いくえみ綾のおすすめ漫画!刺さる言葉がすごい5冊!

更新:2020.12.22

いつからか覚えていないくらい幼少から漫画を描いていたといういくえみ綾は40年近く読者に愛される作品を生み出しています。これほど長い間読み続けられているのは、風化しないその言葉ゆえです。今回はそんな心に入り込む言葉がおすすめの5冊をご紹介!

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いくえみ綾の名言に心を揺さぶられる

いくえみ綾は、1964年生まれ、北海道出身の女性漫画家です。いくえみ綾という珍しいペンネームは、くらもちふさこの漫画に登場するキャラクターに由来しているそうです。

『小さな炎』の綾瀬郁から「綾」の字と「いく」の音を、『白いアイドル』から「えみ」という音を、『糸のきらめき』から「りょう」という音を。これらを組み合わせて「いくえみ綾」になったそうです。

そんな彼女は幼い頃から漫画を描いていたそうで、中学1年の頃から雑誌に投稿をし始めます。そしてその後1979年、中学3年の時に若干14歳にしてデビュー。

そこからは夜中の2時まで漫画を描き、朝の7時前には起きなければいけないという生活を続けながら高校にも通い、卒業間近から連載を開始したそうです。若いとはいえすごいバイタリティですね。

いくえみ綾はもともと男の子を描くのが好きだそうで、男の子が主人公の作品を描くことが多かったそうで、いわゆる少女漫画を描き始めたのはデビューしてからだそう。そのモデルは学生時代好きな人だったり、奥田民生だったりするようです。

自分が好きで描いているものだからこそ、「いくえみ男子」という言葉が生まれるほど、彼女のヒーローたちは魅力的なのかもしれません。

緻密な言葉選びと描写で読者の心を惹きつける作品が多いいくえみ綾。『いくえみ男子ときどき女子』という、漫画に登場する人物の名言集も刊行されているほど、その言葉選びのセンスは評価されています。

ちなみに彼女の連載がカラーページの場合1ページ目がモノローグなことが多いのは、カラーは先に描かなければならず、まずぼんやりとしたことを描いておいてあとからどうとでもとれるように調整しているからだそう。あれはあくまでイメージカットであると語ります。

その意味ありげな言葉も人気があるものなので、驚いた方も多いのではないでしょうか。そのバランス感覚は長年漫画家として活動してきた彼女ならではのものかもしれません。

今回は才能を感じさせるベテラン漫画家いくえみ綾のおすすめ作品を5冊ご紹介!それぞれの名言とともにその魅力をお伝えします。

いくえみ綾がルールの曖昧さを描く、大人なおすすめ作品『あなたのことはそれほど』

数ある不倫ものの漫画の中でも少しタッチが他と異なる作品です。波瑠、東出昌大、仲里依紗、鈴木伸之の4角関係でドラマ化されたことでも話題になりました。

本作の最大の特徴はどこかシニカルさを感じさせられる雰囲気。ドロドロがお約束の不倫劇ですが、この作品の登場人物たちの激情は分かりやすく熱いものではありません。

例えるなら赤い炎よりも青い炎の方が熱いように、静かに、それでいて狂気を感じさせる様子を見せるのです。

著者
いくえみ 綾
出版日
2012-11-08

初恋の彼との再会に運命を感じ、不倫から抜け出せなくなる美都。友人に罵倒されても彼女は不倫を辞められません。妻の里帰り出産中に魔が差し、そんな美都が面倒になる不倫相手・有島。

ふたりの間には、言葉なくして「ルール」ができます。不倫という社会のルールから逸脱したふたりがルールを作り、それを遵守するように求めるという矛盾した関係が出来上がってしまいます。

「美都、それはルール違反だ」
「暗黙の了解ってのがあるだろ」
(『あなたのことはそれほど』より引用)

抑えきれない気持ちから、有島の妻に会ってしまった美都を、彼は強い口調で責めます。

さらに、結婚という契約を結んだ夫との間にもふたりだけのルールが存在します。夫は不倫を知ったにも関わらず、自分と別れようとしません。そして彼は愛情のあまり、不倫相手の有島に接触してしまうのです。

この夫の態度に美都は「ルール違反だ」と感じるのです。結婚していながら、浮気をした美都がルールを守っていないのは自明です。けれど、美都にとっては、夫のほうがルール違反なのです。

人の決めるルールとは、いかにエゴの塊であることでしょう。一般的なルールを破って無法地帯になってしまった関係には、それぞれの言い分しか存在せず、それをルールと呼ぶのかもしれません。

そんな皮肉さを感じさせる、新たないくえみ綾が垣間見える本作。大人の男女におすすめのビターな作品となっています。

『あなたのことはそれほど』については<漫画『あなたのことはそれほど』の魅力を5巻までネタバレ考察!>で紹介しています。ぜひご覧ください。

「普通」に悩むまっすぐな言葉響く、おすすめ青春漫画!『プリンシパル』

学生時代のリアルを追求した青春漫画です。シンデレラストーリーのような「ファンタジー的な」少女漫画に比べ、実在の少女の日常を垣間見ているかのようなリアリティがある作品です。

糸真は、前の学校で悪気のない一言が原因で仲間はずれにされるようになり、父の住む北海道に引っ越すことにしました。実母と離婚していた実父に引き取られ、父の再婚により、転入先で出会ったイケメン・和央と義姉弟になることに……。

その人気者の和央が好きな人は、派手なモデルのような美人ではなく、ちょっとポッチャリした穏やかな女性。あか抜けなく、優しくはあるものの、どこか同性をピリッとさせるところのある人物です。

そしてサラサラの髪の毛がイケメンのイメージかもしれませんが、和央はけっこう髪が固め。細かな部分ですが、その設定が現実にいそうな美化されすぎていない人物像を創りだしています。

著者
いくえみ 綾
出版日
2011-05-25

そんなリアルさを感じさせる、和央が糸真に髪の毛を触らせるシーンがあります。

「ちなみに僕の髪はそんなに柔くない」

「あーこのひとふつーの男の子だあ」(『プリンシパル』より引用)

それまで憧れの人という部分が彼のイメージに少し混じっていた糸真。彼女の飾らない感想の言葉には、拍子抜けするような日常感があります。

そんな主人公の糸真も、よくも悪くも「ふつー」の高校生です。前の学校でのトラウマから、転入先ではかなり友人に慎重になっていて、本当の友達なのかと関係性に悩んだり、家と学校以外どこにも行けないと思ったり。

まだ自分の責任もない分、自由もない学生時代の感覚は誰にも身に覚えがあるのではないでしょうか。彼女はそんな周囲と自分の幻想でつくりだした、閉じられた環境に息苦しさを覚えます。

「あたしは言われた所にいるだけだ!
あたしはどこにも行けないんだ!」(『プリンシパル』より引用)

共感できるまっすぐな言葉がたくさんある本作品。もがきながらも、懸命にぶつかっていく糸真の姿に励まされます。まっすぐなものの、現実味のある迷いもしっかりと描かれたおすすめの青春漫画です。

『プリンシパル』について紹介した<漫画『プリンシパル』登場人物とストーリー全巻の魅力ネタバレ紹介【映画化】>もおすすめです。

「命」を描いたおすすめ作品!いくえみ綾の名作!『トーチソングエコロジー』

ちょっと日常から浮遊した物語を描いた不思議な作品です。

ある日、女の子の幽霊を見つけたスーは、その存在に亡くなった親友・峻(しゅん)の姿を重ねて見ます。その幽霊は、高校の同級生であり、峻のストーカーをしていた女の子・苑(その)にくっついているのです。

再会した苑は、整形をしており、幽霊の女の子は整形する前の苑にどことなく似ていることにスーは気づきます。苑は無意識の内に生霊を飛ばしていたのです。

しかしそれはスーにしか見えていません。そこから「存在」というものに対しての疑問が生まれてきます……。

著者
いくえみ 綾
出版日
2012-05-24

生霊は命を持っていないのか。整形して顔が変わったらそれまでの彼女は亡くなったことになるのか。名前が付けられる前に消えてしまった子は命を持たなかったことになるのか。

命、人間というものの定義を、まっすぐな言葉で読者に問いかけてくるのです。

「『命』はどこから『命』なのか
精子と卵子が結合したら命の始まりなのか
子宮に着床した時からが命なのか
目ハナがついて人の形をしてからか
流れてしまったらどこからが命を失ったことになるのか」
(『トーチソングエコロジー』より引用)

抽象的で漠然と存在している「命」という存在を追究する作品です。

命とは何から始まり、何をもって終わりとみなすのか、という問題を定義してきます。表面的なものだけではなく、その人が存在したという記憶に宿る「命」を描ききっているようにも感じられます。どこか核心に迫るメッセージ性が伝わる作品です。

いくえみ綾が二項対立で描く「個人」とは?『いとしのニーナ』

「拉致った」という唐突な言葉から始まる本作品。憧れの女子高生ニーナを友人・マサが拉致したところに主人公・厚志がやってくるところから物語が始まります。マサは憧れの気持ちが高まるあまり、暴行目的でニーナを拉致してしまったのです。

彼女は厚志に救出されるのですが、ふたりは事件後もその事件に悩まされることになります。マサが犯したことへの罪悪感から、厚志はこの事件の黒幕である牛島から彼女を守るためにボディガードになることを決意します。

厚志とニーナはその過程で徐々に仲を深めていきます。しかし彼女はその好意と、彼といると嫌でも思い出される事件の記憶との間で板挟みになってしまい、結局厚志から離れるのでした。

著者
いくえみ 綾
出版日
2007-03-24

人間は、男か女に分かれ、社会の中には被害者と加害者が存在する、そしてそのいずれもひとりの人間である、ということを感じさせられる「個人」をテーマとした作品です。作中では、男女の性に関する問題が多々出てきます。

「ドアが閉まる前に『誘いやがって』って言い捨てってたの
その子胸大きくてミニはいてて
ドアが閉まったあと乗客がみんな彼女をじろじろ見てて
自分がすっごくきたないものになったみたいで
彼女は悔しくて泣いた」

「バカでいやらしい男たちを刺激しないように
大人しくしてればいいんでしょ!」
(『いとしのニーナ』より引用)

女性が男性に性の対象として狙われたとき、その気にさせた(ように見える)女性が悪いのか、その気になった男性が悪いのか。加害者はどちらで、被害者はどちらなのでしょうか。

犯罪者の家族は被害者から見れば、加害者側の人間で、本人からしてみれば、「加害者の家族」というレッテルを貼られた被害者です。考える人の視点によってこの二者は入れ替わりうるのです。

どうしても、男は男、女は女でしかないという対立とは対照的に割り切れない関係性が描かれています。まさに「被害者だらけ、加害者だらけ」「被害者と加害者が重複しあってできている」(『いとしのニーナ』より引用)、社会の構図が表現されています。

視点を変えれば、加害者も被害者になりうるし、被害者だからといって関係ない人に八つ当たりをすれば、その人にとっては加害者です。

流動的な一括りに対立とは言えない関係性の中に私たちは生きていることを感じさせられる本作。人とは、被害者、加害者、男、女である前にひとりの人間です。ありのままに相手を見ることの大切を考えさせられます。

後悔と生きていく強さを描いたいくえみ綾の代表作!『潔く柔く』

長澤まさみ、岡田将生らで映画化されたことでもお馴染み、いくえみ綾の代表作です。

幼馴染であり自分に好意を持っていたハルタとそれに気づかないふりをして過ごしていたカンナ。ふたりの平穏な日々は、ハルタの死によって終わりを告げます。

親友のハルタの気持ちを知っていながら、ハルタを出し抜き意中のカンナと親密にしようとしていた真山。自分の不用意な行動で級友と事故に遭い、級友を亡くした禄。

さまざまな後悔を抱きながら生きている登場人物たち。彼らの運命が交錯して止まってしまった時間が再び動き出す様子を描いています。

著者
いくえみ 綾
出版日
2004-11-25

それまで表面的には普通に、しかし内面ではずっとその事故から進めないカンナたちを読者として見ていると、ふとした時にもらす彼らのシンプルな言葉に強い説得力を感じます。

「できるだけのことをしなかったから
人は後悔するんだなあ」(『潔く柔く』より引用)

まっすぐで核心を突く言葉に揺さぶられますよね。

幼馴染のハルタを亡くしたカンナは、彼の生前に何もしていなかったことに気がついたのです。ハルタの気持ちに気づいていけれど、見て見ぬ振りをしていた彼女。その後悔から、カンナは先に進めなくなってしまうのです。

二十三歳になるまで、ハルタを亡くした16歳のまま止まってしまったカンナ。しかし禄(ろく)との出会いで彼女は変わります。ハルタの死に向き合い、やっと泣くことができ、彼を死者として弔い、時間がまた進み始めるのです。

大切な人を亡くしても世界は終わりません。残された人は生きていかねばならないのです。後悔も悩みを抱えているのも、生きている人間の特権であることを思い出させてくれます。

「落とし穴なんてないよ
落ちたら戻れない穴なんてないよ
はいあがればいいだけのことじゃん」(『潔く柔く』より引用)

失敗してもやり直せるということを教えてくれる本作品。そっと背中を押してくれる再生の物語です。

『潔く柔く』については<『潔く柔く』が面白い!原作漫画を名言や結末などからネタバレ考察!【無料】>で紹介しています。気になる方はぜひご覧ください。

いくえみ綾の言葉は刺さるものばかり。人の内心やエゴまで描ききった物事の核心に迫ってきます。何気なく受け入れてしまっている問題はないですか?向き合ってみると新しい自分が見つかるかもしれません。そんな背中を押してくれること間違いなしのいくえみ綾の作品。風化しない言葉たちがその中にはあります。

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