フランツ・カフカは説明のつかない不条理なできごとを現実に絡めて書く20世紀を代表する作家です。そのある種の実験的ともとれるカフカの手法は以降の名だたる作家たちに影響を与えました。現実から夢の世界へと転落するような経験ができます。
フランツ・カフカは現実世界に起こる不条理で夢のようなでことを描くこと有名な作家です。のちの文学界に多大な影響を与えました。暴力的な文章を嫌い、役所勤めだったカフカらしいお堅い文章を好んで書いているため、描く不条理な世界とミスマッチ感を生み出しています。そのせいもあって、独特の雰囲気を放っており、今なお多くの人々を魅了している人気作家です。
1883年にオーストリア=ハンガリー帝国領(現チェコ共和国)のプラハで生を受けたフランツ・カフカは母国語のチェコ語ではなく、当時支配階級が使っていたドイツ語の学校で学ぶことを選びました。こうした背景もあって、カフカの作品はドイツ語で書かれています。
大学を卒業したカフカは労働者傷害保険協会に勤めながら勤務時間外に小説を執筆する二足のわらじ作家でした。40という若さで結核により亡くなってしまいますが、生前に多くの短編作品群を残しています。しかしそれらの作品が世間の注目を集めることはありませんでした。フランツ・カフカの名はその死後になって世間に知れ渡ることになります。
生前、カフカは友人であるマックス・ブロートに遺言を残していました。そこには自分が死んだら残った未完の原稿や手紙などをすべて焼却処分にして欲しいと書かれていたにも関わらず、ブロートはカフカの残した原稿を分析し、まとめていきました。そうしてブロートはカフカの作品を自身の解釈で再編集。次々とカフカの作品を世に出し、彼の作品だけでなく恋人に宛てた手紙までも世に排出されたのでした。
かくてカフカの作品が世に知られることとなり、ドイツ内外で多くの作家を刺激することとなります。
フランツ・カフカといえば、この『変身』という話が一番に思い浮かんでくるのではないでしょうか。カフカという作家を論じる時に必ず持ち出されるほどで、代表作と呼ぶにふさわしい作品です。
ある朝グレゴール・ザムザが目覚めると、醜い虫に変身しているというお話。虫になった男に待ち受けていたのは過酷な現実でした。心配して見に来た会社の上司には逃げられ、家族からも忌み嫌われてしまいます。そんなザムザは自室に引きこもってしまい、虫として生活を続けるのでした。
- 著者
- フランツ・カフカ
- 出版日
- 1952-07-28
ある朝目覚めたら、醜い虫になっていた。考えただけでも、背筋がゾっとする話です。主人公は人間の時にように自由に動くことはできず、意思の疎通もできません。唯一世話をしてくれる妹からも厄介な介護者扱い。そんなストレスに耐えきれなくなったグレゴール・ザムザはいつしか自分が消えてなくなればと思うようになります。悲しくて恐ろしい、カフカの悪夢のような不条理さが爆発した作品で、カフカワールドを存分に堪能できる代表作です。
カフカの死後マックス・ブロートによって編集された長編『城』は未完ながらも、カフカ史上最も長い作品となっています。
城の測量士として雇われるために、男が決して辿り着けない城へと入ろうとするお話です。主人公の自称測量士Kは、城を目指しますが中に入るどころか城壁にまで至る道を発見することができません。途中で彼の助手だというふたり組と出会い、城に入るには許可が必要だと言われます。そこで城に電話を入れるが、「来なくて結構」と断られてしまう測量士。悪戦苦闘しながら村人と交流していると、「測量士は必要ないから」と学校の小間使いとして働くことになりました。
- 著者
- フランツ・カフカ
- 出版日
- 1971-05-04
本書はひとつの話の中で不条理な出来事が続きます。連続した夢を見ているような作品です。また、物語には説明のつかない不可思議さがあります。まず主人公が測量士であるのに、測量の様子が出てきません。助手と名乗る男たちも、このKという男に対しては初対面で、男の周りで起きることは理由もなく唐突です。まるで夢のように脈絡のないできごとが連続して起こる不思議な小説です。
様々な不条理を書いてきたカフカですが、長編『審判』に登場する男に降りかかる災難は、不条理かつ理不尽で恐ろしいものでした。この『審判』という作品はカフカの死後ブロートによって世に出されますが、そのことでブロートは避難されることになります。それはブロートが物語の章の順番を自分の解釈で勝手にかえ、カフカの「つたないドイツ語を直した」と言いながら文章を勝手に書き直したりしてしまったからです。
銀行支配人ヨーゼフが突然逮捕されてしまいますが、何の罪で捕まったのかまったくわかりません。ヨーゼフは不当に拘束されたまま、不可思議な裁判にかけられてしまいます。ヨーゼフはなんとか潔白を証明しようとしますが、裁判はだんだんと不利に働いていくのでした。
- 著者
- カフカ
- 出版日
- 1966-05-16
カフカの不条理としては、最も現実的な恐怖が描かれています。自分の知らないところで犯罪に巻き込まれ、やってもいないことで罪に問われる恐怖は、現代の痴漢冤罪に通ずるところがあるのではないでしょうか。未完ではありますが、悪夢のようなできごとであるため、それとはわからないできになっています。
マックス・ブロートによって再編された『審判』は大変な議論を呼びました。そしてカフカが書きあげようとしていたものにより近づけようとして出版されたのが『訴訟』です。
- 著者
- フランツ カフカ
- 出版日
- 2009-10-08
カフカの残した未完の原稿は16の章にわかれており、ブロートは物語を辻褄の合う順に並び替えて書き直してしまったため、『審判』は説明できる話の流れとなっています。ですが、カフカにより近づけようと試みた『訴訟』では、より不条理で不思議な物語の運びを楽しむことができます。よりカフカの思い描いていた作品に近い形になっていますので、『審判』を読んだことがある人でも『訴訟』を読んでおく価値はあります。
『アメリカ』という作品ではドイツを追放された少年がアメリカという未開の地を彷徨う作品です。そこでも主人公は不条理な状況に身を置かれます。
年上の女性と恋愛をしてしまったため、両親によって故郷のドイツから追放されてしまいました。やっとのことでアメリカに住む叔父を探し当てた少年。しばらく面倒を見てもらいますが、またしても不可解な理由でその家を追い出されてしまうのでした。
- 著者
- フランツ・カフカ
- 出版日
- 1972-01-30
この物語もカフカらしい不条理さで描かれていますが、主に少年の冒険を描いているため、非常に読みやすい作品になっています。ですが物事が次から次へと唐突に終わっては始まるの繰り返しは、カフカらしい夢を見ているかのような作風は健在です。カフカの入門書として最初に抑えておきたい一冊です。
理由もつかずに起こったできごとの連続は不気味であり、恐ろしくもあります。そんな不条理さがカフカ最大の魅力です。現実的世界でまきおこる難解な出来事にハマる人が続出すること間違いなしです。