西炯子はヒット作『娚の一生』で一躍人気となった女性漫画家。その繊細な画風とストーリーで多くの女性を虜にしてきました。今回はそんな彼女のおすすめ作品をランキング形式でご紹介します!
西炯子(にしけいこ)は鹿児島県出身の漫画家です。1986年の高校在学中に漫画雑誌「JUNE」でデビューしました。「このマンガがすごい!2010」オンナ編で5位に輝いた人気作『娚の一生』は、その他にも「THE BEST MANGA 2010 このマンガを読め!」で6位受賞、マンガ大賞、ブクログ大賞のノミネートなど、様々な方面で話題になりました。
彼女は幼少期に父親が勤めていた中学校で職員室にある生徒から没収した漫画をよく読んでいました。そしてそこで漫画家として大きな影響を受けたという手塚治虫の作品と出会います。特に『BLACK JACK』に登場するブラックジャックは夫にしたいと学生時代に言っていたほど好きなのだとか。
そんな彼女がマンガを描きはじめたは17歳の頃。周囲と比べて遅いスタートで、技術的に不安があった彼女。その時期を、同年代に早く追いつこうと、良作といわれるマンガを読み込み、そのリズムを体で覚えることを無意識にしてたと自身で分析します。
そして現在では日に13~17時間ほど働くという西炯子。ある時は過労で不整脈になったこともあるのだとか。そんな彼女は値段以上の漫画を読者に届けたいと語っています。努力家でありながらも、自分では「向上心がない」と自省する彼女。その作品はまさに彼女のその謙虚さと努力のあとが感じられる、繊細で広がりのある内容のものばかりです。
2007年に連載されていた西炯子の3つの物語を1冊にまとめた短編集です。「波のむこうに」、「電波の男(ひと)よ」、「海の満ちる音」が収録されています。今回は表題作「電波の男よ」をご紹介。
高校時代からアマチュア無線が唯一の楽しみだった主人公の大河内寿三郎(おおこうちじゅさぶろう)。パッとしない彼は、学生時代に唯一通信で長時間話すことができた「マリン」という女性が忘れられません。しかしある日、社内電話で彼女によく似た声を耳にします。そしてそのあと自分の余命が短いことを知り、死ぬ前に彼女に一目会おうと彼なりの作戦で動き始めるのですが……。
- 著者
- 西 炯子
- 出版日
- 2007-10-26
他収録作品にも共通することですが、作者の良さが詰まったお話です。西炯子は性別に関わらず容姿のいい登場人物、そして変態性とも言える変わった性格の人物を多用します。本作では会社の高嶺の花的存在の女性と冴えないサラリーマンがその役を演じ、西炯子のオリジナリティを体現しつつ逆シンデレラストーリーのような展開を楽しませてくれます。
西炯子の描く女性はまさに女性の理想とする容姿の人物が多く登場。すんなりとのびた手足に華奢な体軀に豊満な胸と丸いヒップ。そして細い首にちょこんとのった顔には大きな瞳と肉感的な唇が添えられています。
漫画は絵の好き嫌いで食わず嫌いを起こすことがありますが、西炯子の絵はほとんど癖がなく、全体的に爽やか。そんな淡い世界観に、上記にあげたような女性の理想とするような美しい人物の容貌が良いアクセントになっているのです。もちろん男性キャラクターも魅力的なのですが、どちらかというとシチュエーションや心理的な部分の魅力にフォーカスした描き方が多いでしょう。
また、その癖のある登場人物も魅力的。西炯子の描く人物は一風変わっているキャラクターが多く、ついクスリと笑ってしまうような変態性を持っています。「電波の男よ」でも、大河内の頑張りは正規のルートからは少し外れた行動。癖のない絵に惹かれて読み進めると、実はハマると抜け出せない特徴がある西炯子の作品のエッセンスが詰まった作品です。
28歳の美由紀はゼネコン系の企業に務めるOL。兼ねてから「結婚向けの男が現れたら別れる」という前提で付き合っていた、売れない劇団員の一法師を一緒に住んでいた家から追い出します。まだその相手は見つからないものの、彼女は恋愛結婚で失敗した両親を見て、若い頃から打算的な結婚の計画を立てているのでした。
しかし結婚相談所の相手はどの人もピンときません。そんな中ふらりと入ったブックカフェで、書き込み自由のノートに気持ちを綴ります。独り言のように使っていたそれに、いつからか彼女を否定するようなコメントが書かれていて……。
- 著者
- 西 炯子
- 出版日
- 2015-07-10
本作は王道少女漫画的な良さよりも、大人の女性が誰しも抱く葛藤を描いた作品です。恋への打算的な気持ちと、素直で感情的な気持ちで揺れ動く美由紀。この作品では彼女の心を揺らす設定や小物などのトリガーが絶妙です。
ある時は別れを告げた後にも関わらず、彼女を心配して持ってきてくれた紙袋。一法師のバイト先のパンが詰まっています。食べ飽きているのに、とその中に目を落とすと花束が入っているのです。
またある時はとても優しくて生活のペースも合いそうで職業もしっかりとした、結婚相談所で出会った男性。女性ならほとんどの方がまるをつけたくなるような絶妙な条件の人物なのに、どこかしっくりこない彼の雰囲気がリアルに表現されています。
そして何と言っても、美由紀の気持ちに揺さぶりをかけてくる、ノートの筆談相手、高橋の言葉。
それらが少しずつ、少しずつ美由紀の価値観に揺さぶりをかけてくるのです。彼女は様々な要素にぶつかって、本当に大切なものは何かを考えます。はたしてその問いに彼女はどんな答えを出すのでしょうか?
主人公の薫が40歳を迎えたところから始まります。それまで30代だったのにいきなり「加齢感」がある40代に突入した彼女。改めて人生を考えはじめた彼女ですが、運命は思わぬ方向に転がっていきます。
もともと雰囲気が売りのチェーンの喫茶店で店長を勤めていた彼女に、営業不振の店舗への転勤の話が出てきたのです。しかもそこは彼女の地元。押し切られる形で転地した彼女ですが、そこにあったのは本社の指示とは違うお洒落とは言えない「ランチ」の文字。コンセプトと異なるその営業をしているのは薫の知っている鈴木店長ではなく、「お手伝い」の小鳥遊で……。
- 著者
- 西 炯子
- 出版日
- 2016-09-09
当初は小鳥遊を毛嫌いしていた薫ですが、徐々に機動力のある彼に惹かれていく、というキャリアウーマンの恋を描いたストーリーです。
西炯子のキャラクターの核に「変態性」があるというのは先述の通りです。その「変態性」とは何か。それは彼らの「飛躍力」。彼女の描く変態的な男性たちはみな、「普通」やボーダーラインを軽々と飛び越えて主人公を動揺させます。その歩み寄りは独特で、どこか美しいシーンとして彼女の作品を彩るのです。
本作品では第6話にその象徴的なシーンがあります。どこか浮ついた様子の薫は小鳥遊とふたりで歩いた帰り道でのことを思い出しています。帰り道の話の途中で毛虫に首筋を噛まれてしまった薫。慌てふためく彼女に、小鳥遊は彼女の腰を抱き寄せ、そのまま首元に唇を寄せ、吸い付きます。毒を吸い出し、あとで薬を塗るようにあっけらかんとして言う小鳥遊に、呆然とする薫。
言葉だけで説明するとただの少女漫画的シーンに思われるかもしれません。しかし前述の通り西炯子の癖のない線の細いタッチで描かれたそれは、まるで絵画のように美しいシーンとなります。また、ストーリーでの官能的なアクセントとなるのです。果たして大人の女はそんな常識を飛び越えて接してくる男性にどうほだされていってしまうのでしょうか?怖くて、でも身を任せたくなる恋を描いています。
つぐみは東京の大手電機メーカーに務める30代の会社員。初めてとった長期休暇で、祖母が入院していて誰もいない田舎の家にやって来ていました。しかしそんな中、祖母が急逝。そのまま祖母の家に住むことになるのですが、そこには離れの合鍵を生前からもらっていたという50代の海江田という男がいて……。
榮倉奈々と豊川悦司で実写映画化されたことでも話題になった西炯子の人気作品です。その西炯子らしい、海江田がつぐみの足にキスする美しいシーンは、実写映画化のキービジュアルとして多くの人の注目をあびました。
- 著者
- 西炯子
- 出版日
- 2009-03-10
本作品は50代という設定でもあまりある色気を見せる海江田が話題になりました。ロマンスグレーの人物が好きだという「枯れ専」以外の女性たちをも虜にしたのです。それはやはり西炯子の画力によって、現実から少し浮遊したようなファンタジー感がありつつも、妙齢の男性の渋さが表現されているからでしょう。
話題となった足にキスをするシーンも、水を滴らせながらタバコを吸うシーンも、ほおを赤らめるシーンもグッとくるようなセクシーさがあります。そんな色香をまとった男性と、こちらも妙齢のつぐみが織りなすラブストーリーはスローで官能的。その年齢の設定だからこそ出てきた哀愁があります。
ひたひたと少しずつ水が浸透していくように心を通わせていくふたり。まさにオトナ女子のための甘い恋愛漫画です。
ヨリは図書館に務めるアラフォー女性。館内で本を盗もうとしていると勘違いしてしまった男性と流れで一晩を共にしてしまいます。そして実はその彼は中学時代の同級生でした。
しかしその見た目は太っていて生っ白く、「ポーク」と呼ばれていた冴えない少年とは似ても似つかぬイケメンになっていたのです。そしてなぜかそれからその男、真木はヨリにつきまとってきます。しかし彼は既婚者で……。
- 著者
- 西 炯子
- 出版日
- 2011-05-10
昔冴えなかった男性が一途に自分を思い続け、歳を重ねてからもう一度会いにくる。なんともロマンチックな展開ですが、それだけで終わらないのが西炯子の魅力。
まずは真木のその変態性が西炯子作品ピカイチと行っても過言ではないところが魅力。物語にコミカルさと独特の雰囲気をつくりだしています。イケメンではありますが、ヨリへの執着が激しく、彼女を困らせるほどにつきまとい、彼女に容姿が似ているという理由で他人の女性と結婚し、果ては彼女の私物やイメージで頻繁にヌきます。そうしてただひたすら彼女を愛すのです。
そんな真木が無性の愛をそそぐのが40代手前で、長女そして女をこじらせたヨリなのです。西炯子は作品の主人公は自分を投影した人物なので嫌いだと語ります。自分の不満に思うところがどうしたら救われるか、それをテーマにして描かれた物語なのです。そのストーリーの中で動き回る彼女のキャラクターたち。ヨリは特に作者の影響が現れた性格となっています。
臆病で、恋に踏み出せず、自分に言い訳をしながら真木と接する彼女。そしてもう恋で自分が変わるような年でもありません。読者は割り切れなくて優柔不断な主人公にイライラすることもあるかもしれません。
しかしそれこそが物語を読む理由ではないでしょうか。そんな感情移入できるキャラクターが成長する物語を読むと、自分も救われているかのような体験ができるのです。作者も、そして読者も身に覚えがあり落ち着かない気分にさせられるヨリの物語は私たちに感動を与えてくれます。
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