大人の恋愛小説や官能小説で注目を浴びている島本理生ですが、今回は10代で作家デビューした彼女の初期作品をピックアップしました。彼女の書く、10代という特別な時期に誰しも感じる事や何でもない日常の風景が、心にじんわりと染み込んでいきます。
島本理生(しまもと りお)は1983年生まれ。東京都立山吹新宿高等学校卒業、立教大学文学部中退。はじめて小説を書いたのは小学生の頃でした。
1998年『ヨル』で「鳩よ!」掌編小説コンクールに当選、2001年『シルエット』が群像新人文学賞優秀作を受賞しました。2003年には『リトル・バイ・リトル』が史上最年少で野間文芸新人賞を受賞するなど、島本理生10代の頃から活躍している女性作家です。
2006年に作家の佐藤友哉と結婚、1度離婚しましたが2010年に復縁、2011年に第一子が誕生しています。
華子と冬冶は双子の姉弟です。二人の性格はまったく異なっていて、派手で見栄っ張りな姉と地味で誰に対しても優しい弟という組み合わせ。大学生の二人は同居しているのですが、姉がやらかした事態を弟がフォローしてまわる、そんな姉弟なのです。
華子はいろいろな彼氏ができますが、どれも長続きしません。そんななか熊のような熊野さんと付き合い始めるのです。もともと彼はストーカー的なふるまいでしたが、結局華子と付き合っています。わがまま姉貴の華子さんがほんの少しかわいくみえます。
冬冶は高校時代の勘違い恋愛がトラウマになり女性と付き合うことができません。それでも冬冶は同じクラスの理系女性の雪村さんを意識します。最初は勉強好きな垢ぬけない変な女の子として。雪村さんが大きな変化を遂げたあとは、意識せざるを得ない女性として。
- 著者
- 島本 理生
- 出版日
- 2011-01-25
どたばた双子姉弟の青春日記と思いきや、やっぱりしっかりと恋愛小説でした。
島本理生が普通の学生の普通の想いを再現しながら、その実、恋愛の王道ともいうべき主張があちらこちらに散りばめられており、とても楽しめます。読者は本書を読んで恋愛や進路に悩む若者の苦労を楽しむことができるでしょう。
DV被害のトラウマを抱える女性のゆるやかな回復を描いた島本理生の小説です。
主人公の川本麻由は、かつて恋人の関口にドメスティック・バイオレンスを受け、従兄弟のさとるくんの奔走もあって難を逃れますが、人生にも恋愛にも自信を失った状態のまま、実家に身を寄せ、定期的にクリニックに通いカウンセリングを受けています。
ある日麻由は同じクリニックに通っている年上の男性・植村蛍と知り合い、惹かれ合っていきますが、麻由の身体は他人を受け入れることができなくて……。
- 著者
- 島本 理生
- 出版日
- 2012-07-25
主人公の女性の、DVから逃げおおせたあとのそれからの人生を描いた島本理生の小説です。恐怖から逃げられても体と心に記憶は植えつけられ、新たな恋愛の機会が訪れたところでその記憶を消すことはできませんが、それでも人生は続き、どのように光を当てていくのか、ぜひじっくりと読み込んでいただくことをおすすめします。
島本理生の静かな小説ですが、読みながら何度も心を揺さぶられます。
都内の大学1年生の「わたし」は、サイトウさんに失恋した時の痛手から立ち直れる気がしない状態。大学の友達のカヨちゃんが夏休みになったら実家に帰ると言うため、「わたし」は夏休み中はカヨちゃんの部屋に住まわせてもらって、期間限定の1人暮らし生活をはじめます。
どこにいたって何をしたって心は常に閉塞感がある「わたし」でしたが、高校時代の同級生のキクちゃんやその家族と触れあいはじめてから、止まっていた時間が動きはじめ、世界が色づきはじめます。
- 著者
- 島本 理生
- 出版日
- 2007-05-15
失恋に特効薬はありませんが、思いもよらぬ相手や場所がほんの少しとはいえ救いになりえるのです。「わたし」が、少女から大人の女性になろうと動き出す姿は、切なくも愛おしく、そしてどこか逞しさがあります。
失恋からの回復を描いた島本理生のこの小説は、10代の方はもちろん大人の女性が読んでも共感できるのでおすすめです。
一人称は「わたし」で、「わたし」の周辺にいるのは、とんでもないドメスティック・バイオレンスをおこなう恋人の直樹、いつまでも精神的に自立できない美しくも幼い母親、そんな母親のことも娘の「わたし」のこともあまり大切にしてこなかった病身の父親など、「わたし」を闇に引きずり込んでしまうようなろくでもない人間ばかりです。
そんな「わたし」にとって唯一の救いともいえる存在なのが「あなた」。「わたし」が「あなた」に呼びかけるような、あるいは手紙をしたためるような文体を用いて、島本理生のこの小説は展開されていきます。
- 著者
- 島本 理生
- 出版日
- 2013-07-05
「わたし」の発する言葉も過去を顧みる情景も、何もかもすべてが無機質で淡々としていて、島本作品としては異端的な魅力があります。
DV被害に遭った者の深刻さが際立っており、なかなか救いを見出しにくい重い小説ですが、読み応え十分です。主人公の苦しみを疑似体験できる島本理生の小説でもあります。
2005年に発表されたこちらの小説は、島本理生がはじめて書き下ろした長編小説で、元生徒の女性と元教師の男性の濃密な関係が描かれ、話題になりました。
大学生の工藤泉は、かつて所属していた高校の演劇部の卒業公演に参加することとなり、顧問の葉山貴司と再会します。
- 著者
- 島本 理生
- 出版日
泉が高校時代を振り返る描写では、人間関係に思い悩み孤独を深めていく彼女の様子が痛ましく、そんな泉を気にかける葉山は頼もしく映りますが、2年の時を経て再び打ち解けはじめてからの葉山は脆くて不甲斐なさが目について、過去と現在との対比が絶妙です。
メインのふたりだけでなく、泉が付き合う小野くんや演劇部の仲間など、多くの若者が理想とのギャップに戸惑いながら生きている姿も十人十色に描かれており、島本理生のみずみずしい感性が詰まった大作です。2017年、行定勲監督、松本潤・有村架純主演で映画公開されます。
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2003年の野間文芸新人賞を受賞した、ささやかな日常を10代後半の主人公の視点で追った島本理生の小説です。
高校を卒業したばかりの橘ふみは、母親と父親違いの妹のユウちゃんと3人で暮らしています。ちょっと破天荒な母親と義理の父親が離婚したという事情から、ふみは大学受験を1年先送りにしてバイトの日々で、実の父親は行方知れず。
決して恵まれた環境にいるわけではないけれど、ふみは気負わずひねくれず。殻にこもってしまうところもあるし、時にはやりきれないこともあるけど、少しずつ少しずつ道を歩んでいきます。題名の『リトル・バイ・リトル』には、その少しずつという意味がこめられています。
- 著者
- 島本 理生
- 出版日
- 2006-01-13
母子家庭の慎ましいながらもあたたかな食卓、治療院で知り合って仲良くなった周、周のお姉さん、習字教室の柳さん、柳さんの奥さんなど、ふみを取り巻くユニークな人々の姿……。何より、ふみと周、ラストでのふたりの会話を思い出すだけでほっこりさせられます。
いろいろなこと、自分のなかから湧き上がってくる答えの存在しない問いかけを、ずっとぐるぐる考えている。友達の前ではそんなそぶりは見せないで……。それが10代の苦しさでありかけがえのなさでもあるのかもしれないと、この作品はやさしく教えてくれているのかもしれません。
10代だった頃の島本理生の研ぎ澄まされた感性がギュッと凝縮したような『リトル・バイ・リトル』を、ぜひ一度手に取ってみてください。