アニメになるのはやっぱり面白い作品だから!アニメを先に楽しんだ方は原作ならではの世界を、原作好きの方はアニメ独特の展開を、それぞれ読み比べるのもおもしろいですよ。今回は特にオススメの作品をご紹介します。
物語の舞台は、昭和50年代ごろ。『昭和元禄落語心中』の主人公・強次が刑務所から出所するという、なかなか衝撃的な場面から始まります。晴れて自由の身となった強次の行先は、刑務所帰りの人間に似つかわしくない、落語の寄席。落語家・八代目有楽亭八雲を捕まえ、「弟子にしてくれ」と言い出します。
しかし、相手は「自分の芸は残さない、落語と心中する」と言う弟子を取らないことで有名な八雲。いつものように払うのけられるのかと思いきや、何の気まぐれか、弟子となることを許して周りはびっくり仰天。さあ、大喜びで弟子入りした強次の運命やいかに……?
- 著者
- 雲田 はるこ
- 出版日
- 2011-07-07
主人公である強次は、元チンピラですが、経歴とは裏腹に、強次はおバカで、真っすぐで、素直な、人から好かれる男です。一方で師匠である八雲は、「昭和最後の大名人」と称される大御所です。取っ付きにくい人物ですが、落語には並々ならぬ熱意と愛情を持っています。
一見、まったく合いそうにない二人ですが、ふたを開けてみれば八雲は強次を可愛がります。なかでも、強次が前座になることを認められるというシーン。八雲と一緒に入ったお店で酔っ払った強次は、居合わせたお客さんに落語を一席披露します。お客さんは喜んでくれましたが、それは作法も技術もなっていないレベルでした。
後日、八雲は部屋に強次を呼んで言いました。「前座と言うのは修行中の身。それを人様の前で一席だなんて言語道断だ」師匠の雷にしゅんとして「すみませんでした……」と強次は謝ります。その姿を見て、「お前はホントにからかいがいがないねぇ……前座にしてやるって言ってるんだよ」とため息を吐く八雲に、「あーっ! ほんとだ!」と驚く強次。二人のやり取りには、思わず笑ってしまいます。
水と油ように正反対の二人ですが、落語に対する想いの強さは同じ。この二人の掛け合いから目が離せなくなること間違いなしです。
時は江戸時代末期。地球を、「天人」と呼ばれる宇宙人が襲いました。あっという間に江戸の町は天人たちに占領され、侍たちは廃刀令によって生きる術を失ってしまうのです。天人の襲来から20年ほどたった頃、時代遅れとなった剣術道場の息子である志村新八の前に、一人の男が現れます。
彼の名前は坂田銀時。彼がこの物語『銀魂』の主人公です。銀時の侍魂にほれた新八は、その心意気を学ぶために彼の元で働く決心をします。そこへヒロインである神楽が加わり、万事屋銀ちゃんは誕生するのです。
以上の文章を読むと、熱い侍漫画のように思われるかもしれません。実は、違います。これはギャグ漫画です。とんでもなく無茶苦茶な漫画で、小学生男子が大喜びするような下ネタだって平気で飛び出します。
主人公の「坂田銀時」のように偉人をもじったキャラクターが多数登場しますが、「近藤勲に土方十四郎? そういえば新選組に似た名前人物がいたな」程度の認識で読まないと痛い目に合います。当時のヒーローだろうが将軍だろうが、銀時の前ではただのギャグの被害者です。万事屋ご一行のギャグの勢いと爆発力に、笑って涙が出ることは間違いありません。
- 著者
- 空知 英秋
- 出版日
- 2004-04-02
さて、この漫画の魅力はギャグだけではありません。江戸の町に時折起こる、大事件。その解決のために万事屋の三人が馬鹿をやりながらも、真剣に駆けずり回るシリアスな長編が描かれることがあります。ある時は強大な悪から吉原を救い、またある時は将軍の暗殺計画を妨害しようと奔走する。侍としてのプライドや、江戸の町への愛を胸に、血まみれになりながら誰か守ろうとする姿は、思わず目頭が熱くなるのです。
しかし、そんなシリアスな長編が終わった次の話から、何事もなかったかのように大真面目な顔押して将軍がブリーフ姿になっています。え?前回までの話は何だったの!? と思わず読者がつっこんでしまうようなとんでもないギャグを展開する様は、もはやジェットコースター。
笑える話は息が止まるほど笑えます。泣ける話は涙が枯れるほど泣けます。きっと皆さんも万事屋の破天荒さに夢中になってしまうはずです。
『弱虫ペダル』の主人公である小野田坂道は、ごくごく普通のオタク高校生。彼はこよなく秋葉原を愛していました。その愛の深さは、千葉からママチャリで秋葉原に通うほど。しかも小学生の頃から続けているため、生半可な気持ちではありません。
しかし、坂道の愛車であるママチャリは、母親が「遠くに行かないように」と、いくら漕いでも進まないように改造されていた一台。それでも愛ゆえに秋葉原へと漕ぎ続ける坂道は、本人の知らないところで自転車の、ロードバイクの才能を育てていたのです。
その才能に気付かされたのが彼の同級生である今泉俊輔。彼は中学時代からロードバイクで活躍していた、いわゆるエリートです。俊輔と出会ったことにより、坂道はロードバイクの楽しさを知り、その世界へと身を投じる運命に……。
- 著者
- 渡辺 航
- 出版日
- 2008-07-08
さえない男の子が意外な才能を開花させて活躍する王道の筋書きですが、多彩なキャラクターが物語を熱く彩り、飽きさせることがありません。クールなライバル、熱血な仲間、尊敬する先輩に、縁の下の力持ち。個性的なキャラクターたちはそれぞれに熱烈なファンがいるほど。ここ最近では舞台化されたことも記憶に新しいですね。
なんといっても熱いのは、キャラクター同士の競り合いです。一見エリートである俊輔にトラウマの相手がいたり、その相手にもロードバイクに執着してしまう過去があったりと、一人一人に背景があり、しっかりと描写されていることで感情移入がしやすいお話です。一度その内面を知ってしまうと愛着が湧き、ライバルチームとの対決なのに思わず手に汗を握り相手を応援してしまうことも…… 。
熱い漫画を読みたいなら、断然おすすめの一作です。もちろん、ロードバイクの知識がなくても楽しめます。
『クズの本懐』は、成績優秀で可愛い安楽岡花火と、イケメンの粟屋麦が主人公。二人は誰もがうらやむ、美男美女、理想の高校生カップルです。放課後、手を繋いで一緒に下校する姿は、誰もが羨望の眼差しを向けていました。二人きり、人気のない場所では恋人同士ですので、当然キスの一つや二つはします。
しかし、目を閉じた二人の脳裏に浮かんでいるのは、お互いに、別の相手。なんと二人は恋人ではありません。花火も、麦も、本当に好きな相手がいるのです。花火は幼馴染のお兄ちゃん・鐘井鳴海に、麦は昔家庭教師をしてくれたお姉さん・皆川茜に片思いをしていました。でも、彼らの視界には自分たちはいない。この想いは報われることはない。二人は傷を舐め合うために、お互いを利用しているのです。
- 著者
- 横槍 メンゴ
- 出版日
- 2013-02-19
可愛いイラストに、絵柄からは想像できないタイトルのこの漫画。恋愛漫画ですが、とんでもなく真っ黒い展開が繰り広げられています。主人公たちだけがクズで周りが振り回されるのかと思いきや、そこそこの人数のクズが登場します。
それ以外はクズに振り回される気の毒な被害者です。高校生の恋愛漫画と言えば、純粋で真っすぐなキャラクターが中心で、クズは大体ライバルか当て馬です。ですが、この漫画はクズが主人公です。クズを中心に回っています。
胸糞が悪い話かというとそうではありません。花火も、麦も、報われない虚しさから目を逸らすために触れ合ったり、キスをしたりしますが、決して心が満たされることはないのです。その瞬間は気持ち良くても、まぶたを開けば現実が現れ、残るのは虚しさだけ。なんとも切ない恋物語です。
はたして、花火と麦はクズを卒業し、幸せをつかむことが出来るのでしょうか……? 普通の恋愛漫画に飽きてしまった方には断然おすすめの一作です。
『境界のRINNE』の登場人物、高校生・真宮桜は、幽霊が見えるという特殊な体質を持つ少女です。彼女は幼いころに神隠しに会い、それ以降幽霊が見えるようになってしまいました。ある日の授業中、桜は巨大なチワワの霊と、チワワと戦う少年を見かけます。彼の正体は、5月になっても学校に来ないクラスメイト・六道りんね。
幽霊の姿が見える桜に驚きながらも、りんねは、この世に未練が残る霊を成仏させるために協力を求めます。ただしそれは、「彼の送り賃として、500円都合してもらえないだろうか!」なんだか少し、残念な協力要請でした。
- 著者
- 高橋 留美子
- 出版日
- 2009-10-16
主人公である六道りんねは、死神の祖母を持つ、人間と死神の混血の少年です。彼は純粋な死神ではないため、成仏させるためには道具の力に頼らざるを得ません。しかし、その道具は高価のため、りんねは極貧生活を強いられます。
一言で極貧生活と言っても、それは並々ならぬもの。三途の川の渡し賃の50円も桜に借りようとし、家を追い出されたためにクラブ棟に住み、小銭と食料を得るために「百葉箱にお賽銭とお供えを入れて依頼をすると問題が解決する」という噂を流し……。主人公とは思えないみみっちさです。
そんなりんねは、根は真面目で優しい少年です。どんなに対応が面倒な幽霊でも、力尽くで無理矢理成仏させようとはせず、未練がなくなるためなら可能な限り全力を尽くします。道具代がお賽銭以上になったり、時には見た目を気にする少女の霊のために差し歯をローンで購入してしまったりと、結局赤字を出してしまうのです。そのせいで毎回のように金策に悪戦苦闘しているのですが、その姿がなんとも憎めません。
人は完璧な人物像には共感を覚えにくいもの。幽霊を格好良く成仏させる一方で、50円も出せないような残念さを持つりんねは、完璧ではないからこそ生まれる魅力を秘めています。「幽霊」「死」と言った重いキーワードを多く含んでいるにも関わらず、必要以上にシリアスにならずに読み進められるのは、ちょっと残念な主人公のおかげかもしれません。
舞台は、世界総人口の約8割が、様々な「個性」を持つ人間となった世界。物を引きつけたり火を出したりするなど、人によって異なる力が「個性」と呼ばれる中で、主人公の緑谷出久(みどりやいずく)は、何の個性も持っていない「無個性」の人間でした。
出久は、「ヒーロー」に憧れていました。ヒーローとは、個性を利用した犯罪者に対抗する者のことですが、彼らもまた強い個性を持った人物ばかりで、何の個性も持たない出久が目指すのは無謀とも言えるものでした。
ある日、敵(ヴィラン)に襲われた出久は、ひとりのヒーローに救われます。そのヒーローは、No.1ヒーローのオールマイト。彼は出久が幼い頃からずっと憧れ続けていたヒーローでした。出久はオールマイトに、個性がなくてもヒーローになれるだろうかと尋ねますが……。
- 著者
- 堀越 耕平
- 出版日
- 2014-11-04
憧れのオールマイトに自分の悩みを打ち明けた出久ですが、オールマイトはヒーローの戦いが命掛けであると告げた後、「『個性(ちから)がなくとも成り立つ』とはとてもじゃないがあ…口に出来ないね」と言います。その言葉を受けた出久は、現実と夢のギャップに打ちのめされてしまいます。
落ちこぼれの主人公が努力をして成長していくストーリーは、典型的な少年漫画です。ただ、アメコミを思わせるようなヒーローや異能バトルは他の作品にはない躍動感にあふれていて、回を追うごとに読者をワクワクさせてくれます。
ジャンプの基本は、「友情・努力・勝利」といわれますが、無個性な主人公の努力から始まり、友情や勝利へと繋がっていくそれぞれの展開が、迫力のある画力もあってとても熱く描かれていくので、ジャンプ漫画好きはもちろん、王道なバトル漫画を読みたい方、アメコミのような漫画が読みたい方にも読んでもらいたい作品です。
「アリスの夢」と呼ばれるミュータントである紗名は、同じような力を持つ子供達と共に「研究所」で過ごしていましたが、ある日、そこを抜け出して外の世界へと逃げてきます。紗名の目的は、「研究所」にいる友達を助けるため、「研究所」を潰すことでした。紗名は「アリスの夢」の中でも特に異能な力を持っていたのです。
初めて外に出た紗那は、そこで蔵六という頑固爺と出会い、力を使って蔵六の願を叶えるから自分を助けてくれるようにと取引を持ちかけます。蔵六は紗名に手を貸してくれることになりますが、紗名に力を使うなと言い……。
- 著者
- 今井哲也
- 出版日
- 2013-03-30
「おれは曲がったことが大嫌いなんだ。取引だの願い事だのにも興味はない。人間手前の手の届く範囲のことだけきっちり考えればいいんだ」と言い切る日本の古き良き頑固爺である蔵六と、「私は、私の想像力が及ぶかぎり――どんな物理現象も自由に書きかえることができるらしい」という特別な力を持つ少女・紗名のコンビが繰り広げる物語です。日常系のほのぼのと思いきや超能力バトルもあるなど、いろいろな所で意外性を感じる漫画になっています。
頑固親父の蔵六と特異能力者で研究所から追われている紗名との組み合わせは、それぞれのキャラクターの魅力をうまく引き出し合っており、読み進めるにつれて紗名の人間的な成長を感じることができます。
成長物語ではありますが、能力バトルによくある力を強くする成長ではなく、強大な力を失う代わりに、普通に普通の生活を送るようになっていくという流れは、超能力ものの中でも親しみやすく、共感できる方も多いでしょう。ミステリアスな導入部分からつい引き込まれてしまう心温まる超能力バトル漫画です。
中学2年生の加賀見一也は、母親の形見である桜の香りのする帯をとても大切にしていて、いつも持ち歩いています。学級委員長である近石千里の説教から逃げた一也は、いつものように、屋上で帯の香りを嗅いでいました。
そこでカツラが落ちていることに気がつきます。気持ち悪さを覚えた一也はそのまま帰ろうとしますが、いきなりカツラが襲いかかってきました。襲われた拍子に吹き飛ばされた一也は、そのまま屋上から落ちてしまい……!?
- 著者
- 浜田 よしかづ
- 出版日
- 2008-06-28
ちょっぴりエロいのが特徴の妖怪ものアクション漫画。エロいといってもあくまでも少年漫画の枠の中なので、ストーリーのおまけとして楽しむのにちょうど良いでしょう。
一也の前に現れる帯の付喪神であるヒロインの桐葉は、一也を下僕扱いするほど気の強いタイプである一方、一也に対する好意を一切隠そうとしません。そのため、一緒にお風呂に入ったりベッドに寝たりとしてくるので、一也は終始振り回されることになります。
ラブコメディ+ちょいエロといった作風ですが、妖怪ものでもあるため、迫力のあるバトルシーンも見どころの1つです。力がぶつかり合う戦闘はもちろん、頭脳戦ともいえるバトルなどもあり、バトル漫画として満足感のある作品となっています。シリアスな展開もそれほど暗くならないので、バトルとちょいエロラブコメを楽しみたい方にオススメです。
不良集団を病院送りにしたために高校を退学になり、愛地共生学園に転校してきた納村不道(のむらふどう)は、そこで武装女子による男子支配を目の当たりにします。強制されることを嫌い、自由と平穏を愛する納村は、転校して早々、学園を統率する「天下五剣」に刃向ってしまいました。
目をつけられた納村は、天下五剣の1人、鬼瓦輪(おにがわらりん)と勝負をすることになります。五剣の中でも腕利きの輪に相対する納村でしたが、彼にはある秘密があって……!?
- 著者
- 神崎 かるな
- 出版日
- 2014-10-24
冒頭で「カオスな建造物の数々に、住人は全員――武装女子!」と書かれていることからもわかるように、学校を舞台にした学園モノと、武装女子との戦いを描いたバトルものが合わさった漫画です。
愛地共生学園では、生徒のほとんどが女子であり、主人公の納村以外にも少数の男子はいますが、いずれもメイクをしているなどどこか普通の男子という感じではありません。キャラクターの配置だけで考えるとハーレムものとも言えますが、武術ネタなども取り入れた迫力のあるバトルシーンは必見で、ただのラブコメやハーレムものでおさまっていないのが特徴です。
もちろん学園ものラブコメ要素もありますが、何より戦う女子が好きな方に読んでもらいたい漫画になっています。
藍野青司は普通の男子高校生。そんな彼の前に突然、「キスノート」という黒いノートを持った少女が現れます。そこには、藍野の名前が書かれていました。少女は、ノートに名前を書かれた人物が24時間以内にキスをしないと、自分が死ぬのだと藍野に告げます。つまり、藍野がキスをしないと死神が死んでしまうのです。
そうと知った藍野は死神を追い返そうとしますが、その後、ノートには藍野ともう一人の名前を書かなくてはならず、その書いた相手とキスをしなければ、藍野は一生童貞になってしまうということもわかります。
それは困ると思った藍野は、密かに想いを寄せている緋山茜の名前を書いてもらおうと思いますが……。
- 著者
- 三星めがね
- 出版日
- 2013-03-12
「キスノート」の設定など、他作品のパロディも盛り込まれたギャグコメディ漫画です。主人公である男子高校生の前にいきなり美少女の死神が現れ……という始まりは、よくある流れではありますが、その後の展開は予想外の連続です。
藍野が密かに想いを寄せていたのは、同じ学校の茜です。茜は可憐な美少女で、藍野は遠くから見つめているだけでしたが、実は茜もその視線に気が付いて藍野に好意を持っていたのです。しかし、それで両想いになるほどこの漫画は甘くありません。
茜は藍野が死神とキスをしたことを知るや、刃物を振り回す強烈なヤンデレキャラへと変貌してしまいます。そんな茜に対して藍野は……と、アップテンポにストーリーは進んでいきます。茜をはじめ、いろいろなタイプのヒロインも登場し、スピードのある展開とギャグのバランスがいいラブコメ漫画です。1話の最後では、最初の驚きを感じる展開が待っているので、気になる方はぜひ手に取ってみてください。
伊賀の忍び見習いの千鳥は、川で溺れているところを通りがかりの男に助けてもらいます。その男こそ、うつけと評判の織田信長でした。彼は千鳥に対して、自分の夢は日本の乱世を終わらせることだと語ります。信長の話を聞いた千鳥は、戦で両親と故郷を失くした経験から、乱世を終わらせようとしている信長に仕えることを目標とするようになりました。
五年後、伊賀の里が尾張の織田から忍びの依頼を受けたのを機会に、千鳥は織田の元へと向かい、その下で忍びとして働くようになりました。
- 著者
- 重野 なおき
- 出版日
- 2009-06-29
ギャグテイストの4コマ漫画ですが、作者が中学校社会科の教員免許を持っていることもあり、史実がふんだんに盛り込まれており、思いがけず勉強になることもしばしば。同時に、正確な時代考証が物語へ深みを与えています。
とはいえ、絵柄もキャラクターも軽いタッチで描かれているので、勉強漫画のようなかた苦しさはもちろんありません。史実から外れた展開にはならず、むしろ史実ゆえにシリアスな場面もありますが、テンポ良く進むストーリーはどんどん読み進めることができます。
4コマ漫画ではありますが、全体を通して長編と読むこともできるくらい話が繋がっています。歴史にあまり詳しくない人は気軽に楽しみながらついでに史実を知ることができますし、戦国好きや歴史好きの人もしっかりした史実に満足して読むことができるでしょう。ほのぼの系な戦国忍び絵巻です。
舞台は、中世ヨーロッパの雰囲気を持った剣と魔法の世界。「黒い剣士」と呼ばれるガッツは、左手は義手、背中に鉄の塊のような大剣を背負った男です。ある日、ガッツは流れ着いた町の酒場で、盗賊になぶられているエルフ・パックを助けました。
パックは、ガッツが倒した盗賊は、領主がみつぎ物と町での自由を交換条件に、町を襲わないという取引をした相手であることを教えます。そして、盗賊達の報復、それに取引をしている町の兵隊達も黙っていないから早く逃げるようにと告げますが、一足遅く、ガッツは町の兵隊の手に落ちてしまい……。
- 著者
- 三浦 建太郎
- 出版日
エルフや悪霊などもたくさん登場するダーク・ファンタジーです。暴力シーンや残虐シーンも多いですが、そこまでグロくはありません。冒頭から物語の壮大さを感じることができ、ぐいぐいとストーリーに引き込まれていきます。
主人公のガッツは、壮絶な過去を背負っており、そのためか残酷な行為も随所に見受けられます。世界観もシリアスなので一見重くなりそうですが、彼の最初の仲間になったエルフのパックがとても明るいキャラクターで、雰囲気をグッと軽くしてくれています。
暴力描写等が苦手な方は、読む際に少し注意が必要かもしれませんが、それらも濃厚なストーリーの中で語られることなので、全て物語の一部です。生まれ落ちた瞬間から絶望にいるようなガッツが、どのような未来を手に入れるのか、ぜひ手に取って確かめてみてください。
幼馴染の有栖川仁乃(ありすがわにの)、通称・ニノと、榊桃(さかきもも)、通称・モモは、家がお隣同士で、両親がケンカをした日は窓ごしに2人で歌うのが日課でした。仲良しの2人はいつも一緒で、ニノはモモと歌うと自分は無敵になれると思っていました。
しかし、小学校4年生になったある日、モモは突然ニノの前から姿を消してしまいます。理由もわからず、もちろん連絡も取れなくなってしまった状態に、感情を抑えられなくなったニノは思い切り叫ぶために海へ行きます。そこで、浜辺に譜面を書く1人の少年に出会い……。
- 著者
- 福山リョウコ
- 出版日
- 2013-10-18
ニノとモモ、それに浜辺で出会った少年、杠花奏(ゆずりはかなで)、通称・ユズの3人の気持ちが、バンドを通して絡み合う青春ストーリーです。ニノがマスク少女になっているのは、モモと別れてからというもの、感情が高ぶると叫んでしまいそうになるので、それを抑えるためです。
青春、バンド、三角関係と王道のキーワードを並べられる漫画ですが、綺麗な絵と演出でドキドキしてしまうシーンがたくさんあります。メインの3人の他にも個性的なキャラクターが揃っており、お気に入りがきっと1人は見つかるのではないでしょうか。
楽譜が描かれていることも多く、楽譜を読める方であればさらに物語を楽しむことができるかもしれません。もちろん楽譜を読めなくても雰囲気は充分掴めるので、作品世界を楽しむことができます。同世代の方もそうでない方も、青春と音楽のジャンルを楽しみたい方にオススメです。
幼い頃に両親と死別した夏目貴志は、妖怪を見ることができる体質の男子高校生。その体質と境遇ゆえ、寂しさから嘘を吐く子供だと言われながら育ちました。
ある日、襲ってきた女の妖怪から逃げていた夏目は、偶然、斑(まだら)という妖怪の封印を解いてしまいます。夏目を見た斑は、彼のことを夏目レイコと勘違いしますが、レイコは夏目の祖母でした。
斑の話から、レイコが夏目と同じように妖怪を視える体質で、いつも1人であったことを知り興味を持った夏目は、斑の言っていた「友人帳」を祖母の遺品の中から見つけます。それはかつて、レイコが勝負を挑み打ち負かした妖怪達の名前を記した物だというのですが……。
- 著者
- 緑川 ゆき
- 出版日
- 2005-10-05
妖怪が見える人間と、相棒となる招き猫姿の妖怪斑、通称・ニャンコ先生がコンビを組み、妖怪に関わるあらゆる事柄に関わっていく妖怪ファンタジー。この物語の特徴は何より、妖怪退治をするのではなく、妖怪に名前を返すという点です。
ニャンコ先生と出会う前は、ただ妖怪に振り回されるばかりだった夏目が、妖怪と交流するうちに次第に互いの理解を深めていく様子は、読んでいてとても気持ち良く、温かくなります。それと同時に、それまで辛い境遇ゆえに落ち着く場所のなかった夏目が、少しずつ自分の居場所を見つけていく展開も、静かながら物語に味わいを持たせていますね。
妖怪と対峙する場面では戦闘シーンもありますが、少年漫画のようなバトルものにはならず、絵柄との効果もありとても美しく描かれています。少女漫画ですが、恋愛よりも妖怪や人との関係が描かれており、妖怪ものが好きな方はもちろん、幻想的な少女漫画を読みたい方にぜひ手に取ってもらいたい作品です。
大災害から5年が経ち、復興にも関連してロボット技術が発展した日本が舞台。練馬大学の大学院生でロボット工学を学ぶお茶の水博志(おちゃのみずひろし)と天馬午太郎(てんまうまたろう)は、次世代人工知能「ベヴストザイン」を搭載したロボットA106、通称・シックスを作り上げていました。
しかし、2人の研究室は廃材置き場にある物置小屋で、校内ではクズ扱いです。そんな中、あるイベント事故をきっかけに、2人が開発したシックスに自我が芽生え始め……。
- 著者
- ["手塚 治虫", "ゆうき まさみ", "カサハラ テツロー"]
- 出版日
- 2015-06-05
手塚治虫の名作『鉄腕アトム』を原案にした、アトムが生まれるまでの物語です。手塚プロダクションも全面協力をしており、鉄腕アトムファンには必見の漫画となっています。
冒頭、日本では何か大規模な災害が起こった描写がありますが、「詳細な規模や原因などはおおやけにされることなく、復興とそれに伴う技術革新が急速に進み、5年がすぎた」とあるように、その詳細はわかりません。しかし、後にこれが大きな展開へと繋がっていくことになります。
物語自体はアトムとは別物なので、アトムを知らない人でも充分に楽しむことができるでしょう。ロボットの造形や人工知能など、ロボットSFが好きな方にはたまらない漫画とも言えます。SF要素が多いので、馴染みのない方には難しい用語もあるかもしれませんが、描写が丁寧なのでとても読みやすく、この作品をきっかけに『鉄腕アトム』など手塚作品を読んでみるのもおもしろいかもしれません。
『アトム ザ・ビギニング』については<漫画『アトム ザ・ビギニング』が面白い!原作と比べた魅力全巻ネタバレ紹介>で紹介しています。
『アホガール』の主人公、花畑よしこはとんでもないアホの子です。両想い(と思い込んでいる)の幼なじみである阿久津明(あっくん)にそのアホさ加減故に説教を食らっても頓珍漢な回答を連発。それに対してあっくんが鉄拳制裁をするという関係のふたりがクラスメイトなど周囲の人間を巻き込んでハチャメチャな日常を展開していきます。
- 著者
- ヒロユキ
- 出版日
- 2013-05-17
とんでもないアホの子のよしことあっくんの、思わず笑ってしまう会話の応酬が魅力の一つです。
「ねえねえ! あっくんあっくん!」
「…なんだよしこ」
「実力テスト全部0点だった!!」
「アホだな」
「マークシートだったのに!! すごくない!?」
「すごくアホだな」
(『アホガール』より引用)
これくらいはまだマシです。
「幼なじみとして忠告する おまえのアホさはヤバイ」
「え? うそ!?」
「お前程のアホでは世の中生きていけない」
「そ…そんな! 私死ぬの!?」「な…なら死ぬ前にせめて……せめてもう一本バナナ食べたい!!」「そしたら私…もう悔いはないから……」
「ホントアホだな」
(『アホガール』より引用)
頭を空っぽにして楽しむ『アホガール』ぜひともお楽しみください。
U-16サッカー日本代表にも選ばれるほどの実力者の青山は、天才的なプレーである見るものを魅了していく……が、一つ重大な欠点があります。
それは潔癖症であるためヘディング、タックル、スライディング……サッカー選手にとって基本とも言えるプレーをどれもできないということ。そんな青山の潔癖な青春が描かれます。
- 著者
- 坂本 拓
- 出版日
- 2015-01-19
潔癖という弱点を抱えた青山はサッカー選手として大きな欠点を抱えているかのように見えます。しかし、それすらも己の武器としている青山の実力は本物で、潔癖症という側面が強調されがちなコメディー作品ではありますが、むしろ彼のサッカー、ひいては勝負事にかける想いなどが見どころと言ってもいいでしょう。
当初はその独善さにあきれ果ててしまうチームメイトも、勝負事に対する真摯な態度を認め、次第に心を許し彼を認めはじめていきます。
ひとつ、彼の台詞を引用しましょう。
「ラスト5分間だけならガマンできます 自分負けるのが大嫌いなんで」(『潔癖男子!青山くん』より引用)
かなり笑えて、熱くなれる『潔癖男子!青山くん』ぜひとも読んでみてはいかがでしょうか?
少子化対策として、16歳以上の少年少女の自由恋愛は禁止、国が最良の伴侶を見繕う世界が舞台。主人公、根島由佳吏は子供の頃からずっと好きだった高崎美咲と両想いになりファーストキスを交わすことに成功します。けれど、16歳になり、政府から送られてきた政府通知に記された将来の結婚相手は別の女の子で……。
- 著者
- ムサヲ
- 出版日
誰かが決めた相手と結婚する、というありきたりな設定で始まりますが、それゆえにうまく話を広げて差別化を図っています。決められた結婚相手である真田莉々奈も非常に良い子であり、女の子として魅力的で、どちらを選ぶかが難しくやきもきさせてくれます。悩み苦しみ、それでも前に進んでいく彼らの恋を思わず応援したくなること間違いなしでしょう。
また、タイトルに関してもしっかりと考えられており、登場人物たちの恋と嘘が絡み合う青春群像劇は一時たりとも目を離すことができません。
読むと恋をしたくなる物語『恋と嘘』是非とも読んでみてください。
『徒然チルドレン』は、思わずニヤニヤしてしまう、明るくて応援したくなる恋物語という表現がぴったりと当てはまる作品です。思春期真っ盛りの少年少女たちの織り成す嬉し恥ずかしなオムニバス形式の恋愛は、思わず身悶えるほどに爽やかな世界を見せつけてくれます。
- 著者
- 若林 稔弥
- 出版日
- 2014-08-16
本作品は基本的に一話四コマの短編連作という形を取っており、多くのキャラクターが登場するため、自分だけのお気に入りをすぐに見つけることができるだけでなく、お気に入りワンペアを選ぶことができないという幸せな悩みが生まれることもあるでしょう。また、一話完結という形式でもあるため、どこから読んでも楽しむことができます。
わかりやすい好意と本音がダダ漏れの欲望、微笑ましいほどの好きというエネルギーのうねりに思わずほっこりすること間違いなしです!
作者のサイトで無料公開している分もあり、まずは気軽に読んでみるのもいいかもしれません。
あなたの好きな恋愛がきっとあるはず……『徒然チルドレン』いかがでしょう?
将来の夢もなく、ただ、時間の流れるままに日々を生きていた少年、富士田多々良は、偶然出会った千石要のすすめで社交ダンスを始めます。
初めて見た試合で踊る同級生の花岡雫、天才ダンサーの兵藤清春の華麗さに触発され、社交ダンスにのめり込んでいく多々良、彼は本当にしたいことを見つけられたのでしょうか?
- 著者
- 竹内 友
- 出版日
- 2012-05-17
初心者であるがゆえに、舐められることも多い多々良ではありますが、徐々にその非凡なセンスを発揮して周囲を驚かせていくところも見所です。そしてなにより、本作の見所は躍動感溢れるダンスシーンでしょう。
特徴的なタッチで描かれる日常シーンからダンスシーンに切り替わる瞬間、激しいダンスと荒々しいタッチが絶妙な配分で融合します。思わず息を呑んでしまう構図の連続で、読者を飽きさせず、納得させるその作画はまさしく一級品と言っていいでしょう。
服装にあまり気を遣わず、恋愛から遠のき、女として枯れていると認定された女性を、世は「干物」と称しています。『干物妹!うまるちゃん』は、1年前からアパートで2人暮らしをしている、土間太平と埋(うまる)兄妹の日常を描いたギャグ漫画。実はうまるは、女子高校生にしてすでに干物女なのです。
うまるは背中を覆う亜麻色のロングヘア―が特徴の美少女。容姿端麗、品行方正、成績優秀、スポーツ万能という、まさしく才色兼備な女子高生です。そんな彼女ですが、兄と暮らすアパートに帰れば、40㎝サイズのデフォルメ姿に変身。コーラとスナック菓子、ジャンクフードをこよなく愛し野菜嫌いな偏食に加え、漫画とネットサーフィンが大好きで、オンラインゲームで夜更かしも日常的な干物女子生活を満喫し始めます。
- 著者
- サンカクヘッド
- 出版日
- 2013-09-19
うまるは外では優等生ですが、家の中ではかなりのわがままっぷりを発揮。小言を言う兄に対し、コンビに行くならおやつ買ってきて、と使い走りにするなど、ちょっと冷たい様子を見せます。しかしこれは、うまるの愛情の裏返し。大好きだからこそ、タイヘイにはわがままをたくさん言って、困らせています。
うまるは家の中での「干物妹」モードをひた隠しにしており、知っている人はごく一部。そのため、巻き起こる日常の騒動がコメディタッチで描かれているのですが、とにかくうまるが可愛いというのがおすすめポイント。ちょっと生意気なところはありますが、実はお兄ちゃん大好き、というところにときめいた読者も多いでしょう。少しの我儘くらいは、おいておいて、一緒にゲームで遊びたくなる可愛さです。
2015年にアニメ化されたときは、主に1巻から4巻の内容から、エピソードがチョイスされていました。コミックスも巻数が増え、海老名菜々、本馬切絵、橘・シルフィンフォードといううまるの友人たちに加え、金剛ヒカリという、ミステリアスな雰囲気の美少女が登場しています。うまるとタイヘイの過去など、気になるエピソードも増えた原作を読んで、可愛いく動くうまるちゃんの活躍に備えましょう。
日本には8つの形のある八大地獄という地獄があり、それぞれ生前の罪に応じて落ちる場所が違います。そんな地獄の王である閻魔大王に代わり、地獄の全272部署を治めているのが、閻魔大王の第一補佐官である鬼神の鬼灯(ほおずき)。鉄面皮で誰にでも容赦のない、冷徹ながら超有能な補佐官です。
- 著者
- 江口 夏実
- 出版日
- 2011-05-23
『鬼灯の冷徹』は、鬼灯を中心に、地獄で働く鬼や妖怪といった獄卒(ごくそつ)たちを交え、地獄の部署や仕事をコメディタッチで紹介していく作品。鬼灯が表情を一つも動かさずに茶目っ気を見せるのですが、相手にとってははた迷惑なハードさに、つい笑いがこみ上げてきます。
地獄について知らない人は、よりその知識が新鮮に映るでしょう。地獄の部署と、そこに落とされる理由に加え、どのような刑が行われているのかも見られるため、死後のイメージをかなりリアルにすることが可能。思わず自身の過去を振り返り、この地獄に落ちるかも、と想像が勝手に膨らんでしまいます。
インパクトのあるオープニングテーマと、地獄という題材に加え、かなりギリギリなパロディネタで人気を博した『鬼灯の冷徹』のテレビアニメ2期が、2017年秋より放送されることとなりました。原作では日本に加え、海外の冥界事情もより深い内容になってきており、地獄ネタはかなりディープになると予想されます。漫画でもアニメでも、地獄を楽しく学べるのは本作だけ。読んでいれば、死後が少しだけ楽しくなるかもしれませんよ。
人ならざる者との婚姻は創作の題材として多く用いられていますが、『魔法使いの嫁』も、山羊や犬の骨のような頭部に人間の身体という魔法使い、エリアス・エインズワースと、孤独な少女羽鳥智世(チセ)がおりなす婚姻譚です。
チセは小さなころから、人の目には見えないものが見える体質の少女。父と弟は失踪、母親は目の前で自殺するなど、家族の縁にも恵まれず、親戚の家を転々と忌避されながら育ちました。そんな時、とあることがきっかけで自身をオークションに出品したチセ。買いとったのは人外の魔法使い、エリアスでした。
- 著者
- ヤマザキコレ
- 出版日
- 2014-04-10
嫁兼弟子としてエリアスの元へ迎えらえたチセは、実はかなり強大な力を持った存在。「夜の愛し仔(スレイ・ベガ)」は、膨大な魔力の生産と吸収ができるという存在で、その魔力によって魔物や妖精を惹きつけます。魔力の貯蔵庫としての利用価値が高く、魔法使いは喉から手が出るほど欲しい存在ですが、その体質ゆえに極めて短命という運命を持っています。
エリアスはチセを利用するということはなく、あくまでも将来的には嫁になってほしい存在として扱います。人の好意を知らずに育ったチセが、エリアスや魔法使いに関わる人々、妖精や魔物と関わることにより、15歳という年頃の少女らしいかわいらしさを見せていくのが印象的。少しずつ変わっていくエリアスとの関係も注目ポイントです。
英国を舞台にしており、庭園や森、建物の描き込みが丁寧であることも、本作の見どころのひとつ。美しい景色の中で語られる、優しくて少しだけ悲しい少女の成長と人外の者との恋物語、溜息が出るほど美しく、優しい世界をご堪能ください。
『魔法使いの嫁』については<『魔法使いの嫁』を13巻まで全巻ネタバレ紹介!人外恋愛漫画に胸キュン!>で詳しく紹介しています。
どこまでも澄んだ青の世界に、ぽかりと浮かぶ大きな船。緑に覆われた地に花が咲き、人々が幸せそうに暮らす船とは正反対の、生き物の気配さえ薄い砂の海。外の世界を知らない少年少女たちは、特別な力を持っているがゆえに、短命という宿命を持っていました。
砂の海に浮かぶ巨船を舞台に、少年少女の成長と、謎めいた世界の秘密を明かしていくハイファンタジー漫画『クジラの子らは砂上に歌う』は、知る人ぞ知る作品。独特の世界観と、淡いタッチの絵が見事にマッチし、唯一無二の世界を創りあげています。
- 著者
- 梅田 阿比
- 出版日
- 2013-12-16
物語は泥クジラに初めての来訪者、褐色の肌をした少女、感情を失ったリコスが現れたことにより動き始めます。チャクロは、何でも記録をせずにはいられない性分。物語の語り手も務め、砂の海に浮かぶ楽園だった泥クジラの辿る運命と、世界の秘密を知ることになります。
泥クジラ、外の世界を知らない泥クジラの人々、印を持つ者だけが使える、感情を元に発動する情念動(サイミア)など、世界設定はかなり緻密。謎は少しずつ明かされていきますが、泥クジラの人々を襲う衝撃の事実に、読者もハラハラ。世界の謎を知らないチャクロの目を通して作品を読むことになるので、読者もキャラクターと同じ驚きや悲しみを共有できます。
闘いと世界の謎を知っていく物語なので、雰囲気自体は少し重め。しかし、どこか退廃的な空気感は読者を魅了して離しません。アニメでどこまで描かれるのかは気になるところですが、放送の前に原作の空気に触れれば、より深く本作の世界を味わうことができます。未だ謎の多い砂の海へ漕ぎだすときは今しかないでしょう 。
世界を救うのは、いつだって10代から20代前半の若者。彼らにあり余る体力と情熱、そして誰かを救いたいという衝動を貫き通せるがむしゃらな気持ちがあります。しかし、それは若さゆえの行動。年齢を重ねると、自身の気力や体力に加え、世間からの風当たりも強くなるところにもの悲しさを感じます。
『いぬやしき』の主人公犬屋敷壱郎は、58歳という年齢にもかかわらず、おじいちゃんと言われるほど老けた外見をしている、さえないサラリーマン。温厚で内向的な性格をしていて、家族や会社からは少々ないがしろにされ、疎外されがちです。
- 著者
- 奥 浩哉
- 出版日
- 2014-05-23
そんな犬屋敷が、自身の病気を家族に打ち明けられずに悶々とした気持ちを抱えたまま、愛犬とともに散歩をしていると、なぜか宇宙人の事故に巻き込まれるハメに。一度は死亡したものの、宇宙人によって生前の記憶と思考、精神を持ちながら身体は機械という、サイボーグとして生まれ変わります。
犬屋敷とともに事故に巻き込まれた獅子神もサイボーグ化してしまうのですが、人助けに存在意義を見出した犬屋敷に対し、大切な人たちを不幸にした人間を次々と殺害するなど、暴走していきます。この、中年が正義として存在し、様々な事情はありながらも、若者が悪であるという構図が新鮮。獅子神のインターネットを使用した復讐劇は、ネット使用者ならばゾッとすること間違いありません。
ただまっすぐに自身の思う正義を貫く犬屋敷の姿に胸が熱くなる半面、暴走し続ける獅子神の姿には痛々しさを覚えます。アクションが派手なこともあり、映像での迫力は想像に易いですが、まずは中年ヒーローの活躍と、若年ヴィランの苦悩、手に汗握る物語をお楽しみください。
羽海野チカといえば、美大を舞台にしたラブコメ作品『ハチミツとクローバー』で大人気となった漫画家です。オシャレだけれども、清廉な冬の朝のような鋭い空気を持った物語は、柔らかく温かな春の日差しのような最終回を迎えました。
少女漫画を描いただけに、次の作品も少女漫画かと思いきや、選んだ題材は将棋。そのチョイスに驚いたファンも多い事でしょう。『3月のライオン』は、15歳でプロの棋士になった桐山零が主人公。両親が死亡し、師である幸田の内弟子として生活していましたが、幸田家の家庭内軋轢を生んでしまったため、家を出ることになります。
- 著者
- 羽海野 チカ
- 出版日
- 2008-02-22
たどり着いたのは、親戚でも知人でもない川本家。無理やり酒を飲まされた零は、まっすぐ家に帰る途中で力尽き、民家の前で倒れてしまいました。零を介抱したのが川本家の3姉妹。この出会いがきっかけとなり、零は川本家との交流を深め、少しずつ心理的にも変化が見られるようになります。
基本は将棋の試合と、零や川本家の3姉妹、あかり、ひなた、モモとの交流がメイン。零の世界が広がるにつれ、同級生や学校の様子などが描かれる回数が増えていくのも、興味深いところです。
棋士たちはそれぞれにアクが強く、一筋縄ではいけない者ばかり。悩み、心の痛みに苦しみながらも、前へと強く進もうとしている零の姿に、軽い羨望を覚えます。3姉妹の温かさと、ところどころに登場する動物キャラクターのかわいさに反し、冬の一番冷えた時の空気のように、冴え冴えとした感覚が肌に痛いこともある本作。人が成長するには、かならず何らかの痛みが伴うものですが、零のように強く立てる人間であらねば、と背筋が伸びる作品です。
いかがでしたか?アニメ化されても、作品によっては完結していないものもありますし、もちろんアニメにはなっていないエピソードもたくさんあります。アニメを見て作品を知った方も、これを機会にぜひ原作を手に取ってみてください。