古文の授業で触れることも多い、世界最古の長編小説とも言われる『源氏物語』。全編は知らなくとも、各エピソードを見聞きした人も多いでしょう。稀代のプレイボーイと美女が織りなす恋物語を元に描いた漫画作品を、ランキング形式でご紹介します。
古典の授業で触れる機会が多い『源氏物語』ですが、授業で54帖にも及ぶ物語のすべてを学ぶわけではありません。興味は持っても原典の翻訳などでもハードルが高い、と感じている方は多いのではないでしょうか。
そんな時、多くの人が手を伸ばしたであろう作品が、大和和紀『あさきゆめみし』。『源氏物語』の漫画版と言えばこれ、と言われる金字塔的作品であり、舞台の原作や子供向け文庫の小説版の原作、教材として使用されるなど、幅広い読者に愛されている作品でもあります。
- 著者
- 大和 和紀
- 出版日
- 2017-02-23
本作最大の特徴が、全54帖をほぼ原典通りに漫画化している、という点です。漫画は絵で描かれるものですが、歴史的なものを描く時に、当時の衣装だけではなく生活様式、家財道具に至るまでを画面に描かなければなりません。大和和紀は研究を重ね、忠実に描いており、当時の姿を一目で知ることができます。
漫画としての創意工夫もされており、あくまでも少女漫画として読者に受け入れてもらうため、追加されたエピソードも。光源氏の両親である桐壺帝と桐壺更衣の馴れ初めは原典には存在せず、物語の導入部として読者を引き込む役割を担っています。他にも大和和紀の解釈が原典と上手く混ざり合い、漫画版『源氏物語』という確固たる姿を確立させました。
性格や風貌、行動など原典で曖昧だった部分を明確化したことにより、より具体的な形を持った『源氏物語』。幸せな恋だけではなく、悲恋などがありながらも、どこか爽やかな前向きさがある本作は、悲劇になりすぎず、救いがあるというところも魅力。ページを開けば、雅やかな平安文化が目の前に広がります。
『あさきゆめみし』については<漫画『あさきゆめみし』の見所を13巻まで全巻ネタバレ紹介!>の記事で紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。
実は昔○○だった、という転生前の記憶を持った主人公が登場するという作品が人気を集めていますが、昨今だけの流行ではなく、長い創作の歴史の中には「転生もの」と分類される作品が多く描かれてきました。
嶋木あこ『月下の君』もそのひとつ。本作は光源氏や『源氏物語』の登場人物たちが現代に転生しているという設定。前世の約束や運命に翻弄されながら、恋をしていく様子を描いています。SFともファンタジーともつかない不思議な作品世界が魅力的。嶋木あこの確かな画力と大胆な表現で物語世界に引き込んでいきます。
- 著者
- 嶋木 あこ
- 出版日
- 2002-08-23
国重葉月は成績優秀、ルックス抜群のモテ男子。どんなタイプの美少女が告白しても付き合わないことから、極度の女嫌いか逆に隠れて遊んでいるのでは、と思われています。実は葉月は、女性に触れそうになると震えが止まらなくなるという体質の持ち主。そのことを知られないように隠してきました。
ある日、可愛らしい雰囲気の菊池舟(きくちしゅう)が転校してきます。葉月が光源氏の生まれ変わりであるように、舟は紫の上の生まれ変わり。葉月と舟は互いに惹かれあいますが、光源氏が葉月に乗り移るなど、前世が現世に干渉し始めたことで、2人の恋に様々な障害が立ちはだかることになります。
葉月と舟を中心とした現代と、光源氏と紫の上が主人公となる前世が交互に登場し、前世が現世に干渉していく様子に、足元が定まらないような不思議な気持ちを味わうことができます。2つの時代の恋物語がどのような結末を迎えるのか、美麗な絵で紡がれる恋物語を堪能してください。
『源氏物語』は、主人公光源氏の、愛と苦悩に満ちた人生と、その子どもたちの人生を描いた物語です。理想の女性を追い求めて様々な女性との関係が語られた、恋愛小説の側面が強く、その恋愛遍歴は一度読んだだけでは把握しきれないほど。
そんな『源氏物語』の恋愛描写に重きを置き、複雑な心が織りなす愛憎劇として描いているのが牧美也子『源氏物語』です。全54帖からなる物語のうち、光源氏の恋愛遍歴が語られている第1帖「桐壺」から第23帖「初音」までを漫画化。男女の恋物語特有の濃密さが表現されています。
- 著者
- 牧 美也子
- 出版日
『源氏物語』は小説ですが、現代の小説のように人の動きや心理描写をふんだんに使用したものではないため、漫画家による解釈や創作を盛り込んでも、違和感が少ないという柔軟な作品です。本作ではストーリーの本筋は原典通りであるものの、キャラクターの動きや物語をドラマチックに盛り上げる仕掛けなどがふんだんに盛り込まれた、創作パートが多めであるところが特徴。
なかでも、恋愛物語としては切っても切れない性愛描写がなされているところが最大の見どころ。濃厚な濡れ場を描くことで、光源氏やそのお相手の女性たちの恋心に厚みが増し、より深く熱を持っているものだということを、肌で感じられます。
物語を盛り上げるための創意工夫が随所に凝らされ、漫画作品としての面白さを追求されつつも、原典の良さが損なわれることはありません。文字の世界に漫画だからこそできる表現が加えられた、大人向けの漫画版『源氏物語』となっています。
光源氏といえば、絶世の美男子として現代でも知られている人物です。国宝「源氏物語絵巻」などでは、当時でいうところの美男子の姿に描かれていますし、漫画版などでもやはり美男子に描かれているもの。しかし、中には一風変わった光源氏も存在します。
小泉吉宏『まろ、ん?大掴源氏物語』は、4コマ形式で源氏物語を描いた意欲作。「大掴」というタイトルの通り、『源氏物語』のすべてをさらっていながらも、ざっくりとしているのが特徴。原典をよく知らない、という方への入門書に最適な作品です。
- 著者
- 小泉 吉宏
- 出版日
『源氏物語』を4コマにして描きれるのかな、と心配した方もいらっしゃるでしょう。全54帖から成る物語ですが、本作では各帖2ページ程度と短め。要点が押さえてあるので、長すぎる作品を読むよりも、全体像が掴みやすくなっています。
そして最大のポイントが光源氏の姿。タイトルから察せられますが、本作では絶世の美男子が栗の姿で表現されています。なぜ栗なのか、とよくよくタイトルを見るとつい、クスッと笑ってしまうような仕掛けも。源氏一族が栗、対立している藤原氏が豆となっているので、貴族の対立関係や勢力図なども一目でわかりやすくなっています。
藤壺との最初の逢瀬といった創作があるものの、全体像をわかりやすくするためのものなので、原典を大きく捻じ曲げるものはありません。当時の風俗や文化、官位といった政治システムなども網羅されており、躓いた時の参考書としても最適。見た目からちょっとほっこりしつつも、情報量は随一の作品です。
『源氏物語』は紫式部が書いた小説ですが、基本的な流れ以外は様々な解釈がなされています。主人公、光源氏は絶世の美男子で、浮世を流し続けていますが皇族です。母の身分が低く、帝の御子にもかかわらず、臣下の身分になりました。物語の中で光源氏は何度も母の面影を追いますが、母の桐壺更衣は帝の寵愛を受け、光源氏が3歳の時に亡くなっているのでした。
きら『Genji-源氏物語』は、『源氏物語』に登場する女性の中でも、とりわけ有名な紫(紫の上)の視点を中心として描かれた作品です。紫が登場する「若紫」以前の光源氏も登場するので、光源氏の目を借りているような描写もあるため、メタ的なところがあるのも特徴のひとつ。
- 著者
- きら
- 出版日
- 2005-02-18
最大の魅力は軽妙な語り口。『源氏物語』は平安時代の物語なので、当然ながら現代とは文化そのものが大きく異なります。しかし、本作では現代の話し言葉を使用しており、遠く離れた時代の物語をより身近に感じることができます。
長大な作品を漫画にするにあたって、本作では光源氏の母親の存在を軸に、物語を構築。幼い頃に亡くなり、光源氏の理想とする女性像の根底となった母。母に生き写しと呼ばれていた義理の母、藤壺。そして藤壺の面影を持つ姪の紫。様々な女性と恋愛を描いた物語の中に、母の面影を追う青年の姿が浮かび上がります。
貴族としての姿よりは、1人の人間として等身大の描写がされており、原典を参考に作者のきらが解釈した『源氏物語』を読むことができる本作。紫との有名なシーンのせいで少々不名誉な印象が付けられている光源氏ですが、紫の目からはどのように映っていたのか。新解釈が楽しい1冊です。
古典だから、となかなか手が伸びない作品である『源氏物語』。基本的にはプレイボーイ男子を主人公とした恋愛物語です。平安時代も現代も、変わらないのが人の心。漫画家たちが紙面に描き出した、平安の人々の心を近くに感じられるはずです。