マフィアにやくざに不良少年などといったアウトローをメインに描く馳星周。女性は少々引いてしまうかもしれませんが、はまると抜けられません。そんな馳星周の作品のおすすめを9作ご紹介します。
馳星周は日本の小説家です。1965年に北海道浦河町で生まれ、北海道苫小牧東高等学校を経て横浜市立大学文理学部を卒業。大学時代にはコメディアンで俳優の内藤陳が経営する新宿ゴールデン街のバーでアルバイトをし、卒業後は頸文社の編集者、ゲームライターをしたあと、1996年、『不夜城』でデビューしました。
本名は坂東齢人。両親が共産党なため、名前の由来はウラジミール・レーニンなのだとか。そして、ペンネームの馳星周は自身がファンである香港の映画俳優・周星馳の名前を逆にしたものなのだそうです。
ちなみに、本名名義で文芸評論家として活動していた時期もありました。
尊敬する作家は山田風太郎と大藪春彦。「葉巻馬鹿」と自称するほどの葉巻、サッカーとパンク・ロックを好み、写真撮影も趣味にしています。
日本一の歓楽街でありながら、中国人たちが勢力争いを繰り広げる無国籍な街と化した東京都新宿区歌舞伎町。
故買屋をして歌舞伎町を器用に渡り歩く日本と台湾のハーフの劉健一は、かつて仕事上のパートナーだった呉富春が歌舞伎町に戻ったと耳にします。富春は、歌舞伎町を仕切っているマフィアのボス・元成貴の右腕と呼ばれる男を殺して逃げていたため、健一は「3日以内に富春を連れて来い」と命じられます。
そんなとき、夏美と名乗る女から「買って欲しいものがある」と健一に持ちかけてられて……。
- 著者
- 馳 星周
- 出版日
日中混血である主人公と夏美の描かれ方、新宿歌舞伎町の眠らない街の表現、抗争に巻き込まれていく展開がドラマティックでがつんとくるノワール小説です。どろどろとしていて、なおも熱く滾るようなストーリーから目を放せなくなります。
直木賞候補作になり、吉川英治文学新人賞、日本冒険小説協会大賞を受賞した馳星周の代表作。おすすめです。
祖父の反対を押し切って日本に出稼ぎにきた日系ブラジル人マーリオは、自動車工場での過酷な労働と安い賃金に嫌気がさして抜け出したものの、結局はヤクザがらみの風俗店での下働き。たいして生活に変わりはありませんでした。唯一の楽しみは、店の女ケイがそそることくらい。
そんなとき、ケイの客である関西ヤクザの大物から金とヤクを盗み、マーリオは逃げ出すのでした……。
- 著者
- 馳 星周
- 出版日
- 2015-02-06
描かれているのは、暴力や銃、風俗にヤクザとどす暗い世界ですが、ハードボイルドとして面白いのはもちろん、マーリオのアイデンティティを賭けて闘おうとする心理描写には悲壮感が漂いつつも、すさまじいパワーが漲っています。まるで出来の良いノワール映画を観たような読後感があります。
内容は重たいですが、読みやすいのでぜひ手にとってみてくださいね。
栄光に包まれた野球人生となるはすだったのに肩を故障し、加倉昭彦は野球界を引退。はじめた事業も失敗した上に離婚。莫大な借金だけが残りました。
再起のために台湾プロ野球に参加しましたが、将来への不安がどうしても消えません。そんなとき、加倉は台湾マフィアの誘いに乗り、八百長に手を染めてしまい……。
- 著者
- 馳 星周
- 出版日
- 2001-10-25
知名度はあまり高くないようですが、『不夜城』に並ぶ完成度の名作だと思います。アジアという地域の闇や状況が描かれており、その中にまぎれて苦悩と愛憎を抱え、破滅へとひた走るしかなくなった主人公の姿が壮絶です。スター選手から没落して破滅していくという怒涛の展開も素晴らしく、どんな終息を迎えるのか目が離せなくなります。
痛々しいような切なさと苦しさがぎっちりと詰まっていて、活字や文章の間から血が流れだすような作品と言ってもよいのではないでしょうか。
舞台はカナダ・ヴァンクーバー。
香港からの移民で警察官の呉達龍は、暴力的で平然と汚いこともしながら、とにかく金を稼いで2人の子どもをカナダに呼び寄せることを目標にしており、ボスが上院議員に当選するための暗躍までしています。
上院議員候補の娘婿になろうとするCLEUの警官・ハロルド加藤は、組織から麻薬が奪われる事件が続き、その事件を追っていました。
富永は日本の元警官でしたが、いまは香港の組織に属していて、家出したボスの娘を探しにやってきたのでした。
別のものを追っていくうちに、彼ら3人の運命は交錯し、どんどん闇の世界へと引きずりこまれていって……。
- 著者
- 馳 星周
- 出版日
スケールが大きく、本の分厚さをまったく感じさせない1冊。読みはじめたら一気に物語の中へと引き込まれます。スピード感あふれる展開、迫力ある抗争劇の描かれ方が素晴らしいです。特に3人の男たちの思惑がよく描かれており、それぞれの抱える心の闇がきっちりと伝わってきます。ノンストップ謀略アクションと呼んでもよいかもしれません。
いろいろな言語や世界観が入り込んでくるので、戸惑う部分もあるかもしれませんが、読まないのは損をします。とにかく、とにかく面白いですよ!
北海道を舞台にした短編が5話収録されています。それぞれ、父親が大金を持っているとの噂に振り回される男、呆けた母親と猫の世話に追い詰められている女、愛犬とともに掘り出した骨をスクーターでばらまく少年、好きな女の先輩とともに旅立つプー太郎、夫のDVに苦しみながら、死んだチワワの骨を抱いて岬に立つ女が登場します。
- 著者
- 馳 星周
- 出版日
- 2010-05-20
抑制が効いたしっとりと落ち着いた文章で書かれていて、短編としてのまとまりもしっかりとあります。
北の街を舞台にした閉塞感、絶望感を描こうとしているのだと思いますが、やりきれないような陰惨さはあまりなく、読み終わった後になんだかほっとするような感覚さえあります。
馳星周の多くの作品とは異なり、疾走感はなく、ノワールでもありませんが、作家としての技巧を味わうことができるでしょう。
馳星周の作品の中でもストーリー性が秀逸で、馳作品を今まで読んだことのない読者の皆さんにもおすすめできる、手に汗握る作品となっています。
舞台はバブル真っただ中の東京。六本木のディスコの黒服としてうだつの上がらない日々を消化していた彰洋が、かつての幼馴染である麻美と再会したことから物語が始まります。
麻美は「地上げの神様」と呼ばれる不動産王・波潟の愛人の座におさまっており、愛情こそないものの、いつ波潟に捨てられ金を失うことのなるのかと不安を抱えています。そんな麻美を介して、彰洋は美千隆という青年実業家と知り合うことに。美千隆は、いつか波潟に取って変わろうと野心を燃やし、そんな美千隆に麻美は惹かれています。
物語は彰洋と麻美の二人の目線で進められ、登場人物全てが他人を出し抜こうと躍起になり奔走します。裏切りに次ぐ裏切り。嘘に嘘を重ね、いつしか身動きが取れなくなり、それでも一攫千金を夢見る。この狂ったマネーゲームに勝利するのは誰か……。
- 著者
- 馳 星周
- 出版日
- 2006-04-01
読み進めるたびに新たな展開を迎え、続きが気になって一気に読破してしまう作品。馳星周の作品の中では、比較的ハードさが抑え目です。それは登場人物が若く洗練されているために不潔感がなく、スタイリッシュに読めてしまうからではないでしょうか。
この最高にスリリングでエキサイティングなマネーゲームのラストをぜひ目撃していただき、そしてその世界観にまだまだ浸っていたい!と感じたならば、2014年に刊行された続編でも、また彰洋や麻美の暗躍が味わえますのでご期待を。
物語の核となるのは、「真言(マントラ)の法」という名の新興宗教団体です。5000人を超えるという信者の頂点に立つのが、教祖である十文字源皇。十文字は日々、修行と称して金や奉仕を信者に強要し、思いのままの生活を送っていました。
その十文字の側近で侍従長の幸田は、元弁護士。教団の金庫番でもある彼は、十文字の行いを辟易としながらも、その生み出す巨額の金に完全に取りつかれていました。
公安警察官の児玉はスキャンダルが元で左遷され、自分をはめた関係者に復讐を誓い、公安二課長の手駒となり盗聴や監視・尾行を重ねます。
そんな中、顔見知りの幸田を街で見かけた児玉は、彼を尾行することを思いつき、「真言の法」に辿り着きます。巨額の金を生み出す新興宗教団体の闇。そこに嚙みついた児玉は、自らもどんどんと暗い闇に引きずり込まれていきます。
- 著者
- 馳 星周
- 出版日
- 2011-12-24
この作品は、読み進めるとすぐに気がつくように、実際に起こった宗教団体のテロ事件を題材にしています。児玉や幸田は作品の中にしか登場しませんが、その他の一連の事件や教団の内部事情はかなり現実に近いものがあり、馳星周は相当な探求心を持って取材に臨んだのだと感じます。
史実に基づいて書かれた作品ではありますが、あの事件に馳ならではのダークさとエンターテインメント性を加えており、人間が堕ちていく様を書くテクニックは見事の一言です。
『ソウルメイト』は犬と人間の絆が描かれた7編の短編集です。7匹の犬とそれぞれの周りの人間達とのドラマが描かれています。
震災で失った飼い主を探す風太と飼い主の息子の物語「柴」、ひどい虐待を受け捨てられたルークが新しい家族に歩み寄る「ウェルシュ・コーギー・ペンブローク」、重度の病気を告げられたカータとともに戦う飼い主夫婦「バーニーズ・マウンテン・ドッグ」、その他チワワ、ボルゾイ、ジャーマン・シェパード・ドッグ、ジャック・ラッセル・テリアが主役の7編。涙なしには読めない作品集です。
- 著者
- 馳 星周
- 出版日
- 2015-09-18
作品のプロローグとして「犬の十戒」という詩が取り上げられています。シンプルながら小さな命の尊さについて書いており、動物と接する上で大切なことを思い出させてくれるのではないでしょうか。心にぐっと刺さるものがあり、本を読むのが苦手な方もここだけはぜひ1度読んでいただきたいです。
それぞれの物語には人間と犬との絆が描かれています。犬がそこにいるだけで、人と人とが温かい気持ちでつながり合えます。時にはその犬の命を通じて人間が成長したり、出会いのきっかけになったり。7つの物語は、この作品の中だけではなく多少の違いこそあれ形を変えてこの世界のどこかで起きているようなことばかり。動物を飼っている人もそうでない人も、ぜひ読んでほしい作品です。
品種の特徴をとらえたそれぞれの犬の性格は犬好きな方も満足の内容ではないでしょうか。私たち人間と近くで生存している小さな命の尊さを見つめ直すきっかけにどうぞご一読ください。
舞台は返還直前の沖縄。孤児院出身で英字新聞社「リュウキュウポスト」の記者である伊波尚友は、日々ぶつけどころのない怒りを抱え、何とかしてグリーンカードを手に入れてアメリカへ渡りたいと考えていました。
ある日伊波は、米軍関係者からスパイの話を持ち掛けられ、その話に乗ります。スパイとして優秀な働きをし、数々の情報を集めることに成功しますが、伊波にとって米軍さえも憎しみの対象でありました。
伊波と同じ孤児院出身の女性活動家・照屋仁美や、天才的な頭脳を持つ「遊び人」比嘉政信など、伊波は彼らの存在に影響を受けながらも、危険な方へと導かれるように進みます。
- 著者
- 馳 星周
- 出版日
- 2012-02-25
この作品は、2017年現在でも米軍基地のある沖縄という地の、課題や怒りを浮き彫りにした作品です。沖縄はリゾートや楽園といったイメージもありますが、とても多くのものを背負った地であり、この作品はそれらを忠実に表現しています。
馳星周は他にも沖縄を舞台にした作品をいくつか発表していて、この地に並々ならぬ思い入れを感じます。米軍に対する怒り、また沖縄の人々に対する歯がゆい思い。単なるノワール小説ではなく、読後にとても考えさせられる作品です。その重さと、返還前の混沌とした沖縄を感じながら、時折感じる馳星周節も味わいつつ、読み進めていってください。
アウトローの登場するノワール小説だけでなく、優しくしっとりした物語まで幅広く描く馳星周。ぜひいろいろな作品を読んでいただけたらと思います。