『チーム・バチスタの栄光』などで知られる人気作家であり、医師でもある海堂尊。自身の経歴を生かし、医療の現場を鋭く描いた作品が人気を博し、テレビドラマ化や映画化など多数のメディアミックスを生み出しています。今回は、そんな彼の作品のなかから手軽に持ち運べる文庫化されたものを、ランキング形式でご紹介していきます。さて1位は……?
1961年生まれ、千葉県出身の海堂尊。千葉大学の医学部を卒業し、外科医、病理医とキャリアを積みました。
小説家デビュー作は、2005年の『チーム・バチスタの栄光』です。「このミステリーがすごい!」で大賞を受賞した作品で、シリーズ化され、テレビドラマ化や映画化もされました。
また2008年には『死因不明社会』で科学ジャーナリスト賞を受賞。2018年4月からは『ブラックペアン1988』のテレビドラマ化が決定しています。
海堂の作品の特徴は、現代日本の医療問題を扱いつつも、登場人物たちの個性が強くエンターテイメント性も高くなっていること。多くの作品が架空の都市である「桜宮市」を共通の舞台としており、キャラクターもリンクしています。
「桜宮サーガ」という、シリーズの壁をまたいで世界観を共有し、クロスオーバー展開がなされることを表す言葉も生まれています。
また文庫化の際は読みやすさを重視し、文章の削減や話の組み換えなどの改訂をおこなっているそうです。 ではここからは、ランキング形式で彼のおすすめ作品をご紹介していきます。
主人公は、東城大学の医学部に通う天馬大吉。黒い噂があるという桜宮病院に潜入し、実態を探ることになりました。桜宮病院は、桜宮一族が経営する終末医療に特化した病院です。
そこで次々に起こるのは入院患者の死。「バラのお告げ」と呼ばれ、枕元にバラが置かれた患者は翌日には突然の死が訪れるというものでした。院内で「デスコントロール」がおこなわれているなどさまざまな疑惑が出るなか、天馬は真相にたどりつくことができるのでしょうか。
- 著者
- 海堂 尊
- 出版日
- 2013-07-25
2008年から複数回にわたって放送しているテレビドラマ「チームバチスタ」シリーズをご存知でしょうか?医師の田口が厚生労働省に所属する白鳥とタッグを組み、医療に関する問題を解明していく物語です。
本作は、ドラマ「チームバチスタ」シリーズの4作目の原作となり、主人子やストーリーをやや変えて放送されました。
医師である海堂だからこそ描くことができる、リアルな医療現場の現実に考えられさせつつ、一連の死の真相を暴くまでのミステリ要素ももちろん楽しめます。
舞台となる桜宮病院は終末医療専門なので、常に死と隣り合わせ。最期の時をどうやって迎えるべきなのか、さまざまな意見が飛び交うのです。
終末期の患者の死、自殺志願者の死、健康な人の死……同じ人間なのに状況によって死への考え方を変えていいのか、またたとえ同じ状況でもそれぞれの人によって死へのとらえ方も異なります。
無理な延命治療をしてでも長く生きた方がいいのか、それとも流れのままに死んだ方がいいのか、どちらが正しいともいえない問題を、読者も考えさせられるでしょう。
『極北クレイマー』と続編の『極北ラプソディ』の二作から成る「極北篇」。舞台は北海道にある財政難の極北市です。
主人公となるのは、極北大第一外科に務めて8年目の医師である、今中良夫という青年。あることがきっかけで、極北市民病院に赴任することになりますが、そこはあまりにもずさんな管理体系でした。
環境は不衛生、スタッフは怠慢で、経営もどうしようもないほど悪化しています。そこで今中は、スタッフたちに白い目で見られながらも、病院の改革に乗り出していくのです。
- 著者
- 海堂 尊
- 出版日
- 2009-04-07
とにかく登場人物たちが個性的で、また別作品のキャラクターも数多く出演。最後に出てきたあの人って……とつながりを意識できる楽しい作品に仕上がっています。海堂初の週刊誌での連載作で、ぐいぐいと引っ張るように物語が進んでいくのもポイント。
極北市は架空の町ですが、北海道にある財政難の市、というと現実の問題とリンクしますね。今中が赴任するまではあるひとりの医師が現場を一手に引き受けていましたが、ある時手術中に妊婦が死亡する自体になり……。経営が落ち込んだ市のさびれた市民病院が、医療界の大きな闇に飲み込まれていきます。
こちらの作品は、『螺鈿迷宮』の続編にあたり、『ケルベロスの肖像 』と時を同じくするアナザーストーリーのような作品です。今までの作品のオールスター的なものになっており、なかなか読み応えがあるものに仕上がっています。
東城大の医大生である主人公、天馬大吉は大学の課題で「日本の死因究明制度」を調査することになります。しかし、その中で制度自体に矛盾があることに彼は気づき始めるのです。
- 著者
- 海堂 尊
- 出版日
- 2013-02-01
時を同じくして、病院の経営をしていた桜宮一族の生き残りが東城大への復讐のため、動き出していきます……。
海堂尊が語る医療の現場、うごめく策謀、恋愛模様も楽しめます。『チーム・バチスタの栄光』に出てくる田口を恋敵と思っている天馬が取った行動とは……。彼の恋愛にも注目です。
「海堂シリーズ現代篇」とは、『ジーン・ワルツ』から始まる4作品のシリーズのことを指しています。医療にかかわる人々の姿を描いた海堂尊らしい作品群といえるでしょう。三つの架空都市が出てき、物語のさらなる広がりを感じさせるシリーズです。
一作目の『ジーン・ワルツ』の内容は極北市で起こった医師逮捕事件から半年後が舞台となります。つまり『極北クレイマー』から半年後ということですね。今回の舞台はマリアクリニックという産科医院です。
このクリニックの院長は『極北クレイマー』で逮捕されてしまった医師の母親で、事件の煽りを受けクリニックは閉院間近というような状態になってしまいました。そこに勤務していた主人公、曾根崎理恵が最後の患者となる5人の妊婦たちとかかわっていく物語です。
- 著者
- 海堂 尊
- 出版日
- 2010-06-29
二作目の『マドンナ・ヴェルデ』は一作目の裏で起きた出来事を補足した裏篇とも言える作品です。代理母出産で娘の子を産む主婦の物語になっています。三作目四作目は新たな架空都市浪速府が舞台になっている作品です。新型インフルエンザに対抗する行政の姿が描かれた作品になっています。
一、二作目と三、四作目でまったく違う医療のお話が書かれた作品ですが、どちらも医療に携わる人々の姿が生き生きと描かれています。このシリーズでは医療ミステリーとしての側面よりも社会問題を描くという側面が強く出ているのも特徴の一つです。もちろん、医療シーンの迫力も圧倒される力があります。
本編6作、番外編2作を加えた「桜宮サーガ」の根幹ともいえるシリーズです。
別名を田口・白鳥シリーズ、つまり『チーム・バチスタの栄光』から続く作品群となります。このシリーズの最終作になる『ケルベロスの肖像』が『輝天炎上』の別視点ということですね。
- 著者
- 海堂 尊
- 出版日
- 2006-02-04
舞台となるのは桜宮市にある「東城大学医学部付属病院」です。不定愁訴外来の講師、田口公平と厚生労働省大臣官房秘書課付技官の、白鳥圭輔の活躍が描かれたシリーズになります。基本的な話の流れとしては田口が事件に関わり、中盤から白鳥が登場して事件を解決していくという形が取られています。
テーマとして重要なのは海堂尊のライフワークでもある「オートプシー・イメージング(Ai)」というもの。ストーリーの主軸として大きく扱われています。
「Ai」とは死亡時画像病理診断のことで、簡単に説明すると画像診断によって死因を検証する方法のことです。海堂の作品ではこの「Ai」がよく用いられ、世間での知名度にひと役かっているといっても過言ではないでしょう。
ここから長い「桜宮サーガ」が始まる入口としてぜひ押さえておきたいシリーズになります。人気作というだけあり最初から最後まで一気に読ませる力がある作品です。少し冊数は多いですが、もっともっと読みたいとなるのではないでしょうか。人気キャラクターで、各作品にもよく登場する田口、白鳥の二人の原点が見られるシリーズです。
時代は昭和63年のバブル期、舞台となるのはおなじみ「東城大学医学部付属病院」です。主人公の世良雅志という研修医が、2人の医師とのかかわりの中で成長していく姿を書いた群像劇になります。
「東城大学」シリーズと密接にかかわっており、シリーズの脇を務めた高階権太をはじめ、さまざまなキャラクターが本作にも登場します。もちろん田口たちの若いころも出てくるので、上記シリーズを楽しんだあとはこれを読むとまた違った感覚で楽しめることでしょう。
- 著者
- 海堂 尊
- 出版日
- 2012-04-13
一作目となるのは『ブラックペアン1988』です。世良は高階や渡海などの元で日々医師として成長していきます。しかし半年後、トップである佐伯教授が留守で手薄となった病院で過去の因縁からある事件が起こってしまう、という物語です。
二作目は『ブレイズメス1990』、前作の二年後が舞台となります。今回のキーとなるのは天才心臓外科医天壌雪彦です。彼の存在が世良や東城大に波乱を引き起こしていく物語になっています。またこの作品は話の都合上一旦1990年で区切ったものになっており、話の内容は三作目『スリジエセンター1991』へと引き継がれることになります。
世良と天城、二人の医師が紡ぐ成長の物語が楽しめるシリーズです。青二才と言われるほど経験の浅かった世良と、キザな天才外科医の天城がどのように絆を深めていくのか、どのように変わっていくのかと、読む手を止めることができません。エンタメ性が高く、また過去編となる作品なのでこれを最初のシリーズとして読むのもあり、でしょう。