、硬直的な警察組織を支えるインナーサークルの人間模様が迫真性を帯びており、読者を裏切りません。
 

著者
横山 秀夫
出版日
2015-02-06

よくある小説では、キャリアは出世や地位に汲々としてエリート意識に凝り固まった人物として、ノンキャリアは警察官としての職務にまっとうに取り組む人物として登場します。

横山作品では、ノンキャリアも厳しい出世競争に明け暮れていること、とくに本部の中枢である警務部の職員は強烈なエリート意識と出世欲の持ち主であることを、リアリティー充分のシーンで明らかにしています。

「64」とは、警察内部の符牒で、たった17日間で終わった昭和64年にD県で起こった未解決の誘拐殺人事件を意味します。

主人公は、警務部広報官の三上義信、捜査畑から異動したばかりで、記者対策や上司である警務部長の身勝手な指示に振り回される毎日です。

ある日、警察庁長官がD県を視察し、ロクヨンの被害者である雨宮宅を慰問する計画が三上に告げられます。

その裏には、ノンキャリアの指定席である刑事部長ポストをキャリアが奪取するという企みが隠されていました。視察阻止を画策するノンキャリア組との対立と誘拐殺人事件の顛末が絡み合いながら物語は進みます。

読みどころの一つは、さまざまな伏線が全て絡み合って、エンディングの誘拐事件解決につながっている点です。なぜ三上の家に無言電話がかかってきたのか、雨宮はなぜ急に長官訪問を承諾したのか、これらもすべて結末につながっています。

2位:横山秀夫が実在の事件を群像劇にする

警察小説や社会派ミステリーの雄、横山秀夫が実在の事件を、実際に記者として取材した体験を元にした小説が、今回は紹介する『クライマーズ・ハイ』です。映画、テレビドラマにもなっているので、見たことある人もいるのではないでしょうか?

登山が趣味の新聞記者、悠木和雅は、同僚の安西と難所である谷川岳に登る計画を練っているとき、ジャンボ機遭難の連絡を受けます。事故関連の記事の編集を全面的に任された悠木は、社内の派閥闘争、現場の混乱とデスク内での対立、友人でもある同僚の昏睡、そして自分自身の過去と向き合うことになります。

著者
横山 秀夫
出版日

この小説のおもしろさは、舞台となる地方新聞独特の人間関係にあるでしょう。

悠木の全権を任せた「調停屋」粕谷編集局長に、自分の過去の功績にとらわれて現場の記事を潰しかかる等々力部長。そして同僚であり、共に山に行く前日に植物状態になった安西。物語の横軸であるジャンボジェット機墜落事件をめぐる人間ドラマと、縦軸である悠木の過去、それが二つに折りなって、濃厚な数日間が描写されます。

クライマーズ・ハイとは山登り、特に命の危険があるような山で起こる症状で、興奮状態で恐怖感がなくなってしまうことです。作品になぜこのタイトルがついたのかを考えるのも、おもしろいでしょう。

本作は、1985年に起こった「日本航空123便墜落事故(通称御巣鷹山の事故)」を題材にしたものです。作者の横山秀夫は、そのとき地方新聞の記者として現場取材をしており、それらの経験が随所に活かされています。

群像劇、特に中年から壮年期の男達のドラマが読みたいという人には、ぜひこの作品をおすすめします。

1位:所轄署の悲哀を描いた隠れた秀作

他の横山秀夫が県警本部を描くのに対し、「深追い」では、地方都市の三ツ鐘署が舞台です。

閉鎖的な階級社会である警察組織の中で、一段低く見られがちな所轄署の悲哀と、それでもひたむきに職務を全うする職員たちの姿に心を打たれる短編集です。

著者
横山 秀夫
出版日
2007-04-25

この中でもおすすめは、「訳あり」です。

たった一言で警務部より所轄に左遷された中間管理職滝沢の悲哀と葛藤を描いています。絶対服従の警察組織では、「NO」は許されないんですね。

「この問題をうまく処理すれば、お前、本部に戻れるぞ」

ある日滝沢は、同期で出世頭の殿池より、本部に戻れるチャンスを与えられます。
「ぼくちゃんに悪い虫がついた、お前がその悪い虫を追い払え」
「ぼくちゃん」とは、県警では若手キャリアのことで、ノンキャリアたちは揶揄してそう呼んでいます。
(『深追い』(実業之日本社) P72-73から引用)

滝沢は、キャリア課長の女性関係を洗い出すわけですが、警察官としての職務とはとても思えない仕事に思い悩みます。結末では警察官としての使命感を取り戻す主人公に喝采を送りたくなります。

それにしても、殿山といい、左遷した上司の警務課長の船山といい、本当に嫌な奴として描かれています。会社勤めのサラリーマンも、「あるある」と頷いてしまう人物描写です。話の中には、「警電」と呼ばれる官舎に設置された電話も登場し、知らざれる警察社会のリアリティーを沸き立たせます。

その他、追跡の末に死亡事故を招いた白バイ隊員を描くタイトル作「深追い」も読みごたえがあります。
いずれの作品も、大きな事件が起きるわけでもなく、地方都市の末端組織でひたむきに生きようとする登場人物たちに共感を覚える作品です。こうした人たちが我々の日々の安全を支えてくれているんだと、素直に感じずにはいられませんでした。

以上、横山秀夫おすすめ6作品を紹介しました。舞台は警察ですが、閉鎖的で縦社会の中で生きる姿を見事に描く描写には、組織人であれば共感を覚えるのではないでしょうか。

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