皆川博子おすすめ作品5選!ミステリーと幻想小説好き、集まれ!

更新:2021.11.24

2015年に文化功労賞を受賞したことを機に一気に注目を浴びた皆川博子。興味はあるけどどの本から読めばいいかわからないという方のために、おすすめ作品の見所についてまとめてみました。本格ミステリーや幻想小説が好きな方は要チェックの記事ですよ!

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日本ミステリー界の重鎮、皆川博子とは?

日本の幻想小説を数十年に渡って牽引している皆川博子。難解な文章と分厚い本で読みにくそうな作家だと思われている方も多いといわれています。しかし一度彼女の物語を読み始めると、その世界観に取り憑かれてしまう稀有な作家でもあります。

皆川博子は1930年に韓国のソウルで誕生し、『海と十字架』で児童文学作家としてデビューしました。その後は幻想小説、推理小説などのジャンルで幅広く活躍しています。数々の賞を受賞したほかに、2015年には文化功労賞を受賞するなど精力的に活動をしている文学界の重鎮とも言えます。

皆川博子初心者におすすめしたい『影を買う店』

亡くなった弟の知人から教わり、通い始めた喫茶店で作家「M・M」を見つけた主人公。その店で自分の影をはがされることに快感を覚えた主人公は……。

著者
皆川 博子
出版日
2013-11-19


表題作「影を売る店」の他、子どもたちが屋根裏部屋の断頭台で猫を処刑するお話「猫座流星群」。グリム童話をモチーフにした「青髭」など幻想的で残酷な物語を集めた短編集です。耽美、退廃、官能を求める方におすすめの一冊です。

本短編集は一編が10ページ程度で淡々とした文体なので、幻想文学の初心者にはおすすめの一冊。初心者におすすめと言いつつも内容はギロチン、徐々に無くなる影など、不気味な雰囲気のある小説です。幻想的なモチーフが随所に散りばめられているので、舞台が日本でありながら異国の物語を読んでいる気分にさせられる不思議な短編集でもあります。また文章が美しいので、古典や明治の文学を愛読している方も満足できる作品でしょう。

 

皆川博子の大長編『薔薇密室』

物語は、死にかけた美青年とバラを融合する実験を描く「コンラート手記」から始まります。

鍵となるコンラート手記を軸に二人の主人公により物語は場面を変えます。僧院で実験台にされた元男娼ヨリンゲルと、敵国でもしたたかに生きる少女ミルラが交代で物語を進めていくのです。物語のカギを握るホフマンとは何者なのか? 「コンラート手記」を巡り数奇な運命が交錯していきます。

著者
皆川 博子
出版日
2012-04-05


本小説で素晴らしいところは、戦時中のヨーロッパの描写です。人種差別、当時の国際情勢、被支配国の扱いなどがかなり詳しく描写されています。物語を読むにつれ、作者はこの時代についてかなりの知識を持っていることを感じずにはいられませんでした。

膨大な情報量で書かれた叙述トリックに混乱しそうになるので、メモを取りながら読むのをおすすめします。物語のラストには全ての謎の辻褄が合うのでスッキリとした読後感を感じられますよ。『薔薇密室』は大長編なので最初は読むのに苦労しますが、面白いのであっという間に読み切ってしまうことでしょう。

悲しき双子の運命譚『双頭のバビロン』

物語は1920年代のウィーンの上流階級に生まれた双子、ゲオルクとユリアン。二人が語りを交互に変えながら進んでいきます。二人は結合性双子として生まれますが、分離手術を受けるまで人目のつかないところで育てられていました。

著者
皆川 博子
出版日
2012-04-21


分離後の二人は別々の道を歩むことになります。ゲオルグは名家の跡取りとして陸軍学校に行きますが、騒ぎを起こして退学に追い込まれ、ハリウッドへと渡ります。そこで映画監督として大成功し、自分の理想の映画を作るために中国で芸術的な映画を作り始めるのです。

一方ユリアンは存在を抹消され、ボヘミアで謎の少年ツヴァンゲルと共に高度な教育を受けて育ちます。そこでウォルター博士の実験を受け、ゲオルグの記憶の共有、精神感応などが可能になりました。夢と現実が曖昧な物語の描写に読者は翻弄されますが、物語の最後の登場人物の独白により謎が解けていきます。

膨大な資料を読み込んで作られた作品とだけあって、ハリウッドの描写は非常に詳しく書かれていています。そのせいか映画史の本を読んでいる気分にさせてくれるので、映画に興味がある方にもおすすめの本です。

本作の最大の特徴は、歴史小説、推理小説、怪奇小説の三つの特徴が混在しているところです。作者の文章の巧みさと全体の構成力で、三ジャンルを違和感なくまとめあげているところに驚きました。オカルトの要素ありますが、しっかりとした時代考証がなされているため、実際にあったように思えるほど見事な情景描写です。物語の髄所で伏線や小細工が散りばめられており、全ての伏線が回収され謎が解けるラストにも驚くことでしょう。

皆川博子による、ゴシックミステリーの金字塔『聞かせていただき光栄です』

物語の舞台は、解剖が神の意思に反する罰当たりな行為とされていた18世紀のロンドン。解剖医のダニエルは、家宅捜索をされます。ダニエルと弟子たちは、解剖台の上に置かれていた子宮を露出させた貴族令嬢の屍体を急いで暖炉に隠します。家宅捜査終了後、屍体を取り出してみると、令嬢の屍体の代わりに、四肢を失った屍体と顔を潰された屍体が現れたのです。彼らはやがてこの事件には、死体の他にも大きな事件が隠されていることに気がつき……。

著者
皆川 博子
出版日
2013-09-05


この小説には個性的なキャラクターが生き生きと登場します。そのおかげかグロテスクなシーンが多いのですが、ユーモアを感じられ、どんどんと作品に引き込まれる王道ミステリーといえるでしょう。

詩人、令嬢、密室、監獄など魅惑的なキーワードが次々と出てくるので、ゴシック小説好きにおすすめの一冊です。

変死体と陰謀『アルモニカ・ディアボリカ』

本作は『聞かせていただき光栄です』の続編にあたります。過去の事件のせいで失意に沈んでいた解剖医ダニエルの元に、またもや不可解な事件が舞い込みます。被害者の死体は天使のように美しく、胸には謎の言葉が書かれていました。しかし今回もまた屍体がすり替えられていて、事件はますます難解になっていきます。弟子たち一行は事件解決のために屍体を解剖しますが、被害者は予想外の人物で……。
 

著者
皆川 博子
出版日
2016-01-22


前作のように個性的、かつ18世紀のロンドンを彷彿とさせる単語がたくさん出てきます。前回よりも悲壮的で救いのない内容ですが、今回も皮肉やユーモアが物語のあちらこちらに散りばめられています。登場するキーワードが史実に基づいており、作品の構成がしっかりしている読み応えのある小説です。


幻想文学は決して万人受けする小説ではありません。ですが一度はまってしまうと、抜け出せなくなってしまう魅力が詰まっています。皆川博子は独特の作風が魅力的なので、ミステリー好きの方も楽しめることでしょう。興味のある方はぜひ手に取ってみてくださいね。

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