中島らも・おすすめ小説5選!依存する人間たちの生き様とは?

更新:2021.11.24

「文章」で表現するものは、ほぼすべてやりきったのではないかと思える中島らも。52年の人生の中で多彩な人間ドラマを多く生み出しています。今回は、中島らものおすすめ作品を5作ご紹介します。

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エリートをドロップアウトした作家・中島らもとは?

中島らもは、日本の小説家。劇作家、随筆家、広告プランナー、放送作家、ラジオパーソナリティ、ミュージシャンでもあります。

1952年に兵庫県尼崎市で生まれ、名門進学校の灘中学・高校に進学するも、ドロップアウト。フーテン生活を続けたあと、大阪芸術大学芸術学部放送学科へ入学し、1975年に卒業しました。卒論のテーマは「放送倫理規定」だったそうです。

1976年、叔父の紹介で印刷会社にコネ入社。1981年に広告代理店へ転職します。1987年には独立して「有限会社中島らも事務所」を設立し、作家活動を本格化させました。その後、戯曲、エッセイ、小説、新作落語、バラエティ番組の脚本やコントなどを多数執筆していきます。

2004年7月16日未明、飲食店の階段から転落して全身と頭部を強打。脳挫傷による外傷性脳内出血のため、神戸市内の病院に入院します。15時間の大手術を受けますが、意識が戻ることはなく、同月26日午前8時16分に死去。享年52歳でした。

中島らもが描く、やっぱり嫌いになれない父たち『お父さんのバックドロップ』

ロックンローラー、落語家、究極のペットを探す動物園園長と魚河岸の大将、そして表題作にもなっているプロレスラー。そんな特殊な職業につくお父さんと、その子どもの物語が4作収録されています。

著者
中島 らも
出版日


表題作は、有名な悪役プロレスラーを父にもつ下田くんの話。父・牛之助頭は、金髪で、顔には赤白の隈取りをし、リングではみどり色の霧を吹きます。そんな父親がいやでたまらない下田くんですが、空手家・クマ殺しのカーマンと父親が対戦することになり……。

親の背中を見て思ったこと、一生懸命考えたこと、そして反発。子どもの目線から、多くに人が経験したであろう気持ちが丁寧に描かれます。子どもにも大人にもおすすめしたくなるような、切なさと優しさが満ち溢れる1冊です。

中島らもが伝える優しいメッセージとは?『今夜、すべてのバーで』

吉川英治文学新人賞受賞作です。主人公は、アルコールにとりつかれた男・小島容。彼は25歳のときに医者から、アルコールが原因で、35才までの命になるだろうと宣告されます。彼は、35才に入院するまで、アルコール依存症のあらゆる知識を取り込みつつも、アルコールへの依存を強めていきます。

著者
中島 らも
出版日
1994-03-04


アルコール中毒を悪いことだと頭ではわかっていても、やめられずにいる小島。人間の弱さや、どうしようもない部分が、苦しくなるほど伝わってきます。アルコールを飲んだときに「胃の中が太陽に照らされたような、ポっと温かくなる感覚」というような表現を使っているのですが、心や身体が弱っているときの「依存」はひょっとしたら「太陽」なのではないでしょうか。もちろん、そのあとには曇って嵐になってしまうこともあるのでしょうが。

依存そのものが悪いわけではなく、ものによっては周囲を悲しませたり、苦しめたりすることをはっきりと書く、中島らもの優しさ。必死に生きている人にこそ、疲れきってしまう前に読んでほしい1冊です。

中島らもが、楽しく人間の脆さを教える『ガダラの豚』

主人公・大生部多一郎は、人気タレント教授で民族学学者。アフリカの呪術医研究の第一人者で、著書はベストセラーにもなりました。しかし長女の志織が、東アフリカで気球から落ちて死んだ8年前から、アルコール中毒に陥ります。妻・逸美は神経を病み、奇跡が売りだという新興宗教にのめり込んでしまいます。大生部は、奇術師とともに逸美の奪還を企てるのですが……。

著者
中島 らも
出版日
1996-05-17


登場人物が酒に溺れるだとか、新興宗教にのめり込むなどと聞くと、暗くて悲惨な作品かと思われますが、とにかく面白い娯楽小説です。それはまるで喜劇のよう。登場人物たちも、奇妙で愉快な人たちばかりです。

呪いについての考察や、新興宗教の手口なども含め、SF的な面もありますが、人間の脆さもきちんと描かれていて、中島らもの奥深さを感じさせてくれます。

中島らもによる、奇妙な世界『白いメリーさん』

奇妙で不思議な作品が、9本収録された短編集。笑えるのに、ちょっと怖い。残酷なのに、なぜかまた読みたくなる。ついくすりと笑えてしまうお話を求めている方におすすめです。

著者
中島 らも
出版日
1997-08-07


表題作は、老女・ヨコハマメリーさんがモチーフとなっています。彼女は、かつて横浜の中心部で目撃されていた、白粉を塗り、純白のドレスを纏い、終戦後には進駐軍相手に身体を売っていた女性です。

他には、1年に1度、誰を殺しても許される日を描く「日の出通り商店街いきいきデー」、蛇女になってしまった女がヘビメタ女王になる「クロウリング・キング・スネイク」、掌に発生するシミに頼った男の運命を描く「掌」、人類の歴史をわずか7ページで描く「ラブ・イン・エレベーター」……など、奇想天外な物語が楽しめます。

中島らもの落語ワールド、ここにあり『寝ずの番』

臨終を迎えようとする上方落語界の重鎮である笑満亭橋鶴に、弟子が「心残りはないか」と聞いてみると、橋鶴の口がもごもごと動きました――「そ、そ○が見たい」。弟子たちは呆気にとられて騒動になります。はたして「そ○」とは、なんのことなのでしょうか? 

著者
中島 らも
出版日
2001-10-16


冒頭からきなり「昨日、師匠死んだ。」と始まり、目が離せなくなります。残された弟子たちの、はちゃめちゃな人間模様に笑いが堪えられません。展開が心地よく、文体もテンポも作品にぴったり。短編でこれだけのドラマを描ける筆力に、感服してしまうはずです。

登場人物のモデルは、故・笑福亭松鶴と、そのお弟子さんたちだとのこと。落語を好きにはたまらない1作でしょう。表題作の他に8本の短編が収録された本作で、ファンになること間違いなしです。

 


戯曲もエッセイも小説も、欲張りに書き続けた作家・中島らも。彼の作品から、中島が破天荒だけど繊細で、優しい人だったのだろうということが想像できます。読みやすく面白い話ばかりですので、ぜひ手にとってみてくださいね。

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