株式会社KADOKAWAが手掛けている、月刊漫画雑誌「ハルタ」をご存知ですか?新人作家を主に採用する、少しイレギュラーな漫画雑誌であるため、掲載される作品も様々です。今回は、そんなハルタのおすすめ漫画をランキング形式でご紹介いたします。
佐々大河が描く『ふしぎの国のバード』は2013年からハルタで連載されており、既刊3巻(2017年4月時点)の漫画です。
本作は実在するイギリス人冒険家、イザベラ・バードという女性を主人公にし、彼女が執筆した『日本奥地紀行』に基づいて制作されたフィクション作品です。
舞台は明治時代1878年、横浜。女性冒険家のバードが日本へやってきた理由は、最北の地である蝦夷ヶ島を訪れ、アイヌの集落を目指し、日本古来の生活を目にするためでした。異国での旅で重要となる通訳人を探すため、ジェームズ・ヘボン(彼も実在する人物です)に紹介をお願いするのですが、やってくる人々の英語力は、どれも頭を抱えるばかり……。
通訳志望者全員の面接が終わり、期待外れの状況に困惑していたところ、英語は達者だが身元不明の青年、伊藤鶴吉がバードの元を訪れてきました。通訳として有能であり、且つ命がけの旅にもついてこられると言う伊藤を通訳として雇うことに決め、バードの冒険は始まったのです。
- 著者
- 佐々 大河
- 出版日
- 2015-05-15
異国の地に訪れ、意気揚々とし、ほおを紅潮させるイザベラの可愛らしいこと限りありません。イギリスのフリルの多い服を着ながらも、その心はたくましく、好奇心旺盛な少女のようです。
背景や絵柄も素敵なんです。江戸時代の名残を包含している、明治時代の人々の恰好や活気あふれた街並みは、文明開化による時代の躍動感を感じさせます。また、登場する人々の台詞も、日本人の発する日本語を筆で書いた文字で表しています。外国人視点の、「何言っているのかわからない」感がおかしく伝わってきますね。
バードの目的は日本の生活様式を自分の目で見ることですが、その生活様式は文明開化によって消えつつあるものです。便利になることはいいことですが、それによって失われるものにどれだけの価値があるのか……。バードは、その今しか記録できない価値を求めて旅をしているのです。
今やバードが記してきた風習は、私たちの身の回りにほとんどありません。この漫画を読むことで、外国人だからこそ気付ける、古き良き時代の日本の姿を知ることができるかもしれませんよ。
ハルタで連載されていた『坂本ですが? 』は、佐野菜見による全4巻の漫画です。2016年にはアニメ化もされています。
高校入学早々、人々の目を集め、女子からは歓声が上がる男子生徒がいました。その生徒の名は坂本。彼はヤンキーたちからの嫌がらせを華麗に回避し、勉学も運動神経も長けている完璧超人なのです。七三分けで眼鏡をかけた美少年・坂本は、今日もスタイリッシュに学生生活を送るのでした。
- 著者
- 佐野 菜見
- 出版日
- 2013-01-15
異色のギャグ漫画として一世風靡した本作の見どころは、なんといっても坂本の華麗ではあるが現実で目にしたら超能力者としか思えない一挙手一投足でしょう。
登校して早々、教室の入り口には頭上から黒板消しが落ちてくるトラップが……。女子がヤンキーたちをけん制するなか扉を開けて登場した坂本は、あたかもイタズラが仕掛けられていたことを知っていたかのように、一度も頭上を見上げずに黒板消しをキャッチしたのです。
そのキャッチしたときのポージングも完璧。黒板消しを持っていないほうの手は軽く腰に添えられ、長い脚はスラっとバランスを崩さずに伸びているのです。眼鏡越しから見える切れ長の目と泣きぼくろは色っぽく、「おはようございます」というたった一言を何事もなかったかのように発するのです。周りの女子生徒とともに歓声をあげてしまうところでした。
坂本の魅力は留まることを知りません。彼はいくつかの秘技を持っているのですが、その実態はただの反復横跳びや直立不動など、カッコイイとは程遠いもの。ですが坂本がその秘技を繰り出すと、ありえないミラクル!と人々の感動を呼ぶのです。
また、作者がつける坂本の秘技名のハイセンス加減もポイントです。反復横跳びのことを「レピテイションサイドステップ」、ひざかっくんのことを「ニーディストラクション」というように、無駄にカッコイイ横文字をあてたり、ロボットのように振る舞うことで話題をずらすことを「ソレハオイトイテ」という技名でもなんでもない言葉をあてたり……。
面白いことはもちろんのこと、坂本はこの状況をどう華麗にさばくのだろうと、ワクワクしながら読むことができます。人目に付く場で読む場合は、突然のポージングや流し目などの見開きページで笑い出さないように注意が必要ですよ。
大武政夫の作品『ヒナまつり』は、ハルタで2010年から連載されており、既に12巻刊行されています(2017年4月時点)。
芦川組のやり手、新田はある悩みを抱えていました。それは、自宅に超能力を持つ少女が居候していることです。少女の名前はヒナといいます。突然、部屋に現れた楕円形の物体から飛び出してきたヒナは、自身が持つ能力でヤクザである新田を脅し、衣住食を要求してきたのです。
かくして始まったヤクザと超能力少女の共同生活ですが、新たな超能力少女が登場したり、普通の女子中学生がヒナのお世話係として巻き込まれたり……。波乱万丈な日々に、新田は休む暇もないのでした。
- 著者
- 大武 政夫
- 出版日
- 2011-07-15
泣く子も黙るヤクザも、超能力者にはかないません。高価な壺や絵画を人質に新田を脅すヒナはいつだって無表情です。冷徹なキャラなのかというとそうではなく、寝るにはぬいぐるみが必要と言って新田に購入させる面もあります。そんなところもあって、新田はともかく、読者から見ると憎くらしくも可愛らしいですよね。
物語は基本ギャクテイストで進みます。強面であるはずの新田が、ヒナたちに振り回されることによって絶句したり何ともいえない表情をしたり、少しかわいそうだけど面白いんです。
この新田の心の声もまた本作の魅力の1つです。途中、ヒナと比べると攻撃的な性格を持つ超能力少女が登場します。街中に現れた彼女は暴走族を壊滅させるほどの力の持ち主。それに対し、ヒナは自分が保護したこともあり、何も問題を起こしていません。
そういった黙想をしたうえで新田は「俺は人知れず日本を救っていたのかもしれん」というつぶやきを発するのですが、もちろん心の声など周りには聞こえていません。「なんで?」という部下からの冷静かつ真顔のツッコミに、シュールさを感じます。
ヤクザ×少女のという組み合わせからは想像できないような、暴力がない平和な世界のドタバタコメディ漫画です。
『ヒナまつり』については<漫画『ヒナまつり』の中毒性ある面白さを14巻までネタバレ紹介!アニメ化!>で紹介しています。ぜひご覧ください。
森薫が描く『乙嫁語り』は、2008年からハルタで連載中で、9巻まで出ています(2017年4月時点)。
舞台は19世紀後半の中央アジア。北方の移牧民である一家出身の20歳のアミルが嫁いだ相手は、街に定住するエイホン一家の息子、12歳のカルルクでした。8歳という年の差を超えて、二人は共同生活を送ることで徐々に仲を深めていきます。
- 著者
- 森 薫
- 出版日
- 2009-10-15
「乙嫁」という言葉は、「年少のお嫁さん」という意味です。本作の軸はアミルとカルルクなのですが、アミルだけでなく、そのほかの嫁入りを控える若い女の子たちにも焦点にあてられています。
神秘的な美しさを誇る女性も登場すれば、好きな男の子に素っ気なくしてしまったり照れてしまったりする女性もいます。どの女の子も身も心も美しく、読んでいてドキドキしてしまいます。
アミルの場合、当初はカルルクに対して母性的な愛を抱いていました。ベットでカルルクの頭をなでるあたり、女性読者なら大変気持ちがわかるはずです。ですが、物語の途中でカルルクが男らしい一面を見せ、アミルの気持ちは次第に変化していきます。恋心や人間関係などの心理描写も丁寧で、読んでいると胸がジンワリ暖かくなることでしょう。
そして、本作はなんといっても絵柄、描き込みにキャラへの愛が伺えます。中央アジアの衣装や絨毯などの細やかな刺繍も毎回丁寧に描かれ、洗練された細密画といっても過言ではありません。
中央アジアの生活について詳しい日本人はそう多くはありません。しかし、本作は森薫の圧倒的な描写力及び画力によって支えられているため、自然と「これが中央アジアの民族なんだ」と納得させられるほどのリアリティがあります。
これほど徹底したクオリティを保てるのも、漫画家の意思を尊重する漫画誌ハルタで連載しているからとも言えるでしょう。そういう意味で、他の漫画誌では目にすることができない作品です。
『乙嫁語り』については<漫画『乙嫁語り』の魅力をネタバレ紹介!面白さの理由を徹底考察!>の記事で紹介しています。
漫画誌ハルタで2014年から連載中の『ダンジョン飯』は、既刊4巻(2017年4月時点)の九井諒子による作品です。
地下に眠る王国を目標に、ダンジョンに足を踏み入れたライオス率いる一行は、深層で魔物と闘っていました。しかし、空腹によって集中力が欠けており、ライオス一行は全滅に追い込まれます。かろうじてのところでライオスをかばったライオスの妹・ファリンが脱出魔法をかけたことで一行は九死に一生を得ました。ですが、ファリンは魔物の胃の中にいたため脱出できず……。
金銭的余裕がないことから2人が脱退してしまい、残されたのはライオス含め3人。防具を売ったり食料を買いに行ったりしていては、ファリンは消化されてしまい、蘇生魔法が効かなくなってしまいます。そこでライオスが取った手段は、ダンジョンで現れる魔物を食料にし、腹を満たしながら深層を目指すことだったのです。
- 著者
- 九井 諒子
- 出版日
食料は魔物、そこらのゲテモノ食材の一段階上をいっています。実際、仲間のマルシスは大反対するのですが、途中で魔物の調理に長けたドワーフ・センシと出会うことで状況は一変、まさかのグルメ漫画のような展開に……!
一見ただの鍋のイラストに、材料説明が書き添えられているのですが、料理名には「大サソリ」、材料には「干しスライム」という文字が並びます。「美味しそうだけれども!」というツッコミを入れたくなるのはもちろん、しれっとライオスたちが現実に存在する調理法で料理しているあたりにRPGとのギャップが目立って可笑しく思えます。
食料を得るための発想力も面白い魅力の1つです。食料にできる魔物がいない階層で、彼らがなにをしたかといえば、ゴーレムを畑扱いにすることです。虫がよりつかず、栄養を豊富に含んだ土で構成されたゴーレムの体は植物を育てるのに最適とのこと。
地面に叩きつけられ、背中に植物を植えられているゴーレムに少々哀れみを覚えますが、採取から栽培へと幅を広げる点に料理スキルの向上、文明の進化が見られました。ダンジョンにいるのですから、それより戦闘レベルを上げるべき、という点は面白いので目をつむっておきましょう。
ライオス一行はファリンを助け出せるのでしょうか。ダンジョンの最下層に眠るものとはいったい……。グルメも垣間見られる、一味違うRPG漫画をお楽しみください。
以上、ハルタのおすすめ漫画ランキングベスト5でした。どの作品も他の雑誌ではお目にかかれない、個性的な作品ですよね。1作でも興味をもった方は、ほかの作品も楽しめると思いますので、ぜひハルタを手に取ってみてくださいね。