イヤミスの女王・沼田まほかるのおすすめ小説5選

更新:2021.11.24

イヤな表現や後味のあるミステリーが得意の沼田まほかる。その表現や後味の中毒になってしまう人が後を絶ちません。今回は沼田まほかるのおすすめ小説を5点紹介します。

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イヤミス3大女王の一人・沼田まほかる

沼田まほかるは、2005年にホラーサスペンス大賞を受賞した『九月が永遠に続けば』でデビューしました。当時56歳の遅咲きです。しばらくヒットに恵まれませんでしたが、2012年『ユリゴコロ』が大藪春彦賞を受賞すると、過去作も含めて大ヒットを記録しました。

特徴は、嫌な後味です。沼田まほかるは、湊かなえ、真梨幸子とともにイヤミス3大女王と言われています。イヤミスとは、読むと嫌な気分にさせられるミステリーのことです。ドロドロとした愛憎劇や復讐劇だからこそ見える人間の恐ろしい本性が描かれるのです。読むと不快さすら感じるのですが、怖いもの見たさでついついクセになってしまいます。

浅はかな女性から見た歪んだ世界観

シングルマザーの佐知子は、高校生の息子と二人暮らしをしています。ある日、息子が、深夜にゴミ出しに行ったまま、失踪。それを機に佐知子の周りでは不幸が続きます。愛人・犀田が地下鉄のホームに落ちて、電車にはねられ亡くなり、元夫・雄一郎と再婚相手の娘も自殺。

著者
沼田 まほかる
出版日
2008-01-29

そして愛人殺しの容疑がかかったのは、犀田のガールフレンドでもあった雄一郎の娘でした。息子の失踪と愛人の死は関連があるのか。佐知子は必死に息子を探す中で、恐ろしい真相にたどり着きます。

2005年に発表された沼田まほかるのデビュー作です。失踪した息子を探す佐知子の一人称で物語は進みます。彼女は浅はかで自己愛が強く、他人の欠点ばかりをあげつらうという性格で、様々なトラブルを引き起こしながら、見えない真相に混乱していきます。加えて、複雑な人間関係と露骨な性的描写によって、物語はドロドロのサスペンスに仕上がっています。

本作の魅力は、歪んだ認識による世界観の変化です。浅はかな佐知子の一人称であるために、正しく世界を認識していません。自分勝手な解釈で歪められた世界では彼女は平和だと感じていました。しかしその世界が事件をきっかけに新たな顔を見せ始め、だんだんと悲惨な世界へと変貌していきます。

元夫の娘のボーイフレンドの男と恋愛関係である女、元夫の家庭に潜んでいた悲しい秘密など、登場人物すべてが歪んだ人物ばかりで読者も佐知子とともに真相に近づくにつれてじわじわと息苦しさを覚えます。ぜひその暗くて混迷を極めた人間関係の迷路に迷い込んでみてください。
 

ドロドロの愛憎劇に隠された純愛

十和子は8年間に別れた男・黒崎をいまだ忘れられません。あまりの淋しさから15歳年上の陣治と関係を持ちます。流れで一緒に暮らすようになりながらも、十和子は下品で貧相な陣治を嫌悪していました。それでも6年も一緒に暮らすほど彼に依存していました。

著者
沼田 まほかる
出版日

ある日、刑事が訪問してきて、黒崎が行方不明になったと告げます。十和子は陣治が黒崎を殺したのでは、と疑い始めます。

2006年に発表された純愛サスペンス作品です。過去の男への未練を断ち切れず、ずるずると嫌いな男と暮らす十和子の一人称視点の物語です。

十和子は過去に別れた男を最高な人として思い出に浸り、それ以外は最低な人として認識して不快感を露わにします。最初こそ十和子に同情してしまいますが、読み進めると些細な描写の積み重ねで最低なのは周りではなく彼女なのではないのかと思わされます。読み始めと読後では、不愉快の対象が入れ替わってしまうという構図を変化させる巧みさがあります。

本作の特徴は、純愛です。表面上はたしかにドロドロとした愛憎劇なのですが、その裏にはとある登場人物の純粋な愛が隠されています。イヤミスではありますが、純愛による感動も秘められた沼田まほかるの筆力の高さを感じる作品です。

猫の生き様に人々は心を動かされる

ようやく授かった子供を流産してしまった中年夫婦。哀しみの中で捨て猫を拾いました。しかし、妻は生まれてこれなかった子供の身代わりのような気がして、強い嫌悪感を抱き始め、やがて猫を捨ててしまいます。翌日、家の前に少女が現れました。少女の風変わりな言動により、妻は捨てた猫を探しに走ります。

著者
沼田 まほかる
出版日
2010-09-16

2007年に発表された、これまでとは作風の異なる沼田まほかるの新境地の作品です。3部構成で、それぞれの作品の主人公は、流産してしまった妻、不登校の少年、妻を亡くした夫が主人公になっています。そのすべてに、猫のモンが関わり、それぞれの主人公に寄り添います。

主人公の三人はそれぞれ死や孤独といった闇を抱えています。モンは自らの生き様を見せることで彼らの心を救います。

本作の魅力は、キーとなる猫の扱い方です。動物ものの小説となると、ハートフルな物語が多くなります。しかし、本作は、猫を邪険に扱うことが多く、猫好きにはきつく感じられます。猫はただ生き様を見せるだけです。登場人物はその姿から自身について考えさせられるのです。

猫の物語なのに、猫はきっかけでしかありません。そのため、安易な感動物語とはならず、しんみりと読み手の心の染みわたる作品となっています。

謎の少女が引き起こす怪奇現象

産業廃棄物の処理場に放置された冷蔵庫。不思議な声に導かれた僧侶・浄鑑とサラリーマン・悠人は冷蔵庫を開けます。そこにはミハルという少女が眠っていました。ミハルに異常な気持ちを持つ悠人ですが、悠人とミハルが共にいると災厄が起こる言い、浄鑑がミハルを引き取り、浄鑑の母・千賀子と育てることにします。

著者
沼田 まほかる
出版日
2011-11-28

しかし数年後、ミハルの猫が亡くなったことをきっかけに、町で奇妙な出来事が起こり始めます。この出来事はミハルが起こしたことなのでしょうか。そもそもミハルとは一体何者なのでしょうか。

2009年に発表されたホラー小説です。物語は浄鑑と悠人の話が交互に進みます。浄鑑のパートでは、ミハルの愛猫の死によって彼の母がミハルを偏愛し過ぎて壊れていく様子や、そのほかの周囲の人間が壊れていく様も描かれます。

そして悠人はミハルに惹かれながらも会うことができない苛立ちから、彼女にひたすら暴力を奮っては、よりを戻すを繰り返します。こうした人間の闇が持つ不気味さと、謎の少女ミハルの周囲で起こる怪現象が相まって、忍び来るような静かな恐怖感がある作品です。

本作の魅力は、底知れない深遠さにあります。主として描かれる人間は現実的なのに、怪異現象や仏教を絡ませた世界観には答えがありません。真相がわかりそうでわからない深遠さがより恐怖を盛り立てた、現実に近いようで底知れない怖さがあるホラー作品です。

殺人を書いた手記が示す真実

主人公・亮介は不幸のどん底にいます。婚約者は失踪し、母親は交通事故で亡くなり、父親は末期のすい臓がんと発覚したのです。父親を気遣い実家に戻った亮介は、押し入れからユリゴコロと書かれたノートを見つけます。ユリゴコロには、殺人に取り憑かれた人間の生々しい告白が書かれていました。このノートは果たして事実なのでしょうか。そして誰が書いたのでしょうか。

著者
沼田 まほかる
出版日
2014-01-09

2011年に発表された恋愛ミステリー小説です。亮介のパートと、ユリゴコロという題名のノートのパートが交互に描かれます。亮介は殺人について書かれたノートを読み進める毎に怯えを強くします。

ノートの真偽や作者という疑問から始まり、なぜ父が所有していたのか、もしかすると自分は殺人鬼の子供なのではないかという疑問が次々と沸き、不安に押し潰されそうになる様には、描写のリアルさも相まって強烈な切迫さを感じずにはいられません。

本書の魅力は、前半と後半での話の転換です。前半はサスペンスなのですが、いつの間にか複雑な家族の謎を紐解いていく心を打つような物語に変化しています。巧みな表現を積み重ねて、自然に変化させていくので、サスペンスと家族愛という相容れないような純愛の気持ちが違和感なく融合します。怖いだけでは終わらない沼田まほかるの恋愛小説をご覧ください。

以上、沼田まほかるのおすすめ小説を5点紹介しました。どの作品も辛くなるような描写ばかりですが、それだけではなく、純愛や家族愛も描かれています。ぜひ、沼田まほかるのイヤミスを読んでみてください。

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