少女漫画おすすめランキングベスト10!【ホンシェルジュ漫画大賞2016】

更新:2020.12.9

ホンシェルジュが、2016年に1巻が発売された女性向け漫画ランキングを作成しました!新しいものをチェックしたいけど、何が自分に合っているか分からない。けれど1冊1冊チェックするのも数が多すぎて難しいなぁと考えているみなさんのためにランキングを作成しました!まだ知られていないブーム間近の作品から、すでに話題になっている人気作品まで10冊の漫画をご紹介します。

ブックカルテ リンク
  • twitter
  • facebook
  • line
  • hatena

10位:サトリ型ヒロイン少女漫画:「ふつう」編

恋多き母親と頑なで地味な姉を持つ女子高生・恋子。彼女は派手でもなく、地味でもなく、顔も中、恋もしないでもないくらいで、ふつうの自分にぴったりなふつうの彼氏がいます。傷つかないよう、はみでないよう平穏に暮らしていて、それなりに満足な日々でした。

ある日、学年でも噂の「階層違い」の男子・二宮剣からメッセージがきます。「あんたの彼氏、浮気してる」。送られてきた地図の場所に行ってみると、彼氏が自分より長い期間付き合っていた年上の女といるところを目撃してしまいます。

著者
ななじ 眺
出版日
2016-04-25

一度は別れようとしましたが、結局波風立たせないようにとヨリを戻すことに。恋子は剣にどうしてそんなバカなことをするのかと問い詰められ、逆になぜそんなに構ってくるのかとイライラして声を荒げます。

「てかさなんなのあんた 下界に降りてくんなっつーの 下界は下界でそれなりにやってんだよ(中略)下すぎないとこ!しあわせのくに!」

それを聞いた剣はやっと腑に落ちた顔をします。どうしてこんなにも恋子が気になるのか。

「あんた しあわせじゃなさそうな顔してっからだ(中略)なんか かわいそうな顔」(一重括弧内すべて『ふつうの恋子ちゃん』から引用)

堅実で高望みしない、自分の欲求を抑えるような「サトリ型ヒロイン漫画」は2016年良作が多くありました。その中でもこちらはとても若い女性向けのスイートなもの。少女漫画テイストが多めで、キュンキュンさせられます。可愛い絵は完成度も高く、まさに少女漫画という趣です。

堅実に、「ふつう」に、をモットーとして生きてきた恋子が上野くんに本性を見抜かれ、ほだされていくストーリー。よくある少女漫画展開は、盛り上がりの場面までの助走をしっかりと丁寧に描き、どれだけ感情移入させられるかが重要になってくるかと思います。

本作品では「恋に大きく左右されたくない」という恋子の頑なさとそれを形成した母親、そしてそれに反発しすぎた姉の様子がユニークに描かれています。

書道の時間に堂々と「ふつう」と書く恋子の目は小学生にして意志が強そうでまっすぐ。そしてその更に上を行くのが姉・愛子です。頑なに恋などしたくないという愛子は高校生の恋子と同じラインナップの最低限のメイク道具に、機能性が高そうなシンプル下着という身だしなみです。

それに対して彼女たちを育てたのは小料理屋のモテ女将であるお母さん。彼女はしっとりとした色気を身にまとっています。しかしそこはサトリっ子ふたりを育てた母親。一筋縄ではいきません。

ある時は微笑みながらスクールカーストを理解していない上野くんにノリノリでその残酷な現実を解説します。彼女は我が娘を「中」だと言い切り、上野くんを「上」だと丁寧に解説してくれるのです。世知辛い……。

しかしそんな自覚があるからと言って、恋は勝手に始まってしまうもの。やはりここが物語の見せ場です。ここまで細かなディテールで頑なな少女の様子を読んできた分、恋子の恋愛パートでよりいっそうニヤニヤしてしまいます。果たして彼女はどんな恋愛をするのでしょうか?少し鈍感な王子様・上野くんにキュンキュンしながら楽しんでみてください!

9位:異星人系ラブストーリー@少女漫画版テラスハウス

女子高生・芹沢天は片道2時間のバス通学を始めてから1ヶ月が経ちます。そんな朝にも慣れてきて、登校中のバスで制服のスカートのまま横になって眠ったり、寝転んで靴まで脱いでお菓子をぽりぽりしたり……。

ある日放課後にクラスメイトに誘われて、喫茶店でガールズトーク。しかしバスの最終が迫っているので天は仕方なく帰ろうとします。そこで親友のあげはが「うちに泊まりにきなよ」と誘ってくれます。最初は遠慮していた天ですが、あげはの優しさを受け止め、にっこりと「ありがとう」と言い、泊めてもらうことになります。

著者
森下 suu
出版日
2016-01-25

彼女の住む下宿での生活を見ているうちに、その暮らしぶりがうらやましくなってくる天。あげはに入寮を勧められている時に、同じ寮に住んでいる下宿生・千秋がツルゲーネフの言葉を引用してこう言ってくるのです。

「乗りかけた船にはためらわず乗ってしまえ」

天はその言葉に背中を押され、入寮を決めます。

人気作品『日々蝶々』の作者・森下suuの新作です。『日々蝶々』で特徴だったのは、妖精のようにピュアで可愛い主人公でした。本作品でもどこか浮世離れした異星人のようなキャラクターが、今回は男女ふたり分楽しめます。本書はそんなふたりとその他個性豊かなキャラクターの恋愛模様、心の動きが魅力的な作品です。

異星人系キャラクター、一人目は主人公の天。顔のデフォはほぼ無表情、意志が固く、友達には「岩」っぽいと呼ばれるちょっと変わった女子高生です。

二人目は天の入寮の背中を押した、学年でも噂のイケメン・千秋。彼もまたほぼ無表情。本ばかり読んでいて、その経験から会話の折々に偉人の名言を入れてくる変わった男子高校生です。

ちょっとずれた異星人系のふたりが経験する「青春」は普通の人よりもダイレクトな甘酸っぱさがあります。素直なふたりは出会う気持ちひとつひとつにまっすぐに向き合います。そしてそんな彼らに影響されて、周囲も怖がりながらも自分の気持ちを大切に扱うようになるのです。

そんな異星人系なふたりにちょっと軽いモテ男・理久が加わり、胸キュンなラブストーリーが展開されていきます。そんなラブストーリーを個性が際立ったサブキャラクターたちが彩ります。顔がゆるキャラっぽいのに結構ズバズバ言ってくる親友・あげは、ツンデレ坊ちゃん・鈴など、それぞれが丁寧に描かれているのでメインキャラクターではなくても感情移入してしまいます。

そんな登場人物たちはみんな純粋。森下suuらしい、どこまでも透明であたたかい世界観を作っています。ピュアな青春が森下suuのキュートな絵柄で楽しめる、下宿内ラブストーリー。キュンキュンすること間違いなしです。

『ショートケーキ』について詳しく知りたい方は<【最新10巻】『ショートケーキケーキ』の甘々&ピュアな魅力ネタバレ紹介!>をご覧ください。

マンガMeeで毎日無料で読んでみる

8位:She is so Cool, Grandma!!

田舎の百目鬼村で一帯を取り仕切る女総領・百目鬼ミキ。梅の屏風の前で和服をパリッと着こなし、キセルを燻らせながら村民の悩みに助言します。ご近所同士の小競り合いがヒートアップしそうになった時も、彼女の一声があれば満場一致の解決となります。

本作品は何と言っても和製ゴッドマザーのようなグランマのかっこよさが魅力的。ご紹介した村の集会でもそうですが、言うこと成すこと、そのたたずまい、どれもクール。サングラスで庭の水やりをするところも妙にしっくりくるのは彼女くらいではないでしょうか。

著者
高口 里純
出版日
2016-08-17

そんなグランマと「いいコンビ」である孫の亜子。物語では彼女がクールなグランマの魅力を引き出すのに一役買っています。ふたりのやりとりはあけすけでまっすぐ。テンポのいい会話には名言も多々あり、すらすらと読みながら感動させられてしまいます。

ある日、亜子はお出かけしたグランマに届け物をするために母親と一緒に東京のホテルに向かいます。そこで彼女はさまざまな「グランマ」に出会い、話をします。

端的な物言いの洒落た洋装の女性と鳥の鳴き方クイズをしたり、和装で博識さが漂う女性が新米お母さんにびしっとアドバイスする様子を横で見たり、はおじいさんのような見た目のきっぷのいい女性に化粧をするようアドバイスしたり……。どの女性も芯が通っており、亜子はその姿に自分のグランマを重ね、早く会いたくなります。

実は彼女たちこそ、並々ならぬ肩書きを持ったグランマの旧知の友人で、4人でランチをするためこのホテルに集まったのでした。彼女たちの女子会は軽口をたたきながらもどこか貫禄のある雰囲気。こんな風に年をとりたいと思えるような粋と余裕を感じさせます。

キャラクター漫画は雰囲気やセリフで読ませるものが多く、こちらの作品もセリフに際立つ点が多く見られます。祖母が孫に話すという構成なので比較的平易な言葉を使っているので分かりやすく、ストレートに心に響いてくるものばかり。海外の名作映画を見ているかのようなクールなキャラクターとセリフにしびれる作品です。

7位:真っ暗な宇宙の中のある星で、パンの焼けるにおいがする

まみ太は一見普通の男の子ですが、実は事故によって地球に不時着した異星人。偶然ベーカリーほたるを営む紺太に拾われ、迎えがくるまで一緒に住むことにします。効率的に栄養を取るためだけに合成食を食べて育ったまみ太は、美味しくてあたたかいパンの虜になります。

食漫画ブームで数多くの作品がある中、「パン+宇宙」というテーマで描かれたこの作品。作者は『オハナホロホロ』でちょっと変わった家族の形、可愛い男の子・ゆうたを描いた鳥野しのです。

著者
鳥野 しの
出版日
2016-05-07

『ハチミツとクローバー』などで有名な羽海野チカのアシスタントを勤めているだけあり、画力は申し分ないもの。しっかりと書き込まれた画面によって優しい世界観がより奥行きのあるものとして読者に迫ってきます。

本作品は冷たさと温かさが入り混じった雰囲気が最大の魅力です。管理システムによってこの世に生を受け、同じ日に生まれた者同士のコミュニティで一人一つ与えられた住居で生きてきたまみ太。身の回りのケアも全てシステム端末によって整備されていました。

広くて真っ暗な宇宙、そして管理された環境で育ち、旅の途中で異星にひとりぽとん、と落とされてしまいます。無機質な彼の故郷の描写は多くはありませんが、不時着のアクシデントとともにひやりと心に触れて印象に残ります。

そしてそれとは真反対の環境の地球。自分の星と比べると重力も酸素も生物も過剰で、まみ太は戸惑います。しかし紺太におんぶされた時の景色や、声をかけてくれる自分と歳の異なる人々、ベーカリーほたるのパンは、不思議なあたたかさがありました。

そしてそんなあたたかな笑顔で紺太はまみ太に言います。

「ちゃーんとおれが一緒にいてやっかんな さみしくないぞ」

まみ太は「さみしい」という概念が分からず、紺太の発言の意味を考えています。実はその言葉は紺太の生い立ちに関わりがあるのですが……。

まみ太の故郷と地球、宇宙とパン……。様々な「あたたかい」と「つめたい」のモチーフの対比が際立った、ほのぼの食漫画です。

6位:ニセ王子くん流、少女漫画的シナリオ

春、それは恋の季節。登校中に桜の木の上に登って降りれなくなった猫を助けている男の子がいます。それは学校でも成績優秀、イケメンで有名な西王子くんです。じゃれてくる猫と戯れる桜吹雪の中の彼の姿はまさに少女マンガの始まりを感じさせます。そしてその下にある「私有地につき立ち入り禁止 罰金100万円」の看板……。ン?

著者
イチヒ
出版日
2016-11-26

そこに登場するロングヘアーの美少女・ひなた。「桜 今年も綺麗に咲いたなぁ……」と舞い散る花びらの中で目を細め、西王子くんの姿を見つけます。二人の出会いの瞬間に、隣にいる親友のチカは心の中で思います。「あ 少女漫画だ」。チカはひなたに声をかけます。

「……猫 助けてるんだね」

ひなたは言います。

「あぁ あの人か うん 毎朝」

……毎朝?ンンン??チカは西王子くんに疑問を抱き、登校してからひなたに彼のことを聞いてみます。

「あの……今朝のさ 猫の人……」

「あぁ西王子くん?(中略)彼 おもしろいよね」

「え……おもしろい?」

「去年の夏前くらいから毎朝ウチの前で猫助けてたんだけど……」

「あぁおもしろい」

「違うの!最後まで聞いて! 最初木登り下手すぎて猫に助けてもらってたんだ」( 一重括弧内すべて『西王子くんに告白されました。』から引用

ンンンン??!猫、手差し伸べてるやん……。

これはそんな残念イケメン・西王子くんとひなた、そしてチカ、その他濃いキャラの学園ラブコメディです。少女漫画感満載のタイトル、パーフェクトヒューマンな王子様と、一見すると女性向けのようですが、男女どちらも楽しめるラブコメ漫画となっています。

少女漫画のあるある設定をいじるように、西王子くんの努力が空回りしてギャグになってしまいます。でもラブストーリーとしてもしっかり面白い!こちらもパーフェクトな美少女・ひなたが告白を断るのには、なにやら秘密がありそうなのです……。

ギャグ漫画としてもラブストーリー漫画としても完成度の高い、エンターテイメントラブコメ漫画です。

5位:箱庭的メルヘン少女漫画

「最近やけに上の階が騒々しいと思っていたら 長年一人きりで住んでいたおじいさんが死んだらしい おじいさんはユメが回覧板を回しにいく度 キャラメルをくれるような優しい人だったけれど 年老いるまでこんな汚らしい団地に住み続け 一人虚しく最期を迎える(中略)ユメはそんなの絶対嫌」(『木陰くんは魔女』より引用)

佐藤夢子、通称ユメはカワイイものが大好きでワガママで恋に恋する高校生。ツインの三つ編みを輪っかにしたトレードマークの髪型、メルヘンなものに囲まれたベッドの上ですらりとした肢体を伸ばしながらパンツ姿で寝転がる姿はとってもキュートです。

著者
小森羊仔
出版日
2016-04-25

しかしそんな彼女が住んでいるのは古い、ボロい、暗い、空き部屋の方が多い「三日月団地」です。そしてこの団地の屋上にある森には男の子なのに「魔女」の木陰くんがいて……。

どこかセンチメンタルで奥ゆかしいラブストーリーを描く小森羊仔の作品で、全3巻完結となっています。本書では彼女の今までの作風とは少し異なる、快活なキャラクターが主人公です。

ポップな世界観で軽く物語が展開しますが、見せ場は2巻から。ただのほほんとしていたように見えていたストーリーや登場人物の切ない秘密が解き明かされていくのです。木陰くんの一途な想いやもう一人の魔女・萌の魔女としての葛藤、親友・七緒の抱えている事情、そしてユメの存在……。

その秘密を解いていく様子はどこか壊れてしまいそうに繊細です。スウィートなおとぎ話のような世界観に小森羊仔の上品な絵が絶妙にマッチしています。1巻で少し物足りなく思われた方も、途中で辞めずにぜひ2巻まで読んでいただきたい!物足りなく思った分だけ、秘密のビターさがスパイスになって、ストーリーが魅力的に変化していくのです。

作り込まれたメルヘンさは所感を軽くしながらも、飽きさせない独特な世界を生み出しています。手のひらサイズの箱庭のような軽さと異空間さを作り出している、みずみずしいファンタジーラブストーリーをお楽しみください。

4位:サトリ型ヒロイン少女漫画:喪女編

私、田端花!少女漫画に憧れる普通の女子高生。美化委員をしていて、毎朝教室の花を新しく変えてるんだ。早起きは大変だけど、お花を触るのはすごく気分がいいよね。ある朝、まだ新しいお花を髪に挿してるところをクラスメイトの上野くんに見られちゃって……。

よくある少女漫画のはじまりでしょうか?しかし、このヒロイン、ブスなのです。そして自覚アリ。物語の最初から王道ヒロインポジションはあきらめています。上野くんに花の髪挿しを見られた時も「きゃっ恥ずかしい!」と頬を染めるのではなく、「『お前何色気付いてんだ』ってことですね!!」と即反省、顔面蒼白。

著者
作楽 ロク
出版日
2016-11-04

上記のようなシチュエーションもいきすぎた自意識でコメディになってしまいます。彼女は残酷なスクールカーストとその中の自分のポジショニングを明確に意識している女の子なのです。

ほとんどの少女漫画の醍醐味であり、罪なところは「私もこんな王子様と付き合いたい、付き合えるかも!」と思わせてしまうところではないでしょうか。少女漫画の世界は二次元であり、空想の世界。毛穴もムダ毛もニオイもない!まったくリアルではありません。分かっているけれど、リアルにありうるかもと、夢見たい!のめりこませて欲しい!と願うのが乙女なのです。

本作品は少女漫画のそんな醍醐味と、その幻想を崩すギャグの狭間のギリギリのラインを攻めています。多くの場面で喪女ならば感じたことのある現実のハードさをリアルに書いています。

「過剰な自意識で変な結論に行き着く」「リア充は一人にならない」「臭い時の風上のツラさ」「この人どうして私といるんだろう、何のメリットが……」。読んでいて泣けてきます。

そんなストーリーでも、キャラクターは王道です。花は卑屈だけど素直で、ヒーローの上野くんもかっこよくてピュア。すこしずつ仕掛けられたイベントでもしかして上野くんって花のこと……と期待してしまう場面があるのはやっぱり少女漫画なのです。

少女漫画としても、喪女自虐漫画としても優秀な『ブスに花束を』。こちらも10位『ふつうの恋子ちゃん』と同じくサトリ型ヒロインが主人公です。あちらが女性向けのスイートなものだとしたらこちらは男性にも刺さるもの。サトリ型ヒロインを描いたものの中でも最も完成度が高い、王道のものに仕上がっています。

3位:絡みつく想いが、息苦しくて心地いい

第3位は『うどんの国の金色毛鞠』で人気の漫画家・篠丸のどかの『鶯谷ワールドエンド』。もふもふで可愛いポコを描いたのと同じ作者とは思えないほど、本作品は濃密です。読んでいると恋する気持ちが棘のあるツタのように絡みついてきます。ちょっとした痛みと抜け出せない、閉じられた世界があります。

始まりはある男の回想。そしてすぐに場面は一転、語り手は結婚式に参列した主人公・岡崎顕子に変わります。

「自分と SEXしていた男が 結婚する」

「彼は私より 若くてかわいい子を 選んだ」

顕子は29歳独身のOL。貯金も、結婚の予定もなにも無く、ただ時間だけが過ぎていきます。

著者
篠丸 のどか
出版日
2016-10-08

「明日 目が覚めたら 世界が終わってればいいのに」

電気を消して真っ暗な部屋の中、そんなことを心の中で思います。彼女は消費するように日々を過ごし、焦燥感を燻らせます。

「なんてね」(一重括弧内すべて『鶯谷ワールドエンド』から引用)

その後そう口に出して、バランスをとりながら。

そんな彼女が花屋の仕事で訪れたのが「ワールドエンド」というラブホテル。雨がそぼ降る中、悪趣味な名前が書かれ、南国の木がしなびた入り口を顕子が見ていると、結婚式の夜に家の前で会った男が傘もささずに濡れています。

そしてその男がこちらに近づいてきて、彼女をどこかへ連れて行こうとします。男は抵抗する彼女を一瞬見つめて、強引にキスをします。笑っているのか、泣いているのか分からない、忘れられないような表情をしながら……。

主人公の顕子は歳を重ねたことによってある器用さを携えています。死にたいと思っても「なんてね」と口に出し、早めに寝て朝を迎えることができる。近所の商店街で買い食いをしながら日々の愉しみを見つけることもできる。

それでもいつもどこか渇いているのです。そんな時に雨が降る中で印象的な男に出会うのです。彼に心を濡らされていく様子は官能的で美しく、危うい。上質な大人のラブストーリーが始まります。

本作品は序盤から雰囲気のあるモチーフ、絵画のように完成された世界に引きずり込まれます。そして引き込まれたその世界には、惰性のような日常と閉塞感のある非日常が入り混じり、波が満ち引きしているような揺れがあります。

そんな芸術的な世界観をたたえた『鶯谷ワールドエンド』をホンシェルジュ漫画大賞・おすすめ少女漫画の第3位とさせていただきます。

2位:温かくて、痛い、君の温度

ある晴れた春の日に、地方の街に広瀬桂一・晃という男女が引っ越してきます。ご近所の「新婚さん」という言葉にはにかんだり、ダンボールが積まれた部屋でキスしたり。初々しい時間が風に舞う桜と一緒に流れていきます。

半分ずつスーパーの袋を持って話しながら帰る道、一緒に食べる晩ごはん、ごろ寝する彼の横で洗濯物を干す彼女、ふたりでキッチンに立つ背中……。あたたかで優しい日常が描かれています。

著者
茜田千
出版日
2016-01-14

しかしふたりはある秘密を抱えています。そのせいで平和な日常のシーンにも、時々ひりつくように心が痛む時があるのです。ふたりが思い出すのは、一緒に育った慣れ親しんだ我が家や、よく遊んだ公園、他人からの「普通」の言葉たちです……。

本作品の作者・茜田千は人気BL漫画『ひだまりが聴こえる』で有名な文乃ゆきと同一人物です。BL漫画で活かした「葛藤」の丁寧な描き方、『ひだまりが聴こえる』でも感じられる、核の周囲をなぞるような優しい展開の仕方は、本作品でも健在です。

『さらば、佳き日』は、過去と現在、ふたりと周囲の視線と、その時々物語の形を変えてオムニバス形式で進みます。読んでいるとひりひりと低音で火傷するような感触があります。

物語の中には直接的な熱い想いや激しい痛みはあまりありません。本当に一番辛かった時期をふたりは超えて、すべて思い出の中にその感触が残っているのです。いまはただ、ふたりが望んだ「日常」があります。

ただ、ずっと小さな痛みは消すことはできない、でもやっぱりあたたかくて抜け出すこともできない、そこは好きな人の体温を感じられる場所。そんな優しい痛みが時間軸や語り手を変えてゆっくりと立体的になっていきます。

スローで少し痛いラブストーリー『さらば佳き日』をホンシェルジュ漫画大賞・おすすめ少女漫画の第2位とさせていただきます。

1位:要は、君が好きってこと

映えある第1位は『僕と君の大切な話』!人気作『となりの怪物くん』で有名なろびこが作者です。本作品は2016年3月に1巻が発売され、早い段階で有名になりました。おすすめする必要がないのでは?とも思えますが、それでも1位にせずにはいられない魅力があります。

「好きです 好きです 届け この想い」

淡い青空の下、ヒロインの少女は好きな人の背中を見つめています。想いが日差しに溶けて、広がっているような淡い風景。プラットホームで彼の隣で電車を待ちながら、彼女はやっと話しかけるのです。

著者
ろびこ
出版日
2016-03-11

「どうして男は……戦いが好きなの」

会話の糸口、それ!?彼女は続けます。

「この間 弟の漫画を読んだのだけど(中略)一つの戦いが終わったと思ったら人間的成長があるでもなく また次の戦い……。なぜ男は戦うの。その先に何があるの」

お、おう。なかなかに身近な話題を哲学的な問いにまで繋げるインテリジェンスな女子高生です。ほぼ初対面の相手に。彼は答えます。

「それを言ったら少女漫画だって(中略)古今東西 男女の色恋沙汰だ。なぜ冴えない主人公に2人の男が言いよるんだ(中略)彼がトラウマを乗り越えたからなんだというのか」

お前もなかなかやるな。どちらも相当こじらせてます。そこで彼女は言うのです。

「そんなことはどうでもいいんだけど……私 あなたが好きです」(一重括弧内全て『僕と君の大切な話』より引用)

……。本書はこんな風にちょっと変わった二人の高校生・相沢のぞみと東司郎が深いようなどうでもいいような話をゆるーく話しながら仲を深めていくという物語です。

1話1話の冒頭はかなりの量の会話の応酬があるのですが、まずそれが全てレベルが高い。どこを読んでも無駄がなく、切れ味が良いのです。そんな笑いを入れておきながらも最後には爽やかで甘い読後感が残ります。

それはどれだけ会話をしていても、どんな会話をしていても、すべてが「好き」という意味だから。そんなふたりの大切な話の物語です。

甘さとしょっぱさが交互にきて、くせになるような青春漫画『僕と君の大切な話』がホンシェルジュ漫画大賞・おすすめ少女漫画の第1位とさせていただきます!

『僕と君の大切な話』について詳しく知りたい方は<『僕と君の大切な話』を全巻ネタバレ紹介!笑えて胸キュン!>をご覧ください。

もっと見る もっと見る